王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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オール・ザ・ソルジャーズマン編

シビリアン・コントロールを打破せよ

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「かつて国王陛下が我々王国軍に対し、文民統制シビリアン・コントロールの制度を設けられてから、早くも百年が経過しようとしている。今の我々の持てる権利は全て貴族やら役人やらが優先して持っているではないかッ!」
「それだけではないぞ!一番許せないのは腐っているのは軍の上層部どもだッ!貴族崩れのカスどもや役人崩れのゴミどもが一丁前に高官の地位を笠に着て威張り腐っていやがるッ!」
角刈り姿の金色の刺繍が胸元に施された赤色の制服を着た男がそう言って机の上を叩くと、そのテーブルに着いていた面々も一斉に彼の方に視線を向けていく。
「まぁまぁ、この場においては慎重に計画を立てるべきですから、そんなに興奮しないで頂ければ、と、まぁそんな訳です。ここで我々の代表に意見を伺おうではありませんか。ねぇ、ミスター・ライアン?」
このテーブルに顔を並べていた面々のうち一番の高齢だと思われ、更には軍高官の証明である大きく輝く三つの勲章を胸に飾った男性は目の前に座るボサボサの緑色の髪の男からの問い掛けにも何も言えずに黙りそうになったのが、何とか老いた唇を開いて、
「私としては……私としては……」
彼はこの続きを言ってやりたかった。自分としては軍上層部の腐り切った勢力を一掃し、一時的とは言え自分たちが権力を握るべきだと。
だが、彼の中の理性が邪魔をする。それ以上は喋るなと無意識のうちにストップを掛けているのだ。
だが、フォークナイト・ゲイシーは机の上から身を乗り出し、男に向かって詰め寄っていく。
「何を躊躇う必要があるんです。あなた方の背後には我が軍の中将がッ!更にその背後には共和国の強力な軍事背景があるんですよ。躊躇う事などありません!」
その言葉を聞いてライアンなる人物は腹を括ったらしい。
彼は冷や汗を流しながらも恐る恐る首を縦に動かす。
「分かった。今度のグーデーターで我々が勝てたのならば、あんたにも増援を頼もうじゃあないか。その節はよろしく頼む」
ライアンなる年老いた高官とフォークナイト・ゲイシーと呼ばれるつばの欠けた帽子を被った中年の男は口元を緩めて互いに手を伸ばして握手をする。
ライアンが席を立つのを見計らうと、もう一人の若い高官も席から立ち上がり、フォークナイト・ゲイシーに向かって丁寧に頭を下げて部屋を後にする。
それに続いて立派な筋肉を持った高官らしき男が丁寧に頭を下げて、部屋を後にしていく。それに続く男の部下たち。
フォークナイト・ゲイシーは彼ら全員が部屋を出て行ったタイミングを見計らって懐からタバコを取り出すと、誰も居なくなった会議室の机の上に足を乗せる。
そして、タバコを味わいながら、立派な黒の口髭に覆われた唇を緩めて、心の底から嬉しいと言わんばかりの表情で笑う。
男がタバコをゆっくりと味わっていると扉が開き、髪を整えた金髪のそれも共和国の高官の制服を着た男が入ってきた。
男はそれを見ると、一目散に足を下ろし、彼に向かって敬礼をする。
「堅苦しい挨拶は結構だ。軍曹……それよりも、あのバカどもは上手く乗ってくれそうなのか?」
「ええ、勿論です。守備は上々。準備万端と言った所でしょうか」
軍曹はタバコを吸いつつ、高官の男にタバコを勧めながら口元を歪めながら言う。
それを聞いた男もニヤリと笑って、軍曹の非礼を咎める事もなく、タバコを受け取ると、ゆっくりとタバコを吸ってゆっくりと煙を吐いていく。
充分にタバコを味わってから口元から人差し指と中指とで挟んでから離していくと、本題に入っていく。
「フフフフ、ここまで計画が我々の思い通りに運ぶとなると面白いな。どうやら、神々は我々の計画を応援してくれているらしい」
「ええ、我々は魔法の支配する悪しき世の中でただ一つ自由を冠する共和国の住人!この騒動でウィンストン・セイライムを引いては国王や皇帝を名乗る悪しき存在を滅ぼす事は我々への義務だと運命付けられているのですよッ!」
男は懐から三枚の写真を取り出し、その場に放り投げる。
共和国の高官は男の側へと寄ると、男の行う素晴らしいショーを見物する。
男はホルスターから拳銃を抜き、三枚の写真が地面に落ちる前に次々と撃ち抜いていく。
高官の男は写真の落ちた場所に移動し、見事に額を撃ち抜かれた皇帝一名、国王二名の写真を拾い上げる。
「見事だ。今はまだ大統領の気を紛らわせるためのショーに過ぎないが、いずれ、大陸がいや、世界が共和の旗の下に統一された暁にはこの写真の通りになるという訳だな?」
フォークナイト・ゲイシーは首肯する。
二人が政府の上層部から渡された極秘の作戦はウィンストン・セイライム王国で不満を燻らせている軍人を焚き付け、クーデターを起こさせ国を乗っ取らせた後に、強大な軍事国家となった王国に周辺諸国を攻撃させ、三大国家同士を戦わせ彼らの勢力を弱まらせた後で共和国が弱まった勢力を駆逐していく。
完璧な計画だった。失敗する筈がない。
こうして、魔法と軍の力に頼った国家は消滅し、自由の旗を掲げる共和国が勝利を収めるという筋書きだった。
二人は改めて計画の事を思い出すと、クックッと大きな声で笑い始めていく。
フォークナイト・ゲイシーは一通り笑い終えると、目の前の上司に向かって丁寧に頭を下げて退室しようとしたのだが、その前を男の手によって止められてしまう。
「待ちたまえ、もしキミの初期段階の計画を嗅ぎ回る目障りな人物が現れた場合はどうする気なのかね?」
彼は上司からその言葉を掛けられて退室するのを辞めてしまう。
彼は踵を返し、上司に向かって振り向き満面の笑みを浮かべると、
「どうする気かって?直ぐにでも始末致しますよ。例えレースの時に暴走するテロリストを抑えたあの人物が現れようともね……」
正体不明の仮面を被った騎手。あの人物が姿を見せたのはレースの最終戦。
テロリストが優勝会場を乗っ取った事件の時だった。大統領の護衛としてあの場に居た彼は絶体絶命の状況の中で状況を逆転し、見事にテロリストを撃ち殺した人物の事を。
あの人物がウィンストン・セイライムの出身だとすると今回の計画にも関わってくる可能性が高い。
二人はその可能性も考慮に入れて進めるべきかと考えたのだ。
そこで、フォークナイト・ゲイシーは、
「私自ら王国に向かいます。王国で例の人物の動向を探り、邪魔をするようならば……」
男は手に持っていた回転式の拳銃を人差し指で回し、そのまま右手で銃を構えると、近くの壁を撃ち抜く。
高官の男はそれを見てニヤリと笑う。
どうやら、ゲイシーはその正体不明の仮面の人間を始末してくれるらしい。
安全は確証されたも同然だ。彼は先程、男から渡されたタバコを吸い直す。
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