王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
107 / 211
ウィンストン・セイライム・セレモニー編

裏切りの神の名は

しおりを挟む
目の前の得体の知れない神々の言葉はにわかには信じ難いものであった。と、言うのも人がこの得体の知れない人型の邪神の仲間入りをする事など信じられなかったからだ。
だが、彼らは言う。とある一家がかつてこの世界に入門し、自分たちの仲間になったのだと。
私が彼らに向かって名前を尋ねると、
「マーシュ」
と、彼らは小さな声で返す。本当に注意していなければ聞き取れないほどの小さな声だ。私は耳を傾けてもう一度、彼にその名前を問うと、彼はもう一度同じ名前を口に出す。
「そのマーシュというのは元々は人間だったんですよね?なら、人間だったのなら、どうして、同じ人間が住む世界を襲うんですか?」
私は先程の会話を聞いて疑問に思った事をつい口に出してしまう。衝動的に思えるかもしれないが、ずっと気になった事だった。
すると、彼らはあの細い目を更に細くして、
「……マーシュは元々一つの家族、その中に我々の世界に干渉した男がいた」
口の少なく小さな声の神々の説明によれば、マーシュは元々はこの世界に存在した平凡な一家の筈であったのだが、一家の長男とされる男が闇の書籍を利用し、夢の国ドリーム・ランドに向かった事により、この世界の上位の神に目を付けられてしまったのだという。
その上位の神は長男のみならずマーシュ一家全員を自分たちの仲間として引き入れる事にしたという。
一家全員の人格を取り込んだ邪神は普段は平穏であったのだったが、長男が体の主導権を握る時に限り、人間の世界へと積極的に関わろうとするのだという。
その長男が体の主導権を握っていた時とある国家が邪神とコネクションを取る実験をしようと黒魔術の実験を目論んだのが運悪く重なり、彼は大陸に呼び出されてしまったのだという。
つまり、悪い事に悪い事が重なり、この世界に混乱をもたらしてしまったのだという。
目の前の神々はそれだけを伝え終わると、あの少年と同じ方法で私を現実の世界へと帰していく。
私は反射的に辺りを見回し、そこが自分の部屋であり、自分がようやく元の世界に帰れた事に安堵して階下へと降りていく。
階下で二人の作ってくれた朝食を味わい、制服に着替えてから学校に向かう。
ジャックは私と私の愛馬の姿が見れた事に可愛らしい笑みを見せて馬を馬繋場へと連れて行く。
私が校舎に入り、自分の教室に辿り着くとクラスメイトが歓喜の声で出迎えてくれた。
私は彼らの歓声に答えて、手を振っていく。
多くの歓声に包まれるのも悪くはないと考えていると例の哲学者風の教師が扉を開いて教室の中に現れた。
彼は私を睨み付けてショートホームルームを始めていく。
その後に入ってきた教師も殆どは私に無関心であり、私の姿を暫く見ても何も言わずに首をプイっと向いて昨日からの授業を続けていく。
私は近くの席の仲間からノートを借り、この日の授業を乗り切ったのだった。
その後の昼食を挟んでの午後の実技も殆どは私に関心を振るう事もなく、いつもの通りの授業を続けていく。
些か冷たいように感じるかもしれないが、これがこの学校の教師が落ちこぼれに対する正当な態度なのだ。
例外が射撃教師で彼は私の姿を見ると笑い掛けて、
「治って良かったよ。ミス・スペンサー」
と、言った。彼の眩しい程の笑顔がその日は本当に宝石のように輝いて見えた。
格好の良い顔で微笑んだためか、彼は大半の女子生徒のハートと一部の男子生徒のハートを射抜いてしまったらしい。
全く、罪作りな教師である。その後のもう一つの実技の授業を終えて通常なら終わる筈だったのだが、今日は放課後にゴールドマン校長が例の交流生を紹介するらしい。
私はケイレブ・オーウェンの事だろうと首を縦に動かしてそのまま教室へと戻っていく。
教室に戻ると例の哲学者風の教師が教壇を叩いて私たちに交流生の事を説明すると、私たちを引率し入学式の日に全員が入った大講堂に向かう。
大講堂の中に並べられた私たちはその前に広がる雛壇の上、帝国と私たちの国の国旗の前で祝辞を述べるジェーン・ゴールドマン校長とその傍で帝立魔法学院の黒のカウボーイジャケットの制服を着た青年の姿が見えた。
ケイレブは丁寧に頭を下げて、自己紹介を終えて雛壇を降りていく。
校長はケイレブをこの学校のBクラスの扱いにするという旨と帝国と王国の友好の歴史に感謝でその日の集会を締め括り、解散を告げた。
解散を告げられた私たちは各々が交流生についての感想を告げるものの、主任の教師が怒鳴り付ける事により、私語は治まり、大人しく教室へと戻っていく。
その後に解散となり、私とケネスは賞金稼ぎ部に向かう。
いつもの通り、いつも通りの光景だ。
だが、ここで私のいつもの日常ではあり得ない事が起きてしまう。
そう、全くの予想外の出来事だ。そう、私とケネスの前にケイレブが現れたのだ。
背後に彼のファンだと思われる多くの女子生徒を連れたケイレブは私に向かって人差し指を突き付けて、
「ウェンディ・スペンサーッ!とうとう見つけたぞッ!あの街での決着を今、ここで付けてやるッ!」
その言葉に背後に控えていた女子生徒が歓喜の声を上げていく。目を凝らしてみると、彼女らの星型のバッジには杖と銃が描かれており、彼女らはこの学校のエリート達らしい。
何より、人差し指をブルブルと震わせながら叫ぶ彼の背後に例のオレンジの髪の生徒会長の妹とその取り巻きの赤い髪の少女ががいる事で何となく察しが付いてしまう。
大方、エリートクラスの生徒全員でケイレブに付いて行くように仕向けたのだろう。
直接、戦っては勝てないからと彼について行き、彼に敗北する私を見て優越感に浸りたかったに違いない。
その証拠に背後に控えている彼女がニヤニヤと笑っているのがその証拠と言えるだろう。
私はその様子を見て小さく溜息を吐き、勝負に燃えるケイレブの右腕を掴んで半ば強引に奥にある練習場へと連れて行く。
その様子を見て彼女たちは抗議の声を飛ばしていたのだが、ケネスが睨みを利かしたのだろう。背後からの罵声はピタリと止む。
ケイレブが私を険しく睨み付けていたので、私はここに連れて来た目的を話す。
フォー・カントリー・クロスレースの事については話さない事とみんなには参加を内緒にしていた事を話し、一方的に喋る私に対し、ケイレブはたじろいでいたらしいが、何とか話を飲み込み今後は話さない事とこれまでの言い訳をエリートクラスの生徒たちに語る事を約束させた。
その上で決闘をまた今度にやると約束して、その場を去っていく。
後から聞いた話なのだが、夕陽に照らされた奥の校庭に置き去りにされたケイレブは私の剣幕に呆然としていたらしく、暫くはぼんやりと過ごしていたらしい。
その光景を哀れに思った私は一度くらいは再戦してやるかと考えたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...