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秋野小窓

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【1】森の中の洋館

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 風呂から上がり、借りている服にあらためて袖を通す。鹿賀さんとは身長が違うから、どうしてもダボついてしまう。お風呂で芯から温まったこともあり、軽く腕まくりをした。
 いつものようにリビングを覗き、声をかける。
 
「ああ、髪が濡れたままじゃないですか。風邪引きますよ」
「大丈夫です、温まりましたから」
「ダメです。こちらへ」

 こういうとき、鹿賀さんはいつもの柔らかい感じと変わって頑なになる。そういえば、俺が大丈夫、と言うタイミングで発動する気がする。もっと頼るなら、自分が「大丈夫」と言いそうになったときに甘えればいいのだろうか。

 洗面所に椅子を出してもらって座らされる。
 鹿賀さんは、掛けてあったドライヤーを手に取り、何か考えているようだ。借りたらよくないのだろうか。

「鹿賀さん……?」
「ああ、いえ。乾燥機、いったん止めますね。同時に使うとブレーカーが落ちるんです」
「すみません、服も大体乾いたら十分ですから」

 これから書架整理のお手伝いをするのだから、完全に乾いていなくてもきっと大丈夫だ。帰る頃まで干させてもらえれば。

「たまき君。髪、僕が乾かしましょうか」
「へ!?だっ……」

 大丈夫です、自分でやります。そう言おうと思ったのだが。
 俺、また大丈夫って言おうとしていた。これは、お願いした方がいいのかもしれない。

「あっ、えっと、じゃあ……お願い、します……?」

 自分でも慣れないことを言っているのがわかるからこそ、恥ずかしさで顔から火を吹きそうになる。誤魔化すようにへにゃりと笑って、鏡の方を向いて椅子に座り直した。

「……いいんですか?」

 戸惑うような、控えめな声が振ってきて、慌てて後ろを仰ぎ見る。

「えっ!もしかして冗談、でしたか!?」
「いえ、何でもありません。失礼しますね」

 すぐにドライヤーの音でしゃべれなくなる。ふわりと笑ってくれたので、迷惑には思っていないのだろう。多分。
 鏡越しにチラリと盗み見ると、あのラヴェルを見守るときの目をしている。満足そうな顔。
 早速甘えるタイミングを誤ったかと思ったが、問題なさそうだ。心地よさに目を閉じる。

「……はい、終わりましたよ」
「ありがとうございます」

 お風呂で温まったところにドライヤーの温風を当てられて、ぽかぽかだ。すっかり回復して、立ち上がって伸びをする。

「すみません、まともな状態になるまでにこんなに時間も手間もおかけして……。今度こそ、本棚の整理、お手伝いしますね!」
「ふふ。お願いします」

 鹿賀さんについていくと、2階の部屋に通された。何度かお邪魔しているが、2階に上がったのは初めてだ。
 6畳ほどの洋室に、デスクと棚、ソファがある。

「ここの本を下に運びたいんです」

 この棚を整理するのかと思ったら、そうではないらしい。デスクや床に積んである本を小ぶりな段ボール箱に詰める。何やら難しそうな本ばかりだ。経済……関連の本だろうか。英語の本もある。

「すぐに片付ければいいのですが、つい積んでしまって」

 照れたようにはにかんで笑う。鹿賀さんにもこんな一面があるのか、と思うと意外だ。

「いつもは1階に置いてるんですか?」
「そうです。こちらをお願いできますか」

 小さい方の箱を受け取り、階下へ向かう。
 案内されたのは、あのピアノがある部屋だった。


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