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第二章 後悔はしたくない
ノヴィグレンの人々を
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相棒は、ノヴィグレン近くの無人島でもう数時間近く話さず、ひたすら震えている。
どうやら、ノヴィグレンに起きた惨劇を目の当たりにしたせいらしい。
俺と会ってから、まだ一ヶ月。
恐怖に震えたり、冷静さを欠いたレオンは見たことがなかった。
いや、ただ俺が見ていないだけで、影ではずっとこうだったのかもしれない。
―誰も居ない、たった一人の部屋で震えていたのかもしれない。
思えば、俺はただ、空腹状態でふらふらのレオンを介抱しただけだ。
こいつが今までどうやって生きてきたのか、それも全く知らない。
こいつと戦ってきて分かったのは、俺が教えた剣術をいとも容易くものに出来たことと、こいつが二刀流使いだということ。そして名前だけ。
殆どレオンのことは知らなかった。
聞いても話が反らされてしまうというのもあって、反らすということは何か複雑なのだと思い、それ以上は聞かない俺の性格もあった。
しかし、今では、聞いてやれば良かったと思う。
そうすれば、こういう状況になる前に配慮が出来たかもしれない。
そもそも、ノヴィグレンが壊滅するなんてことは予想も付かなかったが、どっちにしろ第二の故郷を救いに上陸はしなければいけなかった。
「おい、レオン。いつまでそうしてんだよ」
俺は魂が抜けた脱け殻のようなレオンに話しかけた。
とにかく、今はこいつをいつもの調子に戻してやらないといけない。
「お前、冒険者だろ。モンスターも蹴散らすし、強い剣術もある冒険者だろ。平民とは全く違うのに、お前が怖がってどうすんだよ」
そう声をかけて、やっとレオンは俺を見た。
真っ赤に充血した、疲れきったような目で見つめてくる。
「でも……僕は…もう…あんなの、見たことなくて…」
「それは誰もがそうだろ、あんなものしょっちゅう見て堪るかよ」
「…でも…二人とも、冷静で…慣れてる、みたいだった」
「それは違う。似たような目にあったからだ。あの時は俺は無力で、何も出来なかった。それで後悔してるから、レオンを動かそうとしてるんだろ」
そこまで話すと、静かに話を聞いていたアリーシャが、唐突に話し始めた。
「私と、アトラスは…その、幼なじみなんです。同じ村の出身で、村の人達も、村も、皆大好きでした」
「……アリーシャ、話していいのかよ」
「はい。レオンさんは信用できますから」
そういってにっこりと笑ったアリーシャは、レオンの隣へと座り込んで、相棒の両手を包み込むように握った。
「誰しも、あんな光景を見たらショックですよね。でも、此所はこういったことが良く起こります」
「モンスターのせいでな。それで冒険者が数を減らしてんだよ。まあ世界樹のせいで効果はあんまりねーけど」
「でも、大事なんです。少しずつ、モンスターは減ってます。それで助かる人もいるんです」
「だから、レオン。ノヴィグレンに行こうぜ。多分、生き残ってる奴等は城の地下に閉じ籠ってるはずだ。緊急時に避難できる場所があるからな」
「…まだ、生きてる人が…いる?」
ここまでの話で、少しずつだがレオンが顔をあげて積極的に会話をしてくれるようにはなった。
生存者を助け出したい思いは、まだあるようでこのまま行けば立ち直れそうだ。
ただ、問題はレオンが立ち直ったとしても、あのモンスターの大群をたったレベル30の俺達で殲滅できるのかということだが。
「……二人は、ノヴィグレンの人達を助けたいの?」
「当たり前だろ、彼処には学生時代に世話になった奴等もいるし、アリーシャに至っては母親代わりになった叔母さんも居るんだぞ」
「でも母様は、お強いですから。きっと城に皆居ます。なので行きましょう、後悔してからでは遅いですから、泣いたり、恐怖に怯えるのは終わってからでお願いします」
アリーシャが、いつもは言わない強引な言葉で、強引に腕を引っ張りレオンを立たせた。
「……分かった。出来るかは、分からないけど…」
「心配すんな、俺達がフォローすっから。アリーシャも俺も、一応学校で優等生だったからな」
「私は回復魔法も使えますから、怪我をしたら言ってくださいね」
アリーシャと俺は、精一杯の笑顔で言った。
もちろん、そう簡単ではなかったが、俺達もギリギリだったからこその言葉だった。
自分達を、レオンを励ます言葉だった。
しかし、言葉程度で状況は変わらない。
モンスターを殲滅するには一兵団ほどの人数が居ないと、流石に3人のみでは突破できないだろう。
アリーシャも同じ事を考えていたようで、作戦を練ることになった。
俺たちは落ち着いて座り込み、地図を広げて作戦を練ろうとしたその瞬間、レオンが唐突に話し始めた。
「…その、ありがとう。…おかげで、戦える。だけど、この状況じゃ厳しいよね。……だから、僕は…此処で、君達を騙していたことを謝るよ」
騙していた、そして謝るとレオンは真剣な目で言った。
もうこの頃には以前のレオン、正義感の強いレオンへと戻っていたが、俺は何も言わずに話せ、と促す。
「……その、僕は…会ったときにアルに助けてもらったよね。あの時、さ迷ってた理由を聞かれて、咄嗟に旅途中だって答えちゃったけど…あれ、嘘なんだ…ごめん」
「嘘?……まあ嘘ついたのは後でたっぷり仕返しするわ、続き話せ」
「うん…」
少しだけ悲しそうに目を伏せたレオンは、アリーシャにも聞いてほしいと俺達に語り始めた。
決して故意に騙していたわけではない、許してほしいと。
そう目で訴えながら、少しずつ語る。
どうやら、ノヴィグレンに起きた惨劇を目の当たりにしたせいらしい。
俺と会ってから、まだ一ヶ月。
恐怖に震えたり、冷静さを欠いたレオンは見たことがなかった。
いや、ただ俺が見ていないだけで、影ではずっとこうだったのかもしれない。
―誰も居ない、たった一人の部屋で震えていたのかもしれない。
思えば、俺はただ、空腹状態でふらふらのレオンを介抱しただけだ。
こいつが今までどうやって生きてきたのか、それも全く知らない。
こいつと戦ってきて分かったのは、俺が教えた剣術をいとも容易くものに出来たことと、こいつが二刀流使いだということ。そして名前だけ。
殆どレオンのことは知らなかった。
聞いても話が反らされてしまうというのもあって、反らすということは何か複雑なのだと思い、それ以上は聞かない俺の性格もあった。
しかし、今では、聞いてやれば良かったと思う。
そうすれば、こういう状況になる前に配慮が出来たかもしれない。
そもそも、ノヴィグレンが壊滅するなんてことは予想も付かなかったが、どっちにしろ第二の故郷を救いに上陸はしなければいけなかった。
「おい、レオン。いつまでそうしてんだよ」
俺は魂が抜けた脱け殻のようなレオンに話しかけた。
とにかく、今はこいつをいつもの調子に戻してやらないといけない。
「お前、冒険者だろ。モンスターも蹴散らすし、強い剣術もある冒険者だろ。平民とは全く違うのに、お前が怖がってどうすんだよ」
そう声をかけて、やっとレオンは俺を見た。
真っ赤に充血した、疲れきったような目で見つめてくる。
「でも……僕は…もう…あんなの、見たことなくて…」
「それは誰もがそうだろ、あんなものしょっちゅう見て堪るかよ」
「…でも…二人とも、冷静で…慣れてる、みたいだった」
「それは違う。似たような目にあったからだ。あの時は俺は無力で、何も出来なかった。それで後悔してるから、レオンを動かそうとしてるんだろ」
そこまで話すと、静かに話を聞いていたアリーシャが、唐突に話し始めた。
「私と、アトラスは…その、幼なじみなんです。同じ村の出身で、村の人達も、村も、皆大好きでした」
「……アリーシャ、話していいのかよ」
「はい。レオンさんは信用できますから」
そういってにっこりと笑ったアリーシャは、レオンの隣へと座り込んで、相棒の両手を包み込むように握った。
「誰しも、あんな光景を見たらショックですよね。でも、此所はこういったことが良く起こります」
「モンスターのせいでな。それで冒険者が数を減らしてんだよ。まあ世界樹のせいで効果はあんまりねーけど」
「でも、大事なんです。少しずつ、モンスターは減ってます。それで助かる人もいるんです」
「だから、レオン。ノヴィグレンに行こうぜ。多分、生き残ってる奴等は城の地下に閉じ籠ってるはずだ。緊急時に避難できる場所があるからな」
「…まだ、生きてる人が…いる?」
ここまでの話で、少しずつだがレオンが顔をあげて積極的に会話をしてくれるようにはなった。
生存者を助け出したい思いは、まだあるようでこのまま行けば立ち直れそうだ。
ただ、問題はレオンが立ち直ったとしても、あのモンスターの大群をたったレベル30の俺達で殲滅できるのかということだが。
「……二人は、ノヴィグレンの人達を助けたいの?」
「当たり前だろ、彼処には学生時代に世話になった奴等もいるし、アリーシャに至っては母親代わりになった叔母さんも居るんだぞ」
「でも母様は、お強いですから。きっと城に皆居ます。なので行きましょう、後悔してからでは遅いですから、泣いたり、恐怖に怯えるのは終わってからでお願いします」
アリーシャが、いつもは言わない強引な言葉で、強引に腕を引っ張りレオンを立たせた。
「……分かった。出来るかは、分からないけど…」
「心配すんな、俺達がフォローすっから。アリーシャも俺も、一応学校で優等生だったからな」
「私は回復魔法も使えますから、怪我をしたら言ってくださいね」
アリーシャと俺は、精一杯の笑顔で言った。
もちろん、そう簡単ではなかったが、俺達もギリギリだったからこその言葉だった。
自分達を、レオンを励ます言葉だった。
しかし、言葉程度で状況は変わらない。
モンスターを殲滅するには一兵団ほどの人数が居ないと、流石に3人のみでは突破できないだろう。
アリーシャも同じ事を考えていたようで、作戦を練ることになった。
俺たちは落ち着いて座り込み、地図を広げて作戦を練ろうとしたその瞬間、レオンが唐突に話し始めた。
「…その、ありがとう。…おかげで、戦える。だけど、この状況じゃ厳しいよね。……だから、僕は…此処で、君達を騙していたことを謝るよ」
騙していた、そして謝るとレオンは真剣な目で言った。
もうこの頃には以前のレオン、正義感の強いレオンへと戻っていたが、俺は何も言わずに話せ、と促す。
「……その、僕は…会ったときにアルに助けてもらったよね。あの時、さ迷ってた理由を聞かれて、咄嗟に旅途中だって答えちゃったけど…あれ、嘘なんだ…ごめん」
「嘘?……まあ嘘ついたのは後でたっぷり仕返しするわ、続き話せ」
「うん…」
少しだけ悲しそうに目を伏せたレオンは、アリーシャにも聞いてほしいと俺達に語り始めた。
決して故意に騙していたわけではない、許してほしいと。
そう目で訴えながら、少しずつ語る。
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