王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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エージェント・ブリタニアン編

タイム・オブ・エンペラー

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スパイとして危険な任務に挑むのはお約束だ。だが、まさかここまでキツいものだとは思わなかった。
私の泊まっていたホテルに二人の男が現れた瞬間には思わず言葉を失ってしまう。ホテルに二人の男は私に向かって銃を突き付けた。
「ウェンディ・スペンサーは何処にいる?」
「その通り、ウチのボスはお怒りだぜ、オレたちの街で余計なトラブルを持ちこみやがってとな……」
昨日のトラブルはどうやら、この街のボス二人にも伝わったらしい。本当に面倒だ。部屋の木製の椅子に強制的に座らされた私は本当ならば、身動きの取れない状態なのだ。だが、彼らは知らない。
私の真の魔法を。真の特性を。
なぜ、私の様な入り立ての小娘が帝国の首席死刑執行官とコンビを組ませているのかを。
私は背中から黒い翼を生やし、それらの羽を目の前の男に向かって放射してから、窓を割り、その場を逃げ出す。
これが私の魔法『黒羽の淑女ブラックスワン』だ。
黒い羽で自由自在に空を飛び、その翼を敵対する相手に投げてダメージを与える。また、飛ばす羽を活用した攻撃もあるのだが、今はそれを使わなくても良いだろう。
窓を割って空中を逃げる私に対し、二人の男が窓から身を乗り出して銃を撃っていたが、私は翼を使用して空中を自由自在に飛ぶ鳥の様に交わしていく。
そして、近くの波止場の奥にある町の港の赤い煉瓦の倉庫の上に泊まり、そこで一息を吐く。
翼を用いて地面を降り、港の中を隠れながら進んでいると、騒がしい声が聞こえる。
どうやら、その声はこの事件における私の相棒、ウェンディ・スペンサーの行方を探すものらしい。
やはり、昨日の騒動が尾を引いているらしい。この場は申し訳ないが、彼女には上手く切り抜けて貰わねばなるまい。
最も、仮に彼女が死んだとしても私もジェーンも困る事などない。むしろ、敵が敵を殺してくれるという状況を神に感謝するかもしれない。
今は国家が彼女の抹殺を保留し、ララミー・ブラザーズの壊滅とこの港で行われるエテルニタとの取り引きの妨害を優先させている事から、手が出ていないだけで、今後も彼女が抹殺リストに載る可能性は充分にある。
だから、私もジェーンもそんな状況を嬉しく思うのだ。
そんな事を考えながら、港の倉庫と倉庫の間の誰も来ないような隙間の中に隠れていると一人の水夫と思われる男がたまたま私の事を発見したのか、突如、背後から声を掛けて、
「あんただろ?ホテルの窓を割ってこの港に逃げた怪物っていうのは?」
「怪物?失礼ね。あれは魔法の一種よ。最もあなたのような魔法を扱えない人間にはそう見えるのかもしれないけれど」
私は意識的に水夫を見下ろす言葉を口に出す。すると、水夫の顔が強張っていき、私の胸ぐらを強く掴む。
「テメェ~魔法の使えない人間の事を出来損ないだと?」
「そんな事は一言も言っていないのだけれど、被害妄想も大概にするのね」
私の言葉に片眉を動かす屈強な男。その男は私に向かって左手の拳を震わせていた。大方、殴るのを躊躇しているという所だろうか。
だが、こういった場合は先に手を出した方の勝ちなのだ。
私は躊躇う事なく男の股間を蹴り上げ、弱った隙を狙い男の髪を強く掴んで、
「少しばっかり、質問してもいいかな?どうしてお前たちはララミーに従うの?」
言葉は返ってこない。無言。無回答。尋問時の私の嫌う単語だ。目の前で蹲る男はそれを体現している。苛立った私は戯れに男の腹に向かって蹴りを入れる。
男は悶絶し、涙を流しながら先程の質問に言葉を返す。
「ら、ララミーは強いんだよ!歯向かっても敵わない!それにララミーに逆らえばオレらは消されちまう。だから、オレたちは不満に感じつつもララミーに従ってる……」
弱々しい言葉と共にあの男から発せられた言葉から私はこの男が嘘を吐いている事は無いと断定していく。
続いての尋問に移る。私は男の髪を強く掴んで、
「次の質問よ。あなたは取り引きについて知ってるわよね?ララミーが近いうちに行うと言われる例の取り引きよ。知らないの?」
「と、取り引きだって何の事だ?」
男が惚けた顔をしていたので、私は男の顔を思いっきり履いていた革のブーツで蹴り上げる。男は顔から鼻血と涙を流しながら頭を下げて私に命乞いを始めていく。
私が聞きたいのは命乞いではない。私が頭を蹴り上げようとした時だ。
私を静止する声が聞こえ私は咄嗟に足を地面へと戻す。目の前に私のメイドにして監視役、そして上司であるジェーン・グラントが訪れた。
「お嬢様、恐れながら申し上げます。そのお方の様子から察するに恐らく何も知らないでしょう。それにどうしてあなた様がここにいらっしゃるのですか?ホテルにて定例報告をお待ち下さいと指示を出した筈ですが?」
彼女の鋭い視線が私を突き刺す。彼女の不興を買ったのは明らかな事実だ。私は言葉を飲み込む。
彼女に対して言い訳が通用するかどうか、そんな事を考えていると彼女は私の元へと近付いていき、四日後の取り引きの事を伝えた。
そして、波止場から路地裏へと戻ろうと来た道につま先を向けた時だ。
私とジェーンの目の前に先程、ホテルに現れた二人が姿を表す。
二人のうち、猿顔の男がジェーンの前へと近付いて、
「おいおい、ボスの家の奉公人がどうして、こんな所にいるんだい?どうして、そのドブネズミと一緒にいるんだい?」
「あなたに答える必要はございません」
ジェーンは尖った口調で彼の元をすり抜けようとしたが、猿顔の男は彼女の肩を掴んで、
「おい、待てよ。この事をボスに知られたら厄介だろ?なら、それ相応の見返りをーー」
男が何かを言うよりも前に、彼女は有無を言わさずに男の喉へと足に隠していたナイフを突き刺したらしい。
男は悲鳴を上げる事すら許されずに血を流した喉を抑えて煉瓦の上に転がる。
それを見て焦るのは茶色の髪に眼鏡をかけた男。
彼は腕を強力な炎に包まれた腕へと変えていく。
あの男が自慢気に話した内容からあの腕が自分の腕を火に包ませてから、相手を直接攻撃する基礎魔法、肉体強化系の魔法だと知った。
だが、ジェーンは動揺する様子すら見せずに、ナイフを持ってあの男に切り掛かっていく。
男は炎の拳で彼女を殺そうとしたのだが、彼女は動じる事なく姿を消し、彼の背後へと姿を現し、振り向こうとする彼の喉を切り裂く。
鮮やかとさえ言える手口。見事としか言いようのない腕だ。
恐らく、彼女は私にさえ見えない魔法を使用してあの男を始末したのだろう。この世で確認されたのはたった三人しかいないとされる時間停止魔法を使用して……。
そう、書籍によれば、彼女の時間停止魔法の継続時間は時間にして二十四時間。
止まった世界で一日というのはおかしいがそれだけの間、彼女は世界を停止させる事が出来るのだ。
私は瀟洒な従者の恐ろしさを肌で感じた。
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