THE Lucifer GAME〜下心のために契約を結んでしまった俺は死なないために頭を使ってデスゲームを生き残ります!〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
97 / 135
第三部『終焉と破滅と』

最上真紀子の場合ーその19

しおりを挟む
「気分はどうだい?お姫様」

真紀子に何を言われても皮肉に聞こえる。檻の中で希空はそう考えていた。
希空が閉じ込められているのは新たに建設された最上真紀子の屋敷の一室。
その地下に存在するベッドと机とタンスがあるだけの簡素な一室である。

「……最悪に決まってるでしょ?」

何を分かり切った事をと言わんばかりの口調で希空は尋ね返す。

「ハッ、そうかい?おや、夕食も残してるのかよ。いかんぞ、食わねーと生き残れないんだぜ」

「フン、誰が」

希空の近くの机の上にはお盆の上に載ったパンとスープとが置いてあった。
このパンとスープは夕食のために用意されたものであるのだが、希空は敢えて手を付けない事で反抗の意思を示していたのである。
真紀子もそんな希空の反抗の事くらいは理解していた。だから食事を残されても平気で笑っていたのである。
真紀子は一通り希空を嘲笑った後に戻っていったのである。
希空はそんな真紀子の背中を強く睨み付けながら用意された部屋のベッドの上に腰を掛けたのである。
自分は少し前までは権力をフル活用して、生きていた。天堂グループを率いていた彼女はまさしく頂点に達していたのだ。
だが、それは簒奪者によってみるも無惨に奪われてしまった。
彼女の心境たるや察して余るものだ。
希空は舌を打ちながら部屋の中を歩き回っていく。
まるで、檻の中の熊の様だ。希空がそんな事を考えていた時だ。ふと、部屋の壁の隅に暗くて不気味な影な様なものが浮かぶ。
これは一体なんなのだろうか。希空が近寄っていってみると、それは人の型をした染みでしかなかった。どうして自分はそんな幻覚を見てしまったのだろう。 地位を追われて早くも一ヶ月が経つ。
その間ずっと部屋にいるものだから退屈になって脳が幻覚を見てしまっているのだろう。
希空はそんな自分が情けなくなり、思わず溜息を吐いてしまう。
そんな時だ。不意に目の前に見知った人物が姿を表す。
間違いなく兄の福音である。勿論幼い頃より礼儀作法を躾けられている希空は情けなく福音に抱き着いたりはしなかった。
代わりに安堵の表情を見せて、笑いかけた。

「兄さん、久し振り……早速で悪いんだけど、私を連れ出してくれないかな?」

「勿論だとも、それと、ぼくは謝らないといけないな」

「どうして?」

希空が首を傾げながら尋ねる。

「最上真紀子がここまで酷い奴だったとは思いもしなかったからだよ。人類を救うという大義名分のためにお前を会長の地位から引き下ろそうとしたが、まさかここまでの扱いを受けるとは思わなくて……」

「『泣いて馬謖を切る』って気分だったのかな?兄さんとしては」

「だったかもな。だが、ぼくはもうそんな事はしない。血を分けた妹の命を助けに来たんだ」

福音はそういうと妹の前に立つと、武装を施して双手槍を構えて扉を破壊した。
それから、そのまま外へと姿を消したのであった。
無論楽な逃避行ではない。追手が迫り、その度に福音はサタンの息子としての力を振るう事を余儀なくされたのであった。
加えて、不幸な事に本日は新会長である真紀子が取引先である大物政治家との会食のために不在にしていたのである。
希空の脱獄を知った真紀子は会食先のレストランの廊下で報告に現れた部下の胸ぐらを怒りのために強く掴んだ。

「テメェ、何を考えてやがる?希空の奴をちゃんと見張ってろつったよなぁ?」

「……勿論です。ただ、都市伝説の話で聞く様な恐ろしい鎧兜を纏った奴が一緒でして、我々一同は懸命に戦ったのですがーー」

「福音の奴か……クソッタレッ!」

真紀子は悔しそうに地団駄を踏んだが、それ以上は何も言わずに一言だけ告げた。

「すぐに希空の行方を探せ……金を幾ら使っても構わん。お姫様を担ぎ上げて、あたしに謀反を起こされても困るからな」

真紀子の言葉を聞いて、黒服は頭を下げてその場から下がっていく。
真紀子はすぐに秘書に連絡を行う。新たに雇った秘書は大阪にいる自分の代行をさせている。激務ではあるが、自分の呼び出しに応じない事はないだろう。容易に連絡が届く筈だ。
新たな若い男性の秘書は自身の携帯電話から応対し、真紀子と事務的なやり取りを交わした後に了承の旨を伝えた。

「いいか、網を張れよ……福音と共に逃げたんだったら奴は関西にいる可能性が高いからな」

『わかっております。大阪という大都市の情報網を使えばどこに居るのかくらいは把握できるかと思われます』

「頼んだぜ」

真紀子はそれだけ告げると、電話を切り、会食先の相手の元へと戻っていく。
会食の相手は大物政治家である。待たせては申し訳がない。
真紀子は席を立った詫びを入れてから贅を尽くしたフレンチのフルコースに舌鼓を打ちつつ、今後の計画を纏めていくのである。
表向きこそ円滑に話を進めていくのだが、頭の中は逃げた希空の事でいっぱいであった事はいうまでもあるまい。
加えて、ゲームの進行具合が予想以上に遅い事にも真紀子は苛立っていた。
ゲームがダラダラ進むと、その度に大阪に呼び出されるのだ。真紀子は新幹線の代金が減ってしまう事に苛立ちを感じてしまうのだ。いい加減にしてもらえないだろうか。
真紀子は自分の苛立ちをお首にも出さずに政治家に向かって淑女に相応しい微笑を浮かべていた。

一方で、希空の方はといえば自身のかつての思い人である神通恭介の元へと身を寄せようとしたのだが、恭介は生憎と美憂のシンパである。
そんなところへ向かえばすぐにでも捕まってしまうだろう。やむを得ずに希空は兄と共にホテルの中へと籠城する事にしたのである。根城にしたのは中心部にあるビジネスホテルである。食事は全て兄が買ってきたファーストフードかコンビニエンスストアで購入した食料品である。
希空はストレスに弱いからといってそれに負けて無駄な食事を行ったりはしなかった。日本の王女というプライドがそれを妨げたのである。
だが、外に出れない状況には辟易させられた。ましてや逃亡から一週間もの月日が経てば苛立ってくるのも無理はあるまい。

「一体いつまで篭っていなくちゃあいけないのよ!ふざけないで!」

「いつまでってそりゃあ、最上真紀子がぼくたちを諦めるまでだよ。今はむりかもしれないけど、いつかその日がーー」

「いつかその日!?それっていつの事よッ!」

希空は鼻息を荒げながら福音に突っ掛かっていく。

「わからない。けど、いつかは解放される日が来るはずだよ」

福音は優しく妹を宥めたつもりであったのだが、妹の方はまだ苛立ちが収まらないらしい。常にイライラとした表情を浮かべながら狭いホテルの一室をあてもなくウロウロとしていた。その姿は動物園の中で退屈そうに歩き回る熊の様だ。
最上真紀子の手によって囚われていた時もそうだが、これは希空の癖であった。
追い詰められると動きたくなるのは彼女の悪い癖とでもいうべきであろう。
やがて、彼女は耐えきれずに外へと飛び出そうとした時だ。
不意に扉が蹴破られ、機関銃を構えた黒服の姿が見えた。

「見つけたぞ!やはり、このホテルだッ!」

「おのれ、見つかったかッ!」

福音は武装を施し、黒服たちに向かって襲い掛かろうとしたのだが、希空がそれを押し退け、黒服たちに向かって威厳と尊厳とを漂わせ、彼らに威圧を与えながら言った。

「あなたたち誰にその銃を向けてるの?」

その問い掛けに黒服たちは堪らなくなって両肩を震わせていく。
それを好機とした希空は両手を組みながら尊厳を崩す事なく話を続けていくのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。 ――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる 『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。 俺と俺の暮らすこの国の未来には、 惨めな破滅が待ち構えているだろう。 これは、そんな運命を変えるために、 足掻き続ける俺たちの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

処理中です...