太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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新しい時代の守護者編

赤ん坊との戦い

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風太郎としてもそんな黒い物体が迫ってくるなどと呼ばれれば怖くて逃げたくなるに違いない。
加えて、炎も出すというのならば間違いなく脅威だ。
遠近両方の攻撃手段をあの赤ん坊は身に付けている事に他ならない。
どうすれば良いのだろうか。彼は首を傾げたが、どうにも上手くいく気配は見えない。
いや、正確に言えば上手くという像が見えないと言った方が正しいだろう。
あの赤ん坊は遠近両方の攻撃に優れている。どうすれば、倒せるのかという手段がまるで思い付かない。
それは綺蝶も、冴子も、桐生も同じだったらしい。桐生はそれぞれが強力な破魔式と紋章を有しているのにも関わらず、攻撃の手段が思い付かない。
彼女たちが紋章や破魔式を繰り出すよりも前に、赤ん坊が放つ火炎を持つ黒い物体が先に動くからだろう。
全く面倒な奴だ。風太郎は溜息を吐いて目の前を睨む。
すると、隣に居た海崎が風太郎の耳にこっそりと囁く。
「ねぇ、オレ感じたんだけれど、あれ岩なんじゃあないの?」
「岩?いや、お前の言葉が正しかったら、岩が炎を吐きながら、オレたちを襲っているという事になるぞ」
「……炎は中に溜まったマグマか何かが常に噴き出ているんだと思うんだ。思うに、あの赤ん坊の扱う魔獣覚醒は恐らくだけれど、マグマの岩石を動かす魔獣覚醒なんじゃあないかな?」
「マグマの岩石だと?」
「うん、桐生さんの破魔式みたいなものさ……桐生さんの破魔式は岩石と炎で、それを使った紋章を使えるんだ。何度も、彼女の紋章を見たオレだから断言できる」
どうやら、この少年は無機質な様に見えて中々、全体を見渡せているらしい。
風太郎は感心はしてみせたが、即座に彼に突っ込む。
「おい、ちょっと待て、幾らあの赤ん坊の魔獣覚醒が分かっても、破魔式で攻撃できなけりゃあ、こっちの方が負けだ。何か妙案でもあるのか?」
風太郎の問い掛けに、対して彼は黙って首を縦に動かす。
「オレの示す方法はあの赤ん坊が武器として扱っている岩石を利用してあの赤ん坊の首を狩るんだ」
「……できるのか?そんなもの」
風太郎の問い掛けに、海崎は根拠を説明していく。
彼は先程の少年が赤ん坊の時には『目』の役割も果たしていると語る。
その証拠として見境なく暴れ回る赤ん坊の目を刀の先端で突き刺す。
「あれがその証拠さ。あいつはこちらを攻撃する際には両目を瞑って本当の赤ん坊の様に泣き叫びながら、こちらに向かっているからね。とは言え、闇雲に攻撃を当てているわけじゃあない。そうでなかったら、とても平安時代から対魔師を狩るのなんて無理だろう?」
その言葉を聞いて風太郎は黙って首を縦に動かす。
「勿論さ。妖鬼が対魔師を狩るのにはそんなあやふやじゃあいけねぇ。当然、対抗するための武器がなくちゃあいけない」
それを聞いて海崎は黙って首を縦に動かす。
二人っきりの会話だと思って海崎と会話を交わしていた風太郎だったのだが、実は、風太郎と海崎のやり取りはまた別の聴者が居たのだ。
その男は路地の壁にもたれながら、彼らに聞こえない様に声を殺しながら笑っていた。
そして、また小声で回答に答えていく。
「クックッ、その通りさ。オレの見たところによれば、あの妖鬼は間違いなくそのタイプだ。独自で見抜いたのはいい。素晴らしいセンスだと思うぞ」
彼はわざと会話の中に日本語の箇所を英語で答える事により、意識の高さを周囲にひけらかしていた。
いいや、エリートだからこそ自然と出る言葉なのかもしれない。
側で知らずに首を傾げている武者は『タイプ』や『センス』などという英語をもじったハイカラな喋り方や英単語を知らないのはある意味、当たり前とも言えた。
と、言うのも武芸にのみ生きる男はその武芸の知識を取り入れるばかりで、他の新しい外国からの知識などを利用しようとしないからだ。
無論、そんな相手は玄竜からすれば頭にまで筋肉が詰まっている様にしか思えない。
彼は歴戦の勇士を心の中で見下ろしてから、あの二人が弱点に気付いた後にどうしているのかを見つめていく。
二人はどうやら、赤ん坊の体から押し寄せる岩石にわざと体を映らせさせる事により、自分たちの狙いは岩石だと思い込ませているのだろう。
そして、交互に岩石に移り、やがては片方のみに注意を集中させてもう片方が僅かな隙を突いて破魔式を纏わせた刀(風太郎の場合なら、太刀)を振っていくという寸法だろう。
来た。予想通りの展開だ。玄竜は食い入る様に赤ん坊と二人との試合(正確に言えば、他の仲間を合わせての十名との試合)を眺めていく。
どうやら、赤ん坊は唐突に海崎英治が自分の体に潜入していた事を知り、戸惑いの様子を見せている。
今まで、あの岩石の防御はいや、岩石の目は今までは完全に崩れた事がなかったのだろう。
だからこそ、目の見えない巨大な赤ん坊状態のまま力を発揮できたのだろう。
もし、それが力を貸さないとしたのならば、彼にとっては絶望以外の何者でもないはずだ。
もし、この瞬間に元の少年の姿にでも戻れば、彼はこの場を退ける事は出来るはずだ。
だが、意見はしない。と、言うのも今の彼はあくまでも観戦武官であったからだ。日露戦争において日本にとっては不利である筈の旅順の要塞の攻略戦に何も言わなかった第三国の武官と同じ。
役目は観測。その流れを破るわけにはいかないのだ。
彼は側で暴れようとする借り物の用心棒を宥めて、試合を眺めていく。
試合も大詰めに差し掛かってきた時に、逆転劇が起きていた。
何と、海崎英治の位置と獅子王院風太郎の位置が入れ替わり、風太郎が風の破魔式を使用して赤ん坊の首を狩り取る。
巨大な怪獣の様な赤ん坊は首を斬られるのと同時に、元の少年の姿になり、光に包まれて消滅していく。
十名の対魔師はそれを見届けると、この戦いの功労者である二人に次々と賛同の意を表明していく。
二人は顔を見合わせると、互いに親指を立て合ってその場を去っていく。
暫くは楽しく談笑しながら、東京の街を歩いていたのだが、やがて、海崎は先頭を歩いていた仲間との距離が遠くなるとこっそりと彼の耳に舌打ちをした。
「ねぇ、さっきの戦いの時に誰かオレとあの赤ん坊との戦いを覗いていた奴がいなかった?」
風太郎はそれを聞いて頭を鈍器で殴られたかの様な衝撃を受ける。
自分はそんなものはまるで感じていなかった。だが、この青年は自分には感じられない微かな気配すら感じていたというのだろうか。
そう考えると、この年上の青年が風太郎は妙に頼もしく感じられた。
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