王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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大統領の陰謀編

帝国と王国とが治めた勝利に、敗北の涙を飲むのは共和国

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そのハンサムな男はただ憎悪の感情ばかりを抱いて私の元へと向かう。ただ恐ろしい光景であるが、私としても戦わないわけにはいかない。
現在、私の拳銃の弾倉に残っている弾はたったの一発。流石に梟の怪物と大統領との二連戦の後では辛い。
そんな事を考えていると銃を構えた男が先程の大統領と同様に手を地面に振る。
また、砂の兵士を作り上げるのかと思われたのだが、私の目の前に現れたのは予想外のものであった。
小型の黒色の蟹だ。絶対にこんな所には現れない筈の生き物が私の周りに現れて、私を殺すために足元へと集まっていく。
落ち着け、この場合大人しくしていれば、蟹は自分の事を木か何かだと思って去っていくに違いない。
ジッと目を閉じたのだが、やはり、数が多過ぎる。
私が絶望に達した時だ。不意に私の体が浮かび上がり、気が付けば、私は宮殿の中に戻されていた。
それから、空を見上げるとそこには空に浮かぶティンク・ベルの姿。
彼女は背中に下げた長銃を取り出し、地面の蟹の群れに向かって発砲していく。
その姿はまるで、御伽噺に登場する妖精。本当に子供向けの童話の本から出てきたようだ。
私がそんな事を思っていると彼女は長銃をそのまま庭にいる男に向ける。
だが、男はフンとそれを鼻で笑う。それから、空中を飛ぶ彼女を人差し指で指差して、
「空を飛ぶ魔法……実に幼稚で単純で芸の無い魔法だ。幼い子供には受けるだろうが、それ以外には受け入れられない単純な魔法だ」
「どうだろうな?実際に私はこの魔法でいくつもの成果を上げている」
「演習でだろう?籠の中の兵隊め」
ハンサムな男はそう言って空へと飛ぶ近衛騎士団の騎士に向かって銃を放ったのだが、彼女はそれらの銃弾を避け、代わりに男の足元に向かって銃を放つ。
足元にめり込んだ銃弾を見て男の顔に冷や汗が垂れている事に気が付く。
誰もいないホールの中でその戦いを眺めていたが、彼女の手腕は見事なものであった。
彼女は空中で回転やら避けやらを繰り返しながら、着実に地面の若くハンサムな男を追い詰めていく。
流石に歴戦の勇士にはあの男も勝てないと判断したのか、空中に向かって最後に銃弾を放った後に、もう一度地面に先程の蟹を大量に発生させて塀の上を飛び越えて逃亡していく。
だが、その前に一度だけ振り返り、私に向かって叫ぶ。
「これで終わったと思うなよッ!オレは必ず報復に現れるッ!その時に必ずお前を殺すウェンディ・スペンサーッ!」
その言葉と共に男は塀を乗り越えていく。私は当然、あの危険な蟹が動いているために庭には出れないし、彼女はもう一度現れた蟹の処置で男を追う気力も無いだろう。
私は突然、地面の上に蟹が現れた事から、男の魔法は小型の生物を作り出し、それを使い魔のように自由自在に操る事では無いだろうか。
そんな事を考えていると長銃を背中に背負った王国の勇敢な淑女はホールへと降り立ったらしい。
彼女は私に一礼し、大統領との奮戦を褒め称え、次にどうして自分がここに居るのかを説明していく。
彼女が言うには護衛としてこの四大国家の首脳陣が集う会合式の玄関にいたらしいが、庭の方で悲鳴が聞こえた後に彼女は他に集まった王族や貴族やらを救うためにホールへと向かおうとしたのだが、同じく護衛である筈のニューロデム共和国の兵士たちが自分たちや他の王族、貴族に銃を向けたのだという。
そのために、彼女は魔法を使用して飛び上がり、共和国の兵士たちを翻弄し続けたのだと言う。
そして、彼らが自分たちに関心を抱いている隙に王族や貴族が逃げる時間を稼ぎ、共和国の兵士たちを片付けていたのだという。
「そ、それ、みんなあなたが一人でやったの?」
私の問い掛けに彼女は迷う事なく首を縦に動かす。
やはり、王族や貴族の近衛兵というのは半端な人間には務まらないらしい。結局の所、彼女のように使命感を持った人間がそれを任されるのだろう。
私は彼女の勇敢さと会合式に集まった要人たちを助けてくれた事に感謝の念を述べていく。
私が手を差し伸べると彼女は首を横に振って断る。
「……折角ですが、私は外へと逃げた各国の要人方の警備を担当しなくてはなりません。では、失礼致します。殿……」
「ミス・スペンサー」ではなく「王女殿下」と呼んだのは彼女なりの敬意であったに違いない。
私は王女らしくスカートの両裾を持って丁寧に頭を下げで彼女を見送る。
この後に私は庭を見回ったのだが、あの男が出した蟹のために酷い有様となっていた。梟の怪物の死体もストロンバーグの死体も所々に穴が開いていた。
ホールと庭の境目にある机の裏に隠れていた梟の怪物の操り主も撃たれた箇所から蟹に侵食され、恐ろしい表情を浮かべながら絶命していた。
この男は証人として生かすつもりであったのだが、こうなってしまってはやむを得ない。私は庭から出るとそのままホールを突っ切り、外へと出ていく。
薄暗かったのだが、ティンクの働きもあり、全員が無事であった。
私は他の三大国家の兵士たちから健闘を称えられた後にスペンサー公爵から褒められたが、やはり両親は何も言わない。
私は無言で公爵家の馬車へと押しやられ、会合を行うための宮殿があの様な事になってしまったためか、公爵夫妻と共に近くの高級な宿屋へと向かう。
一人部屋を与えられた私は所々が外れ、ほつれた桃色のドレスを脱ぎ、そのままベッドへと潜り込む。
翌日に私の世話をしに現れたメイドに小言を言われたが、自身の成果を持ち出すと彼女たちは押し黙ってしまう。
その後にもう一度王女としての格好をさせられる。どうやら、この影武者生活は王都に到着するまで貫き通すらしい。
私は公爵家の馬車に揺られていると公爵夫妻が共和国の今後について話すのを聞いてしまう。
いや、狭い馬車の中だからか嫌でも聞こえてしまうと言った方が良いだろう。
どうやら、今後はニューロデムとの交易はどこも打ち切る事になり、共和国には冬が訪れる事になるだろうと噂をしていた。
特に父は前のマッケンジーの一件と今回の件で完全に共和国への愛想が尽きたらしく、交易打ち切りを明言していた。場合によっては宣戦布告さえも考えているという。
『宣戦布告』を行い相手の国へと戦争を仕掛けるという行為というのは四大国家開闢以来、発生してこなかった事であり、父がいや、他の国が余程、今回の事を腹に据えているのかを理解する事になった。私はなんとか言って父にとりなそうと考えた。
戦争というのは愚かな行為だ。父が戦争を起こした国王というレッテルを張られないためにも頑張らなくてはなるまい。
私は馬車に揺られる中で拳を握り締めて決意を固めていく。
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