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【1】森の中の洋館
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「いらっしゃい。……って、随分派手に降られてしまったようですね」
「あはは……すみません、こんなビチャビチャで」
タオルを持って出迎えてくれた鹿賀さんも驚くほど、肩から足まで濡れてしまっていた。傘は差していたのだが、外で調整していた時間が長すぎた。
「やっぱり、出直します。こんな状態で上がらせていただくのは申し訳ないので……」
「いやいや、そんな状態で帰せませんよ!着替えを」
「ッシュ!」
鹿賀さんの言葉をくしゃみで遮ってしまった。
「ほら、こんなに冷えて……」
鹿賀さんが手を取って、タオルを渡してくれる。握られた手が温かい。鼻を啜りながら、へへ、と笑うと、呆れと諦めが混ざったような吐息が返ってきた。
「とりあえず、いったん体を拭いて着替えましょう。僕はお風呂を沸かしてきますから。いいですね?」
「はい、すみません……」
タオルだけでなく着替えも借りて、玄関先で服を脱ぐ。ずっしりと重くなった衣類をまとめて抱え、お風呂場へ向かった。最初に泣いてしまったときに借りた洗面所が脱衣所も兼ねていて、浴室はその奥だ。ラヴェルのシャンプーでも使ったから場所はわかる。
「お風呂はもうしばらく待ってくださいね。寒くない?」
「大丈夫です。服とタオル、ありがとうございます」
「もらいますよ」
着てきた服を鹿賀さんに預ける。帰るまでに乾くのだろうか。
「どうせ帰りも雨ですから……」
「濡れた服を着るのは気持ち悪いでしょう。乾燥機にかけてもいいですか?」
「もう、あの、何でも大丈夫です」
お手上げ、という風に両手を掲げてお任せする。洗濯機に乾燥機能が付いているらしい。生地が傷む可能性があるということだったが、そんな高価な代物ではない。ありがたくお願いすることにした。
洗濯機に向かい作業している姿を眺めていると、
「こんなに濡れるまで、外にいたんですか?」
と横顔が言う。ギクリとした。
返事ができずにいると、今度は振り返って視線が合う。
「特に酷い降り方をしていたのは午前中でしたよね」
すべてを見透かすような目。微笑んではいるが、責められているような気分になる。思わず瞼を伏せた。
「……今日は、遠回りして……別のところも散歩してから来たので」
嘘じゃない。でも。
「こんなに迷惑かけてしまうなら、一度帰宅してから来ればよかったですね。すみません……」
「いえ。僕は何も。ただ、あまり無理しないでくださいね。約束したでしょう?」
「あ……はい……」
小さくなって返事をすると、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「怒ってませんよ。心配なんです」
もう一度視線を上げる。穏やかな色を湛えた瞳。
また、心配させてしまった。すみません、そう口を開こうとしたら、ニコリとして
「そろそろお風呂も入れそうですよ。ゆっくり温まってくださいね」
と背中を押される。
湯船に浸かりながら考える。心配したけど怒っていない。お風呂を借りたことではなくて、俺が無理することの方が鹿賀さんは嫌なんだ。
そっか……。じゃあ、無理しないで、もっと頼ったらいいのか?
今でも十分頼っているけれど。たとえば、より長くここにいさせてもらう、とか……。
『他所様に迷惑をかけるな』
父の言葉が再び脳裏に蘇る。が、ブンブンとかぶりを振って頭から追い出す。鹿賀さんは、迷惑じゃないって言ってくれた。俺は鹿賀さんの言葉の方を信じたい。
「あはは……すみません、こんなビチャビチャで」
タオルを持って出迎えてくれた鹿賀さんも驚くほど、肩から足まで濡れてしまっていた。傘は差していたのだが、外で調整していた時間が長すぎた。
「やっぱり、出直します。こんな状態で上がらせていただくのは申し訳ないので……」
「いやいや、そんな状態で帰せませんよ!着替えを」
「ッシュ!」
鹿賀さんの言葉をくしゃみで遮ってしまった。
「ほら、こんなに冷えて……」
鹿賀さんが手を取って、タオルを渡してくれる。握られた手が温かい。鼻を啜りながら、へへ、と笑うと、呆れと諦めが混ざったような吐息が返ってきた。
「とりあえず、いったん体を拭いて着替えましょう。僕はお風呂を沸かしてきますから。いいですね?」
「はい、すみません……」
タオルだけでなく着替えも借りて、玄関先で服を脱ぐ。ずっしりと重くなった衣類をまとめて抱え、お風呂場へ向かった。最初に泣いてしまったときに借りた洗面所が脱衣所も兼ねていて、浴室はその奥だ。ラヴェルのシャンプーでも使ったから場所はわかる。
「お風呂はもうしばらく待ってくださいね。寒くない?」
「大丈夫です。服とタオル、ありがとうございます」
「もらいますよ」
着てきた服を鹿賀さんに預ける。帰るまでに乾くのだろうか。
「どうせ帰りも雨ですから……」
「濡れた服を着るのは気持ち悪いでしょう。乾燥機にかけてもいいですか?」
「もう、あの、何でも大丈夫です」
お手上げ、という風に両手を掲げてお任せする。洗濯機に乾燥機能が付いているらしい。生地が傷む可能性があるということだったが、そんな高価な代物ではない。ありがたくお願いすることにした。
洗濯機に向かい作業している姿を眺めていると、
「こんなに濡れるまで、外にいたんですか?」
と横顔が言う。ギクリとした。
返事ができずにいると、今度は振り返って視線が合う。
「特に酷い降り方をしていたのは午前中でしたよね」
すべてを見透かすような目。微笑んではいるが、責められているような気分になる。思わず瞼を伏せた。
「……今日は、遠回りして……別のところも散歩してから来たので」
嘘じゃない。でも。
「こんなに迷惑かけてしまうなら、一度帰宅してから来ればよかったですね。すみません……」
「いえ。僕は何も。ただ、あまり無理しないでくださいね。約束したでしょう?」
「あ……はい……」
小さくなって返事をすると、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「怒ってませんよ。心配なんです」
もう一度視線を上げる。穏やかな色を湛えた瞳。
また、心配させてしまった。すみません、そう口を開こうとしたら、ニコリとして
「そろそろお風呂も入れそうですよ。ゆっくり温まってくださいね」
と背中を押される。
湯船に浸かりながら考える。心配したけど怒っていない。お風呂を借りたことではなくて、俺が無理することの方が鹿賀さんは嫌なんだ。
そっか……。じゃあ、無理しないで、もっと頼ったらいいのか?
今でも十分頼っているけれど。たとえば、より長くここにいさせてもらう、とか……。
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