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フォー・カントリー・クロスレース編
二つの蛇の尾が絡まる時
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「本当に愚かね。まさか、王子の始末に独断で向かって、あの小娘に殺されるなんて……」
エリアーナはウィンストン・セイライム王国とニューヨーシャー王国との境目の町に存在する二階建てのホテルの窓から流れる雨を眺めながら、忌々しそうな表情で強く爪を噛む。
爪の破られる音をその場に集まっていた全員が聞いていた。クリスファーにしろ、アランにしろ或いはもう一人の仲間である若い男にしろ、みんながみんな彼女の立てる音に怯えてしまっていた。
暫くの沈黙が部屋の中を覆ったが、やがて、このままでは拉致があかないと考えたのだろう。
アランが右手を挙げて、
「同志エリアーナ。私に妙案がございます」
「妙案?何なの?言ってみなさい」
「はっ、もし、とある王国の領内で王子が同盟国である筈の別の王国の王女に襲われたとしたのならば、どうでしょう?」
その言葉にエリアーナの顔色が変わっていく。憤怒の色一色であった顔が穏やかな顔へと変わっていき、やがては太陽のように眩しい笑顔を浮かべて、
「素晴らしい考えだわ!流石はアランね!良いわ、あなたに計画を一任するとしましょう!」
アランは二人の考えについていけずにぼんやりとした顔を浮かべている二人の男に両腕を広げて、古来からの独裁者が民衆を煽動する時のように大きく腕を振るいながら、理解力を持たない二人の仲間に彼は自らの計画を二人に説き伏せていく。
アランの演説の内容というのはこうだ。まず、ニューヨーシャー王国の王子の取り巻きである令嬢を誘拐し、人質を助けに向かわせた王子をその場で殺害する。
無論、王子の殺害には身分を隠したウェンディが使用している拳銃を使用するらしい。
アランの筋書き通りにいけば、二つの王国の仲には完全に亀裂が走り、それぞれの国の国王が両隣の王国に戦争をぶっかけるであろうという話であった。
無論、この戦争は二カ国だけの話には留まらない。この戦争に共和国と帝国も加入するだろう。
そうなった場合には四大国家の象徴であるレースは決裂し、ゴールである町に集まっていた各国の代表は殺し合いを続けるであろうと推測した。
そして、それを先端とした戦火の後に、自分たちが天下を握るという手法である。
「こんな話を聞いた事があるわ。昔、私が大学で読んだ異世界の話よ。その世界でも私達の世界と同じレベルの文明が発展していたのらしいけれど、一発の銃弾が世界を破滅に追いやったらしいわ。その滅びの歴史をここで再現し、その上で不死鳥のように私たちが滅んだ世界を蘇らせ、真の自由の国家を作り上げるのよ!」
「何て、素晴らしい光景だ……」
「流石だ!エリィ!やはり、ぼくの恋人は一味も二味も違うなぁ」
二人の男が感嘆の声を上げる中で、ただ一人、アランのみが黙っていた。
押し黙っているアランの思惑を察したのだろう。過激派のリーダーであるエリアーナは小さな声で笑ってから、
「分かっているわ。あいつらが合流する機会が何処にあるのかを知りたいのでしょう?でも、考えてみて、あの二人は王子と王女よ……ここで、賢いアランに質問よ。王子と王女の住む場所は何処でしょう?」
アランはその質問を聞いて、眼鏡を曇らせた後に、彼女に向かって小さな声で告げた。
「城ですな。大昔の絵本でも暇つぶしの大衆小説に登場する王子や王女はみんな、城に住んでいます」
アランは何かを言いたげにずり落ちた眼鏡を人差し指で上げてから、自分達のリーダーを見つめる。
「その通り、お城に住んでいるわ。私も昔は白馬に乗った王子を夢見る何処にでもいる女の子だったわ」
エリアーナは遠い目で窓の外に映る自分の姿を見つめる。彼女の目は何処に向いているのだろう。アランは窓に映る自分を遠い日の自分と重ねているのだろう。
アランは推測する。彼女は自問自答しているのだと。
少女の頃のような純粋さを失い、汚れた大人の世界で飢えた狼のように凶暴で暴れ回る自分は幼い日の自分からどう見られているのか、と。
彼女はそんなアランの思惑を理解したのか、低い声で一人呟く。
「王子様や王女様なんてものはおとぎ話や小説の中にだけいればいいのよ……実際にそんなものがいる必要はないわ」
エリアーナの表情に陰が刺したのは外の暗雲のせいばかりではないだろう。
アランは全ての事を推測し、一人、ベッドの中で沈黙を保った。
ニューヨーシャー王国の王都の非公式の舞踏会に誘われたのは私が王国の王都の前の町に泊まった時だった。
私の宿を訪れた老齢の執事はわざとらしくゴホゴホと咳き込んで、
「ウィンストン・セイライム王国のウェンディ王女様でいらっしゃいますな?私はニューヨーシャー王国にて宮廷の執事筆頭を務めさせて頂いております、トーマス・ジーヴスと申します。本日は王女であるあなた様に申し上げたき事がありまして、参りましたが……」
執事はもう一度ここでわざとらしく咳き込む。
彼は涙までも浮かべて、私のために用意された部屋を見つめ、心底から不愉快だと言わんばかりの目を向けて、
「しっかし、よくあなた様はこんな所にお泊まりになられますな。こう言っては何ですが、王女が泊まる場所に相応しくないのでは」
私はその言葉に思わず両眉を顰めてしまう。なぜなら、その言葉はこのホテルを経営している人や私が泊まるために一生懸命に部屋を準備してくれたホテルのスタッフの人を侮辱する事にもなるからだ。
本来ならば、不愉快だと言わんばかりの態度は王女として、顔に出してはならないのだろうが、相手が相手だ。
目の前のニューヨーシャーの貴族社会の歴史を体現させたものが服を着て歩いている存在なのだ。宮殿内に仕える人間はメイドでも執事でもも下男でも全て下級貴族から雇用されると聞く。
だから、政治的な権限を何も持たない執事でさえこんなにも平民やその人々が利用するものが汚くて臭く見えるのだろう。
やはり、扉をノックされた際に、彼が自分の名前と王女という敬称を用いて呼んでも断固として無視した方が良かったのだろうか。
現に、この執事が私の前に現れた時に、旅で汚れ、女子が着るべきドレス姿ではなく、男のような格好をしていた私の姿を見て、目を大きく見開いたのがその良い証拠だ。
と、言うわけで、私は心の底からこの男が嫌いだったのだが、無下にする訳にもいかず、また、王子の好意を断る訳にもいかないので、その正体を受け取る事にしておく。
執事は私の返事を聞くのと同時に、丁寧に頭を下げて部屋の扉を閉めると、慌ただしく床を踏み鳴らす音が響く。
それから、私が何気なしに窓の下を眺めると、そこには毛並みの良さそうな白色の馬に乗って、その場を去るのが見えた。
余程、このホテルが答えたのだろう。私は深く溜息を吐いてから、用意されたベッドの上に大の字になって寝転ぶ。
横になって目を瞑れば、嫌な事が全て吹き飛んでしまうような気がした。
エリアーナはウィンストン・セイライム王国とニューヨーシャー王国との境目の町に存在する二階建てのホテルの窓から流れる雨を眺めながら、忌々しそうな表情で強く爪を噛む。
爪の破られる音をその場に集まっていた全員が聞いていた。クリスファーにしろ、アランにしろ或いはもう一人の仲間である若い男にしろ、みんながみんな彼女の立てる音に怯えてしまっていた。
暫くの沈黙が部屋の中を覆ったが、やがて、このままでは拉致があかないと考えたのだろう。
アランが右手を挙げて、
「同志エリアーナ。私に妙案がございます」
「妙案?何なの?言ってみなさい」
「はっ、もし、とある王国の領内で王子が同盟国である筈の別の王国の王女に襲われたとしたのならば、どうでしょう?」
その言葉にエリアーナの顔色が変わっていく。憤怒の色一色であった顔が穏やかな顔へと変わっていき、やがては太陽のように眩しい笑顔を浮かべて、
「素晴らしい考えだわ!流石はアランね!良いわ、あなたに計画を一任するとしましょう!」
アランは二人の考えについていけずにぼんやりとした顔を浮かべている二人の男に両腕を広げて、古来からの独裁者が民衆を煽動する時のように大きく腕を振るいながら、理解力を持たない二人の仲間に彼は自らの計画を二人に説き伏せていく。
アランの演説の内容というのはこうだ。まず、ニューヨーシャー王国の王子の取り巻きである令嬢を誘拐し、人質を助けに向かわせた王子をその場で殺害する。
無論、王子の殺害には身分を隠したウェンディが使用している拳銃を使用するらしい。
アランの筋書き通りにいけば、二つの王国の仲には完全に亀裂が走り、それぞれの国の国王が両隣の王国に戦争をぶっかけるであろうという話であった。
無論、この戦争は二カ国だけの話には留まらない。この戦争に共和国と帝国も加入するだろう。
そうなった場合には四大国家の象徴であるレースは決裂し、ゴールである町に集まっていた各国の代表は殺し合いを続けるであろうと推測した。
そして、それを先端とした戦火の後に、自分たちが天下を握るという手法である。
「こんな話を聞いた事があるわ。昔、私が大学で読んだ異世界の話よ。その世界でも私達の世界と同じレベルの文明が発展していたのらしいけれど、一発の銃弾が世界を破滅に追いやったらしいわ。その滅びの歴史をここで再現し、その上で不死鳥のように私たちが滅んだ世界を蘇らせ、真の自由の国家を作り上げるのよ!」
「何て、素晴らしい光景だ……」
「流石だ!エリィ!やはり、ぼくの恋人は一味も二味も違うなぁ」
二人の男が感嘆の声を上げる中で、ただ一人、アランのみが黙っていた。
押し黙っているアランの思惑を察したのだろう。過激派のリーダーであるエリアーナは小さな声で笑ってから、
「分かっているわ。あいつらが合流する機会が何処にあるのかを知りたいのでしょう?でも、考えてみて、あの二人は王子と王女よ……ここで、賢いアランに質問よ。王子と王女の住む場所は何処でしょう?」
アランはその質問を聞いて、眼鏡を曇らせた後に、彼女に向かって小さな声で告げた。
「城ですな。大昔の絵本でも暇つぶしの大衆小説に登場する王子や王女はみんな、城に住んでいます」
アランは何かを言いたげにずり落ちた眼鏡を人差し指で上げてから、自分達のリーダーを見つめる。
「その通り、お城に住んでいるわ。私も昔は白馬に乗った王子を夢見る何処にでもいる女の子だったわ」
エリアーナは遠い目で窓の外に映る自分の姿を見つめる。彼女の目は何処に向いているのだろう。アランは窓に映る自分を遠い日の自分と重ねているのだろう。
アランは推測する。彼女は自問自答しているのだと。
少女の頃のような純粋さを失い、汚れた大人の世界で飢えた狼のように凶暴で暴れ回る自分は幼い日の自分からどう見られているのか、と。
彼女はそんなアランの思惑を理解したのか、低い声で一人呟く。
「王子様や王女様なんてものはおとぎ話や小説の中にだけいればいいのよ……実際にそんなものがいる必要はないわ」
エリアーナの表情に陰が刺したのは外の暗雲のせいばかりではないだろう。
アランは全ての事を推測し、一人、ベッドの中で沈黙を保った。
ニューヨーシャー王国の王都の非公式の舞踏会に誘われたのは私が王国の王都の前の町に泊まった時だった。
私の宿を訪れた老齢の執事はわざとらしくゴホゴホと咳き込んで、
「ウィンストン・セイライム王国のウェンディ王女様でいらっしゃいますな?私はニューヨーシャー王国にて宮廷の執事筆頭を務めさせて頂いております、トーマス・ジーヴスと申します。本日は王女であるあなた様に申し上げたき事がありまして、参りましたが……」
執事はもう一度ここでわざとらしく咳き込む。
彼は涙までも浮かべて、私のために用意された部屋を見つめ、心底から不愉快だと言わんばかりの目を向けて、
「しっかし、よくあなた様はこんな所にお泊まりになられますな。こう言っては何ですが、王女が泊まる場所に相応しくないのでは」
私はその言葉に思わず両眉を顰めてしまう。なぜなら、その言葉はこのホテルを経営している人や私が泊まるために一生懸命に部屋を準備してくれたホテルのスタッフの人を侮辱する事にもなるからだ。
本来ならば、不愉快だと言わんばかりの態度は王女として、顔に出してはならないのだろうが、相手が相手だ。
目の前のニューヨーシャーの貴族社会の歴史を体現させたものが服を着て歩いている存在なのだ。宮殿内に仕える人間はメイドでも執事でもも下男でも全て下級貴族から雇用されると聞く。
だから、政治的な権限を何も持たない執事でさえこんなにも平民やその人々が利用するものが汚くて臭く見えるのだろう。
やはり、扉をノックされた際に、彼が自分の名前と王女という敬称を用いて呼んでも断固として無視した方が良かったのだろうか。
現に、この執事が私の前に現れた時に、旅で汚れ、女子が着るべきドレス姿ではなく、男のような格好をしていた私の姿を見て、目を大きく見開いたのがその良い証拠だ。
と、言うわけで、私は心の底からこの男が嫌いだったのだが、無下にする訳にもいかず、また、王子の好意を断る訳にもいかないので、その正体を受け取る事にしておく。
執事は私の返事を聞くのと同時に、丁寧に頭を下げて部屋の扉を閉めると、慌ただしく床を踏み鳴らす音が響く。
それから、私が何気なしに窓の下を眺めると、そこには毛並みの良さそうな白色の馬に乗って、その場を去るのが見えた。
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