おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち

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第二〇話 レジオの復興 ⑤

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すみません、全面いれかえです。
話のつながりがイマイチでしたので、入れ換えました。
少し、面白くなっていると、自負しています。
お楽しみいただけましたら幸いです。

☆☆☆☆☆☆☆


「じゃあゼノ、ラルを頼む。俺はティリスとアリスティアと教会まで行ってくるよ。」
 ゼノは、ラルの首筋をつかんで言った。
「わかった、こいつを洗濯しておけばいいんだな。」
「そゆこと。耳の後ろまで、徹底して洗ってくれ。」
「うぎゃ~!」
 ラルの悲鳴が尾を引いてゆく。

 俺たちは、チグリスの家を出て教会に向かった。
 なぜか、チコも着いてくる、まあいいんだが。

 中州にある教会に着いた頃には、地球時間で言えば夜の九時を回っていて、シャバは真っ暗。
 ところどころ家の明かりが漏れる中、石畳の道を歩く。
 いつもの六尺棒の先に、ライトの魔法をくっつけて、蛍みたいにして歩いている。
 川沿いのカフェも、イスをテーブルに乗っけて、明かりも落としてある。
 一本路地に入ると、呑み屋の明かりは落ちてないようだ。
 どっちかってえと、俺もそっちのほうが好きだが。
 やっぱり、平和なマゼランでもこういうところは、避けた方がいい。
 本当は、チコみたいな子供が歩いていていい時間じゃなかったな。
「しまったな、子供の歩いていい時間じゃないな。」
 俺が言うと、ティリスがうなずく。
「そうですね、まあ来てしまったものは仕方がありませんので、早く返してあげましょう。」


「そう願いたいね。」
 向こうからがちゃがちゃ音がすると思ったら、警備の兵隊さんがヤリもって歩いてきた。
「ごくろうさまです。」
 こう言うときは、シスターが挨拶したほうが、受けがいいよね。
「ああ、シスターのお帰りか、気を付けて行かれよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「そちらさまこそ、お気をつけてどうぞ。」
 二人のシスターに挨拶されて、衛士たちも機嫌がよさそうだ。
「うむ、では。」
 兵隊さんは、ちょっと上の人らしく、言葉遣いも丁寧だ。

 やがて、石造りの橋を渡ると、荘厳な作りの教会が立っている。
 ここの前庭には、外灯が何本も立っていて、ライトの明かりが照らしている。
 リア充なカップルが、そっちにこっちに…
 ちくしょう、爆発しろ。
 レジオの町の教会で、トロールと戦った時を思えば、なんとも平和な空間だ。
 入り口の横の小窓に、明かりがともっている。
 門衛のようだ。
「シスター=アリスティア!よくぞご無事で!」
 寺男の爺さんが入口の所でびっくりしている。
 そりゃまあ、こんな時間まで、城壁の外でうろうろしていたなんて、ほめられたもんでもないわな。
「すみません、ご心配をおかけしました。」
「ええもう、院長様がご心配なされておりますよ、さあすぐにも中へ。」


「わかりました、さ、シスター=ティリスもどうぞ。」
「失礼します。」
 二人は、白いベールごしに、目で合図をして鎧戸をくぐった。
「では、シスター、これにて失礼します。」
 俺も、寺男を意識して、丁寧に声をかけた。
「お見送りかたじけなく…」
 シスター=アリスティアが、俺を見て言う。
 俺は、深く頭を下げてくるりと向きをかえた。


 教会の司祭に、詳しいことを説明するよう、二人によく言いつけた。
 俺は、中に入らないほうがいいと思う。


 教会では、さっそく司祭のお小言が来たようだ。
「シスター=アリスティア、あまり勝手なことをしてはいけません。危険なところには行かないようにあれほど。」
 人の良さそうな司祭は、本当に心配したような顔をしている。
「すみません司祭様。避難民が供養もされずに放置されているのが、かわいそうで。」
 アリスティアは、うなだれて司祭の前に立っていた。
「あなたのやさしい気持ちはわかりますが、ひとりでなどと無茶をしてはいけませんよ。」
 こういうさとしには、人は弱い。
 どなられるより、ずっと心に刺さるものだ。
「すみませ…」
 アリスティアはすぐにそれとわかって、涙ぐんだ。
 涙を拭きながら、なんども侘びの言葉をつむぐ。
「わかればいいのです。」
 なんとなく、司祭も涙目だ。
 優しい人なんだな。


「さて、シスター=ティリス。」
 司祭は涙をぬぐって、ティリスに向き直った。
「はい。」
 ティリスは、背筋をぴんと伸ばした。
「よくぞあの暴走の中、生き残ってくれました。神に感謝を。」
 司祭は、聖印を切って感謝を祈る。
「はい、祭壇裏のお掃除をしていて、閉じ込められたのが幸いしました。」
「それは、オシリスさまの加護ですね。」
 まったくだ。
「それは、身に染みております。使徒ジェシカからも、そう諭されました。」
「いま…なんと?」
「使徒ジェシカから…あ!」

 やっちまった感満載で、口を押えるティリス。
「わちゃ~、やっちまった~。」
「ティ、ティリス~!」
 アリスティアは、わちゃわちゃと意味不明な踊りを踊っている。
 ティリスも、わちゃわちゃと、手を振っている。
「使徒ジェシカとは、どういうことですか?」
 司祭は、ティリスの両肩をつかんで揺する。
「ティリス、こうなっては正直に申し上げましょう。」
 アリスティアにも言われて、ティリスは覚悟を決めた。
「実は、レジオの魔物が一掃された後、オシリス遺跡のブルードラゴンと邂逅しまして、そこである人と一緒に使徒ジェシカから神託を得ました。」
「なんと!」
「受肉した使徒と共に、レジオ復興を推進するようにと。」

「その受肉した使徒と言う方は、どうされたのですか?」
 司祭は、冷や汗を浮かべて、ティリスの肩をつかんだ。
「さきほど家に帰りました。」
 司祭は真っ青になって叫んだ。
「なんとまあ、そんな無礼な!」
「しかたありません、本当はまだ報告の域まで情報が整理されていないので。」
「そうですか。」
 司祭は残念そうな顔をして、下を向いた。
「その後、このマゼランに来る途中、シスター=アリスティアと出会い、そのときにまた神託が降りました。」
「なんと二度も!」
「そこで、私とアリスティアは使徒ジェシカから、グローキュアとグローヒーリングを授けられました。」


「グローヒーリングと言えば、王都の司祭長しか使えないような大技ではないですか。」
「そうですね、そして使徒の補佐に付くよう言われました。」
「それでは、あなたがた二人は、使徒付き聖女に任じられたのですね。」
「平たく言えばそうです。」
「すばらしいことではないですか!五二〇年ぶりの聖女の降臨ですよ!」
 司祭さまは、二人の前に跪いて印をきった。
「そんなことをされては困ります。」
「いえ、これは聖女様に対して、当然のことです。それで、どうなさったのですか?」
「はい、それで私たちは、使徒さまに従って、このマゼランまで帰還し、今後のことを相談するために、この教会に来ました。」
「そうですか、これは非常に重要な問題です。王都の教会庁が対応すべき案件ですので、ぜひそちらに出向いてください。」


「そうしますと、こちらの業務に支障が…」
 アリスティアが問うと、司祭はうなずいて言った。
「そんなことは気になさらなくてもよろしいです。すべて、こちらでなんとかします。」
 もともと、たいしてすることもない。
 まあ、孤児たちの世話とかくらいのものだ。
 二日も、教会ほっぽらかしても、たいして実害ないじゃん。
 怖いのは、この件をうやむやのうちに、なかったことにされることだな。
 中央の教会が、なんの政争もないなんて、おとぎ話じゃあるまいし。
 そんなお花畑な坊主なんか、中央にいるわけない。

 リシュリューしかり、マザランしかり。
 坊主なんてのは、偉くなればなるほどナマグサくなるもんだよ。
 ここの司祭様みたいな、真面目な坊主はやっぱ地方に飛ばされて、ヒヤメシ食わされるんだ。
 どこの機関もいっしょさ。
「あなたがた、おなかは空いていませんか?」
「はい、カズマと食べてきましたから、大丈夫です。」
「では、今日はもう遅いので、就寝なさい。シスター=ティリスは、アリスティアの部屋で。」

 アリスティアの部屋には、ベッドが三つあって、そのうち二つは空いていた。
 もともと司祭もシスターも人数は少ない教会である。
 教会自体は広いが、中の人間は多寡が知れている。
 だから、アリスティアの部屋にも、同室の人間はいなかったのである。
 八畳ほどの部屋に、シングルベッドが三つ。
 夏場なので、薄いカーテンのかかった窓は出窓になっている。
 ここは、四階の屋根裏部屋なのである。
 さすばに、この大きな教会を維持するには、百人からの人員を要するので、三階四階はずっと宿舎が並んでいる。
 男性は三階、女性は四階である。
 この辺は、イシュタル王国の女性の地位の低さが伺える。
 同時に、男性の生存率も微妙に影響しているのだ。


「しまったなあ、まだバラすつもりじゃなかったのに。」
 ベッドに座って、ティリスが愚痴る。
「司祭様は、全面的に信用してくれたわ。」
 アリスティアは、楽観的に笑った。
「中央じゃそうはいかないわよ。どっかの陣営に入れだの、こっちにこいだの、利用されるのがオチだわ。」
「そうでしょうか?」
 シスター=アリスティアは、けっこう頭の中がお花畑なので、人を疑うってことがない。
 没落したとはいえ、貴族のお嬢様だったことも原因かもしれない。
 その点、孤児でもまれて育ったシスター=ティリスはかなり人を疑ってかかる。
 二人を足して二で割ると、ちょうどいいかもしれん。
「少なくとも、教会勢力としては、カズマの取り込みにかかるわ。」
「取り込み?」

「ええ、王家より早く自分の勢力に組み込めば、政治的な発言力が上がるってことよ。」
「そんな…」
「そのくらいはやるわよ、王都の教会はなまぐさいわよ。」
「はあ…」
 ティリスは、アリスの危機感のなさにいらいらしていた。
「まあ、あとは使徒であるカズマに任せる方がいいわ。」
「そうしましょう、カズマさまならうまくやってくれますよ。」
「そう願いたいわ、あ~疲れた~。」
 そう言ったきり、ティリスはベッドに転がって寝息を立てはじめた。
「あらまあ、おやすみなさい。」
 アリスティアは、ゆっくりとベッドの中に入った。


 翌朝、司祭様はいそいそと、伯爵の館に向かったのだが、あいにく伯爵は王都の有象無象に呼び出されていて留守だった。
「ではまたお邪魔します。」
 丁寧にあいさつをして、司祭さまは館を辞去した。


 シスター=アリスティアは、シスター=ティリスといっしょに孤児院の世話をしていた。
 ひと段落ついたところで、司祭が声をかける。
「シスター=ティリス、それで使徒さまは、どこにいらっしゃるのかな?」
「ええ、彼は職人街の、チグリスの家にいます。」
「そうですか、お会いして挨拶をしたいのですが、ご案内いただけますかな?」
「わかりました、これ干したらご案内しますね。」 
 ティリスは、孤児院の洗濯ものを干す作業を終えて、手をエプロンで拭きながらやってきた。
「では司祭様、まいりましょう。シスター=アリスティアもご一緒に。」
「はい」



 教会への説明は、ティリスに任せた。
 自分で説明するのは、自分の手柄を自慢するようで恥ずかしい。
 この国では、いや、冒険者はそんなメンタルじゃやって行けないらしいが。
 そこまで、この世界に迎合するつもりは、さらさらない。
 義理もない。
 宵闇に浮かぶマゼランの教会は、荘厳で夜空を背景に明かりで浮かび上がっている。
 石畳を踏むひたひたと言う足音が、やけに寂しく響く。


「ユフラテが、無事で帰ってよかったよ、今神様にお礼を言ってたんだ。」
 チコは、こういうところがかわいいんだよ。
「そうか、ありがとうな。」

 そう言って、チコを抱き上げる。
 十二歳とはいえ、ドワーフの娘は小さいから、高く持ち上がる。
「やだもう、子供みたいじゃない。」
「俺から見れば、十分子供さ。」
「ばかー。」
 チコは不満げだ。
 チコを背中に回して、おんぶしながら職人街を目指す。
「あったかいねえ。」
「俺が生きているからさ。」
「うん。」



 翌朝、早くに冒険者ギルドに行ってみた。


 まだ、街中には人影もまばらで、店の前に水をまいてる人もいる。
「おはよう。」
「あ、ユフラテさん、おはようございます。」
 受付嬢は相変わらずかわいいな。
 俺は、いつもの中年のおっさんのところに向かった。
「よう、ユフラテ、すごい評判だぞ。」
「まあなあ、たいしたことはやってないんだけどな。地味に、こつこつやってきたぞ。」
「はあ?コツコツ?」
「ああ、千里の道も一歩からってやつさ。」
「へえ~。」
 俺は、ギルドカードを、懐から出して渡した。
「はいよ~…」

 おっさんの顔は、だんだん脂汗が浮かんでくる。
「おい…」
「ん?」
「おい、ユフラテ…」
「だからなんだよ?」
「なんだこの数字は。」
 水晶玉にかざすと、カードに記載された討伐記録が表示されるんだそうだ。
「なんだよと言われてもこまりますが。」
「オークキング、オークジェネラル、オークナイト、マジシャン、トロール、ワイバーン…」
「こら、読み上げるな。」
「いくらなんでも、この数字はうそでしょ。」

「ギルドカードうそつかない。」
「だれがネイティヴアメリカンのまねしろって言ったよ。」
「現実とは思えないな、これは。」
「だけど、レジオにはこんだけいたんだぜ。」
「うむ、ちょっとそこで待っていてくれ。」
 受付のおっさんは、奥に引っ込んだ。
 ほどなくして、ドアを薄めに開けてこいこいと手招きする。
 しょうがなくドアをくぐると、体格のいい隻眼の男がいた。
「ユフラテ、本当にこんなにいたのか?」
「なんだよ、ギルマスまで疑ってるのかよ、ギルドカードをごまかせるわけないだろう。」
「そのとおりなんだが…」

「ま、信じる信じないはそっちの都合だ、こっちはこっちの都合でゴブリンとか住民に食わせたからな。」
「く、食わせたのか?」
「ほかに手はあんめえ、みんなむちゃくちゃにされてたんだぞ。」
「まあ、そうだろうなあ。」
「ま、常時討伐の依頼分だけで勘弁してやる。精算できるよな?」
「わかった…あとは、こっちでやっておく。」
「ヨロ。」
「ああ、マゼランの殿さまが呼んでたぞ。」
「うまく言っておいてくれよ、ひげの殿さまには会いたくねえ。」
 レジオの避難民を追い払ったからな。


 ヤツの事情はわかるが、虫唾が走る。

「おいおい…」
「じゃあな。」

 俺は、ドアを開けて部屋の外に出た。
 まあな、外見上十七の小僧に過ぎた成果だ、ギルマスにしても処置に困るだろうことは理解できる。
 しかし、こちとら命がけだったんだぞ。
 それを疑っちゃあいけねえよ。
 もう二度とあんな真似はしたくないがな。
 受付には、代打で女の子が座っていた。
「なんか依頼はないか?」
「さっぱりです。」
「まあ、あれだけ暴走しちゃあ、魔物も出ないよな。」
「お肉も過剰供給ですし…」
「わかった、薬草でも探してくるよ。」
「はい、そう言うものなら…」

「なんだよ、あいかわらずシケたギルドだねえ。」
 スイングドアを開けて入ってくるなり罵詈雑言だな。
「おねえちゃん、声がおっきいよ。」
「正直なんだから別にいいだろ。」
「そう言うことは、小声で言うもんだよ。」
 デコボココンビだな。
 お姉ちゃんってことは、姉妹かな?
 お姉ちゃんは、一七〇センチくらいの長身で、ボインボインだ。
 妹は、一五〇センチくらいで、ぺったんこだ。

 俺が、面白そうに見ていると、姉のほうが顔を向けた。
「なんだよ貧相なにいちゃん。」
 姉のほうは、俺に向かって毒を吐きだした。

 下は冒険者らしく、カーゴパンツみたいなのにブーツなんだけど、上はビキニアーマーの上に上着。
 まるでテンプレの冒険者スタイルだな。
 悪いほうで。
「あたいになんか用かよ?」
「いや、面白いおばちゃんだなと思って。」
「ああ?おばちゃんだとう?」
「まあ、どう見ても二十歳以下には見えんのだが。」
「ああ、あたしゃ二十五だけど、おばちゃんよばわりされる謂れはないね。」
「え~!二十五だったらバリバリのおばちゃんじゃん!」
 俺も、おもしろがって言い返す。

「おい!ユフラテ!そのへんでやめろ!そいつはライラだ!」
 ヨールが、横から止めに入ったが、おばちゃんは引く気はないようだ。

「おばちゃんかどうか、その目で良くみな!」
 彼女は、上着を抜いでビキニアーマーを剥きだしにした。
 あ、胸の谷間に吹き出物が…
「うん、肌が荒れてるね。」
 ぴき…
 ライラのこめかみに、盛大な青筋が立った。
「おい…」
「おねーちゃん!やめて!」
 妹の黄色い声に、ライラは振り向いた。
「パセリ、こいつはあたいをバカにした。」
「そんなことないよ!」


 姉の名前はライラ、妹の名前はパセリ・覚えた。


「じゃあどうするんだ?」
「決まってる、ボコる!」
 あ~、真鍋譲治先生の描く女の人みたいな目でにらんでるよ。
「おやおや、こわいなあ。」
「って、おニーさんも余裕があるねえ。」
 妹があきれて口を出した。
「うんまあ、いま、暇してるし。」
「はあ~、しょうがないなあ、少しつきあって。」
「はいはい、じゃあ訓練場に行きますか?」
「いい覚悟だ、ボッコボコにしてやる!」
 ライラは、めっきり睨みつけている。
 やだなあ、そこまで怒ることないのに。

 テンプレな展開だなあ、どうしようかなあ?
 俺は、ライラの後をついてあるきながら、妹に聞いた。
「君たちは、二人でパーティ組んでるの?」
「そうよ、姉が前衛ね。」

 まあ、見りゃわかるよ、妹は魔術師のローブだし。
 とんがった黒いお帽子もかむってるし。
 ちなみに、ルイラはローブのフードを冠ってた。
「本当は、もう一人の姉もいたんだけど、お嫁に行っちゃったし。」
「へ~、冒険者で嫁に?結婚もするんだなあ。」
 俺は、その事実にびっくりしたわ。
 この国って、そのへん自由って言うか、奔放って言うか。
 東北の昔のように、性にはかなりゆるいところもあるし。
「うん、向こうのパーティに入ったのよ。」
「へえ、そりゃまた。」
「まあ、ダンナの猛烈なアタックでさ~」
「そうか、お姉さんの名前は?」

「ルイラよ。」

「はあ?」
 なんだよ!
 こいつら、ルイラの妹か!
 そいつは困ったな、どうしようか…

「ライラお姉ちゃんは、強いから気をつけてね。」
「まあ、善処しよう…」

 ライラは、木刀を持って素振りしている。
 なるほど、言うだけはあるな。
 俺は、いつもの六尺棒をかついだ。
「なあ、本当にやるのか?」
「やるんだよ!」
「おばちゃんは、気が短いなあ。」
「まだ言うか!」
 口から火を拭くんじゃないかと思うくらい、顔を真っ赤にして怒っている。

「おにーさんも、気をつけて・ね!」
 ぼぐ!
 パセリは、後ろから俺のケツを蹴りだした。
「やべ!なにすんだよ!」
「ほらほら、前見て~!きゃははははは!」


 こ!こいつ根性悪い!

 根性ババ色!


 パセリは面白そうに笑っている。
 ちくしょう!
 ライラの木刀は、真っ正面から振り下ろされてきた。
 そのスピードは尋常じゃねえ。
 なるほど、二つ名が付くほどには強いらしい。
「はやいなあ。」
 かきん!
 俺は、ライラの木刀を横に流した。
「お、やるじゃん。」
 ライラは、生き生きとしてきた。
 ライラの剣速は、ますます上がってくる。
「ふうん、高速型かあ。」
「なにぶつぶつ言ってんのよ!」

 がきん!
 一転、パワー型に変わった。
 鍔迫り合いでも体重が乗っている。
「なかなか重いな。」
「はあ?あたしは、標準体重だ!」
「うそだ!ルイラよりチチがでかい!」
「う!なんでルイラを知ってる!」
 ライラは、一瞬嫌そうな顔をした。


「だって、俺の魔法の師匠だもん。」
「はあ?あいつが人にモノを教えるもんか!」
 ライラは、心底あきれたような声音で叫んだ。
「え~?ちゃんと、丁寧に教えてくれたぞ。」
 話している間にも、攻撃は止まない。
 かきんかきんと、左右にさばく。
「あいつはなあ!あたいには、着火の魔法すら教えてくれなかったんだ!」
「そりゃあ、これだけ魔力がなきゃあ、着火の魔法程度でも使えば気絶するんじゃないか?」
「あんだとう!」
「おねーちゃん、それは正解。」
「あんたまで、そんなこと言うか!パセリ!」

「エアハンマー。」
 どおん!
 空気の塊を胸にまともに受けて、ライラは吹っ飛んだ。
「ぎゃ!」
 女らしくいない悲鳴を上げて、ごろごろ転がるライラ。
 五回転くらいで止まったが、土ぼこりだらけだな。
「うわ!無詠唱の癖に、むっちゃくちゃ威力がある!」
 パセリは、自分の杖を握り締めてぼそぼそと言った。
「エアハンマー。」
 どおん!
「うぎゃ~!」
 パセリも、後ろに吹っ飛んだ。
「ケリくれたお返しだ。軽いヤツだぜ。」
 俺は、にやりと笑って見せた。
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