王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
193 / 211
ムーン・アポカリプス編

魂の色が何なのかは人類が永遠に突き詰めていかねばならない課題なのではないのだろうか

しおりを挟む
私は迷う事なく引き金を引いて男たちが倒れていく光景を瞳の中に映していく。
長銃を持った男たちは私の前に次々と撃ち殺されていき、その場に倒れていってしまう。そして、私が足を踏み出そうとした時だ。
突如、私の目の前に銃弾の弾丸がめり込む。
私が背後を振り返ると、そこには先程の女が拳銃を構えて立っていた。
だが、奇妙なのは彼女の表情だった。彼女は怒るどころか、眉さえ寄せていない。
むしろ、彼女は子供の他愛無い悪戯を褒める母親のように和かに笑っていた。
「先程の手口は見事だったわ。ミス・スペンサー。まさか、虫籠をこの私にぶつけてくるなんて思ってもみなかったわ」
「本音でも無い事をペラペラと……よくもそんな事が言えるわね」
「いやねぇ~本当の事よ。あんな手段で私の拷問を耐えたのは貴女が初めてよ。褒めてあげるわ」
彼女は無邪気な様子で可愛らしく両手を叩く。
元会長とは別の底の知れない恐ろしさを感じる。
彼女は容赦する事なく部下を集めていく。
彼らは長銃を構えて私を狙う。私の前に彼女の部下だと思われる男たちが現れて再度、私の周りを取り囲む。
「どうかなぁ~お姉さん。貴女のその拳銃の中にある銃弾にも限界があるんじゃあないの?」
彼女の指摘は的を射ていたというべきだろう。実際に私の弾倉に残っているのは数発程度だろうか。
これ以上は敵の武器を奪うか、或いは敵に同士討ちを喰らわせるかの二択だが、生憎とそのどちらもあの女はさせる気はないだろう。
代わりに、私はある提案を行う。
「私と『決闘』を行いなさい!そうして、この戦いに決着を付けるのよ!」
その言葉に彼女の頬の肉が僅かに引きつるのが確認された。
だが、直ぐにもう一度あの笑顔を浮かべて、
「いいわよ。あなた達は手を出さないでね。私はあの娘と一対一の決闘に臨むんだから……」
彼女はもう一度、私の元へと足を踏み出していく。
一歩、一歩、その足音が聞こえてくる。私は思わず息を飲む。
同時に彼女は夜の闇に隠していたのか背後から大量の虫を繰り出す。
予想した通りのあの嫌悪感をそそられる虫に多くのトゲのある細長い形をした虫やら人の生き血を吸う小さな羽虫までもが全てで揃っていた。
彼女がもし、あんなレディという形容詞がピタリと似合うほどの美人ではなかったのなら、ここまでの乖離感を感じをしなかっただろう。
私は思わず拳銃を構えて小さな専制君主の前へと向かう。
私は左手の掌を広げてあの虫たちがこちらに向かうのを目撃した。
虫たちの第一陣とも呼べるべき数がこちらに向かって飛び掛かり、私は思わず怯みながらも左手の掌を広げて虫たちを操っている魔法を逆に奪い取り、哀れな虫たちを本来の主人の元へと向かわせていく。
だが、彼女は余裕の表情を浮かべて自分に向かってくるかつての下僕どもを迎え入れたのだった。
彼女は新たに用意した第二陣の虫たちを最初の虫たちに向かわせて互いに殺し合わせていく。
その最中にも彼女は人差し指を舐めて体を震わせていく。
あまりにも不気味な様子だ。彼女は何をしたいのだろう。私が彼女を眺めていると彼女は舌を出して申し訳なさそうに自分の手で軽く頭を叩く。
「ごめんなさいねぇ~こういうシチュエーションが好き過ぎてね。私には耐えられなかったのよぉ~考えてもみてよ。虫と虫とが、動物と動物とが、そして人と人とが殺し合う姿を……素敵だと思わない?同族であるのに、強者に生殺与奪の権を取り上げられて、涙を飲みながら、殺し合う姿を……ウフフフフ、素敵だと思わない?」
私は自分の雪のように白い肌を右手の指で撫でながら、頬を赤く染める姿に恐怖を感じてしまう。
彼女は何を考えているのだろう。彼女は唇の周りを舐め回して言った。
「ねぇ、女の子の魂ってどんな味がするのか今度こそは私に分かるわよね?」
彼女は何を言っているのだろう。唖然たする私や彼女の部下を他所に、彼女は幼少期の話を勝手に始めていく。
彼女はこの裏街で生まれ育ち、その際に生き延びるためには何でもやったのだそうだ。その過程で一緒にパンを掻っ払った同い年の少年が死んだのを目撃し、その際に白い光が宙へと昇っていくのを見たのだという。
そのまま呆然と天を眺めていると、パン屋の店主の親父が現れて彼女を殴り殺そうとしたのだそうだ。
驚いた事に、彼女はそこでは死ななかったのだそうだ。そう、パン屋の親父の足元にたまたま動いていた例のトゲのある虫が彼を服の上から刺して彼を倒れさせたのだそうだ。
彼女はその瞬間に確信したのだという。自分の魔法の特性を。自分の魔法を優位に進める方法を。
彼女はその後、ハーモニカの吹き方に熱を入れ、多くの虫を集める事に全神経を注いだのだという。
そして、集めた虫を使用して街の裕福な家にそれを放ち、その後に法外な値段での虫退治を試みるのだそうだ。
そして、そんなインチキ商売を続けて学費を稼ぎ、学問の道を極めて、王立魔法学院を卒業した後にウィンストン・セイライム大学にまで進んだのだそうだ。
そこで彼女が学んだのは魂についての授業だった。魂を調べていくにつれ、彼女は男の魂の事は文献と幼い頃の体験から理解し得たのだが、女の子の魂というのは理解できなかったのだそうだ。
様々な文献に論文を読んだり、更には虫を使用しての実験を重ねたのだが、成果は出なかったという。
そして結論に至ったのだ。実験を極めていけばいつかは本当の女の子の魂に出会えるのだと。
そんな野望を胸に抱きつつ、彼女は裏街へと帰還し、商売を始めたのだという。
彼女は地下組織いや、裏組織『サラマンダー』の動きを徹底的に研究し、着実に目立たないように勢力を広げたのだという。
そして、王都の裏街にのみ勢力を広げて今や、彼女は暗黒街の女王だと自慢し始めた。
そして、もう一度掌を舐め回しながら言った。
「ねぇ、貴女の魂の色を教えてよ。ミス・スペンサー」
私は銃を構えて彼女と対峙する。彼女の背後には無数の虫が存在する。
逃げようとしても周りには彼女の配下。
絶体絶命とはこの様な状況の事を言うのかもしれない。
銃が直ぐにでも直撃すれば良いのだが、外れれば彼女が直ぐにでもあの虫で私に報復を行う事は明白だ。
どうすれば良いのだろう。一か八かの可能性に賭けるしかない。
私はそう決意して目を見開いて彼女の急所に向かって拳銃を放つ。
弾丸はそのまま彼女の眉間へと飛んでいくものかと思われた。
だが、弾丸は彼女の背後の壁にこそ当たったものの彼女には当たらなかった。
お終いだ。私は思わず下唇を噛み締める。
そんな私を彼女は上から見下ろしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...