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プロジェクト・オブ・リヴァーサル編

白亜の騎士団

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私の真剣な顔で彼は理解した。現在、クラウン元生徒会長が共和国を巻き込んでの大きな混乱を世界に巻き起こそうとしている事。そして、その計画を私たちが止めなくてはならない事を。
ケイレブは立ち話ではあるのだが、彼は一字一句とも漏らす事なく聞いており、全てが終わった後に深く首を頷かせて、
「分かった。今後はオレからも皇帝陛下に言っておこう。今後はあの女に注意しろとな……」
「ええ、そうしてくれると助かるわ。今の彼女は本当に戦争でも起こしかねないって事を……」
ケイレブは私に向かって首を縦に動かしてその場を去ろうとしたのだが、その前に私は大きな声で彼を呼び止めた。
彼はその言葉を聞いて振り返る。
「待って、あなた覚えてる?少し前のあの劇団『ダヤン』の狂った団長の事を……?」
「あの太ったゲスな親父か?お前を侮辱した……あいつがどうかしたのか?」
「……あなた、覚えている?そいつを倒した時にその時に変な光が空中へと飛んでいったのを……」
ケイレブは少しばかり頭を過去へと向けてから、私の方に改めて向かい合って、
「あぁ、それがどうかしたのか?」
「今度の混乱の正体はあれなのよ。いや、正確に言えば、その光の仲間とも呼べる存在が攻撃を仕掛けてくるのよ」
「……そうか」
ケイレブはそう言って私に背を向けて去っていく。私は何か声を掛けるべきかと考えたのだが、やめておく。
まさか、別の世界の記憶があるなどと聞くわけにもいかないだろう。
彼は確かに別世界では勇者だ。邪悪な王女を倒し、王国に迫害されたエルフを救った優しくて勇敢な勇者。
だが、この世界では帝国の騎手だ。今の彼の頭には私と違ってそんな忌々しい記憶など存在しない。
だから、声を掛けないのだ。彼はそんな事は忘れて過ごすべきなのだ。
私はその事を胸に収めてから、隣で待っていた部長に声を掛けて宮殿を後にした。
見事にテロを阻止したものの、これからやる事は山積みだ。
学院に帰れば、この事を仲間にも話さなければならないし、下手をしたら妹にも話して……。
いや、あの子をこんな事には巻き込みたくはない。私が頭を抱えていた時だ。
私が馬車の中で街で買った新聞を読んでいた時に不吉な文字が映る。
『山奥にて五体の白骨死体見つかる。この遺体のうち、三体は遺品から国軍所属の兵士と判明』
と、書かれていた。私が新聞の見出しから顔を離すと隣に座っていた部長は首を縦に動かす。
「……犯人は恐らく過去にあなたが逮捕した強盗グループ。彼らの潜入の目的は国軍の所有するガトリングガンの奪取……それにあなたへの復讐が目的だと思われる」
どうやら、過激派は国軍の人間と入れ替わって私への復讐をする気らしい。
私が新聞紙から目を離した時だ。彼女は私に伏せるように大きな声で指示を出す。
私が咄嗟に頭を伏せると突然、私の頭の上に雨のような銃弾が流れていく。
どうやら、先程の過激派の襲撃らしい。
どうやら、彼らは私を倒すためならば容赦しないらしい。
駅馬車が転がり、私と部長は地面の上へと投げ出され、馬とその御者が身体中に銃弾を受けて倒れている姿を見て私は思わず叫んでしまう。
「ッ、ド外道がァァァァ~!!!!」
「……今はそのような事を言っている場合ではないと思われる……伏せて」
彼女の指示に従い倒れた駅馬車の下にしゃがんで次の弾幕を交わす。
私はホルスターに下げていた拳銃を取り出して思わず唸ってしまう。
ダメだ。この銃では勝てる筈がない。駅馬車の上方向。二頭の馬に引っ張られたガドリングガンと三人の命知らずの強盗が相手では流石に部が悪い。
私が下唇を噛んで悔しがっていると、彼女の悪魔が抜け出し、ガトリングを操る男を殺していく。
突然、仲間が殺された事により、強盗グループは相当に慌てたに違いない。
別の仲間が滅茶苦茶にガドリングを乱射している事に気が付く。
だが、彼女の操る悪魔はガドリングに触る者には容赦する気は無いらしい。
もう一度、男の断末魔が草原の中に響き渡る。
私はそれを聞くと倒れた馬車の上へと飛び上がり、表へと出て行く。
最後の敵はどうやら女性だったらしい。長い茶色の髪をした軍服を着た芋のような顔をした女は懸命に軍用の長銃を乱射していく。
だが、心の籠もっていない弾丸など当たるわけがない。
私は大きな声で叫んで銃弾を放つ。
「このド外道がァァァ~!!!!」
彼女は懸命に長銃を撃っていたのにも関わらず、たった一発の私の銃弾の前に倒れてしまう。
私はやっとの思いで倒した彼女を見つめる。少しだけ胸が痛む気がしたが、撃たなければこちらが撃たれていた。
仕方がない事だ。私はそう言い聞かせて部長の元に向かって行く。
部長はガドリングを捨てた後に馬車に乗るように指示を出し、馬車を運転して森の中を走っていく。
その後、私は無事に学院前の街に到着した後にまず、ピーターやボニーに一連の事を伝えた後に冬休みで帰っている仲間たちに向かって電報を出していく。
その結果もあり、里に帰っていた仲間たちは一日だけ戻るという旨を添えた電報を送ってこちらに戻ってきた。
八人の仲間たちは私の元に集まってくれ、その後に先輩の呼んだ賞金稼ぎ部の勇士たちを集めての会合が学院前の酒場にて行われた。
酒場での話し合いはかなり遅くまで続けられ、話し合いの末にケネスは席から立ち上がり、拳を振り上げて言った。
「……良いか、オレはここに一つの結論に達した。我々はここに誉れあるスペンサー公爵家の令嬢、ウェンディ・スペンサーの元に集いし、同志にして今後の戦いにもし、敵国の軍隊同士がぶつかる場合にはその間に介入し、我々の手で戦争を阻止する正義の騎士団の樹立をここに宣言する!騎士団の名前は『ウェンディ騎士団』!異論があるのなら、手を挙げてくれ」
その質問に対して真っ先に手を挙げたのは私だった。私は自分の名前が挙げられている事に対して抗議の言葉を浴びせていくのだが、彼は素知らぬ顔で話を続けていく。
だが、その次にマーティが挙げた意見を聞いて彼は思わず口元の端を吊り上げて、
「どうせだったら、騎士団の前は『白亜の騎士団』っていうのは?どう?うん、悪くない。ウェンディの魔法にちなんでか……面白い」
その言葉に私のために集まってくれた仲間たちのみならず部長の呼び出しにより、その場の勢いのためか、はたまた本当に面白いと考えたのか、馳せ参じた賞金稼ぎ部の勇士たちまで同意し、その騎士団に入団する事を決めていく。
王立魔法学院賞金稼ぎ部はスペンサー公爵家の令嬢、ウェンディ・スペンサーの騎士団を兼任する事をシャステル部長からその場で新たに任じられ部長になり、尚且つ騎士団の団長も兼ねる事となったケネス・ローエングリンが承認した。
私は頭を抱えて抗議の言葉を述べようとしたのだが、それ以上に仲間たちの心意気が嬉しかったので何も言わないでおく。
それに、賞金稼ぎ部の部員が白亜の騎士団の団員を兼ねている事は学院にも内緒なのでバレはしないだろう。
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