王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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フォー・カントリー・クロスレース編

井戸前の決闘の前日談

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モーティーマー保安官の屋敷。
町の外れに聳え立ち、その存在をPRするこの屋敷は二階建ての広々とした屋敷であり、この国の保安官の地位がいかに高いのかを外国人に知らしめる良い象徴であったとも言えるだろう。加えて、彫刻品の飾られた庭が広がっており、その庭には二人の勢力の抱えていた多くの用心棒が詰め込まれるように存在しており、それらの人々が多くの食べ物や飲み物の載った食べ物が置かれた食べ物の前に群がっている事や、露出の高いドレスを纏った屋敷のメイドと思われる若い女性を口説いている様子から、彼らが貴族の庭を思わせる高価な庭で園遊会をしているのは火を見るよりも明らかな事実であると言えるだろう。
モーティーマー保安官の用心棒となっていたケイレブ・オーウェンも当然、その園遊会に参加していたのだが、彼自身は心の中の不満が取れず、魚料理を口にした時に魚に含まれている小骨が喉に引っかかっている時のような違和感を感じながら、園遊会で料理を取ったり、メイドを口説いている柄の悪い男を眺めていた。
と、彼の前に長い銀色の髪を垂らした若い娘が通り過ぎるのを確認した。
彼はその姿を見て、夢想した。ウェンディが、あの生意気な賞金稼ぎの少女が自分のモノとなり、自分の命令されるままになされていく様子を。
同時に、それを拒否したウェンディの頭を撃ち抜く姿も妄想した。
悪くない気分だ。どうやら、自分にとって都合の良い妄想をした事で違和感を拭い去られて、元気が出たらしい。
試しに園遊会に並べられているウィスキーを味わいながら、もう一度あのメイドを眺めていると、モーティーマー保安官に自分を召喚したテロリストの一味の男。
そう、アランが銀髪のメイドを口説いている姿を目撃してしまう。
その姿を見ると、あの女がウェンディではないのに、自分のウェンディを好きにされたような気分に陥ってしまい、アランの元に詰め寄り、彼の頬を思いっきり叩いてしまう。
その瞬間にその場はまるで時間が止まったかのように静まり返ってしまう。
だが、周りの野次馬達は目の前に起きた事態の事を飲み込むと、次々に笑い声を漏らして、
「いいぞ!もっとやれ!」
「さっさとやれよ!一人の女を巡る男同士の決闘だぜッ!」
「面白ぇ~オラァ、こんな展開、よく町の女どもが読むようなロマンス小説にしか現れないと思っていたぜ」
などと次々に野次を飛ばしていくのだが、アランはそんな用心棒達の意見など無視して、ケイレブの前に頭を下げてその場を去っていく。
それまでの経緯からここから乱闘が始まるものだと思っていたチンピラ達は勝手に失望していき、それぞれがまた食事や飲酒、それにナンパへと戻っていく。
ケイレブは銀色の髪の若い娘をもう一度眺めたが、やはりウェンディの代わりにはならない。
彼は手でメイドの女性を追い出すと、園遊会の会場に戻ろうとしたのだが、その前にアランに肩を置かれて庭の端に来るように人差し指で指示を出されてしまう。
ケイレブは庭の端に呼ばれたのだが、アランの近くの壁に手を置いて、アランの前に迫る。
そして、妖艶な瞳でケイレブを見つめて、
「先程、お前はどう思った?大事なウェンディをオレに取られそうになってどう思った?」
ケイレブは答えられない。この目の前に迫る端正な男はケイレブの考えを見抜いていたに違いない。
どうやら、自分があの銀髪の女性とウェンディとを重ね合わせていた事をこの男は見抜いていたのだろう。
ケイレブは咄嗟に視線を逸らしたのだが、男はそのケイレブを追うと、彼の唇に自分の唇を重ねて、長い間、彼の唇を奪っていく。
舌を入れられて、自分の口の中を舐め回されていく。知らず、知らずのうちにケイレブは胸が熱くなっていく事に気が付く。
やがて、アランは熱くなった表情のケイレブから唇を離すと、ケイレブの耳元で囁く。
「このようにウェンディの口を奪ってみたくはないか?その上で殺すなり、モノにするなり考えてみるのは?」
その言葉を聞いて、ケイレブは明日の決闘に備える事を決めた。もし、明日、モーティーマーとモンコの用心棒としてウェンディと戦って彼女に勝利したとすれば、あの女と口付けを交わす事が出来る。
ケイレブの胸からドクンドクンと脈打つ音が聞こえた。
ケイレブは大きな声で笑うと、屋敷へと戻り、銃の手入れをしに向かう。
大喜びで屋敷へと戻っていくケイレブの姿を見ながら、アランも彼に負けず劣らずの表情を浮かべて舌舐めずりをしていく。
そして、先程、自分が口説いていた女性の方向を見つめる。
その女性は銀色ではなく、紫色の髪をしていた。
紫色の髪の女性は柄の悪い二大勢力の用心棒に絡まれていたのだが、助けるメリットも無いのでスルーしておく。
この国では地域の平和を守るために保安官が任命されるのだそうだが、いかせんその保安官の権限が強すぎるから、この世の状態に陥ってしまうのだ。
アランは自分達の勢力が大陸を制した場合はこんな奴らを取り締まる役職を作らなければならないと思案していく。そして、ずり落ちた眼鏡を戻して、中央で酒を飲むモンコ兄弟の長男と引退した筈のモーティーマー保安官の父親とが互いに酒を酌み交わし談笑していた。
どうやら、あのお姫様がこの町に現れた事で、対立関係にあった両者はようやく和解したらしい。
明日には両者の用心棒と部下を引き連れて、ウェンディを片付けた後には町の掃討に向かう事も決めたらしい。
そして、帝都に攻め入り、皇帝を殺して自分達がその地位に就任するらしい。
あんなチンピラ同士が手を組んだ所で、帝都など攻め落ちるわけがないのだが、どうも本気なのだから困る。
最も、彼らが帝都の方で揉め事を起こしてくれた方が自分達が最終チェックポイントで騒動を起こす際に、彼らが対処に困るので、その点は応援するつもりだ。
精々、自分達の革命の捨て駒になるが良い。
アランは楽しそうに酒を煽る二人の姿を見ながら一人で呟く。
アランは翌日の戦いでもウェンディには負けないつもりであった。彼の使用する魔法は基礎魔法、幻覚系統に位置する『イビルアイ』と呼ばれる魔法で、この目を使用して睨んだ人物の視覚を自身の手でコントロールする魔法であり、彼はこれを利用しての犯罪に何度も成功していた。
これを使用すれば、いかにウェンディ・スペンサーでも手足はできないだろう。
アランは一人で笑う。
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