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秋野小窓

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【1】森の中の洋館

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 ガトーショコラをお土産にもらって、二人と一匹で散歩に出かける。夕方の散歩の時間はまだだが、昨日遅くなってしまったからと鹿賀さんが気を使ってくれて、早めの出発となった。
 俺もあまり長居してしまうのは申し訳なくて、なるべく負担にならないようにと考え従った。しかし、実家にはあまりいたくない。

「鹿賀さん、今日ここで大丈夫です」

 交差点で歩を止める。鹿賀さんの指示でラヴェルもピタリと止まった。

「こっち、図書館に用があるので」
「そうですか。ではこちらで。ラヴェル、ご挨拶して」

 今日はケーキ箱があるからいつものように全力では撫でられない。鼻先に手を差し出すと、ぺろりと手のひらを舐めてくれた。

「いっぱい芸見せてくれてありがとね。鹿賀さんも、お菓子ご馳走様です」
「こちらこそ。素敵なプレゼントをありがとうございました」

 信号が赤になる。束の間の沈黙。
 明日の予定を聞いてもいいだろうか。

『他所様に迷惑をかけるなと言ったはずだ』

 父の厳しい言葉が頭をかすめる。家族の世間体はどうでもいいが、鹿賀さんにこれ以上迷惑な奴だと思われたくない。会いたい気持ちよりも、その思いが勝ってしまった。
 聞けない。次いつ会えるかわからないが、鹿賀さんから誘われるのを待とう。

 青。これでしばしお別れだ。
 信号からラヴェル、そして鹿賀さんに視線を移す。

「……そんな寂しそうな顔しないでください」
「え?」

 困ったように眉を下げて鹿賀さんが笑う。俺の考えていることを見透かされたようで面食らった。

「明日、書架の整理をしようと思っています」
「は、はい……」
「僕としては、人手があるとありがたいなと思っているのですが」
「え、っと、」

 それって、俺が手伝ってもいいということか?

「でも、明日は雨の予報です。雨の中、歩いてくるのは大変でしょう?」
「大丈夫です、伺えます!」

 前のめりになって立候補すると、ふは、と吹き出した。

「頼もしいですね。ただ、これは急ぎません。天候や体調を見て、明後日でも、明々後日でも、たまき君の都合のよいタイミングで手伝っていただけたら。お願いできますか?」

 ガクガクと首を振って頷く。
 多分、俺がいなくてもできることなんだと思う。それでも名目をつけてくれたのは、きっと俺のためで……。

「ありがとうございます。では、また」
「はい!あのっ、ありがとうございます!」

 ひらひら、と優雅に手を振って、信号を指差す。約束の話をしている間に変わった信号が再び青になるところだった。
 会釈をして横断歩道を渡る。俺は右へ。鹿賀さんとラヴェルは元来た道をUターンだ。渡りきって振り返るとまだそこで見送ってくれていて、俺はもう一度お辞儀した。

 図書館に食べ物は持ち込めないから、併設されている小ぢんまりした公園のベンチに腰を下ろす。母さんに、夕食はいらないと連絡を入れる。昨日の今日で、両親と食卓を囲みたくはない。
 先ほどもらったばかりの箱。アルミの包みを手に持って、そのまま齧りつく。
 公園で遊んでいた子どもたちの視線を感じた。行儀が悪くて申し訳ないが、このガトーショコラが俺の今日の夕飯だ。
 もらった二切れを腹に収め、図書館で時間を潰す。閉館までいても、まだ早すぎる。公園のベンチに戻り、ぼーっと空を眺めた。半月に照らされた雲の動きが速い。明日は雨、か。

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