転生して最強になった青年の異世界冒険

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第一章 最強は、まだまだ帰れない

ヒピ村のヒトリ

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 馬を走らせ、暫く平原を南へと進むと、広大な森林が現れてきた。
高さがバラバラな巨大な樹木が、辺りを全て覆って根を伸ばしている。
一つ一つの樹木がとても長生きなため、始めは小さかった森も、巨大な森林へと化した。

 ヒピの森と呼ばれている森林の中央には、人々が通りやすいように街道が作られている。
といっても、ほとんど小さな杭が道の端に立てられ、後は人の足で、草木がなくなり、砂利道になっただけなのだが。
 その道に馬で入ると、鳥の鳴き声や小さな動物が居るのが見える。

 ここも、日本の田舎と同じような森林なのだ。

 ただ違うのは、モンスターという敵が居るということだ。
度々、僕らに向かって飛びかかってくるモンスターを、馬に乗ったまま切り捨てる。
元々ランクの低く、低レベルなモンスターは一瞬で光の粉となり、たまにアイテムを落とす。
それを拾いながら、ヒピの森の中心へと向かう。

 ヒピの森の構造は、中心にある小さな村を取り囲むように木々が生い茂っている。
その中心の村を拠点として、モンスター狩りや採集を行うのが基本だ。

 僕らはその基本通り、中央の村「ヒピ村」を目指す。
それぞれの町や村に滞在するには、その町村のリーダーから許可を貰わなければならないが、僕らは既に村のヒトリ様と慕われる村長から許可を貰っていた。
一度貰えば、後は見張りや門番に氏名を言えば通してもらえる。
 これは全国共通の規則ルールだ。

 ヒピ村を囲む森は、どの方角も大体同じ距離だ。
空から見れば、村周辺だけ平地の円に見えただろう。
半径はおよそ10キロ程で、これは車では30分くらいだろうが馬だと一時間程度かかる。

 昼過ぎになってから二人で持っていた食料を食べ、また暫く走ると、木材で作られた人工的な塀が見えてきた。

 侵入者が容易く入れないように、丸太を縦に立てて塀が作られている。
 地面近くには削って作られた槍が外側に向いているせいで、塀に近付くことも出来ない。
余所者を極度に警戒しているのがこの村だ。
 昔に色々と、森の外の人々と対立してしまったらしい。

 塀の一部分は、人と馬が出入りする門があり、今は固く閉ざされていた。
僕は塀の中の見張りに向かって叫ぶ。

「僕はレオン=エルサレムです!中に入れてもらいたい!アトラス=ヴァレンチノも一緒です!」

 何時のようにすぐ、一人顔を出して覗けるようになっている塀の穴から、見張りの男が顔を出した。

「承った、開けるから下がっていろ」

 顔を引っ込めた見張りが村の方から閂を外し、ゆっくりと門を開け始める。
通れるほどまで開くのを待ち、僕らは中へと馬を進めた。

 まずは、村の中では危険なので馬を降りる。
それから馬を繋ぐための馬屋へと向かう。
代金を払って馬の世話を頼むと、久し振りに来たヒピ村を眺める。

「相変わらずの空気の美味しさだな…街だと工場の煙臭くて息しにくいし」
「こういう田舎に住民票移すのもいいなぁ…」

 日本と同じく、異世界にも住民票があり、今は工業の盛んな街に登録してはいるが、本当に自然豊かな村や街に住んでみたいと思った。

「とりあえずヒトリに会いに行くか?結構ご無沙汰だし」
「…そうだね、ヒトリは…多分神殿かな」

 村の端にある、石造りの神殿へと向かう。
この神殿だけは、この森に昔からあったもので、ヒトリは村長と、そして神殿の巫女を勤めている。
神殿には重要な物が祀られているらしいが、僕らや世間はあまり詳しい話は聞かない。
 村の人々が、頑なに話そうとはしないのだ。

 唯一、ヒトリは僕ら二人に神殿を見せてくれた。
理由は簡単で、僕に一目惚れというものをしたからだそうだ。
 僕たちがヒトリと呼んでいるのも、本人がそう呼んで欲しいと頼んできたからだ。それも僕一人だけだったが、アルは仲間はずれが嫌だから、と勝手に呼んでは叱られている。
 身長176と、身長146の30センチ差で、14歳のヒトリが偉そうに年上を叱っている光景は、いつもシュールだ。

 そして僕の方は、会った瞬間から告白された。
ヒトリのような?が好きなタイプの男性も居るのだろうが、僕は丁重に断った。

 神殿に着くと、見張りに地下へと案内される。
神殿内部は地下にあり、ヒトリも地下でいつも祈りを捧げているのだ。

 内部へと入ると、冷たい石床に膝まづくように座るヒトリの後ろ姿が見えた。

 足は裸足で、足首や手首には様々な加工か施されたブレスレットを着けている。
 服は村の伝統衣装のようで、鮮やかな布に様々な木の実が着いていて、ワンピースのような形状だ。
 頭には巫女の証である、水色の小さな宝石が彩られた髪飾りが光っている。

「あ、ヒトリ」

 後ろから静かに声をかけると、ゆっくりとヒトリが振り返り、僕を見て、可憐な大きな瞳を見開いた。

「久し振りに会いに来たよ…ってえぇ!?」

 いきなりヒトリが立ち上がり、そのまま僕の身体へと飛び付いて抱き付いてきた。
予想外の行動で足を踏ん張ることが出来なかった僕は、そのまま後ろに倒れて尻餅をついた。
 その後も、ヒトリは満面の笑みで抱き付き続け、顔をばっと上げると言った。

「本当に久し振りではないかっ、レオン!」

 幼く、よく通る声で歓迎するぞ!と言うと、ヒトリはやっと離れて起き上がってくれた。

「いつも思うけど、飛び込んでくるの慣れないよ…」
「仕方あるまい、私が飛び込みたかったのだからな!」
「え、俺の歓迎は?」

 アルがヒトリに向かって手を広げ、ハグを催促する。

「私が好きなのはレオンだけじゃっ、アルは黙っておれ!」

 そこにヒトリが、実に軽やかに、アルの鳩尾に蹴りをお見舞いした。
苦しそうな声を漏らしたアルは、暫く悶絶し、その間僕はヒトリに、また抱きつかれる羽目になったのだった。
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