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番外編・義姉グレイス
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※この話は99%頭を空っぽにして何も考えず書いたので、そんなノリで読んでください。
わたしはグレイス。前世は乙女ゲームが大大好きなOLだった。
ある日とつぜん目が覚めたら御令嬢になっていた、っていうお約束の異世界転生をした。トラックに轢かれて転生したとかじゃないんだけど、目が覚めたら突然豪華なベッドで快眠していたの。
しかも鏡に映る姿はうるつや肌で絶世の美女。ええ、びっくりだったわ。中世ヨーロッパな生活で不便だけど。
「はっ……」
からだの持ち主の記憶が流れ込んできて、私は青ざめた。行ってきた数々の悪事。義妹に対する嫌がらせ。まちがいない。
この体の持ち主は、悪徳令嬢だ──…!!
「お母様…!信じられない! どうしてアネットが行くの? 私が行きたかったのに」
とつぜん届いた求婚状。それを読んだ義妹がサー・ガウェインのもとに行くと聞いて、私は声を荒げた。
そんなのまちがいなく大変じゃない。あんな気弱で優しい子、女の嫉妬だらけの場所に行ったらいじめられるに決まってる。
アーサー王物語って大筋しか知らないけど、ガウェインとかランスロットとかは現世の乙女ゲームでよく見た。なんか円卓の騎士は、強くて女性たちの憧れの的なんでしょ。
私もぜんぜん行きたくないけど、「話がおかしいと思います。なんか企んでません?」って一言ぶった斬ってやる。
この体が成長してゴージャスになった感じのお母様が言った。
「しっ。聞いて頂戴、グレイス。いくら素敵でも、身分が高くて女性から人気がある殿方は危険よ。結婚を断られてしまえば、噂が広まって笑い者になるわ」
いや、ぜんぜん憧れてないって。大変なのぐらい分かるよ。
「きっと貴女の美しさを聞きつけて招待状が来たんでしょう。アネットが行ったら笑い者どころか馬鹿者扱いね。身の程を知ればいいのよ」
記憶を見る限り、グレイスは自分の美しさに絶対的な自信があって、その話題になると残念なぐらい現実を分析できなくなるみたいだ(これだけ美人ならそう思うのか?)。
お母様に違和感を持たれないよう話を合わせた。
「そ、そうよね。あの子ってほんと馬鹿だわ」
──いや、そんなバカな。笑っている私たちの方が馬鹿っぽい気がするわよ。
悪役令嬢をイメージした私の高笑いがむなしく響いた。
■□■□■
ところがアネット、思ったより根性強くてたくましかったみたい。彼女から手紙が届いて「SOSだ!」と思い、意気込みたっぷりでガウェインの館にきた私は驚いた。
一ヶ月ぶりに再開した義妹はのびやかで美しくなっていた。いい人に会えたのねえ。ガウェインっていうハイスペックイケメンを見つめる瞳は澄んでいて、ガウェインもアネットを「好き」って感じで、邪魔者は本当に帰りたいと思いました。
「グレイス嬢。お待ちしておりました」
「ありがとうございます」
お迎えなんて良いから。私はいじめられているかもしれない義妹を助け出す、っていうミッションを終えたから早々に帰るわよ。
ところが「帰ります」と言いかけた私の背後に、二人の騎士が立っていた。
「やあ、グレイス嬢。噂通りの美しさですね」
「え、ええ……ありがとうございます」
赤髪、高身長で糸目のイケメン。こういう登場の仕方をする糸目イケメンって性格がマトモじゃないって決まっているのよ。乙女ゲームをやりこんだ夢女の危機察知能力なめないでね。それからもう1人、紫っぽい鎧を着た騎士がいる。イケメンたちに囲まれるのは幸せだ。
でも空気が重すぎる。これから何が始まるっていうの?
「こちらはサー・ランスロット。お二人には恋人のふりをしてもらいます。あまり深いことは考えないでください」
「えっ」
その名前を聞いて、私はおもわず声をあげてしまった。
え~っとなんかランスロットって、王妃と浮気して円卓を破壊する人でしょ。その人と恋人のふりをするって……。あれかな、王妃のことを誤魔化すためにやるのかも…?
「何でしょうか、その顔は。言いたいことがあるみたいですね」
「イイエ、何ニモアリマセン」
私は慌てて否定した。めんどくさいことになる前に帰りたいよ。どのぐらい恋人のフリしなきゃいけないの。
「少なくとも2、3ヶ月は……。表面上はサー・ガウェインの婚約者として招かれた貴女が、じつはサー・ランスロットの元恋人で、貴女を取り戻すためにサー・ガウェインと彼が争う筋書きですから……」
なんだ、そのめんどくさい設定は。覚めた表情をしている私に、「ドラマティックであるほど噂は盛り上がるのです」と細目の騎士が理論めいたことを言った。
「ええっと、サー…」
「トリスタンです、お見知り置きください」
あれだ。恋愛イベントで難題を強制してくるパターンのキャラだ。
「サー・トリスタン。私に断るという選択肢は?」
「ありません」
トリスタンと名乗った糸目のイケメンは一刀両断した。いや、あなたたち騎士でしょ。レディを尊重するとかなかったっけ?
「サー・ガウェインとサー・ランスロットは打ち合わせをしてください。人が大勢いるところで喧嘩してもらいますので」
勝手に話をすすめるトリスタンさん、略してトリさん。この人お友達いるのかな~なんて意識をとばしていたら、トリさんは私に「こちらへ」と言った。
「貴女はこちらです」
ためらっていたら半目を開いて微笑まれた。ひえっなんかこの細目の人、めっっちゃ怖いんですけど。
手を掴まれて、別室に案内された。こっそり聞いている人がいないか確認し、扉をしっかりと閉める。密室だ。二人きりとかヤバい。彼はわたしに不敵な笑みをうかべ、近寄って──…。
「私はとても耳がいいのですよ」
かれはささやいた。「あなたからは、嘘をついている心臓の音がします」
「えっ」
あわてるな、私。めっちゃ乗せられてしまったではないか。
「嘘なんて、つ、ついてません……」
「なにか言いたいことは?」
「……ありません」
「ならば宜しい。余計なことは言わないでくださいね。この先、貴女のことは私がお世話しますから」
「えっ! ガウェインさんの館にいるんじゃないの?」
トリさんの顔をびっくりしてのぞきこんだ。顔の位置が近いけど焦っている場合ではない。でも彼は、私が至近距離でみつめてきたことに驚いたようだった。
「いちおう、ガウェインさんの花よめ候補っていう扱いなんでしょう?」
私がこう言うと、トリさんは首を振って、よけいに面倒な設定を説明した。
「いいえ。彼の家に一ヶ月いたのはアネット嬢ではなく貴女で、二人がいい感じになったのを知ってサー・ランスロットが乱入し闘った、という噂をながします。
居場所を失った貴女はわたしの家に保護されて、あらためてサー・ランスロットが貴女に愛を乞いに訪れる、という話です」
「………」
この人、騎士じゃなくて乙女ゲームの開発者になったほうがいいんじゃないの。この時代だったら吟遊詩人とかいう仕事があるんだっけ。とにかく騎士っぽくない。
「そのような予定でよろしくお願いします、グレイス嬢」
「はあ……。よくわかんないけど協力するので、早く終わるようにしてください」
「ええ、もちろんです」
うんざり顔をしている私をみてトリさんは笑った。悪巧み(?)していても絵になる嫌味なイケメンだ。こんな美女(のからだのなかに入っている一般OL)を困らせて何が面白いんだっつーの。
「ああ、そうでした」
トリスタンはその場にひざまずいて、そっと私の手を取った。
「これからはグレイス嬢ではなく、レディ・グレイスとよびます。
私が貴女に奉仕することを許していただけますか?」
天窓からさしこむ逆光で、赤髪の騎士はまぶしく輝いていた。乙女ゲームのイベント画面ででるスチルかってぐらい絵になる。
あーなんか嫌だけど、格好良いから断れないなあ。
「はあ…」
「では、レディ。私の返事にはかならず『ハイ』。嫌でもかならず『ハイ』でお願いします」
「呼ぶならちゃんとレディ扱いしてくださいよ……」
また嫌そうな顔をした私に、彼は微笑んで言った。
「これで私はあなたの騎士です。仲良くしましょうね。なんだかレディとは良い関係になれそうですから」
<義姉グレイス編・おわり>
『花よめ物語』本編の1話から温めてきた話です。ようやくタネ明かしができました。
わたしはグレイス。前世は乙女ゲームが大大好きなOLだった。
ある日とつぜん目が覚めたら御令嬢になっていた、っていうお約束の異世界転生をした。トラックに轢かれて転生したとかじゃないんだけど、目が覚めたら突然豪華なベッドで快眠していたの。
しかも鏡に映る姿はうるつや肌で絶世の美女。ええ、びっくりだったわ。中世ヨーロッパな生活で不便だけど。
「はっ……」
からだの持ち主の記憶が流れ込んできて、私は青ざめた。行ってきた数々の悪事。義妹に対する嫌がらせ。まちがいない。
この体の持ち主は、悪徳令嬢だ──…!!
「お母様…!信じられない! どうしてアネットが行くの? 私が行きたかったのに」
とつぜん届いた求婚状。それを読んだ義妹がサー・ガウェインのもとに行くと聞いて、私は声を荒げた。
そんなのまちがいなく大変じゃない。あんな気弱で優しい子、女の嫉妬だらけの場所に行ったらいじめられるに決まってる。
アーサー王物語って大筋しか知らないけど、ガウェインとかランスロットとかは現世の乙女ゲームでよく見た。なんか円卓の騎士は、強くて女性たちの憧れの的なんでしょ。
私もぜんぜん行きたくないけど、「話がおかしいと思います。なんか企んでません?」って一言ぶった斬ってやる。
この体が成長してゴージャスになった感じのお母様が言った。
「しっ。聞いて頂戴、グレイス。いくら素敵でも、身分が高くて女性から人気がある殿方は危険よ。結婚を断られてしまえば、噂が広まって笑い者になるわ」
いや、ぜんぜん憧れてないって。大変なのぐらい分かるよ。
「きっと貴女の美しさを聞きつけて招待状が来たんでしょう。アネットが行ったら笑い者どころか馬鹿者扱いね。身の程を知ればいいのよ」
記憶を見る限り、グレイスは自分の美しさに絶対的な自信があって、その話題になると残念なぐらい現実を分析できなくなるみたいだ(これだけ美人ならそう思うのか?)。
お母様に違和感を持たれないよう話を合わせた。
「そ、そうよね。あの子ってほんと馬鹿だわ」
──いや、そんなバカな。笑っている私たちの方が馬鹿っぽい気がするわよ。
悪役令嬢をイメージした私の高笑いがむなしく響いた。
■□■□■
ところがアネット、思ったより根性強くてたくましかったみたい。彼女から手紙が届いて「SOSだ!」と思い、意気込みたっぷりでガウェインの館にきた私は驚いた。
一ヶ月ぶりに再開した義妹はのびやかで美しくなっていた。いい人に会えたのねえ。ガウェインっていうハイスペックイケメンを見つめる瞳は澄んでいて、ガウェインもアネットを「好き」って感じで、邪魔者は本当に帰りたいと思いました。
「グレイス嬢。お待ちしておりました」
「ありがとうございます」
お迎えなんて良いから。私はいじめられているかもしれない義妹を助け出す、っていうミッションを終えたから早々に帰るわよ。
ところが「帰ります」と言いかけた私の背後に、二人の騎士が立っていた。
「やあ、グレイス嬢。噂通りの美しさですね」
「え、ええ……ありがとうございます」
赤髪、高身長で糸目のイケメン。こういう登場の仕方をする糸目イケメンって性格がマトモじゃないって決まっているのよ。乙女ゲームをやりこんだ夢女の危機察知能力なめないでね。それからもう1人、紫っぽい鎧を着た騎士がいる。イケメンたちに囲まれるのは幸せだ。
でも空気が重すぎる。これから何が始まるっていうの?
「こちらはサー・ランスロット。お二人には恋人のふりをしてもらいます。あまり深いことは考えないでください」
「えっ」
その名前を聞いて、私はおもわず声をあげてしまった。
え~っとなんかランスロットって、王妃と浮気して円卓を破壊する人でしょ。その人と恋人のふりをするって……。あれかな、王妃のことを誤魔化すためにやるのかも…?
「何でしょうか、その顔は。言いたいことがあるみたいですね」
「イイエ、何ニモアリマセン」
私は慌てて否定した。めんどくさいことになる前に帰りたいよ。どのぐらい恋人のフリしなきゃいけないの。
「少なくとも2、3ヶ月は……。表面上はサー・ガウェインの婚約者として招かれた貴女が、じつはサー・ランスロットの元恋人で、貴女を取り戻すためにサー・ガウェインと彼が争う筋書きですから……」
なんだ、そのめんどくさい設定は。覚めた表情をしている私に、「ドラマティックであるほど噂は盛り上がるのです」と細目の騎士が理論めいたことを言った。
「ええっと、サー…」
「トリスタンです、お見知り置きください」
あれだ。恋愛イベントで難題を強制してくるパターンのキャラだ。
「サー・トリスタン。私に断るという選択肢は?」
「ありません」
トリスタンと名乗った糸目のイケメンは一刀両断した。いや、あなたたち騎士でしょ。レディを尊重するとかなかったっけ?
「サー・ガウェインとサー・ランスロットは打ち合わせをしてください。人が大勢いるところで喧嘩してもらいますので」
勝手に話をすすめるトリスタンさん、略してトリさん。この人お友達いるのかな~なんて意識をとばしていたら、トリさんは私に「こちらへ」と言った。
「貴女はこちらです」
ためらっていたら半目を開いて微笑まれた。ひえっなんかこの細目の人、めっっちゃ怖いんですけど。
手を掴まれて、別室に案内された。こっそり聞いている人がいないか確認し、扉をしっかりと閉める。密室だ。二人きりとかヤバい。彼はわたしに不敵な笑みをうかべ、近寄って──…。
「私はとても耳がいいのですよ」
かれはささやいた。「あなたからは、嘘をついている心臓の音がします」
「えっ」
あわてるな、私。めっちゃ乗せられてしまったではないか。
「嘘なんて、つ、ついてません……」
「なにか言いたいことは?」
「……ありません」
「ならば宜しい。余計なことは言わないでくださいね。この先、貴女のことは私がお世話しますから」
「えっ! ガウェインさんの館にいるんじゃないの?」
トリさんの顔をびっくりしてのぞきこんだ。顔の位置が近いけど焦っている場合ではない。でも彼は、私が至近距離でみつめてきたことに驚いたようだった。
「いちおう、ガウェインさんの花よめ候補っていう扱いなんでしょう?」
私がこう言うと、トリさんは首を振って、よけいに面倒な設定を説明した。
「いいえ。彼の家に一ヶ月いたのはアネット嬢ではなく貴女で、二人がいい感じになったのを知ってサー・ランスロットが乱入し闘った、という噂をながします。
居場所を失った貴女はわたしの家に保護されて、あらためてサー・ランスロットが貴女に愛を乞いに訪れる、という話です」
「………」
この人、騎士じゃなくて乙女ゲームの開発者になったほうがいいんじゃないの。この時代だったら吟遊詩人とかいう仕事があるんだっけ。とにかく騎士っぽくない。
「そのような予定でよろしくお願いします、グレイス嬢」
「はあ……。よくわかんないけど協力するので、早く終わるようにしてください」
「ええ、もちろんです」
うんざり顔をしている私をみてトリさんは笑った。悪巧み(?)していても絵になる嫌味なイケメンだ。こんな美女(のからだのなかに入っている一般OL)を困らせて何が面白いんだっつーの。
「ああ、そうでした」
トリスタンはその場にひざまずいて、そっと私の手を取った。
「これからはグレイス嬢ではなく、レディ・グレイスとよびます。
私が貴女に奉仕することを許していただけますか?」
天窓からさしこむ逆光で、赤髪の騎士はまぶしく輝いていた。乙女ゲームのイベント画面ででるスチルかってぐらい絵になる。
あーなんか嫌だけど、格好良いから断れないなあ。
「はあ…」
「では、レディ。私の返事にはかならず『ハイ』。嫌でもかならず『ハイ』でお願いします」
「呼ぶならちゃんとレディ扱いしてくださいよ……」
また嫌そうな顔をした私に、彼は微笑んで言った。
「これで私はあなたの騎士です。仲良くしましょうね。なんだかレディとは良い関係になれそうですから」
<義姉グレイス編・おわり>
『花よめ物語』本編の1話から温めてきた話です。ようやくタネ明かしができました。
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