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新しい時代の守護者編
斑目綺蝶の決戦
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既に何合目かの太刀と剣の打ち合いを続けながら、風太郎は荒い息を吐き出して、自らの体を奮い立たせていく。
先程からずっと氷と風とを出しているためか、風太郎の周り、足元の地面や空気が氷と風によって極限にまで冷え、風太郎の心の胆を心底から冷やしているという事に気が付く。
風太郎は無言で目の前の遠呂智と向き合う中で、幼い頃に両親から読み聞かされた『雪女』の童話を思い出していく。
山小屋に避難した猟師の親子のうちの年老いた親が雪女に息を吹きかけられて死ぬ場面もこんな風に冷たい氷と風が詰まっていたのではないか。
雪女なんてものがいるとは。いや、玉藻が作っていればいるだろうが、少なくとも今迄に討伐された妖鬼の名前に『雪女』という名前は聞かない。
その上、そんな情報があったとも聞かない。
なので、彼は彼女を架空の妖怪だと信じる事にした。
そんな時にふと思い出すのは幼き頃の記憶。
『雪女』の話が可哀想だと泣く両親に彼は尋ねたのだ。
「どうして可哀想なの?」と。
猟師の漢が可哀想だというのならば、ともかく、面白半分で彼の父親を奪い、子供が産まれていなければ男をも殺していたと思われる雪女を憐れむ動機なんて子供の頃の風太郎にはなかった。
それに、喋ったら殺すなどという発想はヤクザやら何やらが目撃者を脅すのと全く同じ言質ではないか。
雪女を哀れな姫の様に扱うのはやめてもらいたいと彼は言ったが、両親は首を傾げるばかり。
両親が首を傾げる理由が理解できないし、その日はモヤモヤとした煮え切らない気持ちのまま終わり、何日か後もその件が尾を引いていたのを風太郎はちゃんと覚えている。
だが、どうして、今、ここで『雪女』の伝承など思い出すのだろう。
分からない。と、風太郎が悩んでいた時だ。彼の目の前に遠呂智が振り上げた雷を纏わせた剣の姿を発見する。
風太郎は太刀を構え、紋章から出る美しい女の雪像を利用し、更には刀にも紋章の力で氷と風を纏わせて遠呂智を迎え撃つ。剣と太刀とを打ち合う音が鳴り響き、同時に氷と風、雷とが斬り合う両者の間に存在する僅かな隙間の間で激しく打ち合っていく。
風太郎は何度目かの打ち合いの後に、風太郎は刀を離して、両足を使って飛び上がり、遠呂智へと斬りかかっていく。
真上からの攻撃だ。奴も堂々と迎え撃つ以外の方法はあるまい。
遠呂智は刃に雷を纏わせて風太郎を待ち侘びる。
風太郎はそのまま素直に刀を振り下ろそうかと考えたのだが、直前に気が変わり、背後へと反り返り、地面に着地するのと同時にもう一度、遠呂智へと攻撃を仕掛けていく。
今度は自分と遠呂智との間に紋章を描き、あの白い雪の女神の像を作り上げていく。
雪の女神が口から淡くて白い美しい溜息を吐き出すのと同時に、風太郎はその煙を利用して遠呂智へと斬りかかっていく。
だが、彼は動じる様子を見せない。あくまでも冷静な調子で風太郎の太刀を受け止める。
風太郎は大きな唸り声を上げながら、遠呂智に何度も何度も刀を振り上げていく見ているこちらの腕が痛くなる程に。
思えば、自分の所属する対魔師の機関、討滅寮を指揮する征魔大将軍の言葉によれば、風太郎は木本奏音以来に玉藻を脅かす存在ができたと喜んでいた。
木本奏音は凄い対魔師だ。断言できる。討滅寮でその伝承を椿様から聞いた時にはなんて素晴らしい人物なのだと感銘を受けた。
斑目綺蝶はあの日の興奮を今も忘れはしないだろう。彼女は剣を構えて、愛弟子の戦いを観戦しながら、いつでも彼を救える立場にある事を考えていく。
あの男や玉藻姑獲鳥の様な玉藻紅葉と同じ血を引く奴らに闇の破魔式を使うのは危険だと理解してはいるのだが、どうしても危機だと感じた時には容赦なく使用している破魔式である。
この破魔式を身に付け、自らの身を守った時は信じられない心持ちであった。
同時に、彼女は友人が次々と死んでいくのにも関わらず、自分だけが破魔式を使用して生き残った事をかつての友人の親たちから責められた。
今だからこそ、彼女らの気持ちも分かる様な気がする。
なにせ、無事に帰れると信じて送り出した子供たちが一人も居なくなり、ただ一人だけが生き残ってしまったのだから。
綺蝶は自分がもし、反対の立場だったら同じ事をすると考えた。
自分はどうしようもないクズな人間ではないのか。たまに哲学的な思考に包まれた時にそう思ってしまう事がある。
だが、目の前で戦いを続ける弟子と出会ってからは全てが変わった。
彼と過ごす楽しい時間はそんな哲学的な思考を振り下ろせていた。
一緒に食事をし、一緒に散歩をし、一緒に互いに背中を預けあって戦った。
周囲は特に、綺蝶の早すぎる出世を妬む対魔師たちは心ないことを噂し合う。別にそれに怒るつもりではないし、自分への中傷など気にした事もないが、彼ら彼女らが同じ口で風太郎を侮辱するのは我慢ならない。
彼と離れて稀に討滅寮に来る際にはそんな噂好きな彼女たちを腹の底の黒い笑顔で黙らせてその場を去っていく。
こうすれば、少なくとも彼ら彼女らは自分の聴こえる場所や声で噂を話そうとはしない。
他所の場所で話していてもそれは綺蝶の預かり知らぬ事。勝手に自分に当たって惨めな現実から逃避すれば良い。
綺蝶は風太郎と過ごす内に彼の事が好きになっていた。
綺蝶は色々な場所で多くの男に口説かれてきたが、そんな男と風太郎は比較にはならない。
すると、目の前で大きな音が聞こえて、綺蝶は慌てて刀を握って風太郎を救出に向かう。
だが、その動きは桐生と氷堂の二人が肩を寄せたことに遮られてしまう。
彼女が慌てて二人を解いて、風太郎の元に向かおうとしたが、またしても止められる。今度は腕を引っ張られてしまう。
綺蝶はそれを感じると、大人しく剣を構えてあの戦いを見つめていく。
悔しいが、自分では手が出る場面ではない。
彼女は口の中で数匹の苦虫を噛み潰してから、たった一人、一言を激しい激闘を繰り広げる風太郎に向かって送る。
「風太郎さん。頑張ってください」
飾らない単純な言葉。だが、それは気取らない彼女の真心が出た言葉であった。
桐生と氷堂の両名は綺蝶の前に出て、綺蝶が出てこない様に見張りを行う。
彼女は用心深いとばかりに一笑する。
先程からずっと氷と風とを出しているためか、風太郎の周り、足元の地面や空気が氷と風によって極限にまで冷え、風太郎の心の胆を心底から冷やしているという事に気が付く。
風太郎は無言で目の前の遠呂智と向き合う中で、幼い頃に両親から読み聞かされた『雪女』の童話を思い出していく。
山小屋に避難した猟師の親子のうちの年老いた親が雪女に息を吹きかけられて死ぬ場面もこんな風に冷たい氷と風が詰まっていたのではないか。
雪女なんてものがいるとは。いや、玉藻が作っていればいるだろうが、少なくとも今迄に討伐された妖鬼の名前に『雪女』という名前は聞かない。
その上、そんな情報があったとも聞かない。
なので、彼は彼女を架空の妖怪だと信じる事にした。
そんな時にふと思い出すのは幼き頃の記憶。
『雪女』の話が可哀想だと泣く両親に彼は尋ねたのだ。
「どうして可哀想なの?」と。
猟師の漢が可哀想だというのならば、ともかく、面白半分で彼の父親を奪い、子供が産まれていなければ男をも殺していたと思われる雪女を憐れむ動機なんて子供の頃の風太郎にはなかった。
それに、喋ったら殺すなどという発想はヤクザやら何やらが目撃者を脅すのと全く同じ言質ではないか。
雪女を哀れな姫の様に扱うのはやめてもらいたいと彼は言ったが、両親は首を傾げるばかり。
両親が首を傾げる理由が理解できないし、その日はモヤモヤとした煮え切らない気持ちのまま終わり、何日か後もその件が尾を引いていたのを風太郎はちゃんと覚えている。
だが、どうして、今、ここで『雪女』の伝承など思い出すのだろう。
分からない。と、風太郎が悩んでいた時だ。彼の目の前に遠呂智が振り上げた雷を纏わせた剣の姿を発見する。
風太郎は太刀を構え、紋章から出る美しい女の雪像を利用し、更には刀にも紋章の力で氷と風を纏わせて遠呂智を迎え撃つ。剣と太刀とを打ち合う音が鳴り響き、同時に氷と風、雷とが斬り合う両者の間に存在する僅かな隙間の間で激しく打ち合っていく。
風太郎は何度目かの打ち合いの後に、風太郎は刀を離して、両足を使って飛び上がり、遠呂智へと斬りかかっていく。
真上からの攻撃だ。奴も堂々と迎え撃つ以外の方法はあるまい。
遠呂智は刃に雷を纏わせて風太郎を待ち侘びる。
風太郎はそのまま素直に刀を振り下ろそうかと考えたのだが、直前に気が変わり、背後へと反り返り、地面に着地するのと同時にもう一度、遠呂智へと攻撃を仕掛けていく。
今度は自分と遠呂智との間に紋章を描き、あの白い雪の女神の像を作り上げていく。
雪の女神が口から淡くて白い美しい溜息を吐き出すのと同時に、風太郎はその煙を利用して遠呂智へと斬りかかっていく。
だが、彼は動じる様子を見せない。あくまでも冷静な調子で風太郎の太刀を受け止める。
風太郎は大きな唸り声を上げながら、遠呂智に何度も何度も刀を振り上げていく見ているこちらの腕が痛くなる程に。
思えば、自分の所属する対魔師の機関、討滅寮を指揮する征魔大将軍の言葉によれば、風太郎は木本奏音以来に玉藻を脅かす存在ができたと喜んでいた。
木本奏音は凄い対魔師だ。断言できる。討滅寮でその伝承を椿様から聞いた時にはなんて素晴らしい人物なのだと感銘を受けた。
斑目綺蝶はあの日の興奮を今も忘れはしないだろう。彼女は剣を構えて、愛弟子の戦いを観戦しながら、いつでも彼を救える立場にある事を考えていく。
あの男や玉藻姑獲鳥の様な玉藻紅葉と同じ血を引く奴らに闇の破魔式を使うのは危険だと理解してはいるのだが、どうしても危機だと感じた時には容赦なく使用している破魔式である。
この破魔式を身に付け、自らの身を守った時は信じられない心持ちであった。
同時に、彼女は友人が次々と死んでいくのにも関わらず、自分だけが破魔式を使用して生き残った事をかつての友人の親たちから責められた。
今だからこそ、彼女らの気持ちも分かる様な気がする。
なにせ、無事に帰れると信じて送り出した子供たちが一人も居なくなり、ただ一人だけが生き残ってしまったのだから。
綺蝶は自分がもし、反対の立場だったら同じ事をすると考えた。
自分はどうしようもないクズな人間ではないのか。たまに哲学的な思考に包まれた時にそう思ってしまう事がある。
だが、目の前で戦いを続ける弟子と出会ってからは全てが変わった。
彼と過ごす楽しい時間はそんな哲学的な思考を振り下ろせていた。
一緒に食事をし、一緒に散歩をし、一緒に互いに背中を預けあって戦った。
周囲は特に、綺蝶の早すぎる出世を妬む対魔師たちは心ないことを噂し合う。別にそれに怒るつもりではないし、自分への中傷など気にした事もないが、彼ら彼女らが同じ口で風太郎を侮辱するのは我慢ならない。
彼と離れて稀に討滅寮に来る際にはそんな噂好きな彼女たちを腹の底の黒い笑顔で黙らせてその場を去っていく。
こうすれば、少なくとも彼ら彼女らは自分の聴こえる場所や声で噂を話そうとはしない。
他所の場所で話していてもそれは綺蝶の預かり知らぬ事。勝手に自分に当たって惨めな現実から逃避すれば良い。
綺蝶は風太郎と過ごす内に彼の事が好きになっていた。
綺蝶は色々な場所で多くの男に口説かれてきたが、そんな男と風太郎は比較にはならない。
すると、目の前で大きな音が聞こえて、綺蝶は慌てて刀を握って風太郎を救出に向かう。
だが、その動きは桐生と氷堂の二人が肩を寄せたことに遮られてしまう。
彼女が慌てて二人を解いて、風太郎の元に向かおうとしたが、またしても止められる。今度は腕を引っ張られてしまう。
綺蝶はそれを感じると、大人しく剣を構えてあの戦いを見つめていく。
悔しいが、自分では手が出る場面ではない。
彼女は口の中で数匹の苦虫を噛み潰してから、たった一人、一言を激しい激闘を繰り広げる風太郎に向かって送る。
「風太郎さん。頑張ってください」
飾らない単純な言葉。だが、それは気取らない彼女の真心が出た言葉であった。
桐生と氷堂の両名は綺蝶の前に出て、綺蝶が出てこない様に見張りを行う。
彼女は用心深いとばかりに一笑する。
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