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第二十三話 レジオ復興 ⑧
しおりを挟むマゼランの市街に入ってから、俺と別れて親戚の家に向かったウォルフだったが、親戚の家はすでになくなっていた。
どうも、旦那が死んで、嫁さんの実家に引越したそうだ。
途方に暮れるとはこのことで、ウォルフは貧乏な風采が、さらにみすぼらしくなって俺の所に来た。
「なんだ、そりゃ災難だったな。」
「はい~、困りました。」
「困るコタあねえよ、おれん所に来ればいい、歓迎するぜ。」
「はい?」
「俺ん所で、細かいことやってくれよ、金の管理とか。」
「い、いいんですか?」
「話の分かるやつがいると、俺も助かる。」
別になにか仕事ぐれぇあるだろう。
気楽なもんだが。
ごちゃごちゃやっているうちに、城から兵士が遣いにやってきた。
こいつがまた、横柄な野郎でぶん殴ってやろうかと思ったさ。
まあ、それでも向こうは殿様だ、しゃあねえっちゃあしゃあねえ。
それに、待ちに待った伯爵の呼び出しが来たわけだ。
(っていうほど待っちゃあいねぇがな~。)
スローな生活を送っているイシュタール王国だが、やはり時間は有限だ。
俺は、兵士に従って領主館にやってきた。
おじゃる伯爵の領主館は、レジオ男爵の館よりはるかに大きい。
はっきり言ってお城だ。
岡になった地面からにょっきり生えている感じで、石造りの城がにょ~んと伸びている。
四方にはとんがり屋根の付いた塔が立っている。
夜な夜な、クサリ引きずった鎧が歩いていそうだ。
この辺の特産なのか、白い御影石みたいな石のブロックで積んである。
けっこう威嚇するような建物だね。
すんげえ長い塀がぐるりを囲っていて、正面に門がある。
門番は二人、ちゃんと詰め所があって、交代制で見張っているらしい。
門の入り口は大きくて、高さが三メートル横幅五メートルくらいある。
門番に呼び出しの旨を伝えると、入れと言う一言。
こいつも横柄なヤロウだ。
一介の冒険者なんかを相手にするには、こんなもんだろうな。
城門から中に入ると、大広間があって突き当りに大階段。
Y字に分かれて二階に向かっている。
その階段の上り口にも二人、衛兵が立っている。
何人立ってるんだ?
その衛兵に聞くと、二階に行けと言う。
「二階かよ。」
階段を上がって、また広間を進むと、大きな両開きドアがあって、そこにも衛兵がいる。
王様の城かよ…さすが百二十年続く由緒正しき血筋だな。
昔だったらここだけで王国だったのかもな。
ドアの前の衛兵に、来訪の向きを告げると、ドアが中から開かれた。
一段上のところにイスを置いて、そこに座っている伯爵。
肘掛に手をかけて、不機嫌そうにひじを立てている。
「よくおじゃったの、ユフラテ。」
「これは殿様、お久しぶりでございます。」
一応へりくだってみせる。
こっちが下手に出たので、少しは機嫌が直ってきたようだ。
「うむうむ、なかなか大変だったようじゃの。」
「たいへんでしたね、魔物一万匹は。死ぬかと思いましたよ。」
俺は、立ったままで返事させられている。
これも、なんかムカッとくるな。
「い、いちまんびきとは…こともなげによく言うわのう。」
「終わってしまえば、それまでですよ。」
「恐ろしい奴じゃの、肝も座っておるわ。」
「まあ、あれだけ死ぬか生きるかの目に会えば、多少は肝も据わってくるもんです。」
「そうか、実はのぅ…」
そこで、伯爵は言いよどんだ。
「じつは?」
俺は、話の続きをうながした。
「まあ、ぶっちゃけレジオの復興についてじゃ。」
「そりゃあエライ人の考えるこってしょ?」
「おまえがそれを言うか?ユフラテ。」
「あはは。」
「おまえ、どうやってあのゴルテス準男爵をたらかしたんじゃ、あやつの報告書には無茶苦茶なことが書いてあったぞ。」
「事実でしょう?魔物一万匹も、ブルードラゴンも。」
「その上、使徒ジェシカに、オシリス女神か?」
伯爵は、一気に苦虫一〇〇匹噛んだような顔になった。
「だって、どんどん出てくるんだもん。」
「中央では上を下への大騒ぎになっておったぞ。」
「ざまあみろって。」
「おいおい、それでな、一度お前に御前へあがれと通達が来た。介添えに、ワシも来いとよ。」
「おや、殿さまも?」
「仕方なかろう、レジオはおとなりじゃもの。」
「そうでおじゃるか。」
「それはワシのセリフじゃ。」
「おい、おじゃるの殿様。」
「な・なんじゃ?」
「正直に全部話せよ、王宮でなに言われてきた。」
「う~」
俺は黙っておじゃる伯爵を見上げた。
「わかった…王都ではなあ、ワシの行動は悪かったと言うことじゃ。ワシは、マゼランの町に害が及ぶのを恐れたのじゃが、向こうでは受け入れてくれなんだ。」
「そうか、まあ冷たいっちゃあ冷たかったしな。それで?」
「ひとりでレジオを解放した男を御前に連れて来いと、王のおおせじゃ。」
「そりゃ断れないなあ。」
「王はな、お前にレジオを任せたいようじゃ、まだ摺合せが済んでおらんようじゃが。」
「よせやい、俺に代官でもやれってかい?」
「いや、爵位授与じゃ。」
「へ?」
「レジオ男爵領を、そのままお主に授与するとよ。」
「いや、それはアカンだろ。俺は一介の冒険者だぜ、どこの馬の骨ともつかない。」
「それはそうじゃが、まあその線で言えば、百二十年前に当時の地竜退治で功績を上げたわが先祖も、一介の騎士だったそうだからあまり変わらん。」
「あんたには伝統があるさ。」
「そう言ってくれるのはいいがのう、お主、受けるんじゃろうな。まさか断ったりしたら、ワシの立場が…」
「なんで殿様が立場わるくなるんだ?」
「王宮なんてものは、魑魅魍魎の巣じゃからな、何かと言えば人の足を引っ張るのでおじゃる。」
「なるほどね。」
「ワシの場合は、多少失敗したが伝統があるので、手が出せない。しかし、一介の冒険者を御せない伯爵などなんの足しになるでおじゃる?」
「あらやだ、やりだまに上げられるか、バカにされるか。」
「わかっておるようでおじゃる。」
「わかったよ、王宮には行くよ。殿様の顔を立てるよ。」
「よかった、ここに金がある、これで従者の着るものを買ってくるのじゃ。」
伯爵が手を振ると、黒い服を着たハゲが、お盆に小袋を乗せてやってきた。
「従者?」
「ほれ、おぬしにくっついておる小僧がおるじゃろ、あれにもそれなりのものを着せて、従者として王都に付き従うのじゃ。」
「わかった、ありがたくいただいておく。」
俺は、お盆から小袋を持ち上げた。
「ふう、なんとか肩の荷が下りたわい。」
「まだまだ、王都に行くときは、頼むぜ殿様。」
「ま、毒を食らわば皿までじゃのう。」
「ちぇっ、俺は毒かい?」
「「わははははは」」
俺は、伯爵と共犯者にされるらしい、まあ、鬼が出るか蛇が出るか?
王宮ってところも見て来てやろうかい。
伯爵の館から町に出て、冒険者ギルドに顔を出す。
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