53 / 122
53
しおりを挟む
そういえば、カインくんから孤児院の名前は聞いていなかったな、と思い出し、今、名前を聞こうとしたら、お父様が「それで、鍵を閉め損ねた団員の特定は済んだのか?」と話を進めてしまったので、聞ける雰囲気ではなくなってしまった。
「団員の特定は済んでおります。反省文と謹慎を言い渡しておりますが、必要であれば更に何か罰を与えます」
「――……オルテシア、何かあるか?」
えっ、ここでわたしに振るの?
びっくりして、かなり間抜けな声が出てしまうところだった。
「ハ、ハウントさんがそれで妥当だと思ったのなら、それで十分です……」
罰を、と言われても、わたしには適切なものが分からないし困る。既に処理されているなら、それでいいじゃないかと思うのだ。
「さて、原因と問題解決はされたようだが――」
お父様の言葉に、わたしはドキッとする。
「第二騎士団としては、今後、オルテシアをどうしたい?」
ハウントさんに判断をゆだねるお父様の言い方に、彼は少し目を見開き、驚いているようだった。普通なら、ここでわたしを今後第二騎士団へと行かせない、と言うところなのだから、当然と言えば当然か。
でも、昨日、わたしが我がままを言ったから。
とはいえ、ハウントさんが、また来てほしい、と言ってくれるかは、話が別だ。
怪我をすることが日常茶飯事――とまでは言わないが、珍しくもない彼らにとって、傷を負わせては行けない存在というのは、厄介でしかないだろう。
わたし自身、そのことに気が付かなかったけれど、今回の一件で、そのことをよく思い知らされた。
だから、例え、お父様が行ってもいい、と言っても、わたしが投げ出したくないと言っても、ハウントさん次第では、ブラッシング係は終了、となるはずだ。
「――件の団員は、まだ獣化したままですし、オルテシア嬢の怪我の治り具合もありますから、すぐに、とはなりません」
わたしは膝の上で、ぎゅっと拳を強く握っていた。ハウントさんの角度からは、きっと見えないことだろう。
「ですが……許されるのであれば、再び、オルテシア嬢に来てもらいたいと考えています。勿論、二度と、このようなことがないよう、再発防止には努めます」
「――!」
わたしは思わず、ハウントさんの方を見た。緊張している面持ちではあったけれど、嘘を言っている様子は、ない。
「獣化した獣人を放置してしまう状態は、長年、第二騎士団の中でも問題になっていました。犬や猫の姿になる獣化であれば、使用人を城から借りることはできましたが、猛獣の姿を取る者のケアは、現状、オルテシア嬢以外、見つかっておりません。ですので、どうか、もう一度、力を貸していただけないでしょうか」
ハウントさんは再び立ち上がり、わたしたちに頭を下げた。
「……二度目はない、と思ってくれ」
お父様の言葉に、ハウントさんがパッと顔を上げた。その表情は、驚きの色がにじんでいる。明らかに了承の流れだったとはいえ、こんなにもあっさりと認めてくれると思わなかったのだろう。
「次もこのようなことがあれば、オルテシアをそちらに行かせることはできないが……私としても、君たちには感謝していたんだ。いつも黙って、他人のことばかり気にしていたオルテシアが、自ら意見を言うようになってくれた。第二騎士団へ預けたのは、悪いことばかりではない」
「お父様……?」
お父様が、まさかそんなことを考えていたなんて。
「少なくとも、当初の期間は勤めさせてやりたいと思っている」
変わったのは、第二騎士団のおかげだけ、ではない。わたしが、前世のことを思い出したから。ほんの少し、世界が変わって見えて、今まで気にも留めなかったような違和感を見つけてしまっただけ。
――それでも、その考えが、行動に現れるようになったのは、まぎれもなく、第二騎士団の影響だ。
「団員の特定は済んでおります。反省文と謹慎を言い渡しておりますが、必要であれば更に何か罰を与えます」
「――……オルテシア、何かあるか?」
えっ、ここでわたしに振るの?
びっくりして、かなり間抜けな声が出てしまうところだった。
「ハ、ハウントさんがそれで妥当だと思ったのなら、それで十分です……」
罰を、と言われても、わたしには適切なものが分からないし困る。既に処理されているなら、それでいいじゃないかと思うのだ。
「さて、原因と問題解決はされたようだが――」
お父様の言葉に、わたしはドキッとする。
「第二騎士団としては、今後、オルテシアをどうしたい?」
ハウントさんに判断をゆだねるお父様の言い方に、彼は少し目を見開き、驚いているようだった。普通なら、ここでわたしを今後第二騎士団へと行かせない、と言うところなのだから、当然と言えば当然か。
でも、昨日、わたしが我がままを言ったから。
とはいえ、ハウントさんが、また来てほしい、と言ってくれるかは、話が別だ。
怪我をすることが日常茶飯事――とまでは言わないが、珍しくもない彼らにとって、傷を負わせては行けない存在というのは、厄介でしかないだろう。
わたし自身、そのことに気が付かなかったけれど、今回の一件で、そのことをよく思い知らされた。
だから、例え、お父様が行ってもいい、と言っても、わたしが投げ出したくないと言っても、ハウントさん次第では、ブラッシング係は終了、となるはずだ。
「――件の団員は、まだ獣化したままですし、オルテシア嬢の怪我の治り具合もありますから、すぐに、とはなりません」
わたしは膝の上で、ぎゅっと拳を強く握っていた。ハウントさんの角度からは、きっと見えないことだろう。
「ですが……許されるのであれば、再び、オルテシア嬢に来てもらいたいと考えています。勿論、二度と、このようなことがないよう、再発防止には努めます」
「――!」
わたしは思わず、ハウントさんの方を見た。緊張している面持ちではあったけれど、嘘を言っている様子は、ない。
「獣化した獣人を放置してしまう状態は、長年、第二騎士団の中でも問題になっていました。犬や猫の姿になる獣化であれば、使用人を城から借りることはできましたが、猛獣の姿を取る者のケアは、現状、オルテシア嬢以外、見つかっておりません。ですので、どうか、もう一度、力を貸していただけないでしょうか」
ハウントさんは再び立ち上がり、わたしたちに頭を下げた。
「……二度目はない、と思ってくれ」
お父様の言葉に、ハウントさんがパッと顔を上げた。その表情は、驚きの色がにじんでいる。明らかに了承の流れだったとはいえ、こんなにもあっさりと認めてくれると思わなかったのだろう。
「次もこのようなことがあれば、オルテシアをそちらに行かせることはできないが……私としても、君たちには感謝していたんだ。いつも黙って、他人のことばかり気にしていたオルテシアが、自ら意見を言うようになってくれた。第二騎士団へ預けたのは、悪いことばかりではない」
「お父様……?」
お父様が、まさかそんなことを考えていたなんて。
「少なくとも、当初の期間は勤めさせてやりたいと思っている」
変わったのは、第二騎士団のおかげだけ、ではない。わたしが、前世のことを思い出したから。ほんの少し、世界が変わって見えて、今まで気にも留めなかったような違和感を見つけてしまっただけ。
――それでも、その考えが、行動に現れるようになったのは、まぎれもなく、第二騎士団の影響だ。
324
あなたにおすすめの小説
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
出稼ぎ公女の就活事情。
黒田悠月
恋愛
貧乏公国の第三公女リディアは可愛い弟二人の学費を稼ぐために出稼ぎ生活に勤しむ日々を送っていた。
けれど人見知りでおっちょこちょいのリディアはお金を稼ぐどころか次々とバイトをクビになりいよいよ出稼ぎ生活は大ピンチ!
そんな時、街で見つけたのはある求人広告で……。
他サイトで投稿しています。
完結済みのため、8/23から毎日数話ずつラストまで更新です。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いて欲しい!
カントリー
恋愛
「懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。」
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きな小太した女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
小説の「異世界でお菓子屋さんを始めました!」から20年前の物語となります。
指さし婚約者はいつの間にか、皇子に溺愛されていました。
湯川仁美
恋愛
目立たず、目立たなすぎず。
容姿端麗、国事も完璧にこなす皇子様に女性が群がるのならば志麻子も前に習えっというように従う。
郷に入っては郷に従え。
出る杭は打たれる。
そんな彼女は周囲の女の子と同化して皇子にきゃーきゃー言っていた時。
「てめぇでいい」
取り巻きがめんどくさい皇子は志麻子を見ずに指さし婚約者に指名。
まぁ、使えるものは皇子でも使うかと志麻子は領地繁栄に婚約者という立場を利用することを決めるといつのまにか皇子が溺愛していた。
けれども、婚約者は数週間から数か月で解任さた数は数十人。
鈍感な彼女が溺愛されていることに気が付くまでの物語。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
言葉の通じない世界に転生した侯爵令嬢は、気が付いたら婚約破棄されて獣人騎士の新しい夫に愛されてました
ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
侯爵令嬢、アルシャ・ソルテラは、言葉が話せない。それは前世の記憶を持つことにより、言語をうまく習得できなかったからである。
会話が上手くできないことを理由に第二王子との婚約を破棄されてしまったアルシャは、領地の片隅に追いやられる途中で命を狙われてしまう。その窮地を救ってくれたのは、言葉の通じる隣国の獣人騎士だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる