王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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プロジェクト・オブ・リヴァーサル編

プロフェシーという言葉から連想されるのは例に漏れずに不吉な事ばかりらしい

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帝国の王都を訪れたその日、私は現在の賞金稼ぎ部の部長、シェルトンと出会った。
彼女はホテルのレストランの前で熱心にハードカバーの本を読み耽っており、私が声を掛けるまでは気が付かなかったらしい。
だが、彼女は一瞬だけ顔を上げたものの直ぐに読書へと戻っていく。
トランクを下げた私は彼女に隣に座っていいのかを尋ねたが、彼女は何も言わずに黙って首を縦に動かすだけ。
私が彼女の目の前に座り、トランクを床に置いた後も黙って本を読み続けており、私が話せるようになったのは彼女が全ての本を読み終えてからであった。
彼女は私の方に向き直って、
「……ミス・スペンサー。用は何?」
「どうしてあなたがここに居るのかなって?」
彼女は暫く本の表紙を摩った後に、黙って私の方を見つめて、
「……悪魔が教えてくれた。聖夜の日に大変な事が起こるって……」
「大変な事って?」
彼女は悪魔から聞いたという情報を私に向かって話していく。どうも、彼女の聞いた情報は私がドリーム・ランドであの得体の知れない少年から聞いたのと同じ事だったらしい。
彼女は一通り喋り終えると今回の事件の黒幕の名前までも喋っていく。
黒幕の名前はジョナサン・グレンというらしく、彼は共和国内の特殊部隊を操り、帝国内に侵攻しているのだという。
その彼の潜伏場所は信じられない事に王都だという。
私はその情報に飛び付きたくなったのだが、いかせん数ヶ月前に彼女の使役する悪魔は国外に逃亡した過激派が私に復讐するのを見過ごしていたという前科がある。
今回も信用して良いものなのだろうか。私が思わず唸っていると、彼女は掛けていた眼鏡を直して、
「安心して、今回に至っては私の使役する悪魔はちゃんと起動している。あなたに迷惑を掛ける事はない筈……それに私だって血の聖夜なんてものは止めたい……」
彼女はそういうと本を脇に抱えて会計へと向かう。
あの会話から彼女も今回起きる予定の惨劇を止めにきたらしい。
私は後から運ばれてきたコーヒーを啜りながら、店を去っていく彼女の姿を眺めていた。
コーヒーを飲んでいると、私の前に帽子を深く被った黒いコートの男が現れた。
私はコーヒーを飲みながら、目の前の男を何気なしに眺めていたのだが、私の背後に銃を突き付けられてしまってはどうしようもあるまい。
目の前の男と同じ格好をした背後の男は私のお尻に銃を突き付けて、
「動くなよ。我々はニューロデム共和国の特殊部隊だ。キミとキミのお友達について話を伺いたんだけれども構わないよね……」
この男は口調こそ幼児に言い聞かせるような穏やかな物言いであるのだが、その裏にあるのは命令。要するに大人しく従えと言わんばかりの強迫観念。
加えてこの状態ではホルスターの銃を取る前にあの男の銃弾で私の臀部は撃ち抜かれてしまうだろう。
私は大人しく立ち上がり、私に密接する男の耳元の指示に従い、地面の下に置いた荷物の積もったトランクを持って店を後にする。
その上、ホテルまでも強制的にチェックアウトさせられてしまい、私は外へと連れ出されてしまう。
外に出た時に私は機会を伺ってその場から脱出しようと思ったのだが、二人の男に睨まれていては逃亡も反撃もできまい。そう考えて私は大人しくしていた。
その後に私はホテルの向かい側に存在する会社の中へと連れ込まれてしまう。
その会社の社名は『プロフェシー』
かつて、現在の大統領が大陸へと輸出しようとした怪物の名前ではないか。
どうやら、彼らはこの『プロフェシー』を隠蓑に帝国内での諜報活動を行っていたらしい。
彼らは微かな笑い声を浮かべた後に私を会社の中に押し入れて部屋の一室に監禁させた。
部屋はドリーム・ランドで私が閉じ込められたのと同じ部屋であり、丸い形の机が一台に椅子が二脚。そして白いシーツの掛かった簡素なベッドが一台あった。
だが、床も壁もあまりヒビが入っていないのは夢とは異なった。
私はそこに入るように銃を突き付けられたまま指示をされた後にホルスターとそこにある拳銃を渡すように指示を出された。
私は大人しく銃を男二人に預け、用意された寝台の上に座る。
部屋の中に閉じ込められた後に私はあの得体の知れない部長がどうなったのかを考えていく。
彼女の事だから、捕まる可能性は低い。例え、捕まったとしてもあの魔法や悪魔の力があるのならば、容易に抜け出せる筈だ。
私はそんな事を考えながら、ベッドの上に座り、正面の窓も何もない壁を眺めていると扉が開かれて食事を持った男が入ってきた。
男は乱雑に食事をテーブルに置くと私の荷物を調べようとした。
冗談ではない。せめて調べるにしても男にだけはやってもらいたくない。
私がその旨を告げると彼は無言でその場を後にしてその後で一人の女性が現れた。
長いカールの掛かった髪が胸のあたりにまで伸びており、その古代の女神を思わせるような美顔を併せ持てば直ぐにでも男は鴨になりそうだ。
彼女は丁寧に頭を下げてから、私に向かって言った。
「初めまして、ミス・スペンサー。私の名前はドミノ・ラルゴ。生えある共和国特殊部隊の隊長よ。そして、こちらがエミリオ。私の甥よ」
先程部屋を出て行った男はもう一度、こちらに戻ってきて、帽子を手に取って私に向かって深く頭を下げた。
男は短い金髪ではあったが、その顔は古来の彫刻を思わせる程の美しさを放っており、彼の体全体からは女性を寄せ付けるオーラを放っているかのように思われた。
このような美女美男子がどうして共和国の特殊部隊などに務めているのだろう。
私が疑問に思っていると先程のエミリオという男が口元の右端を吊り上げて、
「どうしてって言いたそうな顔をしているから教えるけれども、別段、不思議な事はない。オレと叔母の二人は自らこの道を選んだだけ、要するに好きでこの道に入ったんだよ」
「もういいでしょう?エミリオ。あなたは下がりなさい。じゃあ、お嬢さん……早速で悪いけれどもあなたの荷物をチェックさせてもらうわ。脱走防止のためだから、下手にいじったりはしないわ」
彼女は妖しく笑いながら言った。エミリオが出て行くのと同時に彼女は私の荷物をチェックしていく。
容赦なく荷物を床の上に並べた後に点検が終了した後に全て元の鞄に戻していく。
彼女は私に向かって向き直って、
「もう良いわよ。あなたの荷物には異常はなかったわ。じゃあ、決行の日まではここで大人しくしてて頂戴ね。安心して、終わった後に解放してあげるから……」
彼女はそう言うと扉を閉めて部屋を後にしていく。
だが、彼らの作戦が決行されてからでは遅いのだ。彼らが決行に至るまでに作戦を中止させなければならないのだ。
私は何としてでもここを出るという決意を固めていく。
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