王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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ウィンストン・セイライム・セレモニー編

大陸の人気劇団、団長の転落劇

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全身が痛い。体を動かそうとするたびに、筋肉が痛む。私は痛みのために下唇を噛みながら、目の前に広がる鉄格子を眺める。閉じ込められているのは恐らく、あの劇団の馬車の中だろう。小道具を載せる筈の馬車を一台改造し、この様な護送車を作り上げたに違いない。
現に、地面は木の板が敷き詰められており、目の前にはカモフラージュのためか細々とした小道具が置かれていた。
私の服も制服ではなく白色のシンプルなワンピースに変えられていた。
恐らく武器を使えなくするための処置だろう。だが、今の私は閉じ込められており、身動きができない状態にあるのだ。何もここまでしなくても良いだろう。
そんな事を考えながら、目の前の鉄格子を眺めていると、私の目の前にあの醜く太った団長が葉巻を咥えて現れた。
団長は葉巻を人差し指と中指の間に挟み、頭を下げて馬車の中へと入り込む。
それから、私が閉じ込められている鉄格子の前に来て葉巻の煙を私に浴びせていく。
私は手を顔の前に近付けて防ごうとしたのだが、やはり、煙はそんなもので防ぎれるものではない。
灰色の煙が口の中に入る度に、私の喉が動き、ゴホゴホという重い息を吐き出す。
それを見た団長は食べカスやらヤニカスやらで黄色く汚れた汚い歯を見せて笑って、
「どうだ?クソ女!これがお前がクラリスにやった末路さッ!いつも、いつも、あの子をあの手この手で虐めて、終いには実の妹まで罠に嵌めて殺そうとしていただろう?」
何を言っている。この男の言っている事が一つも理解できない。クラリスというのはクラリス・チャップマンの事だろうか。それならば、私をこんな風に閉じ込めて尋問ごっこをするのはお角違いというものだ。あの子とは同じ賞金稼ぎ部の仲間であるし、私の大切な友達だ。
それに、妹の仲は良好だ。むしろ、険悪な家族の中で唯一、私に好意的に接してくれるのはあの子だけだろう。
すると、漢は私が首を傾げて心の内で反論をしているのが腹正しかったのだろう。彼は豚の足を思わせる小さくて太い足で鉄格子をおもいっきり蹴り付けた。
これで私が怖がるとでも思ったのだろう。だが、男の考えには乗ってやらない。私は黙って男の顔を睨み付けてやる。
すると、男はプルプルと頬を震わせて腹立ち紛れに鉄格子を蹴り付ける。
それから、彼はロクに運動もしていないような太った腕で鉄格子を大きく揺らして、
「強がるのもいい加減にしろッ!お前のような腐った女はさっさと舞台のマルティネス姫のように殺されれば良いんだッ!」
「あれはお芝居でしょ?現実とお話を混同してはダメよ」
私は至極冷静な指摘をしたつもりだ。だが、男は太った体をブルブルと震わせてもう一度、私の閉じ込められている鉄の柵を蹴り付ける。
「黙れッ!オレは知っているんだぞ!クラリスを父王と組んで陥れた事も!フミオットの恋人のエルフを点した事も、オレはこの目でしっかりと見たんだッ!」
この男は何を言っているのだろう。とうとう芝居と現実の区別が付かなくなってしまったのだろうか。
私と父の仲は険悪そのものだし、エルフなどという空想上の生き物がいれば私が褒める事はすれども、点したりなどする事は絶対に無いと言っても良いだろう。
彼の頭の中で繰り広げる妄想の世界では自分を主人公として物語の軸を展開され、その物語の倒すべき悪役に私を据えているのだろう。
前世からの記憶が何か知らないが、初対面だというのに本当に迷惑な話だ。
苦笑しながら、男を眺めていると、団長は更に強く檻を蹴っていく。
何処までやれば気が済むのだろう。私は即席の牢屋の中で小さく溜息を吐いて、体育座りをして窓を眺めていたのだが、そこに馬車をノックする音が聞こえて、団長は一度は私の元から離れ、牢の中の私に向かって唾を吐きかけたのだが、私には当たらずに私の目の前の地面を汚しただけで済む。
何がしたいのやら。私が呆れた視線で馬車を降りていく団長を眺めていると、突然、馬車の前から大きな声が聞こえる。かと思えば、団長の悲鳴が聞こえた。
どうしたのだろう。私が鉄の格子の近くにまで寄り、目の前を覗いていると馬車の扉が開かれ、ケイレブが表れて私を閉じ込めていた檻を蹴り壊す。
壊された檻を見て呆然としている私の手を強く握り、馬車から逃げるように指示を出す。
その後に彼はなぜか顔を真っ赤に染めながら、
「か、勘違いするなよッ!お前を倒すのはオレだッ!それだけの話だからなッ!」
プイっと顔を背けて私を連れ出す彼の姿が妙に可愛く見えた。
馬車の周りにはケネス、マーティ、副部長、クラリスの四人が並んでおり、その全員が私を助けに来てくれたらしかった。
ケイレブは強引に私をケネスに預け、馬車の前で頭を打って気絶している団長を無理矢理、揺り起こす。
ケイレブは気絶から目を覚ました団長の首を強く絞めて、
「言え、テメェはどうしてウェンディを連れ去りやがった……あの女を殺していいのはオレだけだ。お前にその権利はないッ!分かったら言えッ!」
だが、首を絞められているせいか、男は顔を青く染めて舌を出し、酸素を求めるばかりであった。
クラリスがケイレブに嗜めるように進言すると、ケイレブは強引に団長を地面へと突き落とす。
団長は短い悲鳴を上げるも、真上からケイレブが見下ろしている事に気が付いて、大きな悲鳴を上げていく。
だが、一度叫び終わると、彼は人差し指を震わせながら、
「そ、その顔!あ、あんた。ケイレブ・オーウェンだろ?勇者の?」
「勇者?何を言ってやがる。お前、頭おかしいんじゃあねぇのか?」
人差し指で頭をコツコツと叩き、男の顔を覗き込みながら、彼は質問を質問で返す。
だが、その無礼に団長は怒る事なく手をパンと叩いて、
「あ、あんた!クラリスとはもう付き合ったのか?」
「クラリス?何を言ってやがる?」
「あ、あのクズ女に虐められていた本来のヒロインだよッ!あの子とキスはーー」
団長の体を強く蹴り飛ばす音が聞こえた。団長はもう一度小さな悲鳴を上げて地面に倒れていく。
団長の前には怒りで顔を引きつけたクラリスが足を振りながら、
「もう一度、私の大切な人を侮辱してご覧なさい。アバラ骨じゃあすまないから」
ハッキリと見下ろす視線に団長の悲鳴が聞こえる。
「さて、ウェンディを誘拐した理由を聞かせてもらおうか?」
「あっ、団員ならもう始末したからな。助けを呼ぼうとしても無駄だぞ」
ケネスとマーティ、それに副部長に睨まれて団長は大きな悲鳴を上げて地面の上で縮こまってしまう。
だが、私の仲間たちはそれを許す事なく取り囲む。
取り囲む全員の顔がいつもよりも恐ろしく感じたのはどうしてだろう。
私はあの尋問の当事者でもないのに、思わず身震いしてしまう。
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