王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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オール・ザ・ソルジャーズマン編

ジュラル・チャップマンの憂鬱

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「ちくしょう、まさか妹の憧れの人間が相手だったとは……やってられねーぞ、でも、あの銃使いガンスリンガーを始末しなけりゃあ、クリストファー・サンフォードの二の舞になるのは確実だ」
男はそう言って夜の街の建物の間の狭い場所で一人呟く。
妹には少し夜の散歩に出ると行って出たので後を付いて来てはいないだろう。少しばかりおっとりしていてぼんやりとした気質のある妹だが、そこまで配慮ができない人間だとも思えない。
ジュラル・チャップマンがこの街に派遣された目的は仮面の騎手の正体とされるウェンディ・スペンサーの抹殺のためだった。彼はニューヨーシャー王国のブラック姉弟の脱獄事件の折にあの仮面の騎手が王国の警察組織にウェンディと名乗った事を確実に覚えていた。彼女は隠すように厳命したらしいが、どんなに取り繕った所で隠し通せるものではない。
ニューヨーシャーの王国の宮殿の警備兵の一名を密かに買収し、例の誘拐事件が行われる直前に極秘裏のパーティーにウィンストン・セイライムのお姫様が招かれていた事を知る。
最も、王子がわざわざ王女を呼んだ目的というのは男のような格好をしている彼女や泥に汚れた彼女を嘲笑うために呼んだというのが主要な理由らしいのだが……。
ともかく、その時の警備兵の証言から、彼女がレースに参加していた事を軍の上層部は導き出す。そして、ウィンダーなる仮面の騎手がウェンディだと導き出し、彼は極秘で彼女を始末するためにこの街に派遣されたのだった。
彼が酒場に辿り着くと.何とかしてウェンディを始末しようと幾らかの計画を練っていたのだが、その際にあの過激な学生に見つかり、人質にされて殺す筈の相手に逆に窮地を救われたのだった。
だが、それは決定的ではない。彼の心に迷いを与えたのはその後の妹の楽しそうな顔と無邪気に喜ぶ顔だ。
あの気弱だった妹があんな表情を見せたのならば、あの女を始末しようという気も失せてしまうではないか。
ジュラルが家々の間で大きな溜息を吐いていると、彼の耳にブーツで砂利を鳴らす音が聞こえ、咄嗟に彼が見上げるとそこには立派な黒い口髭を蓄えた計画の中心人物、フォークナイト・ゲイシーが立っていたではないか。
どうして、この男が立っているのだろうという疑問に肝心のゲイシーが口元を三日月のように歪めて、
「どうしてって顔をしているから教えてやるが、オレがここに来たのはあのお方直々の御命令だからだ。ライアンはお前を派遣したと言っていたが、お前だけではどうしても心配でな……だから、オレがこの街にやって来たのさ。あの小娘を始末するためになッ!」
男はホルスターから黒色に塗られた回転式拳銃を取り出す。
そして、その銃口をジュラルに向けて、
「ウェンディ・スペンサーを必ず始末しろ、だが、間違っても情けを掛けてやろうとするなよ。お前に出来なければオレが始末するだけだ」
ゲイシーの言葉をジュラルは首を縦にして動かす。ジュラルはこの男の目の前にすると何とも言えない不安と焦燥感に襲われ、男の放つ圧倒的なオーラの前にただ跪いてしまう。
銃の腕の差なのか、それとも魔法の実力が圧倒的なのか。
いずれにしろ、この男に敵わないという意識が心の奥底に隠されているのだ。
緊張の瞬間。男は思わず生唾を飲み込む。
すると、男は腕を振って、
「お前に一週間の猶予をやろうじゃあないか、一週間以内にウェンディを始末すれば良し、そうでなければ、お前とお前の妹もろともウェンディをオレが始末するッ!」
その言葉を聞いて男は思わず雷に打たれたような衝撃に襲われてしまう。
男は震える声で、
「ま、待ってくれ!責任の失敗はオレだけで良いだろう!?妹は関係ない筈だァァァァァ~!!!」
だが、フォークナイト・ゲイシーは振り返る事なくただ夜の街を歩いていく。
ジュラルは妹を殺されるかもという悲壮感のために両目から大きな透明な液体を溢しいながら、右手の拳を強く握り締めて、
「やるしかないのか……」
と、決意の言葉を口に出す。それから、六日間。彼は懸命にウェンディ・スペンサーを狙うために計画を張った。
ある時は偶然を、ある時はうっかりを装って命を狙おうとしたが、それも上手くいかない。
途中、賞金稼ぎ部の活動に混ぜてもらいウェンディが敵との銃撃戦で死亡したという風に見せ掛けようとしたが、そのどれもが失敗に終わってしまう。
そして、期限が明日に迫ってしまったのだ。もうそろそろフォークナイト・ゲイシーが動き始める頃だろう。
その日、数件の強盗殺人を働いた男の始末して得た賞金でささやかな送別会が行われていた。
その送別会の主役はジュラル・チャップマンその人。
他に集まったのは妹にウェンディ、この六日間で会った彼の相棒、ケネスとマーティの四人。
実はあの日、散歩から帰ったジュラルは妹に期限日である一週間を帰る日と偽り伝えていたのだ。それを妹は学校でウェンディに伝えたのだろう。
結果としてその日に仕留めた賞金首の賞金を使って酒場では送別会を出してくれたのだ。話によれば、部長が賞金の分け前に色を付けてくれたのだそうだ。
五人は食事やささやかな飲酒を楽しみながら、送別会を終えた。
そして帰る段になり、夜の闇の中を歩く彼女に対し、最後に一目でいいから彼女の大きな屋敷を見たいといったのだった。
彼女はそれを快く了承し、彼女の案内の元に屋敷へと向かう事になった。
街を抜け、離れの道を歩いていく。
離れだけあり、街の住人も学生も誰も寄り付かないのだろう。
ただ静かに風の音ばかりが彼の耳に吹いていく。
もし、やるとすればこの道の間しかないだろう。
彼が腰のホルスターから拳銃を抜こうとした時だ。急に前を歩いていた彼女が振り向く。
慌てて拳銃を戻したので、彼女には気付かれなかったかもしれない。
いや、無駄な事を考えるのはやめた方が良いかもしれない。
彼はただ黙って自分の方に振り向いた銀色の髪の美少女を見つめたが、やはり視線は逸れてしまう。
何か話そうかと考えていた時だ。先に彼女が沈黙を破り、彼に向かって話し掛ける。
「そう言えば、最近は軍用品の放出セールが多いですよね。あれを聞くのを忘れてました。あなたも軍人ですし、答えられますよね?」
男はその問い掛けを聞いて視線を逸らしてしまう。
それを銀色の髪の少女は腕を組んで見下ろしていた。勝ち誇ったような笑顔を浮かべて。
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