おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち

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第二十一話 レジオの復興 ⑥

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 二人は、見事に目を回している。

 目がナルトみたいになっているぞ。

「なんだよ、アランのときみたいに木刀ブッ飛ばすかと思ったのに。」
 ヨールは、干し肉をかじりながら、エールを飲んでいる。
「アホ、こんな腕じゃ、その必要もないわ。」
「はあ?」
「よえ~んだよ、このねーちゃんは。」
「はあ?相手は紅塵のライラだぞ、弱いわけが…」
「へっ、こちとらオークキングやトロールとやってきたんだ、こんなヤワなねーちゃんじゃ、足元にもおよばねえ。」
「おまえ、ちょっと見ないうちに、バケモノみたいになったなあ。」
「なんだよそりゃ、ヨール、俺にもエール買ってきてくれ。」
 俺は、銅版を出して、ヨールに放った。
「おう、俺も買っていいのか?」
「つりはとっときな。」

「うひょ~。」
 ヨールは、嬉々として走って行った。

「さて、おばちゃんはすみによけとくかな。」
 抱き上げると、やはり軽い。
 見た目より、重量はないなあ。
 二人を木の陰に運んで、様子を見る。
 ま、死なない程度に手加減しているからな、五分もすれば目も覚めるさ。
 ぷにぷにと、ライラのおっぱいつついてみたが、やっぱやわかい。
 たまには、こんなでかいのを揉むのもいいよな。


 俺は、テーブルといすを作って、その横で座ってみた。
「おい、小娘、お前起きてんだろ?」
「にゃはは、わかった?」
「手加減したからな、音ほど強力じゃなかっただろう。」
「一瞬、意識が飛んだわよ。兄さん、ものすごい技使うね。」
「ああ、ごく普通のエアハンマーだぜ。」
「あれで?」
「ちゃんと、ワザの名前言ったじゃん。」
「そらそうだけどさ。」

「ほれ、飲め。」
 俺は、懐からりんごジュースを出してやった。
「なんだ、酒じゃねえのかよ。」
「小娘にゃお似合いだ。」
「ちぇ!」
「口の悪いガキだな。」
「まあね、この業界じゃナメられたら終わりだからさ。」
「なるほどね、理屈は合ってるな。」
 パセリは、起き上がってテーブルに着いた。

「氷は自前で出せよ。」
「げえ、めんどくさい。このままでいいや。」
 パセリは、席についてこちらに目を向けた。
「ねえ、無詠唱ってどうやるの?」
 パセリは、悪びれずに聞いてくる。
「おまいさんも、遠慮がねえな。」
 俺はあきれてのけぞった。
「まあね、知識には貪欲なほうさ。」
「そりゃけっこう。」
「お兄さん、教えてよ。」
「自分のスタイルを崩すのか?」
「あんたの魔法の発動が早すぎるんだよ。」
「ふん、魔法はイメージ力だ、結果をイメージできるやつは、早くなる。」
「イメージかあ。」

「だいたいそんなもん、ルイラに聞けよ。」
「だって、姉ちゃんは無口なんだもん。」
「まあ、饒舌なほうではないわなあ。でも、指導は的確だぞ。」
「そう?いまいち理解しづらいよ。」
「それは、お前の理解力が足りてないんだろうさ。」
「うわ、あんたも口悪いねえ。」
 パセリは、りんごジュースを飲んだ。
「うわ、うんま!なにこれ!」
「え?その辺のりんごを絞ったやつだぞ。」
「へ~、このへんのりんごって、こんなにおいしいんだ。」
「皮むいて芯抜いてから絞ると、渋みが出ないんだよ。」
「へ~、手間かけてるんだねえ。」

「あたいにも、それくれよ。」
「ライラ!」
 ようやくライラも起きてきた。
 テーブルの下であぐらかいてる。
「気がついてたんなら、さっさと起きろよ。」
「あんたが、パセリにルイラの話をしてるからさ。」
「気になって起きられなかったってか?」
「そうだよ、姉さんは元気かい?」
「ん~、一週間ほど前に王都に向かったぞ。」
「なんだ、すれちがいか。あたいたちは南から来たからな。」
 おれは、木のカップを出して、ライラの前に置いた。
「甘いな。」
「完熟りんごだからな。」

「アランはどうだった?」
 ライラは、テーブルにひじをついてこっちを見ている。
「つええな。ここに来てから、王都に行くまで一週間ほど、死ぬほどしごかれた。」
「あんたが?細っこいのに、タフだな。」
「タフじゃなきゃ、生きていけねえよ。」
 ライラは、にやりと笑った。

「ふん、オークキングとトロールってのは?」
 コップを差し出すから、もういっぱいついでやった。
「おとついやりあったのさ、かなりヤバかった。足だってちぎれかけたしな。」
「ちぎれかけたあ?ついてるじゃん。」
 俺の脚に目を向ける。
「そりゃあ治してもらったからな。」
「いい治癒術士だな、仲間にほしいよ。」
「お前はランディウスになる気かよ?」
「はあ?だれが伝説の勇者になるんだよ。」
「この足を治したのはジェシカだからだよ。」
「わ、訳わかんねこと言うなよ、オシリス様の使徒がなんで出てくるんだよ。」
「レジオの教会前で、死にそうになってるときに助けてくれたんだよ。」

「ウソでも言って好いことと悪いことがあるぜ。」
 ライラの目が、また真鍋先生の目になってる。
「うそじゃねぇよ。まあ、信じる信じないはそっちの勝手だ。」
「どっちにせよ、あんたの強さはわかったからいいよ。」
「そりゃけっこう。」
「なあ、あんたはパーティ組んでるのか?」
「ん?いや、ソロだ。」
「じゃあ、あたいたちと組まないか?」
「今はやめとけ、しばらく俺はごたごたする。」
「ゴタゴタ?」
「ああ、ちょっと下手打ったから、どっか行くかもしれんしな。」
「冒険者にゴタゴタはつきもんさ。」
 俺が言うと、ライラは苦笑しながら膝をたたいた。
「ちげえねえ。」

 俺は、明るく笑って見せた。
「あんた、変わってるねえ。」
「何度も死かけたからなあ、考え方も変わるさ。」
「ふうん。」
「あんたいくつよ。」
「十七.」
「はあ?もっといってると思ってたよ。」
「あたしとひとつしか違わないジャン。」
「パセリはいくつだよ。」
「十六」
「えらい年の離れた姉妹だな。」

「まあね、父親がふらふらしてるやつだったからね。」
「は~、そうか。深く追求はしねえよ。」
 しかし、ルイラは二十七だぞ、一回り下の妹なんてな~。
「なんか不穏なこと考えてるね。」
 パセリは、俺の目を覗き込んだ。
「別に、ルイラはいろいろ教えてくれたのか?」
「まあ、基礎だけ。あたしは、魔力が普通だからね。」
「普通って、どんなだよ。」
「まあ、ファイヤーボール二〇個分くらいだよ。」
「少くねえ!」
「でかい声で言うな!」
「わりい、それは大変だな、魔力あわせしてみるか?」

「なんだよそれ。」
「手を出してみろ、両方だ。」
「こう?」
「それでいい、つかむぞ。」
 そう言って、パセリの手を軽く握る。
 引っ込めそうになるが、我慢したらしい。
 どんだけ男に免疫がないんだか。
「いくぞ。」
 俺は、右手から魔力を送った。

「うわ、なんだこれ?」
「右手から魔力を送って、左手に戻すんだ。」
「うわ、ぞわぞわする、なんか熱いものが走ってる。」
「それが魔力の流れだ、おまえこんな簡単なことしてなかったのか。」
「物心ついたころには、ルイラもライラも家から出てたからね。」
「なるほど。」
 そう話しながら、どんどん魔力を流す。
「熱い。」
 パセリは、額に汗を浮かべている。
「本当に魔力が少ないなあ、どうだ、ちょっとは魔力の循環が広くなったかな?」
「なるほど、魔力の流れが速くなった気がする。」

「そう言うことだ、これで発動も早くなる。」
「ちょっと、魔力も上がってるじゃん!」
「そりゃそれを目当てに、魔力あわせしてるんだからな。」
「うわ~、こんな方法があったなんて知らなかった。」
「ルイラは、恥ずかしがりだからな、妹でもやりにくかったんじゃないか?」
「このくらいしてくれてもよかろうにねえ。」
「いましただろ。」
「あんたがしてもさー。」
「俺は、ルイラの弟子だ、だからルイラがしたのといっしょだ。」
「変な理屈だ!」
 パセリは、大声で笑った。



 冒険者ギルドに迎えに来たチコと、職人街にもどる。
 なんでも司祭様が尋ねてきたそうだ。
 面倒ごとの予感しかしねえ。


「ユフラテ?」
 俺と手をつないだチコは、何か言いたげだが、俺はかるく握った手に力を込めた。
 それで、チコも口を開くのをやめて、一緒に家路についた。

「レーヌ川って、けっこう深いの知ってた?」
「この川、レーヌ川っていうのか、知らなかったな。」
「船が通れるように、けっこう掘り下げてあるんだって。しかも、両脇に石積んであるので、落ちるとなかなか上がれないのよ。」
「へえ、物騒な川だな。」
「うん、毎年溺れる人が何人も出てる。」
「僕ドザエモンかよ。」
 悪い冗談だ。
「海までは遠いのか?」
「見たことないから、遠いんじゃない?」

「そりゃ遠いな。」
 しかし、これだけ立派な川があれば、水運が盛んでもよかろうに、なんでおじゃるはやらねんだ?
「レーヌ川の下流には、サイレーンがいるからね。」
「サイレーン?」
「縦に泳ぐでっかい魚。アタマが水面から出てるのよ。」
「ああ、縦って、本当に立ち泳ぎみたいなんだな。」
「サイレーンは、とがったくちばしで船に穴をあけてしまうのよ。そのうえ、人間を食べちゃう。」
「ぶっそうなサカナだな。」
「卵はおいしいらしいわよ、高くてあたしたちには買えないけど。」
「ふうん、船の下を鉄板で囲えばいいんじゃね?」

「ああそうか、でも、そんなに鉄を使うと高いじゃない。それに重いし。」
「まあそうだな、工夫が必要か。どの辺にいるんだ?」
「そうね、この町の城壁を越えて、かなり下流に行ったところよ。おおきな岩がいっぱいあって、隠れるところがあるの。」
「へえ、じゃあ、全部獲っちまえば…ああ、卵が貴重なのか。」
「でも、人を襲う魔物よ。」
「むずかしいな、いっそ横に池でも作って、そっちに引越せばいいのに。」
「あはは、そんなことする物好きがいるの?」
 ふと気が付いて、チコは冷や汗を流した。
 そんな物好きが、ここに一人いることに気が付いたのだ。
「それは、もう少しレジオが落ち着いてからだな。」

 チコは、ほっと息を吐いた。



 ティリスが司祭を案内してチグリスの家に着くと、カズマは冒険者ギルドだと言う。
 チコが呼びに走ってくれた。

「おはようカズマ、司祭様がお話ししたいって。」
「おう、おはよう。ここでよかったら座ってもらえ。」
「よろしいですか?司祭さま。」
「はい、けっこうです。使徒カズマさま。」
「あん?」
 カズマは、ティリスに顔を向けて、目を細めた。
「ご、ごめんなさい!白状しちゃいました!」
「…まあいい、それで司祭さまは、どうしたいんだ?」

「ぜひ、王都の教会庁へ行ってほしいのです。」
「それは?聖者認定でも受けろってことかい?」
「ありていに言えば。」
「やなこった、ジェシカだけでも面倒なのに、このうえオシリスまで呼べとか言い出すんじゃねぇのか?」
「いえ、そこまで言うかはわかりませんが、神託を受けた使徒として正式に認定されたほうが…」
「俺は、どこにも味方しないよ。それでいいかい?」
「…そういうことですか。わかりました、それでもよろしいんじゃないですか?」
「司祭さま、よくわかっているようだね。ならオッケーだ、よろしく頼む。」
 カズマは、にやりと笑って見せた。

「おじゃるの伯爵さまは、どう言ってるんだい?」
「伯爵は、王都に行っていて、留守でした。」
「そうか、じゃあしばらく黙っていてくれないか、たぶん王都から俺に呼び出しがあるだろう。」
「そうですね、いらないトラブルはさけたほうがよろしかろうと。」
「そうそう、王都でなに言われるか、わかったもんじゃないし、俺を利用しようと手ぐすね引いてまってるんじゃねえの?」
「それは…」
「アリだろ?」
 カズマは、人が悪そうに笑っている。
 やがて、カズマのもとに、マゼラン伯爵からの連絡が来た。正確には、執事からの使者が来たんだが。
 まだ、扱いが雑いな。
 執事のやつ、俺のこと軽く見てるだろ。
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