王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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エージェント・ブリタニアン編

美しき獲物を狙いしブリュンヒルデ

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あれから、三日の時が経つが、やはり、あの男は殺戮を続けている。本当に吐き気のする男だ。加えて、それが彼が匿名を使用し、ウェンディ・スペンサーが出てこないせいで住民を無差別に撃ち殺すと主張するものだから、悪質極まりない。
私は拳銃を構えてあの男の前に出ていきたい衝動に駆られるが、やめておいた方が良さそうだ。
私はこの赤煉瓦の倉庫の山積みになった荷物に隠れながら、これまでの三日間の事を思い返していく。
一日目は逃げている最中に私とピーターを連れ去った殺し屋が死亡したという噂を酒場の近くで耳にしていた。翌日には別のララミーの幹部が極秘に始末された事を知った。これは丁度、今、潜伏している倉庫の中で話している水夫の会話から聞いたのだ。
そして、今日、三日目の夜。この日、私はタイムリミットが迫っている事を知る。
あの二人を始末しなければ、翌日の取り引きの妨害には大きな影響が出る事は間違い無い。
あの男がこの町の住人を扇動し、あの二人への妨害を図るかもしれない。それどころか、あの二人をリンチにして殺すかもしれない。その場合、犠牲になるのはこの町の住民達。
正当防衛という大義名分を得た二人は容赦の無い鉄槌を下すに決まっている。
私はホルスターに存在する黒色の回転式拳銃を睨む。
一か八かこれを使って打って出るべきだろう。拳銃の弾丸があの二人の頭を貫けば、私は直ぐにでも勝てるだろう。
それに時間も迫っている。あの二人を一刻も早く片付けなければならない。
私は横になっていた穀物の袋の間から起き上がると、赤煉瓦の倉庫の入り口を目指す。
深夜だというので、人はまばらだ。港や波止場のあちこちに設置されている街灯に時たま、下働きの人間が照らされるくらいだ。
前はあの男が大声を上げたから、バレたのだが、今回は大丈夫だ。
私は街灯に照らされない闇を利用し、そのまま港から町の路地へと入り込む。
そして、あの蛇顔の男を探す。何処にいるのかは検討が付く。
あの匿名で町のあちこちの掲示板に貼られた紙には初めて私とピーターが連れて来られた場所、すなわちあの武器屋と廃墟の前に来いと告げられたのだ。
あの場所は港と町の入り口の中間の位置に存在する。そこで、決闘をしようというのだ。
私はかつての決戦の場所を見定めると、意を決して外へと出ていく。
男は何処に居るのだろう。私が首を回して男を探していると目の前に蛇顔の男が現れた。
あの嫌らしい男は獲物を狙う蛇の様な舌で唇を舐め回してから、
「ようやく来たか、ウェンディ・スペンサー。オレは首を長くして待っていたぜ、何せ、取り引きの期日は明日だからな、オレらを始末するのには今日が最適だと思ったんだろ?全く、何処で取り引きの日程が流れたのかは知らんが、好都合と言うべきかな」
男はホルスターに下げていた銀色の回転式拳銃を取り出す。
私に銃口を向けて引き金を引こうとした時だ。私と男の前に一発の銃弾がめり込む。
私が恐る恐る上空を眺めると、そこには建物の屋上から私を狙うビリーの姿。
ビリーは右手で長銃を、左手で拳を握って、真下の蛇顔の男を怒鳴り付ける。
「おいッ!その女はオレが殺すッ!邪魔はするなよッ!」
蛇顔の男はそれを聞くとヘラヘラとした生意気な笑顔を浮かべた後に近くの建物にもたれる。
彼は建物の壁にもたれつつも、右手に拳銃を握っている事から、もしもの時は容易に飛び出す事は間違い無いだろう。
注意した方が良いだろう。いざとなれば、いつでもあの男は背後を撃つのだから。
私は背後だけではなく、目の前に現れた蛾を睨む。
あの蛾を通してビリーはあの高所から引き金を引けるのだ。
そうなるとこの場で出来る事は一つだ。避け続ける事ではなく、目の前へと向かう事。
私は前へと向かって全速力で走っていく。当然、ビリーは私の考えを理解したに違いない。慌てて蛾を通して私に向かって目の前の建物から銃を放つ。
その度に私は前へと飛び上がったり、空中で弧を描いたりして華麗に交わしていく。
そして、あの男が銃を放っていた建物の入り口を開ける時に私はある事をしておいた。
そう左手の掌を向けてあの男の蛾を一度だけ自分のものにしたのだ。
私は一度だけ使える自分の蛾を使用し、三階へと飛ばす。
この建物はどうやら、昼間の間しか使われない海運会社の事務所であるらしいから、今、深夜に侵入しても問題は無い。
と、いけない。私は開いていた扉を慌てて締める。
扉を開けた先に存在するのは殺風景な部屋であり、扉を防ぐものなどはない。
だが、あの蛾から視界を奪うくらいになるだろう。
私は扉を閉め、そのまま階段を駆け上がっていく。
勿論、その途中で私があの男から奪った蛾を空中へと放ち、あの男の慌てる姿を眺めながら。
この蛾は単なる蛾ではない。この蛾を使用する人間にとってのもう一つの目となる存在なのだ。
この蛾は階段の上を私よりも早く飛んでいき、屋上の上で長銃を構える男の姿を映し出す。
声が聞こえないのが難点だと私は思った。
私は慌てる男の姿を観察しながら、階段を登っていくと、ビリーは自分の蛾が自分をロックオンしている事に気が付いたのだろう。
即座にもう一匹の蛾を屋上へと召喚し、私の出した蛾の目を防ぐ。
たちまち、私の視界に映るのは蛾の目だけになってしまう。
私は蛾の目の気持ち悪さに思わず視線を逸らしてしまう。すると、先程までの景色は見えなくなってしまう。
どうやら、あの蛾は一度でも意識的に視線を逸らしたりすると、もう使用者と視線を共有する事は出来ずに、消えてしまうのだろう。
これが、ビリーの魔法の弱点というべきだろう。
そんな事を考えていると、屋上へと通じる扉が見えた。私は躊躇なく扉を蹴破り、驚くビリーに向かって銃口を向ける。
「これであなたも終わりね。〈早撃ち〉なんて異名がある割には全然、大した事ないじゃあない?」
「くそったれ、この泥棒女め、オレの魔法を盗みやがって……」
「人の命を私を誘き出すために奪った人には言われたくないわね」
ビリーは私を見るなり長銃の銃口を私に向け、一方的な状況から、対等な状況へと場を変えていく。
あの男と私との間で火花が散るのを私は肌で感じた。
この国に古来から伝わる『決闘』で勝負を付けようという算段なのだろう。
私は銃を構えて勝負に備える。無限とも言える時間が流れたのだが、先にこの状態に耐え切れなくなったのはビリーだったらしい。いや、私の前に纏わり付く蛾の様子から察するに、何かチャンスでも掴んだのだろうか。ともかく、彼は長銃を向けて引き金に手をかける。
だが、私は腰ための状況から相手よりもす早く引き金を引き、相手の胸を貫く。目の前の男は口から血を吐いて屋上の上に倒れていく。
男が大の字になり、胸から溢れんばかりの真っ赤な液体を流している様子と私の周りに纏わりついていた蛾の状況から察するに、あの男は私との『決闘』に負けたらしい。
横たわる男は悔しそうに歯を噛み締めながら、私を睨む。
「……ちくしょう、卑怯な手を使いやがって……」
「卑怯?あなたの実力が無かっただけでしょう?」
私の言葉を聞くと彼は体を痙攣させ、悔しそうに手を前へと伸ばしていたが、やがて力が尽きたのか地面へと倒れていく。
ここに三日に渡り、無差別な狙撃を繰り返した悪党は葬られたのだ。
そして、遅れたようにあの蛇顔の男が現れ、悲鳴を上げる。
私はその男に銃口を向けて、
「状況は分かるわよね?今すぐに私の誤解を解きなさい」
蛇顔の男は顔から涙を流しながら、謝罪の言葉を口にしていく。
そして、彼の背中を銃で脅しながら、下へと降りていく。
夜明けまではまだまだあるが、この男と話していると退屈しなさそうだ。
私は別の世界の私のように悪い顔で笑う。

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