王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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プロジェクト・オブ・リヴァーサル編

闇の中に輝く王冠

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意味深な台詞を吐く先輩を背負って私は一刻も早くこの城の門の前から立ち去ろうと心に決めた。
この後に城の警備の兵士たちがやって来るのは必然であろうし、何よりも彼らに取り調べられては大変だと判断したからだ。私が部長を連れ出してこの場から脱しようと思った時だ。
私の目の前に去年慣れ親しんだ顔。得体の知れない不気味な笑顔が私の前に浮かぶ。
「あららぁ~どうしたのかな?かな?二人ともまるで死人でも見たかのような顔をしているよぉ~」
死人でも見たようなという揶揄は正しくない。正確に言えば本当に死人を見た気分なのだ。だが、彼女はそんな私たちの意思など無視して話を進めていく。
「あっ、二人とも私がどうしてここに居るのかを知りたいんでしょ?実はねぇ~私が頼んだの。ドラッグス大統領閣下に……少しラルゴたちが心配だから、私が見張りに入りたいってね。そうしたら、二つ返事でオーケーしてくれたんだぁ~」
彼女はまるで寄り道を母親に許された少女のような何ともない調子で言ってのけた。私は問いたくなった。この会長の頭の中に何があるのかを。
だが、彼女は肩透かしをした私を置いて話を進めていく。
「でね、私は物陰に隠れて事件の裏を見てたんだぁ~やっぱり、すごいね。ミス・スペンサーはウィリアム・ウィルソンの事件の時と同じようにあっという間に……いや、今回は殆どミス・シェルトンのお陰かぁ~あなた、殆ど出番無しでしょ?可哀想に」
私は元生徒会長がこれ以上余計な事を喋る前に拳銃の銃口を向けて本題を切り出す。
彼女は目を丸くしてニヤニヤとした表情で私を笑いながら言った。
「やだなぁ~何処に居たのって?そりゃあ、共和国に決まっているでしょ?そこでドラッグスを大統領にするための努力をしていたんだ!それにしても、あの男が賢くて良かったよ……もう少し頭が悪かったら、私の頭でもーー」
もういい。これ以上は喋るな。そんな思いを込めて私は引き金を引く。
彼女は明らかな不快感を示したらしく両方の眉を大きく寄せて私を見つめていた。
「何をするのかな?かな?人が話している最中に銃を放つなんてどんな神経をしているんだろう?」
彼女の声には明らかに怒気が混じっていた。今までの彼女からすると考えられない程の反応だ。
だが、直ぐにいつもの笑顔を浮かべて私の元へと駆け寄る。
私の前に現れて私の目の前に拳銃の銃口を突き付けて言った。
「無駄、無駄、私はね知ってるんだよ。あなたの頭がものすごーく悪いって事。それに、未だに基礎魔法も使えないって事もね。そんな落第生のあなたがどうして、優等生エリートの私に勝てるのかなぁ~」
元生徒会長の言葉は明らかに私を揶揄するものであり、普段、私に向かって陰口を叩くエリートたちと同じ言葉であったのだが、彼らとの決定的な違いは彼らが普段は私が通る最中に仲間同士で言い合っているだけであるのに対し、彼女は私の目の前で堂々と言ってのけたのだ。
それも彼女はいたずらがバレた子供のように舌を出して。
私は恐ろしい。この女の不気味さが、底の知れない恐ろしい感情が。
私が呆然としていると、撃鉄の立てる音が私の耳の前で鳴り響く。
すると、シェルトン部長の放った悪魔が彼女に向かって襲い掛かるが、彼女はそれを呆気なく避け、僅かな間に彼女の背後へと回り込む。
そして、彼女の背中に拳銃を向けて彼女の悪魔を引っ込めさせた。
この一連の動きは帝国首席死刑執行官のジェーン・グラントと全く同じ動きだ。
そういえば、一年前、ウィリアム・ウィルソンの屋敷に乗り込んだ時だ。
彼女はそこでジェーンと同様に気が付かないうちに見張りの男たちを倒していたではないか。
ならば、彼女の扱う魔法と帝国の首席死刑執行官が使う魔法は全く同じものだと結論付けても良いだろう。
だが、この恐ろしい魔法の正体は未だに掴めない。
嵐の夜に手を伸ばしても暗雲のように不明。
すると、元生徒会長は長いオレンジ色の髪の女性は髪をかき上げて、
「やっぱり、落ちこぼれだねぇ~ミス・スペンサー。仕方ないから、教えてあげる。私の扱う魔法はです。時間を停止させる魔法だよぉ~」
その瞬間に全てを理解した。彼女はこの時間停止魔法を使用して生徒会長としての武の実力を掴み取ったに違いない。
彼女は人差し指で空中を撫でながら言った。
「それにね、私の止められる時間は計24時間。停止した時間を数えるのにそう表現するのもおかしいと思うけれど、とにかく一日よ。それだけの時間を私は止められるの」
クラウン元生徒会長はそう言って私の元へと近寄っていく。
彼女は懐から二連式の拳銃を取り出してその銃口を私に向ける。
「じゃーん、ミス・スペンサーに問題です。これはなんでしょうか?何なのか分かったら、その可愛らしいだけの顔で教えてね。あなたの顔で何をこれで何を連想させたのかを当てるから」
今の私の顔はどうなのだろう。青ざめているのだろうか。血の気が引いているのだろうか。
彼女が握っている拳銃はかつてウィリアム・ウィルソンが使用したのと全く同じ拳銃であり、それを受ければ二日間かけて心臓に辿り着くという性質タチの悪い小型拳銃と同一の物だ。
元生徒会長は顔を青くして限界にまで眉を寄せる私を見て大きな笑い声を上げる。
「その様子だと分かったみたいね。なら、問題を当てた落第性にはご褒美です。私から鉛弾のね……」
彼女が引き金を引こうとしたまさにその瞬間だ。ようやく背後の宮殿から大軍が駆け付ける音が聞こえて彼女は背中を向けて後方へと走り去っていく。
倒れていた私と部長はそのまま宮殿の兵士たちに保護されて宮殿の医務室にまで連れて行かれた。
幸い、部長も私も大きな怪我が無かったためか医務室で適度な治療を施されるだけで済んだ。
そして、その後に宮殿内にて尋問を受けてこれまでの事を説明していく。
この事態は全てニューロデム共和国が引き起こした事、その裏にウィンストン・セイライムのクラウンがいる事。
彼女の名声は帝国にも届いていたのか、それとも昨年の会合式で父が皇帝に話していたのか、尋問官は信じられないと言わんばかりの表情で私を見つめていたが、私と部長の真剣な顔を見て信じたらしい。
その直後、全ての事を話し終えてその場を去ろうとした時だ。私の前に一人の青年が立ち塞がった。
「おい、ウェンディ。その話は本当か?」
「ええ、本当よ。ケイレブ」
フォー・カントリー・クロスレースで対峙した騎手であり、私と親交を深めた帝国の生徒。
ケイレブはどうやら、ここでたまたま皇帝に新たに挙げた成果の事を語っていたらしい。
どうやら、騎手としてもう一度輝き始めたらしい。祝福をしたい気持ちであったが、今は言っている場合ではない。
私は真剣な顔を浮かべて言った。
「話があるわ」
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