メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井

文字の大きさ
27 / 236
岩の惑星ラックスフェルン

しおりを挟む
 普通に考えればラックスフェルンの住民がこの場所に来たものだとばかり考えるだろう。

 だが、聞こえてきた足音は一つだけだった。そこにも違和感を持った。

 食人植物も生えているような森の中を日本でいうところの縄文時代程度の文化水準しか持っていない星の住民が一人で歩くというのはどう考えても不自然だ。

 ましてやこの惑星の住民にとっての脅威である人喰いアメーバがウヨウヨしているような環境にやって来るもの好きなど存在しないはずだ。

 こうした理由から修也は警戒心を最大限にまで高くしていた。
 いつでも戦闘に引き込めるように修也はレーザーガンを構えた。

 レーザーガンが向けられているにも関わらず、足音は徐々に近付いてきた。
 そしてとうとうあと一歩のところまで迫ってきたのだった。

 警告の言葉を発するのならばここしかあるまい。修也はレーザーガンを強く握り締めて叫んだ。

「誰だ!?」

 当然相手から返事は返ってこない。発した言葉は惑星ラックスフェルンの言語ではなく日本語であった。しかしそれをおいても人間であれば修也の声から発せられるただならぬ様子を察し、立ち止まることくらいはするはずだ。

 だが、近付いてくる気配は一向にとどまらなかった。とうとう樹木の間を抜いてその悍ましい姿をあらわにしたのである。

 目の前に現れたのは二本足で立っているアメーバだった。ただし顔や両手両足などといった人間のような姿となっている。

 それに加えて、不思議であったのは無色であるはずのアメーバだが、なぜか目の前に現れた怪物はテカテカと光っていた。水色の肌に光が反射して不気味な光景すら醸し出していた。

 顔も他のアメーバたちのように鋭い犬歯が生え揃った口の他に大型魚を思わせるような丸くて巨大な両目が揃っていた。

 なんともいえない不気味な怪物は腰をクネクネと気色の悪い動きを行いながら修也の元へと近付いてきた。

「止まれ! 止まらんと撃つぞッ!」

 修也は20世紀に放映された日本の刑事ドラマに登場する刑事のような心境になって警告の言葉を発したが、目の前にいる人間のような姿をしたアメーバは相変わらず不気味に腰を動かしながら修也の元に向かってきたのだった。

 修也は兜の下で歯を軋ませながら引き金を引いた。

 が、不思議なことに修也の放った熱線は不気味な固体に当たることもなかった。不気味な固体は修也の放った熱線を交わし、そのまま頭に向かって強烈な拳を喰らわせたのだった。

 正面から強烈な一撃を喰らった修也は地面の上に倒れ込んだ。

 だが、不気味な固体は容赦することなく飛び上がり、修也の上に馬乗りとなった。

 それから修也の頭部を執拗に殴り続けていった。兜で頭を保護されているとはいえ殴られた衝撃によって振動は生じていった。

 修也は意識を失いそうになった。それでも耐えることができたのはジョウジに介抱された時のことを思い返し、もう二度とあのような轍を踏んではならぬと誓ったからだ。

 この時修也の背後からはジョウジとカエデの両名がビームポインターを忍ばせながら不気味な固体の背後へと近付いていた。二人の目的としては背後からビームポインターを浴びせるというものだった。

 だが、二人の前に他のアメーバたちが立ち塞がり、その計画は頓挫してしまった。

 もとより殴られ続けていた修也は二人が自身を助けてくれようとしてくれたことなどは知りようもなかった。

 ただ、執拗に頭部を殴られ続けながらも反撃の機会を待っていたのだ。いつ来るのか分からない反撃の機会を修也はじっと耐えて待っていた。突然不気味な固体の殴る手が止まった。

 修也は一瞬の隙を利用して修也は右手を動かして不気味な固体の無防備な肌を思いっきり殴り飛ばした。

 これまで修也は数えきれないほど殴られ続けていたが、ようやく反撃の糸口を掴んたのだ。
 修也がもう一撃を喰らわせようとした時だ。

「痛いなぁ」

 と、先ほどの不気味な固体が言葉を発したのだった。しかも喋ったのは今修也たちがいる惑星ラックスフェルンの言葉ではなく修也の喋る日本語だった。

「あ、お前、その言葉をどこで?」

「これ? みんなからあなたたちのことを聞いていたらなんとなく覚えちゃった」

 不気味な固体はいいや、日本語を理解するアメーバ人間は理屈の通らないことを言った。

「みんな?みんなって誰だ?」

「みんなはみんなだよ。うーん、分かりやすくいうとぼくの家来かな?」

 アメーバ人間は他の巨大アメーバを指差しながら言った。

「家来?じゃあ、きみは?」

「分かりやすく言うと、ぼくは王様なんだよ。こいつら全員のね」

 アメーバ人間は森の中に現れた他のアメーバたちを指差しながら叫んだ。

 修也は楽しげに色々なことを語るアメーバ人間改めアメーバの王に向かって問い掛けた。

「……なんで私を殴った?」

「えっ? だって家来を殺されたんだもの。王様として家来の仇を取るのは当然でしょ?」

「なぜ、お前たちは人を襲う? アメーバは本来ならば何も食べなくても生きていけるはずだ。それなのにどうして人を襲う? なぜその命を奪う?」

「なぜって? そりゃあ、美味しいからだよ」

「美味しいから? 美味しいからだと!?」

 修也はアメーバの王のふざけた回答に激昂した。この時修也の脳裏には父親を食べられて泣き叫んでいた小さな男の子の姿があった。

 同じ子どもを持つ父親として男の子を庇って死んだあの若い男性や父親を失って泣き出す少年の気持ちが修也は痛いほど分かっていた。

 それ故に辺り一面に響き渡っていくかのような大きな声が喉から出てきたのだ。あまりの大きな叫び声にこの星の小鳥たちが木の上から慌てて逃げ出し、周りにやかましいほどの羽音が響き渡っていくほどの強い声だったのだ。

 だが、それでもアメーバの王が悪びれる様子を見せようとはしなかった。
 それどころか更に修也の神経を逆撫でするような言葉を発した。

「そんなに興奮しないでよ。何がそんなに気に入らなかったのか知らないけどさ」

 食べられた人を侮辱するかのような言葉とその後にアメーバの王の口から出た笑い声でついに修也の堪忍袋の尾が切れた。目の前にいるのは紛れもない怪物だ。アメーバがどのような経緯があって人の姿をしているのかは知らない。

 そこには修也の理解できない自然の摂理のようなものが存在しているのだろう。もしかすれば文系の修也には判別もできぬような科学的な理由があって人の姿をしているのかもしれない。

 だが、いかなる経緯があって人と姿を似せようとも人とは決定的に異なる存在だ。目の前にいる怪物は人間に必要な『感情』というものが存在しないのだ。

 それ故に平気で人を侮辱するような言葉が発せられるのだ。修也は確実に仕留めるためレーザーガンの引き金を引いた。

 だが、アメーバの王は熱線をあっさりと交わし、修也の元にまで迫り来ると、顎の下を目掛けて蹴りを喰らわせた。
 兜で頭を覆っているとはいえ顎の下からの蹴りを受けるのは辛かった。

 いくら辛くても修也はアメーバの王に立ち向かわなくてはならなかった。目の前にいる怪物だけは絶対に倒さなくてはならない。生かしておいては世のため人のためにならぬ。

 時代劇の主人公のような気持ちになった修也は兜越しにアメーバの王を強く睨み付けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...