王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
83 / 211
日常編

ウェンディ・スペンサーの舞踏

しおりを挟む
二日酔いから目を覚まし、悪い顔のまま学校に向かうと、馬繋場のジャックから朝から全校集会が掛けられている事を知る。
全校生徒を集めての広い会場の中でゴールドマン校長は大きく息を吸って溜めてから、今週の休みの前日に学内舞踏会の開催を行う事を告げた。何でも、この舞踏会は賞金稼ぎ部による『サラマンダー』の壊滅を祝福してこの体育館を改装して行われるものらしい。
なので、『サラマンダー』の壊滅に関わった賞金稼ぎ部の面々は主役として参加する必要があるらしく、大してダンスに興味のなかった私も主役として半ば強制的に参加させられる事になった。
ちなみに、その舞踏会には男子生徒は制服ではなくキチリとした礼装を、女子生徒はドレスを着て参加する事になっていた。
いわば、学校規模で再現する城の舞踏会という所だろうか。
ちなみにその日は部活の方も休みになるらしい。部活の方が休みというのならば、その日の放課後はダンスに使うドレスなどを見にいく日になるのは間違い無いだろう。
その日はカレンがドレス選びに付き合ってくれるというのでお言葉に甘えて彼女と共にショッピングに向かう事になった。
彼女ならば良い物を選ぶだろう。そんな事を夕食の席でピーターに話していると、何処から入ってきたのかメイドのボニーが口を挟む。
「お嬢様、良いドレスを選ぶのは淑女の
嗜みですわ。そのドレス選びに私も付いて行っても良いでしょうか?」
ボニーの顔は真剣そのものだ。恐らく、ピーターの持っている数少ない本、従者の心得を読んで影響されたのだろうか。
そこまで見つめられては私としても断る事が出来ない。
私は一応は許可を出す。そのために、翌日にソルドとカレンの二人に屋敷のメイドが付いてくる事を告げたのだが、二人は快く彼女の事を引き受けた。
ホッとした私はその日、安心して賞金首に挑む事が出来た。すると、その日警察署から帰り、その男の賞金額を渡していると、部長は何枚かの王国ドルを私の取り分に加えてくれる。
私は慌てて部長に返そうとしたのだが、部長は優しい顔で笑って、
「良いって事だ。お前はあの事件の功労者なのだからな。ただ」
部長は昨日の一件について雷を落としてから、私を部室から返す。
馬繋場で既に係りの仕事に就いていたジャックに預かってもらっていた愛馬を出してもらい帰ろうとしたのだが、校門を出ようとするケネスが大きな声で呼び止める。
「待ってくれ、ダンスの日なんだが……悪いが、オレと一番最初に踊ってくれないか?勿論、無理にとは言わないが……」
ケネスがボリボリと頬をかく様子を見て大体の察しが付いてしまう。
大方、他に声をかける相手が居なくて相棒でいる私に声を掛けたのだろう。
全く仕方のない男だ。私は顔にニヤニヤとした笑顔を浮かべて彼のダンスに乗ってやる。
すると、ケネスはなぜか顔を真っ赤にして下宿へと馬を進めていく。
どうしたというのだろうか。やはり、他に誘う人間が居なくて寂しかったのだろうか。
そんな事を考えながら、私は屋敷へと帰っていく。
その後もなぜか私の殆どの知り合いの男子の殆どに最初のダンスを申し込まれたのだが、ケネスと先約があるからと告げるとなぜかみんな退散していく。
何故だろう。だが、あまり声を掛けられないというのは良い事だ。そういう訳で私はダンスの日まではしつこく声を掛けられる事なく過ごす事が出来たのだ。
ダンスの日、部活が無いので放課後がオフになり、私は当初の約束通り、カレンとボニーの三人で街の服屋でドレスを買う事になった。
服屋はあまり入った事が無かったのだが、やはり服屋というだけあり、多くの服が畳まれており、更に店のカウンターの奥には色とりどりの生地が並べられていた。
恐らく、特注をすれば期日にまで作ってくれると言うのだろう。
私はドレスの畳まれている棚へと向かって、棚の下に描かれているドレスの写真を眺めながら、どのドレスのどの色がいいのかを話し合っていく。
カレンは派手な色を指差したのだが、ボニーはそれに対し地味な色のドレスを指差す。
彼女曰くお嬢様は地味な色の方が似合うという事らしい。
だが、カレンはボニーとは対照的な台詞を述べ、ウェンディには派手な色の方が似合うと力説していく。
話し合いの結果、私は青色のドレスを選ぶ事になった。ただ色こそ派手なものであるが、他のドレスと違って本当にシンプルなドレス。
私は結局、そのドレスを着て晩のパーティーに向かう事になった。
その後でカレンのドレスを二人で選ぶと、店の前でカレンと別れ二人で馬に乗り屋敷へと戻っていく。
ボニーにドレスを着飾らせれ、歩いて学院に向かう事になった。
私が学院に到着した時には既にダンスパーティーを始めていたらしい。
煌びやかな衣装を纏って舞踏会の会場に飾り付けられた体育館の中で踊る若い男女の姿が私の視線に飛び込む。そして、その中には本当に幸せそうな表情で踊るソルドとカレンの姿。
ソルドは白色の礼装用の衣装で、カレンは私の選んだ白色のドレス。
とても似合っていた。その光景を眺めていると、私の目の前に一人の貴公子が、いや、黒色の上下の衣装の下に高そうな白色のフレンチシャツを着て蝶ネクタイを付けたケネスが立っていた。
ケネスはいや、物語の童話から登場したような貴公子は丁寧に頭を下げて、
「ミス・スペンサー。良かったら、私と踊っていただけませんか?」
完璧だ。礼儀作法といいその後にダンスにしても彼は躓く事なくダンスを続けていく。
ワルツもタンゴも完璧だ。何処でこのダンスを学んだのだろう。
完璧な貴公子ぶりのケネスは私の首元に口付けを与える。
突然の事に赤面する私を他所に彼は完璧なリズムでダンスを踊っていく。
正直に言えば彼がここまで踊れるのは予想外であったと言っても良いだろう。
私は幼い頃から王宮でやがて訪れるであろう社交界デビューに備えてダンスを学んでいたので一応は踊れる。
だが、ケネスはダンスを練習する過程は無かった筈なのに、どうして踊れるのだろうと考えていると、彼は私の耳元で、
「実は言うとだな。私は実はあのダンスが決まった日から、夜遅くまで独学で勉強していたんだ。ダンスを……その、お前と上手く踊れるように」
その言葉を聞いて私の口元も緩む。どうやら、彼は彼なりに私の気を遣ってくれていたらしい。
私は満面の笑みで感謝の言葉を述べる。
その言葉を聞いてケネスは赤面していたのが分からなかったのだが、それ以上に理解できなかったのは、どうして用意された食べ物に釘付けになっていた筈のマーティやケネスや副部長などがケネスを睨んでいたかという事だ。
だが、私の心境などとは裏腹に、私とケネスとのダンスが話題になり、パーティーは盛り上がっていく。
下手をすれば、夜明けまで続くかもしれない。
そんな事を考えながら私は苦笑した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

処理中です...