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第一章 最強は、まだまだ帰れない
最強でも、最弱だったのだ
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船長兼魔法使いであるアリーシャと、アル、そして僕を乗せたボロボロの船は、変わらず海水の膜に包まれながら海を渡っていた。
もう既に2時間ほど経っているが、未だにノヴィグレンの島の影すら見えてこない。
アルの話では、もうそろそろだそうだ。
「もうちょいしたら、ノヴィグレンの大きな城と壁が見えてくると思うぜ。初めて見た時は圧巻で凄かった」
「ノヴィグレンはとにかく頑丈で巨大な城が売りですから」
二人は元々ノヴィグレンの兵士育成が目的の学校に通っていたクラスメイトだったようで、二人だけで話が盛り上がっている。
その間、僕は海をずっと眺めてノヴィグレンが見えるかどうかチェックしていたが、数分後にうっすらと黒い影が遠くに見えてきた。
「もしかしてあれ?」
「ん、そうそう。ちょっと霧で見えにくいな…」
「…何だかこの霧、焦げ臭くありません?呼吸しにくいですね…」
「水の膜のおかげでまあ大丈夫だけど…」
水の膜には空気を取り込むために上部に穴が開いているのだが、そこから霧が入り込んでいる。
真っ白な霧が膜内に充満し、回りが見えなくなってきた。
運航は危険だと判断したアリーシャが、船を止めて水の膜に大きめの穴を開ける。
そして、風魔法で軽く回りの霧を吹き飛ばし始めた。
「おー、やっと見えてきた!」
「とりあえずこれで大丈夫ですね。…じゃあノヴィグレンへ………え?」
穴を塞ごうと近付いたアリーシャが杖を取り落とし、唖然とした顔で全く動かなくなり、硬直している。
杖が手から離れたせいなのか、水の膜も途端にただの海水へと化して、雨のように降り注いできた。
守りがなくなったせいで、波で船も揺れ始め、立っているのも困難になる。
「アリーシャ!早く杖拾え!」
「船が…っ」
以前として一点を見つめ続けるアリーシャの眼から大量の涙が流れ出て、全く声は聞こえていないようだ。
こうしている間にも、船の木材で作られた部品などが波にさらわれていく。
徐々に浮力を失って、水も船内に流れ込んでくる。
「くそっ…これじゃノヴィグレンに着けねぇっ…」
「それ以前に沈むってば…!アリーシャ!」
何とか揺れる船内を、物に掴まりながら移動してアリーシャの元へ。
目を見開いたまま泣き続ける彼女の顔は、絶望に染められているようだった。
とにかく一点を見つめ続けている。
僕はその視線の先を目で追った。
アリーシャが見ているのは、どうやらノヴィグレンのようだ。
先程うっすらと影が見えてきた島のような影は、どんどんと近付いたおかげではっきりと見えるようになっている。
――そう、ノヴィグレンの巨大な門が瓦礫と化している所も、真っ白な石城が真っ赤な炎に包まれているのも、街中で逃げる人々がモンスターに噛み殺されている所も。
「「…は?」」
アルと一緒に訳が分からない、という声を出す。
疑問だらけで頭が整理できなかった。
目の前の惨状はなんだ?
どうして最強の防御の国、ノヴィグレンの塀や門が木っ端微塵になっているんだ?
どうして強固な兵士が居るのに、姿も見えず死体ばかりあるんだ?
どうして平民が襲われているんだ?
いくつも疑問が浮かび、考えることも出来なかった。
とにかく、助けなければという思いと、逃げないと殺されるかもしれない、という恐怖があった。
僕も、ステータスが最強でも、元々は平和な世界から来たのだ。
命の危険と、悲劇を目の当たりにしてすっかり冷静さを失っていた。
気付いたら、ノヴィグレンから離れようと必死に舵を取っていた。
今から向かえば、少しでも平民が助けられるかもしれない。
今から向かえば、少しでもモンスターを減らせるかもしれない。
そう頭では理解していたが、僕はそれでも逃げることしか出来なかった。
「おい!何してんだよ!早くノヴィグレンに向かえ!」
アルが、僕の後ろで叫んでいる。
だけど僕は既に、ノヴィグレンの近くの無人島に船をつけようとしていた。
どうして近くの島に止めたのかはわからない。
ノヴィグレンの様子が見える場所を無意識に選んだのかもしれないし、まだ助けに行く意志があったのかも。
でも僕は、ふらふらと島に上陸してから人が変わったかのように震え続けていた。
とにかく、子犬のように。恐怖に怯えていたのだ。
―結局僕は、最強でも、最弱だったのだ。
もう既に2時間ほど経っているが、未だにノヴィグレンの島の影すら見えてこない。
アルの話では、もうそろそろだそうだ。
「もうちょいしたら、ノヴィグレンの大きな城と壁が見えてくると思うぜ。初めて見た時は圧巻で凄かった」
「ノヴィグレンはとにかく頑丈で巨大な城が売りですから」
二人は元々ノヴィグレンの兵士育成が目的の学校に通っていたクラスメイトだったようで、二人だけで話が盛り上がっている。
その間、僕は海をずっと眺めてノヴィグレンが見えるかどうかチェックしていたが、数分後にうっすらと黒い影が遠くに見えてきた。
「もしかしてあれ?」
「ん、そうそう。ちょっと霧で見えにくいな…」
「…何だかこの霧、焦げ臭くありません?呼吸しにくいですね…」
「水の膜のおかげでまあ大丈夫だけど…」
水の膜には空気を取り込むために上部に穴が開いているのだが、そこから霧が入り込んでいる。
真っ白な霧が膜内に充満し、回りが見えなくなってきた。
運航は危険だと判断したアリーシャが、船を止めて水の膜に大きめの穴を開ける。
そして、風魔法で軽く回りの霧を吹き飛ばし始めた。
「おー、やっと見えてきた!」
「とりあえずこれで大丈夫ですね。…じゃあノヴィグレンへ………え?」
穴を塞ごうと近付いたアリーシャが杖を取り落とし、唖然とした顔で全く動かなくなり、硬直している。
杖が手から離れたせいなのか、水の膜も途端にただの海水へと化して、雨のように降り注いできた。
守りがなくなったせいで、波で船も揺れ始め、立っているのも困難になる。
「アリーシャ!早く杖拾え!」
「船が…っ」
以前として一点を見つめ続けるアリーシャの眼から大量の涙が流れ出て、全く声は聞こえていないようだ。
こうしている間にも、船の木材で作られた部品などが波にさらわれていく。
徐々に浮力を失って、水も船内に流れ込んでくる。
「くそっ…これじゃノヴィグレンに着けねぇっ…」
「それ以前に沈むってば…!アリーシャ!」
何とか揺れる船内を、物に掴まりながら移動してアリーシャの元へ。
目を見開いたまま泣き続ける彼女の顔は、絶望に染められているようだった。
とにかく一点を見つめ続けている。
僕はその視線の先を目で追った。
アリーシャが見ているのは、どうやらノヴィグレンのようだ。
先程うっすらと影が見えてきた島のような影は、どんどんと近付いたおかげではっきりと見えるようになっている。
――そう、ノヴィグレンの巨大な門が瓦礫と化している所も、真っ白な石城が真っ赤な炎に包まれているのも、街中で逃げる人々がモンスターに噛み殺されている所も。
「「…は?」」
アルと一緒に訳が分からない、という声を出す。
疑問だらけで頭が整理できなかった。
目の前の惨状はなんだ?
どうして最強の防御の国、ノヴィグレンの塀や門が木っ端微塵になっているんだ?
どうして強固な兵士が居るのに、姿も見えず死体ばかりあるんだ?
どうして平民が襲われているんだ?
いくつも疑問が浮かび、考えることも出来なかった。
とにかく、助けなければという思いと、逃げないと殺されるかもしれない、という恐怖があった。
僕も、ステータスが最強でも、元々は平和な世界から来たのだ。
命の危険と、悲劇を目の当たりにしてすっかり冷静さを失っていた。
気付いたら、ノヴィグレンから離れようと必死に舵を取っていた。
今から向かえば、少しでも平民が助けられるかもしれない。
今から向かえば、少しでもモンスターを減らせるかもしれない。
そう頭では理解していたが、僕はそれでも逃げることしか出来なかった。
「おい!何してんだよ!早くノヴィグレンに向かえ!」
アルが、僕の後ろで叫んでいる。
だけど僕は既に、ノヴィグレンの近くの無人島に船をつけようとしていた。
どうして近くの島に止めたのかはわからない。
ノヴィグレンの様子が見える場所を無意識に選んだのかもしれないし、まだ助けに行く意志があったのかも。
でも僕は、ふらふらと島に上陸してから人が変わったかのように震え続けていた。
とにかく、子犬のように。恐怖に怯えていたのだ。
―結局僕は、最強でも、最弱だったのだ。
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