王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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賞金稼ぎ部(ハンティング・クラブ)編

炙り出し作戦 転換編

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お嬢様はその日慌てて帰って来たかと思うと、馬の上に乗り、屋敷の前に出て来た私に今日の夕食を抜く事と妹君であらせられる王女殿下に用事がある事を伝えられると、今、戻って来たばかりの道を引き返し、早々に屋敷を出て行かれてしまう。
私はこのお嬢様の行動に思わず疑念を抱いてしまう。もし、お嬢様が得体の知らない男に脅迫されていたとしたら。
もし、性質の悪い男にお嬢様がつけ狙われており、その男に金銭や或いはお嬢様自身を要求されていたのだとしたら。
私は一種の強迫観念に様なものに取られてしまうと、もう元に戻る事はできない。
私は慌てて屋敷の方へと戻り、自分の部屋として用意されている屋敷の使用人控え室の金庫から使い古された回転式の拳銃を取り出す。
私の住んでいた世界とは大きく歴史や文明が異なるとはいえ、この世界には高度な発展を遂げた拳銃がある。
相手が魔法を使おうとしたとしても、これがあれば……。
私は金庫から取り出した拳銃を強く掴む。
そして、必ず、お嬢様を救うという思いから、慌てて屋敷の玄関の鍵と、そして屋敷と目の前の舗装のされていない土の道との境目となる柵の鍵を閉めて、慌てて街へと駆け出す。
その後は無我夢中で走っていたためか、流石に疲れが生じ、口から荒い息を吐き出していたものの、目の前には前世の映画でよく見た西部開拓時代の街並みが広がっていた。
どうやら、私はお嬢様が毎日通う学校前の街に辿り着いたらしい。
私がまだ見た事の無かった西部開拓時代の街並みを見ていると、周りから珍しいものを見るかのような目が飛んでいる事に気が付く。
私の執事が着る正装がこの街では珍しいのだろうか、それとも自分達にとっては当たり前のこの光景を珍しがる様子が可笑しかったのか、私には大衆の気持ちなど分からない。
だからこそ、彼らの視線や気持ちなど気にする事もなく、愛するお嬢様の行方を尋ねていくのだった。
話を聞くうちに、私はお嬢様が何処にいるのかを理解した。
どうも、お嬢様は街の憩いの場であり、同時に夕暮れ時や夜には生徒の溜まり場となる酒場にいるらしい。
『酒場』の二文字を聞いた時に、私は思わずお嬢様の身に何が起きたのではないのかと思ってしまう。
お嬢様ならば、酒場などという物騒で柄の悪い人間の溜まる場所など利用しないに決まっている。
私は西部劇でよく見る、酒場の半開きになったスイングドアをを目にして、もう一度自分の中に闘気を滾らせていく。
恐らく、今までの自分の人生中においては一番勇気を振り絞った瞬間であった事は間違いないだろう。
私は懐から拳銃を抜くと、勢いのままに扉を開けて中に突っ込む。
「お嬢様!お嬢様!無事ですか!?お嬢様ァァァァァ~!!!」
そうして、扉を開けて突っ込んだ私に向けられたのは信じられない程の冷たい視線と、敵意であった。
そして、酒場のカウンターでは黒いフロックコートと思われる水色の髪の男とその側で酒を飲んでいたお嬢様が額に手を置いて呆れたような表情を浮かべている事に気が付く。
私が苦笑いを浮かべようとする前に、胸に杖と拳銃の絵を描いた星型のバッジを飾り、学院の生徒だという事を証明している男が扉の近くの席から立ち上がり、ホルスターから拳銃を抜いて、
「おい、テメェは誰だ?強盗か?なら、相手にやってやるぞ、何せ、銃を先に抜いたのはお前さんの方だからな」
ま、不味い。私の両足が恐ろしさに駆られて両足を震わせている時だ。
カウンターに座っていたお嬢様が立ち上がり、私とその男の前に割って入り、
「ごめんなさい。悪気は無いの。ピーターはあくまでも私を心配に思って来ただけなのよ。不愉快な思いをさせたのならば、謝るわ」
拳銃を抜いた男とそして、酒場で飲んでいた人々にも丁寧に一礼をするお嬢様を見たとあっては私も断れないではないか。
私はお嬢様と共に頭を下げて、その男の分の酒を奢る事を了承し、酒場で飲んでいた方々に頭を下げる事により、誤解を解き、事なき事を得たのだった。
私はお嬢様につられるままバーカウンターの前へと突き出され、長い水色の髪の男性に謝罪をさせられた。
だが、男は寛大にも私の非礼を笑って許し、私にも席を譲る。
話を聞くうちに、男は学校の教師である事を理解した。実技の科目で射撃の授業を教えているらしく、その縁で、この酒場をカウンセラー室の代りに使用して、お嬢様の悩みを聞いてくれていたらしい。
そして、ついでに今後行われる伯爵家への捜査の話も聞いていたのだという。
「ウィリアム・ウィルソンなる卑劣な事件の犯人はぼくも許せないからね。あんな、あんな、罪も無い人を殺してのうのうと生きていられるなんて許せないッ!ねぇ、キミ、人間は誰しも罪を犯したのならば、罰を受けるべきだとは思わないかい?」
突然声を荒げた教師の声に私は思わず困惑してしまう。前世でも大人しい顔をしていて、どぎつい事を言う人間は多くいたのだが、まさか今世においても見る事になろうとは思わなかった。
だが、この時に私は見たのだ。教師の隣で酒を飲むお嬢様が何か怪しいものでも睨むような視線で、狂気を見ていた事に。
私はここで何か口添えをしようとしたのだが、その直後にスイングドアが勢いよく開かれて、黒い上着にジーンズを履いたいかにもヤクザと言わんばかりの恐ろしい顔を浮かべた三人の男達が立っていた。
特に、目の前のいかにも凶悪犯です、と主張せんばかりの右頬に鋭い一筋の傷を付けた男は唇を舐め回しながら、
「ヘイヘイ、お前ら楽しんでいるか?親の金で酒を楽しんでいるクズどもよぉ~」
「へっ、ここに居るのなんて酒場のおっさんを除けば、ガキばっかりじゃあねぇか、つまらねー奴らだ」
「まぁ、構うな。弟よ。我らの目的は首領ドンから抹殺するように言われた小娘だけなのだからな」
頬に傷を付けた長兄と思われる男、いかにも小物という風貌を臭わせている弟、最後に口元を顔で覆ったものの、両目から凶悪な人間だと分かる程の凶悪な男。
それぞれが順番に物騒な台詞を吐いて現れたのだ。
この言葉を聞いた生徒達が凍り付くのも無理は無いだろう。
私が酒場を見渡した限りでは誰もが怯えた表情を浮かべていて、自分達がぶつかった現状から目を背けていた。
だが、そのあまりにも無礼な言葉を聞いて立ち上がった人間がいた。
それは、先程までお嬢様と話をしていた射撃教師。
彼は勢い良く立ち上がり、彼らに向かって言う。
「キミ達、先程の発言はいくら何でも、この場にいる生徒達に対して失礼だ。謝りたまえ」
「あーん」
三兄弟の中でも一番小物臭そうな次男が入り口から店の奥のバーカウンターにまで現れて、
「おい、上等だよ。この場で始末するのは例の件を嗅ぎ回っている奴だけで良いと言われたんだけどな。オレはちと短気な性質タチなんでな。頭に来たし、お前なんか殺してやるよ」
小物の男がホルスターから拳銃を抜き取り、射撃教師の鼻に拳銃をくっ付けたのかと思うと、射撃教師は口元の右端を吊り上げて、
「ありがとう。キミがのを待っていたんだ」
射撃教師はそれだけ言うと、目にも止まらない早業で拳銃を抜き取り、抜き取った拳銃を顎の下に突き付けて、男に発砲する。
銃が発射された衝撃によって跳ね飛ばされた次男は頭の上から地面へと衝突し、大の字になって倒れると、もう二度とは動けない単なる肉塊へと変貌してしまう。
それを見ていたスライドドアの前の兄弟達は目の前に起こった事が理解できたのか、暫くは唖然とした表情で、地面に倒れた次男を眺めていたが、理解がようやく理解できたと見ると、両頬を紅潮させて、長男と思われる傷の入った長男が近くに座っていた生徒を撃ち殺し、三男は背中に背負っていた長銃を抜き取り、酒場の中に向かってめちゃくちゃに乱射していく。
それに対して、私は思わず理性を失ってしまう。我を忘れた喚き声を上げて酒場の出口を目掛けたのだが、出口から外へと出る前に、三男と思われる覆面の男が私の腕を強く掴む。
そして、乱暴に私を引き寄せると、私の頭に拳銃の銃口を突き付けると、隣に立っていた兄と思われる男に目配せをする。どうやら、この兄弟には「阿吽の呼吸』という形容詞が一番似合う存在であるらしい。
兄は弟の陥った状況を把握すると、もう一度口元を大きく弛緩させてから、握っていた黒塗りの回転式拳銃の銃口を向けて、
「良いかッ!オレ達はこの男を人質とする事に決めたッ!分かるか?貴様ら、人質だァァァァァ~!」
その「貴様ら」という複数名詞は恐らく、バーカウンターに居るお嬢様とその射撃教師に向けられたものに違いない。
だが、バーカウンターでホルスターから取り出したと思われる拳銃を握っていたお嬢様は呆れたような視線を向けていた。
私はてっきりこのまま殺されるのかと思ったのだが、どうやら、お嬢様の右手に握られている拳銃がブルブルと震えられている事から、満更、私の事を諦めたわけでも無いらしい。
私はこの男の人質にされながらも、自分の仕える優しいお嬢様に感謝の念を送っていく。
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