王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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サラマンダー・パシュート編

金食い虫が黄金という名の呪縛から解き放たれる時に体はどうなるのだろうか。

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黄金の鎧を身に纏ったあの男は無敵なのかもしれない。私は半ば諦めた様子であの男を睨むだったのだが、あの男はサディスティクな表情を浮かべ舌舐めずりをしていく。
あまりにも恐ろしい光景だ。あの男は恐らく、私をいたぶり殺す妄想でもしているに違いない。そうでなければ、あの男は私をカモにして……。
いや、これは考えるのさえも憚れる事だ。私は両眼を瞑って首を横に振って、敗北した後の事などは頭の片隅から追いやり、目の前の男とだけ対峙していく。
金の鎧を纏った男は私の前に現れた。私は足を引きずって目の前の男から距離を取っていく。
「逃亡」ではない名誉ある「後退」だ。私は目の前で次々と物を壊す相手に対し、どうしようかという事を考えていた時だ。あの男が壊したテーブルの中にワインの瓶が砕かれている事に気が付く。
私は思った。もし、あのグラスが足にでも突き刺されば大きなダメージを負うのではないか、と。
その時だ。私の視界に栓の開けていないワインの瓶がある事に気が付く。
私はそれを手に取り、目の前の完全な防御体勢を取っている男に向かって未開封のワインを手に取って放り投げる。
パリンという小さな音が響いたが、男には微動だにしない模様。足元に紫色の液体が流れて水溜りのようだ。水溜りのように流れているワインはとうとう奥のキッチンにまで到達したらしい。
水溜りから支流のように流れたワインはあの戦いで台所の棚から溢れた油がワインと混じりとんでもない色になっている事に気が付く。
などと考えている場合ではないか。と、私はまだ自分の中に余裕がある事に気が付く。
この調子ならば、狂ったように荒い息を吐きながら、机を叩いていっている男の攻撃も交わしていけるだろう。
男は私に対し、左手の掌を広げて、黄金の塊を私に向かって放つ。
私は黄金の塊を左手で吸収し、あの男に向かって金塊を放り出す。
だが、金塊は男の鎧に向かって跳ねる。
またイタチゴッコかと自重した時だ。突如、あの男の背後にケネスの操る雷雲がやって来た。
何をやっているのかと雷雲を眺めていたのだが、その雷雲がワインの水溜まりに向かっている事を悟り、私は慌てて入り口へと向かう。
男はそれを追い掛けようとしたのだが、その時に雷の落ちる音が鳴り響く。
その瞬間に黄金の鎧に身を包まれて最強を誇っていた筈の男は大声で悲鳴を叫ぶ。
入り口から男の大炎上を眺めていた私であったが、これは不味いと判断する。
このままでは火事がホテル全域に燃え渡ってしまう。どうすれば良いのかと私が考えていると、ホテルの扉が勢いよく開かれ、血相を変えたマーティとエマ部長が現れた。
マーティは大慌てで小さな雨雲を取り出し、ケネスの作り出した炎を消し去っていく。
小さいとはいえ流石は大雨だ。感心しながら、その様子を眺めていると、黒焦げになったあの男が現れた。
「ちくしょう……オレを助けろ……オレを助けてくれりゃあ、金をやるぞ……金だ。お前らがオレを助けてくれるんだったら、オレは幾らでも出すぞ」
相変わらずの自分本位の発言だったが、私は黒焦げになり、顔も分からなくなった彼を哀れに思ったのか、それともあの男が死ぬ前にサラマンダーのアジトを知りたいと思ったのか、慌てて駆け寄っていく。
私は黒焦げになった男の胸ぐらを掴んで、
「助けてあげるわ。安心なさい。金なんかいらないから。でも、その代わりにある事を喋りなさい」
「ある事……?分かった何でも聞いてくれ」
かすれた声でノックスは答える。
「サラマンダーのアジトを教えなさい。そうすれば、馬で病院に連れて行ってあげるわ」
「さら……?分かった、あのアジトの場所なら、ウィンストン・セイライム王国のこの街の……更に西方にあるファニーってシティーにある。街だよ」
ファニー?確か、例のレースでもチェックポイントに加えられていた街だ。
でも、その街は強力な男爵に治められていており、王国内においてもかなり発展した街だった筈だ。
奴らはその街を隠れ蓑にしているという事か。そんな事を考えていると、私の両手に掴まれていた男の体がグラリと垂れている事に気が付く。
私が焼け焦げた男の姿を見ると、そこにはか細い息を口と鼻から吐き出す男の姿。
どうやら、話が終わって安心し切ったのか意識を失ったらしい。
私は男に肩を貸して自分の馬の背中へと運ぶ。私は男を運ぶ途中に考えた。これ以上、仲間を巻き込むのはやめよう、と。自分一人で決着を付けよう、と。
だから、他の仲間の視線を尻目に、私は約束通りにこの男を病院へと運ぶのだ。
病院に男を運び、全てを医師に一任して入り口に出ると、賞金稼ぎ部の面々が病院の前に集まっている事に気が付く。
どうやら、あのホテルにいた面々は私の背後を追い掛けて来ていたらしいが、他の面々はシティーからわざわざここにまで来たらしい。彼らは全員、病院の入り口の前で黙って私が出てくるの待っていたらしい。
だが、そんな仲間相手にも何も言えず、その場を支配するのは沈黙。
このまま全員が浮かない表情をして、朝まで黙り続けているのかと思っていたのだが、私の相棒がなぁと小さく問い掛けた事により、重い空気は取り払われてしまったらしい。
ケネスは自分が落ち着いて話すためか、懐から取り出したと思われるタバコを口に咥えながら、
「なぁ、あの男からサラマンダーの居場所を聞き出したというのは本当なのか?」
私は彼の目を見つめて首肯する。
「危ないよ!そんな危険な所にたった一人で向かうなんて!」
「私も二人に賛成だ。キミ一人でアジトに乗り込んでいった所で戦えるわけがない。保安委員に連絡を入れてーー」
マーティとエマ部長が次々と口を開く。
「相手は……相手はギャングを虐殺して暗黒街に成り上がった男ですよ。今更、保安委員なんて連れて行った所で無駄よ」
「馬鹿野郎ッ!」
その言葉を聞いた全員が声をした方向を振り向く。その言葉を叫んだのはケネスでも、マーティでも、部長でもない。
私を〈杖無し〉と呼んで馬鹿にしているあの男、サメのような鋭い目にゴツゴツとした顔をした賞金稼ぎ部の情報収集係、ディラン・フックだった。
ディランはフンと鼻を鳴らすと、もう一度、私の方に向き直り、
「お前は本当に馬鹿野郎だ。一人で行くだと?自惚れんじゃあねぇや!オレ達も行くぞ、〈杖無し〉に後の処理を任せていたら、オレ達の名折れだッ!」
ディランは無愛想な様子で病院の前に停めていた馬に乗り込むと、私や仲間達を手招きして、
「テメェが居場所を知っているんだろ?なら、早く案内しやがれ!」
それを聞いて、私は微笑む。なぜか、いつもなら心に突き刺さる〈杖無し〉という言葉がその時、あの男が放った時だけは温かく感じた。
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