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第二章『共存と滅亡の狭間で』

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「キミの目的はいったい何かね? 何故、われわれを狙うんだ?」

 日本国の最高権威であり、最高権力者たる内閣総理大臣を務める伊達義輝だてよしてるは突然国会議事堂を封じ込め、日本全土にアンドロイドの軍隊を置いて国民たちを苦しめる謎の侵略者に向かって声を張り上げて抗議を行なっていった。

 だが、その侵略者は伊達首相の毅然とした姿を見ても何も答えようとしなかった。衆議院議長を退かせた議長席の上で偉そうに足を組みながら国会議員たちを見下ろしていたのだ。

 侵略者は国会議員の姿を見て、その腹の黒さに思わず溜息を吐いてしまう。
 同じ地球人であっても大津修也は綺麗な心持っていたというのにどうしてここまでの差ができてしまったのだろうか。
 もう一度重い溜息を吐いた時だ。国会議事堂の正面入り口から騒がしい声が聞こえてきた。

「大変です。ご主人様マイマスター。地球人のパワードスーツを着た男たちがこちらに迫っています」

「地球人のパワードスーツを着た男たちが……? 変だなぁ」

 侵略者もといラーガレット星人のソグは首を傾げていた。正直にいえば地球の技術力はラーガレット星の技術よりも遥かに劣る。その地球の技術で反撃ができるのかといえばかなり厳しいものがあったのだと宇宙船のデータには出ていた。

 だが、すぐにソグはデータから収集した例外のことを思い出した。それは大津修也と修也が着用していた戦闘スーツの製造元である。

 メトロポリス社なる地球の大企業の技術力は強力な戦闘用ロボット『アストロン』でさえ打ち破っていた。
 もし、その技術を用いて反撃を行なってきたというのならば話は別だ。

「分かった。なら対抗のために母艦から『フォールアウト』を出せ」

「はい、畏まりました」

 ソグの部下であるアンドロイドは頭を下げると、衆議院の会場を後にしていった。

 それからも衆議院議長の座席で胡座をかくソグに対して伊達首相は声を震わせながら問い掛けた。

「キミ、よかったら教えてくれないか? 『フォールアウト』というのはなんだね?」

「やだよ。なんで教えないといけないのさ」

 ソグは伊達首相からの回答を突っぱねた。それから両手と両足を伸ばしてうーんと唸り声を上げていった。

 それからゆっくりと両目を閉じていった。ソグは衆議院議長の座席を布団の代わりにして眠るつもりでいたのだ。
 だが、伊達首相は眠ろうとするソグに対してしつこく喰らい付いた。

「頼む。教えてくれ!」

 伊達首相は深々と頭を下げながら懇願していった。

「嫌だね」

 ソグは億劫な態度で答えた。ソグとしては腹の黒い地球人に教えることなどは何もなかった。このままゆっくりと眠るつもりだったが、伊達首相は黙らなかった。

「頼む! どうせ我々を殺すつもりなら死ぬ前に教えてくれてもいいだろ?」

「嫌だね」

 ソグはそっぽを向いた。その行動からは対話などは望めなそうだ。
 それでも伊達首相は日本を預かる宰相として必死になって頭を下げていった。

「地球には……日本には『冥土の土産』という諺があるんだ。この諺は冥土……つまり死後の世界に持参する土産のことを指し示す言葉でな。それを手に入れて初めて安心して死ねるような事物の事をいうんだ。頼む、『フォールアウト』とやらのことを教えてくれ」

「……つまり、『フォールアウト』の意味を知ってから死にたいと?」

「そういうことだ」

「……まぁ、しょうがない。じゃあ、『フォールアウト』のことくらいは教えてやるか」

 ソグは自身が携えてきた『フォールアウト』という戦闘ロボットについての解説を始めていった。

 ソグによれば『フォールアウト』は地球における幻想的な生物『鬼』を意識したようなロボットであり、ラーガレット星において一般的に用いられる戦闘用ロボであるそうだ。

 ただその趣味は悪く、その口内には人面をのぞかせる頭が見えていたり、腕は胴体から膝に乗せて支えるという一対、胸で腕を組む一対、そして胴体部分に付着して普段動かす際に用いる一対の計三対。六本の腕が用意されている。

 腕だけであるのならば日本の阿修羅像にも似た外見をしている。
 阿修羅像の塑像のように下部分が円形になっているのがますますそのことを強調しているように思えた。

 ただし阿修羅像と異なるのは外見が悪魔のようであること、そしてその力を無垢な人類へと向けていることだろう。
 伊達首相はそれを聞いて絶望に打ちひしがれる顔を浮かべていた。
 しかしその後に伊達首相は自身の胸に手を当てて言った。

「頼む。それを使わないでくれ……そうだ! 国民の代わりに私を殺してくれ!! それならばいいだろ!?」

 それを聞いた議員たちの間にどよめきが起こっていった。
 100年以上前から自己保身のみしか考えていないと言われてきた内閣総理大臣がこのような立派なことを言うとは思わなかったのだ。

 今の伊達首相の姿はフィクションの娯楽作品に主人公として登場する立派な為政者の姿を連想させられた。
 議員たちはその素晴らしい姿に関心を寄せていた。

 だが、ソグは無言だった。既にソグが眠っている衆議院議長の座席からは寝息が聞こえてきた。
 伊達首相は引き続きソグに向かって声を投げ掛けたが、ソグは無視をしていた。













 修也が引き金を引いたレーザーガンのレーザー光線がアンドロイドの頭部を粉砕していった。

「よしッ!これで五体目だッ!」

 修也は車の陰に隠れながら一人で叫んでいた。なんかんやで修也たちは国会議事堂の入り口近くにまで迫ってきていた。

 修也たちの活躍に警察官や自衛官たちも慌てて応対し、これまで好き放題にされてきた人類は反撃の狼煙を上げていたのだ。

 ソグの予測通り地球の技術力は確かにラーガレット星に比べれば低いかもしれない。

 だが、ラーガレット星人にはないものがあった。それは『感情』であった。
 古来の合戦から士気は戦において兵站や戦術に並ぶ人類の武器であった。

 もちろん『士気』や『気合い』だけで戦争に勝てないことは過去の事例が明らかにしている。

 それでも人間が持つ大事なものであることは変わらない。

 現にラーガレット星人は地球人の持つ『感情』のことを予想できず、母星から連れてきたアンドロイドの兵士たちにここまで追い込まれているのだ。

 もう後は国会議事堂の中へと流れ込んでいくだけだ。
 誰もがそう思っていた時だ。突然真上から巨大な紫色の隕石が落下してきた。

 かと思うと、隕石の表層がバリバリと割れていき、中から阿修羅像のような不気味なロボットが姿を見せた。

 そう今目の前に現れたロボットこそが衆議院の中でソグが国会議員たちに向かって説明した戦闘用ロボット『フォールアウト』であったのだ。

「な、なんだあれはッ!」

『フォールアウト』の姿を発見した警察官の一人が声を荒げた。それと同時に鋭く尖った両目が大きく広がり、そこから熱線が警察官の一人に直撃していった。

 警察官はみるみるうちに焼け焦げていった。そして哀れな消し炭となって地面の上に倒れ込むとそれまでの気合いはどこへいったのか、警察官や自衛官たちは恐怖に駆られてその場から逃げ出そうとしていた。

「チッ、やはり人間は」

 と、ジョウジは舌打ちの後にビームポインターを取り出して『フォールアウト』へ向けて熱線を浴びせていった。

 だが、『フォールアウト』には傷一つ付かなかった。まるで無傷な様子にジョウジは愕然としてしまった。
 無論そんな隙を放っておく『フォールアウト』ではない。動けないジョウジに向かって両目から熱線を放とうとしていた。

「危ないッ! ジョウジさん!」

 この時ジョウジの危機に気が付いたのはたまたま近くにいた悠介だった。悠介はジョウジに飛び掛かることで己の体ごとジョウジをその場から移動させ、熱線の魔の手から救った。
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