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第一章 最強は、まだまだ帰れない
港町の魔法使い
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山の頂上でのキャンプを済ませ、翌朝また出発する。
後は下るだけなので、馬ならすぐだ。
この麓へ降りて、また暫く街道を行くと港町があるはずだ。
「あ、そういやレオンって本部からあんまり出たことないよな。ヒピ村行ったくらいか」
「何だかんだで住み始めたの、一ヶ月くらい前だしね」
「レオンって今まで何処いたんだよ。学校も行ってたのか?」
「学校とか、あるの?」
何処に居たのか、という質問には答えられないので、動揺を隠しながら質問を返す。
「おう、普通ならまだ通ってる年齢だよな、俺ら。色々あるぜ、それぞれの分野に合わせてな」
学校か、東京に居た頃はあまり好きな場所ではなかったけど、此処の学校はちょっと興味あるな…。
教育制度とかは一緒なのかな。
「ちなみにどういうものがあるの?」
「んー、剣術、魔術、哲学…」
思ったよりも相当な種類があり、しかも東京にあるはずのない勉学ばかりで、僕は慌てて途中で止めた。
馬を動かしながら、最も気になった魔術のことを聞いてみる。
「魔術は…えっと、所謂魔法の勉学だな。術式とか、魔法の仕組みとか、よく勉強して資格取らないと使っちゃいけねーことになってる」
「…じゃあ、結構勉強大事なんだね」
「まあ何も知識ない人間が、魔法を使うのは殆ど不可能だし、手順間違えたらヤバいことになるらしいから、平民とかはそもそも魔法すら知らないな」
ヤバいことってなんだろ。
少し気になったが、話している内に海が辺りに見えてきた。
微かに潮の香りと、カモメのような鳥が飛んでいるのが見える。
「着いたぞ、ルガル港だ。此処から物資とか資源を各地に回してる。中心にあるこの国は、結構離島が多いからな」
「今から行くノヴィグレンも、離島なんでしょ?」
「正確には人工島な。ノヴィグレンは守りを高めるための兵士訓練場になってる。ちなみに、俺の母校」
「学校なの?もしかして」
「そう、許可も当然貰ってるから出入り自由だぜ」
得意気にアルが言うと、早速ノヴィグレン行きの船を探す。
港に停泊している巨大な船が、それぞれの行き先の旗を掲げながらずらっと並んでいる。その姿は圧巻だ。
その数多くの船は、小説やゲームで見る海賊の船のような、基本的に木材で出来ていた。この世界の木材は、東京などの木材とはちょっと違うようで、物凄く頑丈で鉄のように固い。しかも軽いので船に最適なようだ。
ノヴィグレン行きの船は、奥の方に一隻止まっていた。
あまり客が居ないのか、他の船よりは随分と小柄で、少し頼りなかった。
長年使われているのか、所々傷んでボロボロなのだ。
「あ、まだこの船なのかよ…使えるからいいけど見た目やっぱ悪いな」
「本当にこれで行くの?…結構長いでしょ…道のり」
「大丈夫だって、沈まずにちゃんと行けるようにはなってっから。船長が居ると思うし」
船長居れば大丈夫って…異世界だから何でもありなのかな。
アルが何度も大丈夫だと言ってはくれるが、どうも安心できなかった。小さな波でもくれば沈没しそうなこの船が、何をどうしたらノヴィグレンまで運航できるというのか。
「おーい、船長ー」
そう苦い顔をしている内に、アルが船の中まで入っていってしまった。
僕も追いかけようと一歩船に足を入れるが、木々がぐらぐらしてる他に傷んだ部分もギシギシと音を立てている。
長年使い込むと、異世界特有の鉄のような木も、此処まで脆くなるようだ。
恐怖だったが、踏み抜かないのを祈りつつ、中へと入る。
「船長ー。…あ、いた」
どうやら船長室で、アルが船長を見つけたらしい。
舵のある小さな個室で、頭に三角に尖った独特な帽子を被った後ろ姿が見えた。
「あ、アトラス?…も、もしかしてまたノヴィグレンの兵士学校に…?」
「違うっての、冒険者になったって連絡したろ?今回は指示されて来たんだよ、アリーシャ」
アリーシャと呼ばれた人物はそ、そうだったの、と慌てて此方に深く頭を下げた。
綺麗な長い金髪で、うなじの部分から束ねた髪の上から帽子を被った彼女は、木々を削り出して作られた杖を持っている。その杖の先端には淡い光を放つ藍色の珠が嵌め込まれていた。
「その、そちらは初めましてですよね?わ、私はこの船の船長を勤めてます、アリーシャ=ミネルバです」
丁寧に自己紹介をしてくれた彼女に慌てて礼を返し、自分も名前を名乗る。
「年は離れておりませんので、敬語でなくても結構ですよ?」
「え、あ、うん。…でもアリーシャも敬語じゃない?」
「これは癖で…小さい頃からこうですから」
彼女は帽子を軽く押さえて微笑んだ。
口角が上がって目が輝く可愛らしい笑みが眩しかった。
「もう出航だろ?その辺にして頼むぜ」
「あ、うん。二人とも何処かに掴まっていてくださいね?」
そういうと彼女は部屋から出ていき、船の船頭まで移動する。
そこで杖を掲げると、大きな珠が藍色に輝き始めた。
すると少しずつ杖の珠に集まるように、回りの海水が集まり始める。
そのまま暫くすると海水が円上に広がって船を包み込んだ。ちゃんと回りの景色は、広がった海水を通して見えている。
「な、なにこれっ…」
「この船は見ての通り壊れかけてるでしょう?それでもこれしか船はないので、港でこうやって船を守ってから移動するんです」
「これならあまり振動もねーし、酔うことも壊れることもなくて安心って訳だ。海水と海水なら相殺してくれるしな」
「でもこれってどうやって…」
「魔法ですよ、私は水系魔法が得意なんです。これでも魔法使いなんですよ?」
そういって彼女は得意気にいい、嬉しそうに微笑んだ。
出航時間になると、海水の膜に包まれた船はゆっくりと港を離れていく。
まるで海の中に潜っているような不思議な感覚に驚きながら、ノヴィグレンまでの航海を楽しんだ。
後は下るだけなので、馬ならすぐだ。
この麓へ降りて、また暫く街道を行くと港町があるはずだ。
「あ、そういやレオンって本部からあんまり出たことないよな。ヒピ村行ったくらいか」
「何だかんだで住み始めたの、一ヶ月くらい前だしね」
「レオンって今まで何処いたんだよ。学校も行ってたのか?」
「学校とか、あるの?」
何処に居たのか、という質問には答えられないので、動揺を隠しながら質問を返す。
「おう、普通ならまだ通ってる年齢だよな、俺ら。色々あるぜ、それぞれの分野に合わせてな」
学校か、東京に居た頃はあまり好きな場所ではなかったけど、此処の学校はちょっと興味あるな…。
教育制度とかは一緒なのかな。
「ちなみにどういうものがあるの?」
「んー、剣術、魔術、哲学…」
思ったよりも相当な種類があり、しかも東京にあるはずのない勉学ばかりで、僕は慌てて途中で止めた。
馬を動かしながら、最も気になった魔術のことを聞いてみる。
「魔術は…えっと、所謂魔法の勉学だな。術式とか、魔法の仕組みとか、よく勉強して資格取らないと使っちゃいけねーことになってる」
「…じゃあ、結構勉強大事なんだね」
「まあ何も知識ない人間が、魔法を使うのは殆ど不可能だし、手順間違えたらヤバいことになるらしいから、平民とかはそもそも魔法すら知らないな」
ヤバいことってなんだろ。
少し気になったが、話している内に海が辺りに見えてきた。
微かに潮の香りと、カモメのような鳥が飛んでいるのが見える。
「着いたぞ、ルガル港だ。此処から物資とか資源を各地に回してる。中心にあるこの国は、結構離島が多いからな」
「今から行くノヴィグレンも、離島なんでしょ?」
「正確には人工島な。ノヴィグレンは守りを高めるための兵士訓練場になってる。ちなみに、俺の母校」
「学校なの?もしかして」
「そう、許可も当然貰ってるから出入り自由だぜ」
得意気にアルが言うと、早速ノヴィグレン行きの船を探す。
港に停泊している巨大な船が、それぞれの行き先の旗を掲げながらずらっと並んでいる。その姿は圧巻だ。
その数多くの船は、小説やゲームで見る海賊の船のような、基本的に木材で出来ていた。この世界の木材は、東京などの木材とはちょっと違うようで、物凄く頑丈で鉄のように固い。しかも軽いので船に最適なようだ。
ノヴィグレン行きの船は、奥の方に一隻止まっていた。
あまり客が居ないのか、他の船よりは随分と小柄で、少し頼りなかった。
長年使われているのか、所々傷んでボロボロなのだ。
「あ、まだこの船なのかよ…使えるからいいけど見た目やっぱ悪いな」
「本当にこれで行くの?…結構長いでしょ…道のり」
「大丈夫だって、沈まずにちゃんと行けるようにはなってっから。船長が居ると思うし」
船長居れば大丈夫って…異世界だから何でもありなのかな。
アルが何度も大丈夫だと言ってはくれるが、どうも安心できなかった。小さな波でもくれば沈没しそうなこの船が、何をどうしたらノヴィグレンまで運航できるというのか。
「おーい、船長ー」
そう苦い顔をしている内に、アルが船の中まで入っていってしまった。
僕も追いかけようと一歩船に足を入れるが、木々がぐらぐらしてる他に傷んだ部分もギシギシと音を立てている。
長年使い込むと、異世界特有の鉄のような木も、此処まで脆くなるようだ。
恐怖だったが、踏み抜かないのを祈りつつ、中へと入る。
「船長ー。…あ、いた」
どうやら船長室で、アルが船長を見つけたらしい。
舵のある小さな個室で、頭に三角に尖った独特な帽子を被った後ろ姿が見えた。
「あ、アトラス?…も、もしかしてまたノヴィグレンの兵士学校に…?」
「違うっての、冒険者になったって連絡したろ?今回は指示されて来たんだよ、アリーシャ」
アリーシャと呼ばれた人物はそ、そうだったの、と慌てて此方に深く頭を下げた。
綺麗な長い金髪で、うなじの部分から束ねた髪の上から帽子を被った彼女は、木々を削り出して作られた杖を持っている。その杖の先端には淡い光を放つ藍色の珠が嵌め込まれていた。
「その、そちらは初めましてですよね?わ、私はこの船の船長を勤めてます、アリーシャ=ミネルバです」
丁寧に自己紹介をしてくれた彼女に慌てて礼を返し、自分も名前を名乗る。
「年は離れておりませんので、敬語でなくても結構ですよ?」
「え、あ、うん。…でもアリーシャも敬語じゃない?」
「これは癖で…小さい頃からこうですから」
彼女は帽子を軽く押さえて微笑んだ。
口角が上がって目が輝く可愛らしい笑みが眩しかった。
「もう出航だろ?その辺にして頼むぜ」
「あ、うん。二人とも何処かに掴まっていてくださいね?」
そういうと彼女は部屋から出ていき、船の船頭まで移動する。
そこで杖を掲げると、大きな珠が藍色に輝き始めた。
すると少しずつ杖の珠に集まるように、回りの海水が集まり始める。
そのまま暫くすると海水が円上に広がって船を包み込んだ。ちゃんと回りの景色は、広がった海水を通して見えている。
「な、なにこれっ…」
「この船は見ての通り壊れかけてるでしょう?それでもこれしか船はないので、港でこうやって船を守ってから移動するんです」
「これならあまり振動もねーし、酔うことも壊れることもなくて安心って訳だ。海水と海水なら相殺してくれるしな」
「でもこれってどうやって…」
「魔法ですよ、私は水系魔法が得意なんです。これでも魔法使いなんですよ?」
そういって彼女は得意気にいい、嬉しそうに微笑んだ。
出航時間になると、海水の膜に包まれた船はゆっくりと港を離れていく。
まるで海の中に潜っているような不思議な感覚に驚きながら、ノヴィグレンまでの航海を楽しんだ。
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