王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
52 / 211
フォー・カントリー・クロスレース編

ニューローデム・パニック!屋根上の決闘編

しおりを挟む
「待ちなさい!」
と、私は銃を持ってあの女を追い掛けようとしたのだが、私の放った銃弾は単に部屋の窓ガラスを破壊しただけに留まってしまう。
私は舌打ちをしたものの、直ぐに部屋の窓から屋根へと登り、エリアーナを追い詰めていく。
エリアーナは屋根の上で逃げようとしていたが、私の姿を見ると、考えを改めたのか、直ぐに銃を構え直し、私と対峙していく。
ここは屋根の上。加えて、夜。寒い風が体に吹き付けてくると言う状況だ。
思わず震えを起こしてしまうのだが、それを哀れんだのか、それとも側から見れば、その姿があまりにも惨めに映るのだろうか。エリアーナは哀れむように瞳を向けていた。
「寒いでしょう?この国では昼は他の国と同等の気温だけれども、海が近いせいなのか、夜には寒い風が吹くのよ?ウフフフ、最も、世間知らずのお姫様にはそんな事も難しかったかしら?」
「言うわね。確かに、私はあなたに比べたら世間知らずのお姫様よ。デモの過程で国の軍隊に鎮圧されたり、その過程で友情や愛慕の感情を紡ぐだなんて、私にとっては一生涯縁の無い話……」
「ロマンチストでしょう?でも、あなたと私とでは何が違うの?同じ人間じゃあない。あなただって、あたしと同じく青春を楽しみ、デモを起こして政府に不満を訴える権利はあるわ!大衆の不満を吸収して、受け入れる……それが政府の義務でしょう?」
沈黙。二人の言葉がここで止まる中、喋るのは夜の風ばかり。
私は自分の頬に寒い風が撫でるのを感じた。先程と同じで思わず身震いしてしまいたくなる程の寒さであったが、私は懸命に堪えて目の前の女を睨む。
見えない火花が散り、互いに“敵同士”という再認識を頭に捉えた上での再度の睨み合い。
先に動くのはどちらなのだろう。私は無意識のうちに予備の弾丸を銃の弾倉に込めている事に気が付く。
私は銃をリロードし終えた瞬間に、気が付く。あの女がこの隙を狙っているかもしれない、と。
だが、銃弾を放つ音は聞こえない。どういう事だろうか。すると、エリアーナは今か今かと待ち構えているような視線遠送っている事に気が付く。あの丸い瞳の中に込められた視線は期待。
彼女は恐らく、私が銃を用意し直すのを待ちわびていたに違いない。
私はそれを見た瞬間に、連想する。我が国で代々物事の決着が付かない時に互いに銃で勝負を決める『決闘』という手段。
決闘。この手段で勝負を付けたいと彼女が思っていたとするのならば、彼女が待っていた理由も分かるような気がする。
私は互いに銃を突き付け合い、同時に先に銃弾を放たれても対処できるように、素早く動いていく。
弾は互いに六発。随分と平等フェアな勝負と言えただろう。
お姫様と女革命家。
今までの人生では対照的な暮らしを送ってきた二人の女の対決だ。
それを祝福するのは夜の闇と吹き寄せる風だけ。
何とも情緒的な光景ではないだろうか。そんな事を考えていると、私の頬を弾丸が掠めている事に気が付く。
どうやら、先に仕掛けてきたのは彼女の方らしい。
私は時に、左に、時に、右に動いて銃を避け、放っていく。
乾いた音が夜の静寂を破っている事に気が付く。
私は敵でありながらも、目の前の女に畏怖の感情を抱いている事に気が付く。
今や、この世界に居るのは私とエリアーナの二人。
その二人はこの世界最後の人間で、滅亡前の最後の決闘を繰り広げている。
そんな気分に浸っていたのも束の間だ。
絶頂は絶望へと変わり、引き金を引こうとしても、小さなカチカチという音が響くのみで、銃弾が発射されない事に気が付く。
銃に詰まりジャムでも起きたのだろうか。
いや、そんなものではない。単なる弾切れだ。
私は勝負に決着が付いた事を悟った。この決闘においては彼女の勝利だと。
私は屋根の上に座り込み、彼女に向かって呟く。
「見事な銃だわ。流石は革命戦士ね」
「そうでしょう?この銃で何人の保安委員の人間を撃ち殺してきたかーー」
彼女は懐かしい瞳で視線を上に向く。
「でも、それも明日で終わり、明日にはゴールに集まったVIP達は皆殺しにする」
「……こんな事を頼むのは虫の良い話かもしれないけれど、妹だけは見逃してあげてくれないかしら?」
「ダメね。あなたもあなたの妹も、革命の邪魔になりかねない人物は全て皆殺しにするわ。残念だけれどね」
「悔しいわ。でも、仕方ないわね」
「安心して、あなたに敬意を払って銃ではなく、魔法を持って対処してあげるわ」
エリアーナは私に向かって左手の掌を広げて、魔法を放とうとする。
銃ではなく魔法。もしかして、これは神様が私に残した最後の機会ではないのだろうか。
私は彼女の魔法が発動されるよりも前に、彼女の魔法を自分の魔法で盗み、彼女が私にしたように、私も彼女の喉に向かって攻撃を喰らわす。
喉への攻撃を喰らった彼女は喉を抑えて、屋根の上を転がっていく。
恐らく、この魔法を相手の呼吸を奪うという類の魔法に違いないだろう。
そうでなければ、彼女が取り立てのナスのような真っ青な顔をする訳がない。
彼女は私を呪詛の目で睨む。そんな彼女の呪いを浄化するためか、はたまた自分の中での罪悪感を誤魔化すためか、彼女に向かって、私の魔法の特性を教えていく。
だが、彼女は何も言おうとはしない。ただ、黙って私を睨んでいた。
これが、王族のやり方と言わんばかりに。
この後、彼女は捕れたばかりの魚のように体をばたつかせて、その場から逃げようとしていた。
だが、彼女の周りには先程の銃声を聞き付けたと思われる生徒達が駆け付けていた。
エリアーナには逃げる暇もないだろう。
だが、それでも彼女は喉を抑えて、息が止まっているのを知りながらも、苦しいだとか辛いだとかいう感情を押し殺して、私の元から逃れていく。
それが、見ていて痛ましかった。あまりの光景に追い掛ける気もない。
すると、彼女は背後を振り返り、私をまるで親の仇と言わんばかりに強く睨む。
彼女の瞳からこの恨みは忘れないと言わんばかりに訴え掛けられ、私は萎縮するしかない。
気が付けば、私の両脚もガタガタと震え出す。きっと、私の体も追い掛けるなと命令しているのだろう。
死に掛けの女は本当に呼吸が止まっているのかと疑う程の早さで屋根の上を走り、そして他の高い建物の天井を飛んで移動し、闇の中へと消えていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...