王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
28 / 211
フォー・カントリー・クロスレース編

夏休みの予定表

しおりを挟む
「じゃあ、夏休みの間は家に帰るんだ。どんな街なの?」
私はソルドとカレンの二人に酒場にて用意された鮭のムニエルをナイフを使って切り刻みながら尋ねる。
無論、今日仕留めた強盗殺人犯の賞金で購入した食事だ。酒場で提供される安い食事だが、これがまた美味いのだ。
私が最初の一口を口にし、舌鼓を打っていると、カレンはもじもじと体を動かしながら、小さな声で、
「ローズ・ヴァレンタインっていう小さなシティーだよ。田舎の方だから、貴族は多い方だよ。やっぱり、ここみたいに保安委員の数が少ないから、あんまり威張っている事とか政府の耳に入りにくいというか」
「そうそう、あの悪徳男爵め、本当にムカつく奴だよ。威張り腐りやがって、本当にムカつく奴だ」
私は鮭のムニエルを味わいながら、頭の中でレースに参加した時に、彼らのような目の届かない悪を王国の力で断罪するというのはどうかと思案していく。
昔、ピーターが私にしてくれた彼が昔聞いた話と似ている。
主人公は老人で、副王の地位にありながらも、彼は身分を隠して各地を回り、各地で悪事を働く役人を懲らしめ、最後に正体を明かして平伏させるという話だ。
その際に連れているお供も個性的であり、幼少期、彼の口から副王様やそのお供の活躍が話される度に、私は胸を躍らせたものだ。
思えば、私の中にある悪人を裁き切るという感情はここから来ているのかもしれない。
そんな事を考えていると、自然に口元が綻びてしまったらしい。
ケネスが左肘で私の腰を突いて口元が緩んでいる事を指摘する。
私は慌てて口元を引き締める。そして、慌てて料理を口にしていく。
私が先程、昔の話を思い出して笑っていたのを勘違いしたのか、二人は先程から私と目を合わせようとはしない。
この状況を懸念して、私は先程、口元をだらしなくしてしまった理由と、そしてピーターから教えてもらったあの面白い話を二人にしていく。
その場に居た三人は私の話を聞いて、両目を輝かせて、
「嘘だろ?副王様がそんな事をやるのか?」
「とっても信じられない……王国や他の国じゃあ、貴族でさえもまともに屋敷の外には出ないのに副王様が皆のために諸国を回って、悪人を懲らしめるなんて……」
二人は目を丸くして、私の語った昔話を聞いていた。
だが、ケネスは首を捻って、
「うーん確かに面白かったのだが、何か信憑性が無いような気がしてならない。作り事では無いのか?その話」
「昔話らしいわよ。もしかしたら、ピーターの創作かもしれないわ」
その言葉を聞いて、周りがハァと小さな溜息を吐いて、全力で走りをした後の学院の生徒のようにヘナヘナと座っていた椅子の上にもたれていく。
「まぁ、そんな盗賊が居るわけないか、居たとしても偉そうに街を回るだけで、こんな酒場でオレらと一緒にご飯食べたりはしないだろうな」
「貴族」という呼称がソルドの口から発せられなかったのは私が一応は貴族の娘としてこの学院に通っている事になっているからだろう。
私はそれを聞いても何も思わなかったのだが、ケネスもそれに同調して、水の入ったジョッキを不満そうに口付けしている。
そう、彼は知っているのだ。私が現在の王国の王位継承者にして現王女、シンディの双子の姉だという事に。
恐らく、この事実は部長しか知らないに違いない。貴族の家に捜索許可が下りたのも実は私が王女にコネを使ったからだという事を部長以外の人間ではいくら居るのだろう。
恐らく、あの得体の知れない生徒会長、他には入学式で見たきりの校長も知っているのかもしれない。
だが、少なくとも私と夕食の席を囲んでいる三人は知らないに違いない。
私は三人に合わせて弱々しい微笑を浮かべる事しか出来なかった。
その日、三人は役人やら貴族やらの愚痴を言って盛り上がり、話を打ち切ってしまっていたのだが、私は一人、居心地の悪いまま帰宅する事になった。
私はピーターを呼び出し、馬を預けて制服から私服の部屋用ドレスへと着替えて、居心地の悪い気分を忘れるためか、ワインをピーターに要求し、下の台所でワイングラスに入れられたワインを啜っていく。
何となく味わいの悪い気難しい色が口の中に広がっていく。そのワインを飲んで出てきた感想はそれだけであった。
翌日からも私は時たま、一人でレースに出場する事と特権を使って出場するという後ろめたい気持ちを抱えたまま夏の日々を過ごす。
そして、勉強や体術、それに賞金首を狩る日々は一旦終わりを告げて、とうとう終業式を迎えて、二ヶ月の夏休みへと突入してしまう。
クラスの四人、途中からマーティとジャックも合流して、最後に近くの酒場で飲み合う。
そして、全員が馬に乗って田舎に帰るという話になったのだが、その際に信じられない話を聞いてしまう。
「そう言えば、長い休みの間にフォー・カントリー・クロスレースが開かれるんだよな?お前ら、あれどうする?見るか?」
ケネスが振り出した話を全員が首肯していく。
「うん、あのレースは毎年、楽しみにしてるんだ!あたし、故郷の街でも絶対に見るんだから!」
「お、そうだな!今回も参加者の人々にサンドイッチを配らないと!」
「サンドイッチかぁ~僕の故郷じゃあ、ハムの代わりに揚げた魚にソースを掛けたのものを入れたのが選手に人気だったなぁ~」
ジャックは顎に人差し指を掲げて、故郷のサンドイッチの事を思い出しているらしい。
マーティやケネスもそれにつられて、ご当地の名物やらどんなサンドイッチを渡すのかを必死に話し合う。
どうやら、私は地方のレースへの貢献度合いを舐めていたらしい。まさに床に散らばった塩を舐めたかのようなしょっぱい思いを味わう。
私は屋敷に帰ると、翌日にピーターに大陸の端の町、ボストラムに向かうように伝えられる。
ボスドラム。この学院の存在するアンダードームシティーよりもさらに東に向かった方角に存在する大陸の最東端に位置し、もう一つの大陸との境目、スパイスシーの海岸岸に存在する王国最大の港町であり、夏の最初にはここに各国の首脳が集まり、開催式を開く場所であるのだ。
数日間、私は馬車に揺られ、合間合間のホテルで過ごしてその町へと向かう事になっていた。
馬車に揺られる中で、私の懸念はどうすれば上手く状態がバレずに済むかだ。
そんな悶々とした状態の中、人差し指を掲げたピーターの案は天啓にも等しかった。
「では、何か被り物をすれば良いのでは?」
「それよ!ピーター!町に着いたら、直ぐに仮面を買いなさい!」
私は馬車の中で叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...