王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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二年生の部

聖なる夜に愛する彼女への贈り物を

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その日の朝、お嬢様はあの男を連れてきやがった。私が聖夜に不愉快になったのは言うまでもない。ケネスの奴が偶然を装って現れたからだ。あの男は本当に偶然だとブランデーを抱えて笑っていたが、私は騙されない。あの男の握っているブランデーがその証拠ではないのか。
そもそも、どうして聖夜だというのに実家に帰らないのだ。聖夜だというのにどうして、私のお嬢様にデレデレしてやがる。賞金稼ぎ部で相棒だからと調子に乗るなよ。私の歯軋りが聞こえたのか、ケネスの奴は気まずそうに視線を逸らす。
私は青筋を立てながらも何とか笑顔を浮かべてケネスのために用意してやったグラスに来客用のワインを注いでやる。
ケネスは苦笑いを浮かべながら、ワインの中に注がれた葡萄色の液体を眺める。
そこにボニーがあまり愉快では無さそうな表情でお嬢様の朝食と臨時で作り上げた簡素な朝食を運んできた。
折角、私とイチャイチャしながら聖夜を過ごすお嬢様の姿が見えると思っていたのだから、こういう表情を浮かべるのも無理はないと思う。
私は彼女と共に視線を交わし合い、一瞬だけ、二人をダイニングで二人にしてから、部屋の外でこの邪魔者を追い出すための作戦を思案していく。
二人の話し合いの中で話された内容はケネスの服にワインを溢すなどの嫌がらせを繰り返すか、堂々と二人で買い物に行く事を告げるという話を切り出し、あの男を折れさせるかという意見も出たのだが、前者はお嬢様にバレれば厄介になるという事から、後者はお嬢様が一緒に行こう!などと馬鹿げた事を言い出しかねないので却下となった。
迷いに迷った末にこういう事になった。
やむなく朝と昼はあの男に譲り、夜は私が頂く、と。
なので私はあの男のもてなしに勤めてやる事にした。精一杯の笑顔に、精一杯のもてなし。
それであの男を満足させて夜はさりげなく家へと帰す。
私の完璧な作戦だ。ダイニングの方から笑顔が聞こえてくる。お嬢様はあのケネスの奴と楽しげに話しているのだ。
私は耳を抑えたい衝動に駆られつつも、必死に愛想笑いを浮かべて接待を続けていく。
私は執事なのだ。お嬢様のお客様をもてなすのは当然ではないだろうか。
私は夜までの我慢と自分に言い聞かせ、ケネスの奴に飲み物やら軽食やらを運んでいく。
部屋に入る度に無邪気な笑顔を溢すお嬢様。楽しそうに様々な話題を振るケネス。ハッキリと言えば自分だけのお嬢様を取られた気分だ。
あいつに負けるつもりはないと思っていたのに、やはり、日々互いに背中を預けて戦っている仲には勝てないのだろうか。
私は自分の胸にポッカリと穴が開いた様な錯覚に陥ってしまう。だが、ここまでは我慢できた。次に我慢ができなくなったのはあの男がいやしくもお嬢様にしたら顔で得意そうな顔で雑貨屋にオススメの宝石が並んでいる事を説明している事だ。
大方、プレゼントを買って二人で特別な仲にでもなるつもりなのだろう。許せない。
私は前世ではよく漫画を読んでいたから知っているのだ。ずっと幼馴染みとして友達以上恋人未満の関係を築き上げてきた少年と少女。その横に押入ろうとするハイスペックなイケメン君。
それだ。私はもう一度ケネスの顔をマジマジと見つめる。
二回、今まで彼と顔を合わせているのだが、その時はあまり意識しなかったのだが、彼は中々に顔が良いという事だ。
これはまさしく天が私に与えた試練なのではないか。
私は決意した。かの邪智暴虐なる間男を排除し、お嬢様との生活を取り戻そうと。
私が前世で読んだ殺人事件に巻き込まれる高校生の少年が主人公の本格推理漫画の中で一番使えそうなトリックを考えていた時だ。不意に二人が立ち上がる。
私はトリックの考えを一度、中断し、二人に何処に行くのかを問い掛ける。
「あ、あのお嬢様……それにケネス。お二方は何処へ?」
お嬢様は澄ました顔に当然と言わんばかりの表情で、
「何ってお買い物よ。夜の買い物の前に行く所があるのよ」
間違いない。あの雑貨店に並べられたとかいう宝石で間違いない。
私は慌てて止めに入ったのだが、二人は無邪気な笑みを浮かべて二階に上がって財布を取りに行ったかと思うと玄関を開けて出ていってしまう。
悔しい。それに酷い。これはあんまりではないのか。二人で考えた作戦はこうして失敗し、こうして目の前で何もできずに好きな人を奪われてしまった。
いや、奪われたのなら奪われたでいい。もう一度取り返すだけだ。復讐の炎に燃える私の肩にボニーが優しく手を置く。
私は彼女の胸の中で泣いていく。そんな私を彼女は優しく撫でていた。
ずっと泣いていると時間を忘れてしまう。懐中時計の針を眺めると既に針は夕刻の時間を指していた。
そろそろ夕食の仕込みをしようと地下へと向かおうとした時だ。
玄関前の柵が揺れている事に気が付く。
私が玄関に向かうと柵の前には可愛らしい笑みのお嬢様が立っていた。私は慌てて開ける。だが、そこにケネスの姿は無い。別れたのだろうか。
そんな事を考えているとお嬢様は私に細長い長方形の箱を私に差し出す。
予想外の事に私は思わず呆気に取られてしまう。目をパチクリとさせている私にお嬢様は満面の笑みを浮かべて、
「ピーターにお礼よ。いつも世話になっているもの……聖夜って普段お世話になっている人にプレゼントを贈る日なんでしょ?でも、男の人の装飾品なんてよく分からなくて……それで、ケネスに一緒に選んでもらったの」
成る程、あの買い物はこういう事だったのだろうか。大方、私がトリックを思案している間に二人で話していたに違いない。一本取られた気分だ。
これが私の愛読していた漫画のツンデレ貴族ヒロインだったら、顔を赤くしながら「か、か、か、勘違いしないでよね!」とか言って渡す所だろうが、お嬢様は幸いにもそんな性格ではなかったので、素直に私に渡してくれた。
その後にお嬢様は玄関を潜って別の赤い箱を持って家の中へと入っていく。
どうやら、ボニーにもプレゼントを買ったらしい。
お嬢様の財布の中身は大丈夫だろうかと考えていると、屋敷の左側、森へと続く場所からケネスが現れて、腕を組みながら、ニヤニヤと笑いながら、
「勿論、足りなくなったぞ、お陰で今月は金無しだ。だから、夜の買い物では精々、彼女の好きな物をプレゼントしてやれ、執事殿」
ケネスは勝ち誇った様な表情を浮かべて学院前の街へと続く屋敷から見た右側の道を歩いていく。どうやら、あの男は街で別れたのはいいが、私に先程の台詞を言うためだけにやって来たのだろう。私は苦笑してその姿が消えるまで見送っていると、お嬢様が背後から抱き付いて、
「さぁ、ピーター!!約束でしょ?今夜の聖夜は私と回るわよぉ~」
お嬢様は無邪気な声で言った。その表情を見て私も顔を綻ばせてしまう。
いいだろう。今夜は愛しの幼馴染みに奮発してやろう。
私は苦笑しながら、屋敷に自分の財布を取りに向かう。今夜が私と幼馴染みにとっての素敵な夜になりますように、と祈りながら。
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