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岩の惑星ラックスフェルン
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普通に考えればラックスフェルンの住民がこの場所に来たものだとばかり考えるだろう。
だが、聞こえてきた足音は一つだけだった。そこにも違和感を持った。
食人植物も生えているような森の中を日本でいうところの縄文時代程度の文化水準しか持っていない星の住民が一人で歩くというのはどう考えても不自然だ。
ましてやこの惑星の住民にとっての脅威である人喰いアメーバがウヨウヨしているような環境にやって来るもの好きなど存在しないはずだ。
こうした理由から修也は警戒心を最大限にまで高くしていた。
いつでも戦闘に引き込めるように修也はレーザーガンを構えた。
レーザーガンが向けられているにも関わらず、足音は徐々に近付いてきた。
そしてとうとうあと一歩のところまで迫ってきたのだった。
警告の言葉を発するのならばここしかあるまい。修也はレーザーガンを強く握り締めて叫んだ。
「誰だ!?」
当然相手から返事は返ってこない。発した言葉は惑星ラックスフェルンの言語ではなく日本語であった。しかしそれをおいても人間であれば修也の声から発せられるただならぬ様子を察し、立ち止まることくらいはするはずだ。
だが、近付いてくる気配は一向にとどまらなかった。とうとう樹木の間を抜いてその悍ましい姿をあらわにしたのである。
目の前に現れたのは二本足で立っているアメーバだった。ただし顔や両手両足などといった人間のような姿となっている。
それに加えて、不思議であったのは無色であるはずのアメーバだが、なぜか目の前に現れた怪物はテカテカと光っていた。水色の肌に光が反射して不気味な光景すら醸し出していた。
顔も他のアメーバたちのように鋭い犬歯が生え揃った口の他に大型魚を思わせるような丸くて巨大な両目が揃っていた。
なんともいえない不気味な怪物は腰をクネクネと気色の悪い動きを行いながら修也の元へと近付いてきた。
「止まれ! 止まらんと撃つぞッ!」
修也は20世紀に放映された日本の刑事ドラマに登場する刑事のような心境になって警告の言葉を発したが、目の前にいる人間のような姿をしたアメーバは相変わらず不気味に腰を動かしながら修也の元に向かってきたのだった。
修也は兜の下で歯を軋ませながら引き金を引いた。
が、不思議なことに修也の放った熱線は不気味な固体に当たることもなかった。不気味な固体は修也の放った熱線を交わし、そのまま頭に向かって強烈な拳を喰らわせたのだった。
正面から強烈な一撃を喰らった修也は地面の上に倒れ込んだ。
だが、不気味な固体は容赦することなく飛び上がり、修也の上に馬乗りとなった。
それから修也の頭部を執拗に殴り続けていった。兜で頭を保護されているとはいえ殴られた衝撃によって振動は生じていった。
修也は意識を失いそうになった。それでも耐えることができたのはジョウジに介抱された時のことを思い返し、もう二度とあのような轍を踏んではならぬと誓ったからだ。
この時修也の背後からはジョウジとカエデの両名がビームポインターを忍ばせながら不気味な固体の背後へと近付いていた。二人の目的としては背後からビームポインターを浴びせるというものだった。
だが、二人の前に他のアメーバたちが立ち塞がり、その計画は頓挫してしまった。
もとより殴られ続けていた修也は二人が自身を助けてくれようとしてくれたことなどは知りようもなかった。
ただ、執拗に頭部を殴られ続けながらも反撃の機会を待っていたのだ。いつ来るのか分からない反撃の機会を修也はじっと耐えて待っていた。突然不気味な固体の殴る手が止まった。
修也は一瞬の隙を利用して修也は右手を動かして不気味な固体の無防備な肌を思いっきり殴り飛ばした。
これまで修也は数えきれないほど殴られ続けていたが、ようやく反撃の糸口を掴んたのだ。
修也がもう一撃を喰らわせようとした時だ。
「痛いなぁ」
と、先ほどの不気味な固体が言葉を発したのだった。しかも喋ったのは今修也たちがいる惑星ラックスフェルンの言葉ではなく修也の喋る日本語だった。
「あ、お前、その言葉をどこで?」
「これ? みんなからあなたたちのことを聞いていたらなんとなく覚えちゃった」
不気味な固体はいいや、日本語を理解するアメーバ人間は理屈の通らないことを言った。
「みんな?みんなって誰だ?」
「みんなはみんなだよ。うーん、分かりやすくいうとぼくの家来かな?」
アメーバ人間は他の巨大アメーバを指差しながら言った。
「家来?じゃあ、きみは?」
「分かりやすく言うと、ぼくは王様なんだよ。こいつら全員のね」
アメーバ人間は森の中に現れた他のアメーバたちを指差しながら叫んだ。
修也は楽しげに色々なことを語るアメーバ人間改めアメーバの王に向かって問い掛けた。
「……なんで私を殴った?」
「えっ? だって家来を殺されたんだもの。王様として家来の仇を取るのは当然でしょ?」
「なぜ、お前たちは人を襲う? アメーバは本来ならば何も食べなくても生きていけるはずだ。それなのにどうして人を襲う? なぜその命を奪う?」
「なぜって? そりゃあ、美味しいからだよ」
「美味しいから? 美味しいからだと!?」
修也はアメーバの王のふざけた回答に激昂した。この時修也の脳裏には父親を食べられて泣き叫んでいた小さな男の子の姿があった。
同じ子どもを持つ父親として男の子を庇って死んだあの若い男性や父親を失って泣き出す少年の気持ちが修也は痛いほど分かっていた。
それ故に辺り一面に響き渡っていくかのような大きな声が喉から出てきたのだ。あまりの大きな叫び声にこの星の小鳥たちが木の上から慌てて逃げ出し、周りにやかましいほどの羽音が響き渡っていくほどの強い声だったのだ。
だが、それでもアメーバの王が悪びれる様子を見せようとはしなかった。
それどころか更に修也の神経を逆撫でするような言葉を発した。
「そんなに興奮しないでよ。何がそんなに気に入らなかったのか知らないけどさ」
食べられた人を侮辱するかのような言葉とその後にアメーバの王の口から出た笑い声でついに修也の堪忍袋の尾が切れた。目の前にいるのは紛れもない怪物だ。アメーバがどのような経緯があって人の姿をしているのかは知らない。
そこには修也の理解できない自然の摂理のようなものが存在しているのだろう。もしかすれば文系の修也には判別もできぬような科学的な理由があって人の姿をしているのかもしれない。
だが、いかなる経緯があって人と姿を似せようとも人とは決定的に異なる存在だ。目の前にいる怪物は人間に必要な『感情』というものが存在しないのだ。
それ故に平気で人を侮辱するような言葉が発せられるのだ。修也は確実に仕留めるためレーザーガンの引き金を引いた。
だが、アメーバの王は熱線をあっさりと交わし、修也の元にまで迫り来ると、顎の下を目掛けて蹴りを喰らわせた。
兜で頭を覆っているとはいえ顎の下からの蹴りを受けるのは辛かった。
いくら辛くても修也はアメーバの王に立ち向かわなくてはならなかった。目の前にいる怪物だけは絶対に倒さなくてはならない。生かしておいては世のため人のためにならぬ。
時代劇の主人公のような気持ちになった修也は兜越しにアメーバの王を強く睨み付けた。
だが、聞こえてきた足音は一つだけだった。そこにも違和感を持った。
食人植物も生えているような森の中を日本でいうところの縄文時代程度の文化水準しか持っていない星の住民が一人で歩くというのはどう考えても不自然だ。
ましてやこの惑星の住民にとっての脅威である人喰いアメーバがウヨウヨしているような環境にやって来るもの好きなど存在しないはずだ。
こうした理由から修也は警戒心を最大限にまで高くしていた。
いつでも戦闘に引き込めるように修也はレーザーガンを構えた。
レーザーガンが向けられているにも関わらず、足音は徐々に近付いてきた。
そしてとうとうあと一歩のところまで迫ってきたのだった。
警告の言葉を発するのならばここしかあるまい。修也はレーザーガンを強く握り締めて叫んだ。
「誰だ!?」
当然相手から返事は返ってこない。発した言葉は惑星ラックスフェルンの言語ではなく日本語であった。しかしそれをおいても人間であれば修也の声から発せられるただならぬ様子を察し、立ち止まることくらいはするはずだ。
だが、近付いてくる気配は一向にとどまらなかった。とうとう樹木の間を抜いてその悍ましい姿をあらわにしたのである。
目の前に現れたのは二本足で立っているアメーバだった。ただし顔や両手両足などといった人間のような姿となっている。
それに加えて、不思議であったのは無色であるはずのアメーバだが、なぜか目の前に現れた怪物はテカテカと光っていた。水色の肌に光が反射して不気味な光景すら醸し出していた。
顔も他のアメーバたちのように鋭い犬歯が生え揃った口の他に大型魚を思わせるような丸くて巨大な両目が揃っていた。
なんともいえない不気味な怪物は腰をクネクネと気色の悪い動きを行いながら修也の元へと近付いてきた。
「止まれ! 止まらんと撃つぞッ!」
修也は20世紀に放映された日本の刑事ドラマに登場する刑事のような心境になって警告の言葉を発したが、目の前にいる人間のような姿をしたアメーバは相変わらず不気味に腰を動かしながら修也の元に向かってきたのだった。
修也は兜の下で歯を軋ませながら引き金を引いた。
が、不思議なことに修也の放った熱線は不気味な固体に当たることもなかった。不気味な固体は修也の放った熱線を交わし、そのまま頭に向かって強烈な拳を喰らわせたのだった。
正面から強烈な一撃を喰らった修也は地面の上に倒れ込んだ。
だが、不気味な固体は容赦することなく飛び上がり、修也の上に馬乗りとなった。
それから修也の頭部を執拗に殴り続けていった。兜で頭を保護されているとはいえ殴られた衝撃によって振動は生じていった。
修也は意識を失いそうになった。それでも耐えることができたのはジョウジに介抱された時のことを思い返し、もう二度とあのような轍を踏んではならぬと誓ったからだ。
この時修也の背後からはジョウジとカエデの両名がビームポインターを忍ばせながら不気味な固体の背後へと近付いていた。二人の目的としては背後からビームポインターを浴びせるというものだった。
だが、二人の前に他のアメーバたちが立ち塞がり、その計画は頓挫してしまった。
もとより殴られ続けていた修也は二人が自身を助けてくれようとしてくれたことなどは知りようもなかった。
ただ、執拗に頭部を殴られ続けながらも反撃の機会を待っていたのだ。いつ来るのか分からない反撃の機会を修也はじっと耐えて待っていた。突然不気味な固体の殴る手が止まった。
修也は一瞬の隙を利用して修也は右手を動かして不気味な固体の無防備な肌を思いっきり殴り飛ばした。
これまで修也は数えきれないほど殴られ続けていたが、ようやく反撃の糸口を掴んたのだ。
修也がもう一撃を喰らわせようとした時だ。
「痛いなぁ」
と、先ほどの不気味な固体が言葉を発したのだった。しかも喋ったのは今修也たちがいる惑星ラックスフェルンの言葉ではなく修也の喋る日本語だった。
「あ、お前、その言葉をどこで?」
「これ? みんなからあなたたちのことを聞いていたらなんとなく覚えちゃった」
不気味な固体はいいや、日本語を理解するアメーバ人間は理屈の通らないことを言った。
「みんな?みんなって誰だ?」
「みんなはみんなだよ。うーん、分かりやすくいうとぼくの家来かな?」
アメーバ人間は他の巨大アメーバを指差しながら言った。
「家来?じゃあ、きみは?」
「分かりやすく言うと、ぼくは王様なんだよ。こいつら全員のね」
アメーバ人間は森の中に現れた他のアメーバたちを指差しながら叫んだ。
修也は楽しげに色々なことを語るアメーバ人間改めアメーバの王に向かって問い掛けた。
「……なんで私を殴った?」
「えっ? だって家来を殺されたんだもの。王様として家来の仇を取るのは当然でしょ?」
「なぜ、お前たちは人を襲う? アメーバは本来ならば何も食べなくても生きていけるはずだ。それなのにどうして人を襲う? なぜその命を奪う?」
「なぜって? そりゃあ、美味しいからだよ」
「美味しいから? 美味しいからだと!?」
修也はアメーバの王のふざけた回答に激昂した。この時修也の脳裏には父親を食べられて泣き叫んでいた小さな男の子の姿があった。
同じ子どもを持つ父親として男の子を庇って死んだあの若い男性や父親を失って泣き出す少年の気持ちが修也は痛いほど分かっていた。
それ故に辺り一面に響き渡っていくかのような大きな声が喉から出てきたのだ。あまりの大きな叫び声にこの星の小鳥たちが木の上から慌てて逃げ出し、周りにやかましいほどの羽音が響き渡っていくほどの強い声だったのだ。
だが、それでもアメーバの王が悪びれる様子を見せようとはしなかった。
それどころか更に修也の神経を逆撫でするような言葉を発した。
「そんなに興奮しないでよ。何がそんなに気に入らなかったのか知らないけどさ」
食べられた人を侮辱するかのような言葉とその後にアメーバの王の口から出た笑い声でついに修也の堪忍袋の尾が切れた。目の前にいるのは紛れもない怪物だ。アメーバがどのような経緯があって人の姿をしているのかは知らない。
そこには修也の理解できない自然の摂理のようなものが存在しているのだろう。もしかすれば文系の修也には判別もできぬような科学的な理由があって人の姿をしているのかもしれない。
だが、いかなる経緯があって人と姿を似せようとも人とは決定的に異なる存在だ。目の前にいる怪物は人間に必要な『感情』というものが存在しないのだ。
それ故に平気で人を侮辱するような言葉が発せられるのだ。修也は確実に仕留めるためレーザーガンの引き金を引いた。
だが、アメーバの王は熱線をあっさりと交わし、修也の元にまで迫り来ると、顎の下を目掛けて蹴りを喰らわせた。
兜で頭を覆っているとはいえ顎の下からの蹴りを受けるのは辛かった。
いくら辛くても修也はアメーバの王に立ち向かわなくてはならなかった。目の前にいる怪物だけは絶対に倒さなくてはならない。生かしておいては世のため人のためにならぬ。
時代劇の主人公のような気持ちになった修也は兜越しにアメーバの王を強く睨み付けた。
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