王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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賞金稼ぎ部(ハンティング・クラブ)編

炙り出し作戦 寄り道編

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「それは大変だったな。お前が痩せ細っているのも分かったような気がする」
エマ部長は部室に用意された木製の机の上に両手を組みながら慰めるような口調で言う。
「いえ、気にしてませんよ。ハンサムで優しくて、尚且つ私たちのような生徒を唯一気にかけてくる教師から誘われたんですから、そんな反応をされるのも当然です」
私は部長席の目の前に存在する黒色の長椅子に腰掛けて、そして、この部活を利用する全部員のために用意されたガンオイルで自分の愛銃の手入れをしながら言った。
溜息を吐き、ブルーな気分に落ちていく私とは対照的に、私の愛銃である銀色の回転式拳銃はガンオイルを使って先程買ったばかりのように綺麗になっていく。
私は自分の吐息を銃に向かって吐いて、それから右手に持っている汚れ拭きで丁寧に磨きながら銃の気持ちになって考えていく。
銃は主人の命令に忠実に従い、常にその小さな筒から弾丸を出し、たまに主人にガンオイルの塗られた布切れで手入れされさえすれば満足な存在なのだ。
事実、私はクラスメイト全員に絡まれる際にもそう考えていたし、部長相手にケネスもついて来る、そのうち他の生徒も推薦するという条件を提示するという事により、難を逃れた事を愚痴っている最中も、やはり、私は拳銃はいいなと思っていたのだ。
だが、もう一度汚れ拭きで銃を拭き終えると、もう銃はこれ以上は磨かなくても良いとばかりに眩い光を私に向かって放っていく。
私は新品同然に磨き終わり、鏡のように自分の顔がしっかりと映り込むほど、輝く回転式の拳術にもう一度自分の笑顔を写してから、ホルスターの中に仕舞い込む。
それを見終わると、エマ部長は私を手招きし、真剣な顔付きで私の方を向いて、
「今日、私とお前以外の部員が居ない理由を教えてやろう。今日は全員が、ウィリアム・ウィルソン事件の調査のためにで出払っているんだ」
その言葉を聞いて、私の両眉が険しくなる。
ウィリアム・ウィルソン。少し前に警察官を殺す事により、その犯行の幕開けを匿名で飾った卑劣な人間。
私はあの時に感じた怒りを思い出す。卑劣な手口。人を人とも思わない冷酷なやり方。
気が付けば、私はエマ部長の前に詰め寄っていた。
「部長!ウィリアム・ウィルソン事件は何処まで進展していますか?教えて頂けませんか?」
部長は一瞬、両眼を深く閉じてから、大きく深呼吸をそれから、私の方を向いて、
「簡潔に言えば、ウィリアム・ウィルソン事件の解明は八割程も進んでいる。我が部活の部員はみんな優秀でね」
エマ部長は部長のために用意された椅子に深くもたれかけながら、懐から小石を一つ取り出す。
私は出された小石を見て、思わず首を傾げてしまう。そして、石の方に向いていた私の視線を部長の方に向ける。
部長の顔は少しも笑ってはいない。真剣そのものの顔だ。
「まぁ、そんな怖い顔をするな。これには秘密があってな」
エマ部長は小石を両手で擦り、小石の中に見知らぬ男の顔を映し出す。
サメのような鋭い目をしたゴツゴツとした顔をした典型的な暴れん者の顔。
頭にテンガンロンハットを被っている事と、この学校の生徒の制服を着ている事から、何の変哲もない小石の中に写り出した顔が学校の生徒である事が分かった。
その生徒は部長を見て、照れ臭そうな笑みを浮かべたが、私を見るなり、その両眉を顰めてしまっている。
「部長!どうして、ここに〈杖無し〉がいるんですか!?」
部長はそれを聞くと、右手を頬の上に被せて、溜息を吐いて、
「キミも知っているだろう?彼女はあの毒婦メアリーを撃ち殺した女だぞ、酒場で人質を取ったあの女を躊躇う事なく射殺した。人を守るためならば、容赦なく引き金を引ける人間が必要だから、入部させた。覚えていないか?副部長!」
その言葉に副部長と呼ばれた男の両肩が強く強張っていき、バツの悪そうな顔を浮かべる。
「チッ、分かりましたよ。あんたにそこまで言われたんじゃあ、今日の所は文句言いませんよ。それで、捜査の事でしたよね?」
明らか様な舌打ちをした後に、尚も副部長は不満そうに両頬を膨らませ続けながらも、現在の捜査状況の事を喋っていく。
彼の話によると、警察官惨殺事件において彼の直接の死因となった心臓部への刺し傷が示すのはある刃物であり、それがこの国の貴族の間で限定的に生産されているという物であり、一般大衆が手に入れられない物であったという事などが彼らの調べで分かったらしい。
警察の方も数日間調べてはいたが、貴族のナイフなど手に入る事などなく、捜査が難航にのし上がっていた事から、彼の提出した状況は本当にありがたかったらしい。
では、なぜ、警察にも手に入れられないような貴族の使う特殊なナイフの事が分かったのか、答えはたまたま副部長の知り合いの筋に貴族の従兄弟がいたからというものらしい。
部長が今、使用している石でそのナイフを使って、遠く離れた場所に居る従兄弟に自身の映像を従兄弟の使う鏡の前に送り、事情を聞いた従兄弟がナイフを見せたららしい(副部長の使用できる魔法は空間捜査の系統に位置する物質や映像の転送魔法だそうだ)
私は部長が「八割まで進展した」という言葉の意味が分かったような気がする。
実際に、それ程特定しやすい証拠が残されたのならば、後はナイフの持ち主を探すだけではないか。
だが、その解決編の糸口となる二割が問題となるのだ。
王都に近く、栄光ある王立魔法学院の存在する市の近くを治める、貴族……。
私の頭でも、いや、ここまで分かったのならば、誰でもこの可能性に辿り着くに違いない。
そう、事件の鍵はこの地方を治めるフローレンス伯爵家が握っているのではないかという事に。
私はフローレンス伯爵家の元に行こうと部長を説き伏せようとするが、彼女は首を振って拒否する。
なんでも、一般の家庭を、ましてや貴族の家庭を警察のように捜査する権限は賞金稼ぎ部には存在しないと頑なに動かない。
だが、それを警察よりも更には貴族よりも偉い存在が指示したとしたら。
私はこっそりと部長に向かって耳打ちする。
すると、部長は私に向かってもう一度聞き返す。
私はそれを聞いて、得意そうな顔を浮かべてもう一度自分の出自を答えていく。
部長は私の回答を聞いて、暫くの間は放心していたらしいが、直ぐに正気を取り戻して、私に向かって笑い掛けて、
「よし、この国の王女の許可が取れるのならば、別だッ!ウェンディ!お前、一刻も早く妹に連絡を取ってくれ!これなら……この方法だったら、ウィリアム・ウィルソンの首を警察署に届けられるかもしれない……」
興奮のために席を立った部長の姿に私は無意識のうちにヒーロー像を重ね合わせている事に気が付く。
彼女ならば、例の警察署の事件の犯人を捕らえてくれるだろう。
私は部長に向かって親指を向けると、静かに部室を去っていく。
ここまで、捜査が進展したとすれば、ウィリアム・ウィルソンなる匿名の犯人は近いうちに行われる伯爵邸の捜査で表舞台に引き摺り出されるだろう。
私はその事が嬉しく思われた。
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