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第二章『共存と滅亡の狭間で』

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 修也にしてみれば彼らとは久し振りの再会だった。本来であれば積もる話などもあっただろう。

 だが、相手は『感情』など持ち合わせていない冷徹なアンドロイド。修也との再会を喜び、思い出話を楽しむことなどありえないはずだ。

 実際に初対面の悠介や麗俐とも少し会釈をしただけだった。車に乗っている間、少し自己紹介をする機会はあったものの、そこから雑談に発展することもなく、すぐに話は終わってしまった。

 無言の空気が続く中でバスケットボール部に所属し、いじめられるまではカーストの最上位にいた悠介は気まずい空気に耐え切れなかったに違いない。
 無理やり明るく振る舞い、楽しげな話題を口に出そうとしていた。

 だが、その努力は虚しく空回りしていった。
 悠介が何かを語るたびに車の中に悠介の声だけが虚しく反響していった。

 気が付けば都内の中を車が入っていた。異星からやってきたというアンドロイドが国会議事堂やその周辺を不法に占領したこともあって警察や自衛隊の車両が大勢詰め掛けているのが見えた。

 中には電磁砲やレーザー砲といった武器を積んだ戦闘車両の姿も見えた。
 空の上を眺めると、ステレス飛行機などの姿を見えた。いざとなればあの飛行機で国会議事堂を破壊する算段であるのかもしれない。

 大規模な数を動員したのは自衛隊だけではなかった。警察組織も常設の警察官ばかりではなく、機動隊や特殊部隊までも導入していたのだ。過去のどの事例を見渡しても、ここまでの数の警官や自衛官が動員されるような事態はなかったに違いない。

 修也は慌ただしく国会議事堂へと詰め寄っていく警察車両や軍車両を見つめながらそんなことを考えていた。

 当然厳戒態勢がひかれて道が塞がれ、修也たちを乗せた車も当然のように止められた。
 だが、日本一の企業ということもあって修也たちを乗せた車はあっさりと通された。

 クラウンの車はそのまま警察官や会社の警備を司るアンドロイドたちに守られ
 たメトロポリス社の本社が見えてきた。
 メトロポリス社の門を守るのはビームライフルを持った二体のアンドロイドたちだった。

 単にビームライフルを構えているだけではなかった。体には迷彩柄の軍服に黒い防弾チョッキという100年程前の兵士のような姿をしていた。

 これで頭の上にヘルメットでも被っていれば本当に100年ほど前の自衛隊員軍に見えたのだろうが、生憎なことにヘルメットだけは透明のフェイスアーマーが付いた現代式のものとなっていた。
 軍隊マニアであるのならばそこにだけ唯一ケチを付けるだろう。
だが、修也も残りの家族も軍隊マニアではなかった。

 本来であるのならばビームライフルは銃刀法違反に引っ掛かるところだが、メトロポリス社の力を使って法の抜け穴でもググって手に入れたに違いない。

 そうでなければ有事の際に至極あっさりとビームライフルような武器を出せるわけがないのだ。
 車を降りた修也がどこか呆気に取られたような目で見張りの兵士たちを見つめていると、ジョウジが修也の前に割り込むように現れた。

「私はメトロポリス社の社員、ジョウジです。こちらにいらっしゃるのは我が社の英雄、大津修也さんです」

 ジョウジの言葉が見張りのアンドロイドたちに通じたのか、アンドロイドたちはビームライフルを引いて修也たちを会社の中へと通していった。
 いつも通りの厳重なセキュリティをくぐり抜け、案内役となるジョウジを含む五人は社長室へと向かっていった。
 社長室には既に神妙な顔をしたフレッドセンとマリーの姿が見えた。

「お疲れ様です。みなさま、本日はお休みのところをお呼びして誠に申し訳ございません。ですが、事情が事情のためお許し願えれば幸いです」

 フレッドセンはそう言って懐から携帯端末を取り出していった。
 携帯端末には先ほど車から見えた完全封鎖された都内の光景や見たこともない宇宙服に簡易的な白色の装甲が付いた戦闘スーツに身を包んだ兵士たちと都内の警察官や自衛官が互いにレーザー光線や熱線を撃ち合っていく姿が見られた。

 ただ、ラーガレット星のレーザーガンの方が地球のものよりもいささか質がいいらしい。倒される数はラーガレット星の兵士よりも警察官や自衛官たちの方が多かった。

「こ、こんなことが起きているなんて」

 修也は思わず絶句した。目の前で広げられているのは古典的な宇宙人侵略者のSF映画に登場する一場面などではなく現実に起きていることなのだ。
 悠介や麗俐も同じ顔をしていた。それを見たフレッドセンは携帯端末を自身の元に戻し、その映像を消した。

「お分かりいただけましたか? これは由々しき事態です。国防省も既に都内のみならず日本各地の有力企業に訴え掛け、官民一帯となってこの未曾有の危機を乗り越えようと訴えています」

「では、既に社長も我が社のアンドロイドや『ロトワング』の方を?」

「えぇ、既に政府の方には提供しております。なにせ日本が占領されることになったのは太平洋戦争における敗戦以来、実に100年ぶりのことですから」

 その言葉だけで修也は今の異常事態を自覚できた。

 太平洋戦争の相手はまだ同じ地球人だったが、今回の場合は別の惑星から攻め込んできた宇宙人なのだ。
 占領され、負けた際にはどうなるのか想像もできなかった。
 修也が神妙な顔を浮かべていた時だ。

「大津さん、そこでこの危機を乗り越える我々の銀の弾丸シルバーブレットとして白羽の矢があなたに立つことなったんです」

「な、なぜ私に?」

「大津さんはかつて惑星ベルでラーガレット星の方とお話をされたとジョウジさんから伺いました。しかもその際にあなたは無傷で帰されたことも。この事実を聞いた我が社の株主の方々があなたに目をつけましてね」

「は、はぁ」

「あなたに是非とも交渉役を引き受けてほしいとのご要望があったんですよ」

「こ、交渉役!? 私が!?」

 修也は驚いたように自分自身を人差し指で差しながら問い掛けた。その表情は岩のように固くなっていた。
 だが、それだけ驚いている修也に対して「嘘ですよ」などと言って安心させるどころか、フレッドセンは満足気な様子で首を縦に動かしていたのだ。

「ではどうして悠介と麗俐まで?」

「お二方は大津さんの護衛です。念の為に我が社の誇るパワードスーツを着用してご同行願います」

 どうやら与えられた仕事は交渉役であったらしい。てっきりアクション映画に登場する主人公のように国会議事堂の中に侵入して占領した敵を倒すのだとばかり思っていたので三人はすっかりと拍子抜けしたようだった。

 だが、三人の心構えなど気にしてはいられない。フレッドセンはすぐに三人に国会議事堂へと向かうように指示を出した。
 ジョウジとカエデは三人を連れ出して国会議事堂へと向かっていった。

 だが、国会議事堂の前には大量のアンドロイドたちが待ち構えている。

 国会議事堂前を守るアンドロイドたちに「私たちは交渉役だ!」と持ちかけたとしても通してくれないことは明白である。

 アンドロイドたちを倒して道を広げていくしかないだろう。
 大津親子はそれぞれのカプセルトイを押し、各々の鎧を身に付けていった。

 仮面を身に付けた三人の騎士がそれぞれビームソードを構えて国会議事堂へ至るまでの道の中へと突っ込んでいった。
 当然そんなことをただ許すようなアンドロイドたちではない。
 主人からの厳命を受けている立場だ。

 修也たちが足を踏み入れるのと同時に無言でレーザーガンを構え、ブラスター・ライフルと呼ばれる強力な熱線を放射する銃を構えていった。
 修也たちは近くにあった車の後ろに身を隠し、壮絶な撃ち合いを続けていった。

 しかし三人ともメトロポリス社が開発した最新式の『ロトワング』を身につけている。
 多少の熱線を受けても装甲は持ち堪え、見張りの兵士たちを次々と片付けていった。

 あとは国会の中に侵入するだけである。修也たちは気合を入れていった。
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