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第三部『未来への扉』

闇の帝王の進撃 パート8

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モルドールとジークフリードとブリュンヒルデの放った光と闇が東京の街の中を包み込んでいく。
眩いばかりの光が東京を包み込んだと思うと、次の瞬間にはそれを覆い隠すように真っ暗な闇が東京の街を覆っていく。
光と闇がしのぎを削り合う空間で、果敢に二人は闇の帝王に向かって立ち向かっていく。
双子の騎士の剣とモルドールの剣に襲い掛かっていく。
双子の剣がモルドールを襲うと、モルドールは動じる事なく双子の剣を受け止めた。
それから、背後から襲いかかるガラドリエルへの対策も講じていたらしい。
彼は大きく体を一回転させて、ガラドリエルを大きな剣で弾き飛ばす。
「ふん、無駄よ……余は全ての闇と静寂を支配する冥王、貴様のような人間の小娘に余を殺せる筈がなかろう」
ガラドリエルは剣を構え直して言った。
「どうかな?貴様を封印したのは我がヴァレンシュタイン家の祖先だ。貴様は前回と同じ過ちを犯す事になるやもしれぬという事は露ほども考えぬらしいな」
ガラドリエルの言葉にモルドールは無言で彼女に向かって剣先を向ける。
ガラドリエルは両手で剣を構えてこちらに向かって来るであろうモルドールの攻撃に備えて。
だが、モルドールの背後から黄金の光が包み込む事によって彼は女王への攻撃を防がざるを得なかった。
何故なら、背後にはかつて、自分を小さな像へと封じ込めた英雄、ジークフリードとブリュンヒルデの姿があったのだから。
少年と少女の姿を借りてこの世界に現れた英雄はもう一つの世界への侵攻を目論む魔王に向かって剣先を突き付けながら言った。
「久し振りだな、モルドール。お前はどうやら、懲りずに二つの世界を手中に収めようとしているらしいな……」
闇の帝王は姿形は中性的な容姿の少年と少女であったが、声と体に纏った雰囲気によって二人が現界している事に気が付き、二人に向かって言葉を返していく。
「ジークフリードか……だが、貴様に何ができる?貴様はその小僧を依代に僅かの時間に余に向き合っているだけに過ぎぬ。前回は失敗したが、私は今度こそ二つの世界を手に入れ、全てを手中に収めてみせるッ!」
モルドールは暗黒の黒雲を纏った剣をジークフリードに向かって振り上げたが、その剣をもう一人の英雄ブリュンヒルデが自らの剣を盾にしてジークフリードに振りかかる剣を防ぐ。
モルドールは黙って彼女の剣の上から自身の剣を引っ込める。
それから、闇の帝王はもう一人の仇敵に向かって挨拶を交わす。
「ブリュンヒルデ……貴様も来ていたのか?ここでかつての世界存亡の時に集まった人物が集まるとはなッ!結構な事だッ!」
闇の帝王の言葉に三人の英雄が互いに目を交わし合う。
三人の瞳に映っていたのは「迷い」ではない。それは「確かな決意」であった。
三人の英雄は互いに顔を見せ合ってから、三人で肩を並べ合って闇の帝王に立ち向かっていく。
二人の騎士が黄金に輝く剣を重ね合わせて彼に向かって振りかざす姿を見つめて、二人の英雄を支えたヴァレンシュタイン家の子孫であるガラドリエルも二人の剣に自分の剣を重ね合わせていく。
すると、不思議な力が備わっていない筈の彼女の剣にも彼女の剣にも黄金の輝きが流れ込んでいく。
彼女は黄金の輝きの中でヴァレンシュタイン家の歴史を見た。
そして、プロイセン大陸の歴史も、それまでの自分の人生も全て見た。
全てを見た彼女はカッと目を見開いて、形の良いピンク色の唇を開く。
「勇敢なる英雄ジークフリードにブリュンヒルデ、いや、我が騎士ディリオニスにマートニアよ。女王として命ずる!私と共に戦え、最後まで……な」
女王の言葉に英雄と英雄が入り込んでいる少年と少女は了承の意味を込めて首を盾に動かす。
三人はそれから大きな声を上げてモルドールに向かっていく。
モルドールは闇の力を纏わせて三人の邪魔者を消し飛ばそうと試みた。
だが、三人の勇者による剣はモルドールの差し出した剣を粉々に砕き、そのまま頑丈な鎧に守られていた筈の仰々しい形の黒色の鎧を粉砕する。
鎧の下に現れた髪の生えていない血管の現れた雪のように白い肌の怪物はそのまま三人の黄金の輝きに包まれた剣によって斬られていく。
三人は背後を振り向くと、そこには黄金の光によって三つに体を斬られたミュータントの姿をした二足歩行の怪物が「大」の字になって倒れていた。
「……。終わったの?」
どうやら、ジークフリードは彼に体を返したらしい。ディリオニスは目の前に現れた女王に向かって問い掛ける。
「だろうな、流石の闇の帝王もこの様子では蘇生できまい。我々は勝利を収めたのだ」
「本当ですかッ!やったー」
ディリオニス同様に体を返されたマートニアが拳を突き出して喜んでいたが、そのマートニアに向かって一本の短剣が突き刺さる。
マートニアは悲鳴を上げて地面に倒れた。
「マートニアッ!」
ディリオニスが慌てて彼女の元に向かって駆け寄ろうとすると、その前にもう一度短剣が振ってきたので、彼はその剣を自らの剣で叩き落として、短剣の飛んできた方向を振り向く。
そこには死んだ筈の闇の帝王、モルドールが立っていた。
モルドールは瀕死の重傷を負いながらも、女王ともう一人の英雄に向かって作り出した闇の短剣の剣先を突き付けながら、
「今のは死んだかと思った……まさか、余がこれ程までの重傷を負うとは……」
モルドールは体全体の力を振り絞りながら立ち上がる。
彼は震える手で手に持っていた黒色の短剣を突き付けて、
「だが、まぁいい油断を誘う事でブリュンヒルデは始末する事ができた。後はジークフリードとヴァレンシュタイン家の小娘さえ始末すれば、後は私の天下だ。二つの世界を闇の力で覆ってくれようぞ!」
「違うッ!例えぼくや陛下を殺したとしても、この世はお前の天下になんかなりはしない!人間が生きている限り、必ずお前はもう一度小さな像の中に封印されるんだッ!」
「小僧が……減らず口を叩くなァァァァァ~!!」
モルドールは短剣をもう一人の英雄に向かって突き付けていく。
ディリオニスは地面に倒れている妻に向かって言った。彼は真っ直ぐな視線で地面に倒れている大好きな人に婚姻の印として薬指にはめている銀の指輪を見せて笑う。
「大丈夫だよ。キミを必ず救ってみせる。だって、傷付いたお姫様ブリュンヒルデを救うのは勇敢なる勇者ジークフリードの役目だからね」
ディリオニスはそう言って剣を構えてモルドールに立ち向かって行く。
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