王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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二年生の部

聖夜と卒業式

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結論から言えば戦争という最悪の事態を止めるのは出来た。最悪の事態は本当ならば、一番討伐に乗り気であった父の手により止められたのだ。
と、言うのも私が謁見用のドレスを着せられ玉座の前で跪かされた時に父に向かって私は言ったのだ。“戦争を回避し、各国と共和国との仲介役をやってくれ”と。
無謀とも言える私の願いは命がけでストロンバーグの魔の手から会合式通称フォー・カントリー・ダンスパーティーに集まった三つの国の国家の王族や貴族の命を助けた褒美という形と全ての責任は死亡したストロンバーグにあるという旨を側近が父に伝え、それを父が受け入れられた事に加えて、交渉中は私が城の一室で大人しくしている事を条件に聞き届けられた。
新聞を読んだ時の情報とティンク・ベル隊長から仕入れた情報とで纏めると、その後の共和国ではストロンバーグを支持する声は今回の一件で完全に消え失せ、かつてのストロンバーグ政権の閣僚は総辞職となり、大統領は現在、上院議員のハミルトン・スカラマングが務めているそうだ。
かつての政権の閣僚は全て死亡したストロンバーグに全ての責任を押し付けたが、各国の反応を顧みれば彼らが政界に復帰するのは大分後に、下手をすれば彼らの生きている間にはもう無いかもしれない。
隊長はあれだけの戦いを繰り広げた私の事を気に入ったらしく、城の一室に閉じ込められている間に色々と話し掛けてくれ、私に色々と話題を持ってきてくれた。お陰で退屈をする事なく軟禁期間を過ごす事ができた。
軟禁が解けた後に私は城から屋敷へと戻る事を国王の使いとして現れた公爵の口から伝えられた。
その前に私は妹に会う事を許され、シンディと暫く彼女の部屋で他愛もない話をした後に馬車で学院前に用意された屋敷へと戻っていく。
屋敷に着くなり、ピーターが抱き付いてきたので私は思わず驚いてしまう。
受け止めた私が転びそうになる程の勢いであったので無理もないのだが……。
ピーターはそれから、私を連れて来てくれた馬車の運転手に頭を下げてから、私を屋敷の中へと迎え入れ、私に用意できていた夕食を振る舞う。
やはり、ピーターの料理は美味しい。私は舌鼓を打った後にボニーが淹れた食後の紅茶を味わう。
何と美味い味だろうか。ダンスパーティーの料理も美味かったのだが、彼の手料理を食べると原点に戻ったような故郷に戻った時のような安心感があるのだ。
私はピーターとボニーに留守の間の事と料理の事でお礼を言ってから、二階の部屋へと上がっていく。
二階の部屋で私はついでに貰った謁見用のドレスをクローゼットに掛け、部屋用の清楚なロングドレスを取り出す。
それから、ベッドに腰を掛けながら、本をめくっていると扉をノックする音が聞こえたので私は入室を許可する。
私の前に顔を赤く染めたピーターが現れて頬をかきながら、なぜか体をくねらせていた。
すると、背後から突き飛ばされたのが、彼はバランスを失いながら部屋へと入っていく。
私は読みかけの本をベッドの上に置き、倒れそうになる彼を受け止める。
だが、私の腕に包まれているピーターの顔が沸騰した様に赤くなっているのはどういう事だろう。
私が首を傾げていると、なぜかボニーが困った様な微笑を浮かべて扉を閉めて部屋を後にする。
私は取り敢えず、ピーター自分のベッドに腰掛けさせ、私はその横の椅子の上に座り、もじもじと体を動かす執事を見つめる。
私はベッドの上で焦ったく動くピーターを指差して、
「そこッ!動かないッ!私に何か用事があるんでしょ?なら、何か言ってみなさい」
ピーターはその言葉を聞いて身を震わせたが、何度かパクパクと口を動かし、空気を吐き出すと急に真剣な瞳で私を睨む。
その剣幕に私は驚いてしまうのだが、ベッドの上から起き上がったピーターは構う事なく話を続けていく。
「お嬢様!厚かましいお願いなのは承知しています!ですが、この事だけはお嬢様とやっておきたいのです!」
一体何をさせる気なのだろう。私は嫌な想像をして思わず鳥肌を立たせてしまったのだが、ピーターの口から発せられた言葉は呆気なさ過ぎて拍子抜けしてしまうものであった。
「お嬢様!どうか……どうか、私と聖夜に行う街での買い物に付き合ってください!」
聖夜。それは火の神、フレイムがこの地に降臨したとされる聖なる日であり、夜の闇と寒さに震える人間を哀れみ彼が闇を照らし、火の温もりをプレゼントしたという優しさに因んで、聖なる夜の日と世界各地で伝わるイベントらしい。
まぁ、聖なる夜と名付けられてはいても特に特別な事をするわけではない。ただ、年明け前の年末の最後の一週間の前日である聖夜の日は好きな人に日頃の感謝の品や言葉を送り、過ごす日だと一般には認識されている。
それを私と回りたいとは、ピーターも余程、相手に恵まれないという事だろう。そろそろ私にばかり纏わりついて居ないで他でガールフレンドでも作れと言うべきだろうか。
いや、こんなに真剣に頼んできているのだ。無下にするわけにもいくまい。
悩んだ末に私はピーターの買い物に付き合う事にした。幼い頃からの付き合いだし、留守の間に屋敷を守ってくれた。
それに、幼い頃から彼とは過ごしてきているのだ。今更、二人で出かける事に警戒など無いだろう。
私が許可を出すとピーターはその場で舞い踊らんばかりの勢いで喜び、その場を去っていく。
扉の外からボニーと肩を叩き合ったり、喜んだりする声が聞こえたのだが、何なのだろう。
私は何か自分だけ取り残された様な疎外感を感じながら、本の世界へと戻っていく。聖夜は明後日だ。
私は特段何も思う事なく、眠る時間になり、ネクジェへと着替え、一日を終える。
翌日も学校からの課題をし、読書をするとあっという間に過ぎた。
そして、とうとう聖夜の朝。この日は窓から差し込む白い光により、ボニーが起こす前に私は起きた。
心地の良い朝であり、私は散歩をしたい気分になり、地下で準備をしている二人に断りを入れてから、朝の街を散歩していく。
朝の街に吹く心地良い風が私を突き動かす。
私が何気なく街を歩いていると、私の目の前にケネスが歩いている事に気が付く。
帰ったと思っていたのにまだ学院前の街にいたとは。
酒を買っていたケネスは私が手を振った事に気が付いたらしい。元気良く手を振り返してきた。
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