王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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オール・ザ・ソルジャーズマン編

動乱の幕開け

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王都はやはり、煌びやかで豪華でそれでいて人々の笑顔も活気に満ち溢れていた。
舗装された道路に安全な飲み水。新鮮な食品に何でも揃っている街の商店。
中には喫茶店なんて洒落た名前の店もあった。初めて、宮殿を出た時に馬車を運転していた御者の人間に喫茶店が何なのかを聞いた日の事を今でも覚えている。過去の事を思い出しながら、駅馬車に揺られ、ぼんやりと景色を眺めていると、私は街の中を走るある物に釘付けになってしまう。
それは決まった道の線路の上を走る馬車、いわゆる公共機関という存在だった。私たちの街では存在さえ考えられない便利な乗り物。それが今、現在王都の中で市民を乗せ、街の行き来を便利にしているのだ。今はまだ馬車であろうけれども、何年かすれば馬車以上の乗り物が生み出されるかもしれない。
そんな事を考えていても、馬車は揺れ、ゆっくりと街の中を進む。
街にはこの国の最先端の技術を詰め込んだ街並みが広がっており、いずれこの技術が外の世界へと広がっていくのだと感慨深いものを感じる。
そして、馬車は中央に広がるホワイトハウスと揶揄される宮殿へと入っていく。
私はホワイトハウスの中に入ると、私は思わず生唾を飲み込んでしまう。他の馬車に乗車しているみんなはどうやら、初めて宮殿を訪れた事で緊張しているのかと思っていたらしいが、それは大きな誤解だと言っておこう。
ホワイトハウス。いや、ウィンストン・セイライム王国の王城はほんの少し前まで私が過ごしていた場所であるのだ。
大きな柵に閉ざされた城門もそれを開けた先に広がる石の通路の左右に設置された広々とした中庭も見慣れた光景であったのだ。
馬車の中の窓から見える中庭に存在するのは心地の良さそうな芝生に、井戸やらの必需品。そして、噴水などのオブジェクト。
これは庭を訪れる人物を楽しませるために設置された物らしい。
そんな事を考えていると馬車は石の通路を外れ、中庭の芝生の上を暫く走ると、その裏側に存在する馬車とそれを引っ張ってきた馬を休ませるための小屋があったのだ。
会長の乗っている馬車と私たち護衛が乗る馬車はそこで下され、御者が横柄な態度で王城へと案内していく。
「す、すげぇや」
マーティが歓声を漏らす程、王国の国王一家の住う宮殿は広がった。
流石に公共の場で歓声を漏らしたのはマーティだけだと思われたが、同席した部活のメンバーの視線が全員白い輝きを放つ宮殿に釘付けになっている事に気が付く。
それはそうだろう。普通ならば、普通の人のみならず地方の貴族でさえも一生に一度近付けるかどうかという宮殿を真下で見下ろす事が出来たのだから。
だが、私にとっては見慣れた建物だ。特に凄いとも思わない。
そんな事を考えていると会長が私の脇を肘で突いて小声で私に向かってアドバイスを行う。
「ダメよぉ~見慣れていたとしても、驚くフリをしないとぉ~一応は隠しているんだよね?なら……」
「わ、分かりましたよ。会長」
と、私は会長の指示に従ってかつての我が家を懐かしいと思いながら見上げていた。
そして、暫くの間は部活メンバーで城を見上げていたのだが、会長がニコニコとした笑顔を浮かべて、
「はーい、宮殿を眺めるのも良いけどぉ~私たちが来た目的が思い出せる人はいるかな?かな?」
会長の言葉に全員が意識を母国の城から、自分たちの意識へと戻し、会長に付いて行き、頑丈な木の門を守る鎧で身を固めた衛兵にここに来た目的を告げ、私たちは意気揚々と城の中へと入っていく。
城の中へと入る動機はたった一つ。生徒会長も護衛も討論会の翌日は宮殿で寝泊りする権利を与えられているからだ。
そして、その時に寝食を共にする部屋が与えられ、宮殿の奉公人たちも私たちが去るまでは頭を下げなければならないのだ。貴族の出身で行儀見習いという立場で来る人間も多い中で、平民に頭を下げるなどもっての外だろう。
私はそんな事を考えながら、久し振りに訪れた宮殿の中を見渡していく。
広くて長い廊下、風が吹き抜けてしまうかもしれないと危惧するほどの天井。
廊下のあちこちにはこの城に住う王族を歩いている時も退屈させないためか、豪華な装飾が施されており、その装飾もストーリー仕立てになっていて中々面白い。加えて、廊下のあちこちに肖像画やら銅像やらが置かれているのだ。
かく言う私もついこの間までは重いドレスを着てこの上を歩いていたのだが、少し離れた今となってはもう大分大昔の事のように思われる。
私の目の前に現れた使用人の顔触れも変わっていないというのに。私は目の前から歩いて来た下男の男性とメイドの女性があの時と同様に私の悪口を叩いている事いていると、私や会長といった他のメンバーの存在に気が付いて慌てて頭を下げる。
それに頭を下げ返すのが招かれた我々のルールであり、私もそれに倣い頭を下げたが、二人に向かって嘲笑を向ける。
その嘲笑には私の成果を聞いて悔しかという嘲笑であり、同時にその間にお前たちは何をしていたのかという優越感。
二人はそれに気が付き、ワナワナと体を震わせていたのだが、私は構う事なく仲間と共に用意された部屋へと向かう。
王宮の部屋というのはやはり、控え室という事でも豪華らしい。
護衛の部屋に用意された部屋でさえレース付きのベッドに赤色のフカフカの絨毯が床に敷き詰められていた。
クラリスと相部屋になった私は二人でもう一度計画を話し合う。
それは会長の護衛の事、そして、討論会のタイミングでクーデターを起こす奴らの存在。
その事について論じ合っているとすっかり日がオレンジ色に染まり、綺麗な夕焼けが私とクラリスの顔を照らしていた。私たちは時間の経過など気にする事なく話し合っていたのだが、その議論はたった一つのノックによって妨害されてしまう。
私が入室を許可するとそこに入室して来た人間を見て私は思わず声を上げてしまいそうになる。
なぜなら、その白髪の礼装の男は私と妹の世話を見て来てくれた人物であり、私の屋敷の執事、ピーターの実の父、マルトーであったからだ。
マルトーは私の姿を見ると少し懐かしそうな瞳を向けたが、直ぐにいつもの冷静な表情に戻って、
「お初にお目に掛かります。様。今宵はあなた様に王女より言付けを預かり、ここに訪れた次第でございました」
私はクラリスに詫びを入れて、マルトーの命じるままに外へと出て行く。
マルトーに導かれるまま外に連れて行かれた私をマルトーは黙って見つめていたが、改めて頭を下げて、
「お久し振りです。ウェンディ王女……」
「堅苦しい挨拶は良いわ。それよりも、妹からの言付けというのは?」
「はい、実は今夜の夕食にあなた様をお招きしたという事なのです」
マルトーの言葉に私は思わず硬直してしまう。
と、言うのも彼の発した言葉がにわかには信じられなかったからだ。
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