転生して最強になった青年の異世界冒険

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第三章 機械の心

管理長と闇

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目的地は山の上に建てられた茶色い塔の中。ただ、僕ら冒険者の一端では入れずに居た。
 どうやら目的のノヴィグレンの管理長は相当有名人らしい。

 そこらかしこで慌ただしく働く機械達を通りすぎ、とりあえずは塔の回りの一角に通してもらえたものの肝心の本人には会えずただ待つしかできない。

「…ノヴィグレンの管理長って、一応手練れなんでしょ?」
「剣の手練れ、でも基本的に自分じゃ闘わない。腰抜けなのよ、だからこそ守りを固めようとしてるわけ」
「剣使わねぇとか勿体無いよな、折角結構レアな剣持ってんのに」
「それなのに人気あるのよね、管理長。顔がいいからかしら」
「…え、ラミリアも…惚れてんの?」
「…そんなわけないでしょ」

 一発ラミリアがアルを殴ると、丁度燕尾服を着ている白髪の男性が僕らの元へとやってくる。優雅なお辞儀をし、管理長の元へと案内してくれた。
どうやら管理長の執事のようで、管理長の『ロミオ=ルヴェル』が来てからずっと世話をしているらしい。
 ロミオは予想通り、自称『騎士』であるためか鎧を身に纏っていた。鎧といっても、胸や弱点である四肢の関節に薄い金属の板があるだけであって、手や首元は丸見えでそこに金や宝石の装飾品が代わりに付けられているという、至って危機感のない服装だった。モンスターに襲われたのだから、もう少し重装備で剣だけでも持っていれば良かったものの、その剣すらない。

「…あの、ロミオさんですよね?ノヴィグレンの管理長の」

 騎士らしくないロミオに僕は話しかけるが、どうやら取り組み中のようで全く相手にしてくれない。相手はこの街の長老達のようだ。数人の老人が色鮮やかなローブを肩から被っていて、おとぎ話の魔法使いのような印象を受ける。
 老人達とロミオは手元に豪華な食事があった。ここに来てからろくに食事を摂っていない僕らにとっては食欲をそそるものだ。しかし、ただの冒険者である僕らが面会するだけでもやっとなので何か恵んでくれる訳ではない。恵んでもらう程、金銭にも困っていない僕らは本題を先に告げる。

「ノヴィグレンに巣食っていたモンスターは倒しました。今は何も居ません。もう戻って復興できます」

 彼、ロミオにとっては統治していた街が戻ってきたものなのだから嬉しいニュースだ。
 しかし、当の本人は複雑な表情で此方を見据えている。

「…安全、と君達は言ったが…その保証は? 証拠はあるのかね?」

 表情だけで威圧したロミオはナプキンで口元を拭うと、低く響く声でそう告げて、東京でいうヤクザのように眉間に皺を寄せた。
 証拠と言われたが、そういえば倒しただけで何も証拠はない。ここからノヴィグレン近くまで行くというのもあるが、ロミオがそこまで付いてきてくれるかは分からない。

「…証拠がないのであれば下がれ、食事中だ」
「……悪いけど、それでも統治者?」

 顔をしかめていたラミリアがついにイライラが頂点に達したようで、物怖じせず堂々とロミオの近くへと足を進めた。

「アンタの街を、私達が救ったのよ? お礼くらいあってもいいでしょ、それともいらない世話だった?」
「…ああ、そうだな。いらん世話だ。もう少しで

 再び口元を拭い、ゆっくりと立ち上がったロミオがラミリアに向けて、何か右手を動かした。一瞬だったが、ロミオの右手が太陽を反射したのか、怪しく光る。
 途端に何か、鮮やかな赤色が視界に移った。それは重力に従って、テーブルや床の絨毯の上に落ち、シミを作る。

――血液だった。それも、ロミオのものではなく…

「……は? …何…」


驚愕した表情で、ラミリアは自分の腹部をじっと見つめていた。その先には、深々とラミリアの脇腹に突き刺さっている銀色のナイフ。
 それを理解したと同時に、ラミリアは口から血を吐き出しながら、ゆっくりと倒れ込む。
 まるでスローモーションのように見えたそれに、レオンは咄嗟に走り出してラミリアを支えていた。

――ラミリアが刺された。ロミオに。少ししか、腕を動かしていなかったはずなのに。

 あまりの早業と、ラミリアの傷をどうにかしなければと思うと、レオンの心臓はだんだんと早く鼓動する。
 レオンがラミリアを抱き上げて、アトラスも状況を理解したのかロミオに向かって剣を突き出し、そっとレオンとラミリアの前へ出る。

「…ってめぇ…ラミリアを刺しやがったな…!」
「…下がれと言ったのに上がって来るからだ。それに、急所は避けた、三日程で動けるだろう」

 平然と言い、此方を見下ろすロミオにレオンもアトラスも嫌悪の表情を示す。そして何より、普段はあまり怒ることのないレオンの瞳に、殺気が籠っていた。

「……ふむ。その眼、なかなかいい殺気を放っているな」
「……おいレオン、こいつやっちまおう…!」

 不気味な笑みを浮かべるロミオと、怒りに自然と手に力が入っているアトラスが、いつでも戦闘し始めてもおかしくないほどの緊張感に包まれたとき、一言レオンは放った。

「…アトラス、やめろ」

 それは親友であるアトラスを止める言葉のはずだったが、普段の明るい口調や声が一切ない無機質な声だった。思わず、アトラスの身体が震えて恐る恐る振り返るほどだ。しかも、振り返った彼の目に移った親友であるはずのレオンは、とてつもなく獣に近い目をしている。
 殺気を、何とか自らの理性で食い止めているようなギラギラと光る瞳だった。今にもロミオに斬りかかりたいのだろう。しかし、腕に抱いているラミリアをしっかりと抱き締め、そして抱き上げたレオンの表情は『無表情』そのものだった。まるで人間ではないように。

「……お、おい…」
「……面白いな、君達は。覚えておこう」

 狼狽えるアトラスに構わず、ロミオは一言放って笑いながら奥の部屋へと立ち去った。
 それでもレオンの殺気は消えることはなく、仲間の二人でさえも怖じ気づいてしまう。

「……アル、早く病院に」
「…お、おう…」

 レオンは自分でも正気ではなかったことは分かっているようで、ため息をついてから意識が朦朧としているラミリアを見下ろし、微笑んだ。

「…大丈夫、助かる。ごめん、守れなくて」

 ラミリアはついさっきまでとは全く違う、元通りのレオンに安心し、途端に眠気に襲われて眠る。
 次に目が覚めたのは、病院のベッドだった。

――――――――――


遅くなってしまって申し訳無いです!
今回はシリアス多めで書きました、ラミリアちゃん怪我させてごめんなさい!
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