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エージェント・ブリタニアン編
スパイとお嬢様とメイドと
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少なくとも、今の所は順調に任務をこなしている。
ウィンストン・セイライム王国に潜入したスパイスシーの向こう側に存在する巨大大陸、バームレリアの西側を支配する巨大帝国ブリタニアン帝国のスパイ、ティファニー・シオングレイは潜入先の学院の近く、自身の拠点となっている下宿の部屋で祖国への報告書を纏めながらそんな事を考えていた。
ティファニーがウィンストン・セイライムに潜入している目的というのはたった一つ、去年の十二月、各国の首脳が親睦を深めるために何年かに一度行うと言われるフォー・カントリー・ダンスパーティーに死亡したストロンバーグ元大統領が派遣した怪物が現れ、その怪物達が首脳達を襲ったという事件だ。
だが、事件はたった一人の少女の手によって引き止められた。ウィンストン・セイライムのお姫様は隠していた銃を持ち、勇敢に彼らと戦いついにストロンバーグとその手下以外の死者を一人も出さなかったのだという。
その後の共和国も結果的には彼女に救われたと言っても良いだろう。彼女は父である国王に懇願し、各国の首脳陣を守った褒美に共和国と戦火を交えない事、各国の和解の仲介事を約束させたらしい。
父は娘の進言を受けて共和国への宣戦布告を行う事なく、また怒りの感情に溢れた各国の王や皇帝を宥め、戦争への道を回避したのだという。
この情報を信頼するべき西側を支配する皇帝、エリザベス二世は危機感を募らせ、彼女の手駒である女王陛下お抱えの特殊部隊『ゴースト』に任せた。
この事件の詳細と恐るべき怪物をたった一人で倒した恐るべき王女の存在を。
プラネットは四ヶ月の間に情報収集を行い、ついにあのパーティーで首脳陣を守った王女様の正体と共和国の研究機関とを突き止めた。
『ゴースト』は僅か四ヶ月の間に王女が本当の王女ではなく、彼女の双子の姉だという事と共和国の研究機関が魔法アカデミーという機関の中に巧みに隠されている事を皇帝に報告したのだ。
全てが上手くいったように思われたのだがここで問題が発生した。
第一は共和国内の極秘の研究機関に潜入した工作員の一人、コードネーム、グリム・リィーパーと連絡が取れなくなったという事。これは共和国内の人間に殺されたのだと断定し、引き続きゴースト内から別のスパイを放つ事で様子を見る事になった。
第二に肝心の王女の双子の姉をいつ始末するのかという事。
工作員は彼女の後を付けたのだが、彼女の魔法は四系統からなる基礎魔法が出来ておらず、学院内では魔法の使えない落ちこぼれに部類される存在だというのに、彼女は強者のみが所属を許される賞金稼ぎ部に所属しており、そこで毎日、賞金首を倒したり、捕らえたりして賞金を稼ぎ、それらの金を部活に入れているのだという。
彼女は確かに銃の腕前は良いのだが、魔法は基礎系統からズレたものだ。
基礎魔法から外れた魔法は魔力無しと判断されて落とされるのと聞くのだが、彼女の場合がそれだろう。
だが、一度だけ相手の魔法を奪って一度だけ自分のものにするという一度だけという制限が付きながらも、圧倒的に有利な筈だ。
ティファニー・シオングレイ少佐は彼女に関する母国への報告書の内容を記す中で思わず唸ってしまう。
報告を受けた後に祖国から金持ちの商社の家の一人娘という設定で転校生として派遣され、転校生として学校に潜り込んだのは良いのだが、上手く彼女を狙う機会がないのだ。
彼女単独ならば、容易に背後から撃ち殺す事は可能だろう。
実際、賞金稼ぎ部に潜り込んでから、他の荒くれ者どもや手配犯との銃撃戦や魔法を使用した戦いの隙を狙って、彼女を殺そうと狙ったのだが、その度に彼女の相棒のケネスなる男に睨まれてしまう。
特に一度失敗してからはティファニーを睨む目が尋常ではない。
明らかに警戒の目。敵を見る目だ。
やむを得ずに彼女は令嬢役である自分の従者として祖国から共に同行した監視役であるジェーン・グラントに殺しを依頼した。
彼女は帝国の敵を容赦なく殺害する首席死刑執行官であった。
最も、従来の死刑執行官の業務とは大幅に異なり、彼女の役割は市民の目の前で罪人を剣や斧で首で切る事ではなく、彼女にとっての死刑執行は帝国内の皇帝やその部下である幹部が決めた敵を密かに皇帝やその輔弼機関の住まわない巨大な属州や属国の中、或いは東側の国の属国で始末する事であった。
元々は彼女は海の向こう側の皇帝を自称する一族が住う国から家族と共に海を渡って亡命してきた後に両親の口減らしのために送られた奉公先のローズチェスター伯爵の側仕えのメイドとして仕えていた時に伯爵からの推挙を受けて死刑執行官に優先された人間だった。
伯爵は帝国内の死刑執行機関を担う機関の長であり、彼の爵位も土地も全て人を殺した得たものであり、彼はそこで同族を見つけたのだろう。
報告書には伯爵が嬉しそうな顔でスパイ機関の長に彼女を推薦する様子が記されていた。
彼女のメイド姿が妙に板に付いているのも、22歳という年齢で全てのものを手に入れ、『ゴースト』のスパイである自分よりも良い暮らしを出来ているのもその殺人の腕にあると言えるだろう。
銀に若干紫の混じった髪をした瀟洒の従者、令嬢付きの殺し屋でも彼女を始末するのは難しかったらしい。
夜の闇に紛れて彼女はシンディ王女の双子の姉、ウェンディを夜の帰り道、馬に乗っている所に狙いを定めたのだが、王女の双子の姉は予想以上に勘が良かったらしい。
ジェーンが銃を放つよりも前に彼女はジェーンに狙いを定め、彼女にかすり傷を負わせたのだ。
瀟洒な従者が遅れをとった事に困惑している隙を狙い彼女は馬に乗り、逃亡を図ったのだった。
完全に暗礁に乗り上げた暗殺計画を思案していく中でジェーンが人差し指を上げて、突然、部屋の中に付いてある台所で紅茶を淹れ、茶請けの菓子を持ってきた。
「お嬢様、お茶が入りました。それに菓子もどうですか?少しは休憩も必要かと……」
このメイド口調は彼女の素の口調だ。
長年ローズチェスター家にてメイド生活を重ね、任務が無い時でも自身の家でメイド仕事をしており、当局から派遣された監視役を主人役にしているためにこの口調が板に付いてしまったのだという。
彼女はティファニーよりも階級が上であるのにも関わらず、こうして本当にお嬢様に接するかのように接するので最初の方は彼女はどう言って接したら良いのか分からなかったのだが、本人であるジェーンが敬語を使う必要がないと言ったために、彼女はいつもお嬢様であるかのような口調で応対している。
この時も例に漏れずにそう接した。
ティファニーが紅茶に口を付けていると、メイド服を着た瀟洒な従者が口元の右端を吊り上げて、
「恐れながら申し上げます。お嬢様……お嬢様はもし、紅茶に何を混ぜたら確実に相手を殺せるとお思いですか?」
「……毒かしら?」
「ええ、お嬢様。想像してください。もし、私が淹れた紅茶に即効性の毒が入っていたとしたら……」
女スパイはジェーンの台詞から全てを察した。彼女は恐らくウェンディを毒殺するつもりなのだろう。
ティファニーは彼女に向かって微笑み返す。これならば、確実だと言わんばかりの顔を浮かべて……。
ウィンストン・セイライム王国に潜入したスパイスシーの向こう側に存在する巨大大陸、バームレリアの西側を支配する巨大帝国ブリタニアン帝国のスパイ、ティファニー・シオングレイは潜入先の学院の近く、自身の拠点となっている下宿の部屋で祖国への報告書を纏めながらそんな事を考えていた。
ティファニーがウィンストン・セイライムに潜入している目的というのはたった一つ、去年の十二月、各国の首脳が親睦を深めるために何年かに一度行うと言われるフォー・カントリー・ダンスパーティーに死亡したストロンバーグ元大統領が派遣した怪物が現れ、その怪物達が首脳達を襲ったという事件だ。
だが、事件はたった一人の少女の手によって引き止められた。ウィンストン・セイライムのお姫様は隠していた銃を持ち、勇敢に彼らと戦いついにストロンバーグとその手下以外の死者を一人も出さなかったのだという。
その後の共和国も結果的には彼女に救われたと言っても良いだろう。彼女は父である国王に懇願し、各国の首脳陣を守った褒美に共和国と戦火を交えない事、各国の和解の仲介事を約束させたらしい。
父は娘の進言を受けて共和国への宣戦布告を行う事なく、また怒りの感情に溢れた各国の王や皇帝を宥め、戦争への道を回避したのだという。
この情報を信頼するべき西側を支配する皇帝、エリザベス二世は危機感を募らせ、彼女の手駒である女王陛下お抱えの特殊部隊『ゴースト』に任せた。
この事件の詳細と恐るべき怪物をたった一人で倒した恐るべき王女の存在を。
プラネットは四ヶ月の間に情報収集を行い、ついにあのパーティーで首脳陣を守った王女様の正体と共和国の研究機関とを突き止めた。
『ゴースト』は僅か四ヶ月の間に王女が本当の王女ではなく、彼女の双子の姉だという事と共和国の研究機関が魔法アカデミーという機関の中に巧みに隠されている事を皇帝に報告したのだ。
全てが上手くいったように思われたのだがここで問題が発生した。
第一は共和国内の極秘の研究機関に潜入した工作員の一人、コードネーム、グリム・リィーパーと連絡が取れなくなったという事。これは共和国内の人間に殺されたのだと断定し、引き続きゴースト内から別のスパイを放つ事で様子を見る事になった。
第二に肝心の王女の双子の姉をいつ始末するのかという事。
工作員は彼女の後を付けたのだが、彼女の魔法は四系統からなる基礎魔法が出来ておらず、学院内では魔法の使えない落ちこぼれに部類される存在だというのに、彼女は強者のみが所属を許される賞金稼ぎ部に所属しており、そこで毎日、賞金首を倒したり、捕らえたりして賞金を稼ぎ、それらの金を部活に入れているのだという。
彼女は確かに銃の腕前は良いのだが、魔法は基礎系統からズレたものだ。
基礎魔法から外れた魔法は魔力無しと判断されて落とされるのと聞くのだが、彼女の場合がそれだろう。
だが、一度だけ相手の魔法を奪って一度だけ自分のものにするという一度だけという制限が付きながらも、圧倒的に有利な筈だ。
ティファニー・シオングレイ少佐は彼女に関する母国への報告書の内容を記す中で思わず唸ってしまう。
報告を受けた後に祖国から金持ちの商社の家の一人娘という設定で転校生として派遣され、転校生として学校に潜り込んだのは良いのだが、上手く彼女を狙う機会がないのだ。
彼女単独ならば、容易に背後から撃ち殺す事は可能だろう。
実際、賞金稼ぎ部に潜り込んでから、他の荒くれ者どもや手配犯との銃撃戦や魔法を使用した戦いの隙を狙って、彼女を殺そうと狙ったのだが、その度に彼女の相棒のケネスなる男に睨まれてしまう。
特に一度失敗してからはティファニーを睨む目が尋常ではない。
明らかに警戒の目。敵を見る目だ。
やむを得ずに彼女は令嬢役である自分の従者として祖国から共に同行した監視役であるジェーン・グラントに殺しを依頼した。
彼女は帝国の敵を容赦なく殺害する首席死刑執行官であった。
最も、従来の死刑執行官の業務とは大幅に異なり、彼女の役割は市民の目の前で罪人を剣や斧で首で切る事ではなく、彼女にとっての死刑執行は帝国内の皇帝やその部下である幹部が決めた敵を密かに皇帝やその輔弼機関の住まわない巨大な属州や属国の中、或いは東側の国の属国で始末する事であった。
元々は彼女は海の向こう側の皇帝を自称する一族が住う国から家族と共に海を渡って亡命してきた後に両親の口減らしのために送られた奉公先のローズチェスター伯爵の側仕えのメイドとして仕えていた時に伯爵からの推挙を受けて死刑執行官に優先された人間だった。
伯爵は帝国内の死刑執行機関を担う機関の長であり、彼の爵位も土地も全て人を殺した得たものであり、彼はそこで同族を見つけたのだろう。
報告書には伯爵が嬉しそうな顔でスパイ機関の長に彼女を推薦する様子が記されていた。
彼女のメイド姿が妙に板に付いているのも、22歳という年齢で全てのものを手に入れ、『ゴースト』のスパイである自分よりも良い暮らしを出来ているのもその殺人の腕にあると言えるだろう。
銀に若干紫の混じった髪をした瀟洒の従者、令嬢付きの殺し屋でも彼女を始末するのは難しかったらしい。
夜の闇に紛れて彼女はシンディ王女の双子の姉、ウェンディを夜の帰り道、馬に乗っている所に狙いを定めたのだが、王女の双子の姉は予想以上に勘が良かったらしい。
ジェーンが銃を放つよりも前に彼女はジェーンに狙いを定め、彼女にかすり傷を負わせたのだ。
瀟洒な従者が遅れをとった事に困惑している隙を狙い彼女は馬に乗り、逃亡を図ったのだった。
完全に暗礁に乗り上げた暗殺計画を思案していく中でジェーンが人差し指を上げて、突然、部屋の中に付いてある台所で紅茶を淹れ、茶請けの菓子を持ってきた。
「お嬢様、お茶が入りました。それに菓子もどうですか?少しは休憩も必要かと……」
このメイド口調は彼女の素の口調だ。
長年ローズチェスター家にてメイド生活を重ね、任務が無い時でも自身の家でメイド仕事をしており、当局から派遣された監視役を主人役にしているためにこの口調が板に付いてしまったのだという。
彼女はティファニーよりも階級が上であるのにも関わらず、こうして本当にお嬢様に接するかのように接するので最初の方は彼女はどう言って接したら良いのか分からなかったのだが、本人であるジェーンが敬語を使う必要がないと言ったために、彼女はいつもお嬢様であるかのような口調で応対している。
この時も例に漏れずにそう接した。
ティファニーが紅茶に口を付けていると、メイド服を着た瀟洒な従者が口元の右端を吊り上げて、
「恐れながら申し上げます。お嬢様……お嬢様はもし、紅茶に何を混ぜたら確実に相手を殺せるとお思いですか?」
「……毒かしら?」
「ええ、お嬢様。想像してください。もし、私が淹れた紅茶に即効性の毒が入っていたとしたら……」
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