王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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ムーン・アポカリプス編

フォー・カントリー・クロスレースまでの数ヶ月間

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あれから一ヶ月が過ぎた。
まず、例の粗悪品の拳銃の件について言わせてもらうと、あれは完全に摘発され、王国内のルートは保安委員の活躍により一網打尽にされた。
あれで、多くのギャング団が関与を疑われて牢獄に捕らえられたらしい。
保安委員からすれば、これ以上、違法な拳銃に悩まされなくて済む上に、暴力団を潰せる事が出来るのだ。願ったり叶ったりと言った所だろうか。
勿論、王立魔法学院は新入生を迎え入れ、例年通りに入学式を済ませていた。私は三年生になり、普通の大学への受験のために三年生は体術の授業は行われない事を知った。
つまり、常に座学の状態が続くのだ。辛い事だが仕方あるまい。私はそう自分に言い聞かせて座学の授業に集中していく。先輩たちも通ってきた道なのだ。私が頑張らなくてどうするのだ。
そう言い聞かせて私は懸命に難しい内容を頭の中へとインプットしていく。
勿論、授業外の時間は例の生物や共和国に対する勧告も忘れなかった。
出来る事から始め、私たちはニューロデムに関する情報を集めていき、彼らの計画の始動ポイントを探しにいく。
それだけではない。賞金首にもニューロデムの息の掛かった相手がいないのかを探していくのだが、彼らは殆どが関係の無い凶悪犯であり、過激派である。
溜息を吐きながらも、賞金稼ぎ部の活動の一環として彼らを捕らえたり、撃ったりして保安委員に引き渡す。
そして、その後に一年生を除く賞金稼ぎ部の部員兼白亜の騎士団のメンバーと共に今日の日の収穫を話し合う。
だが、誰も首を横に振る。その後に成果を話し合った後に解散となり、自宅で風呂に入り、学習をして就寝というのがここ最近の流れである。
レースの最終日までに何とか情報を集めておきたいのだが、どうも上手くいかないらしい。
当然、部室内でもトラブルは起こる。やはり、新しい一年生はエリート意識いっぱいに固まっており、〈杖無し〉の先輩を見下し、蔑んでおり、中には賞金首の賞金を偽って着服していたものさえいた。
当然、ケネスは部長権限でその人物を退部にしたのだが、翌日に彼はそれを曲解した形でクラスメイトに伝えて部室の前に押し寄せていた。
これにはケネスも他のメンバーも面食らってしまっていた。
そこで彼はある一つの提案に打って出る事にしたのだった。
彼は先程、トラブルを起こした生徒に向かって言った。
「なぁ、これ以上は話していてもラチがあかん……そこでだ。お前とオレとで『決闘』を行わないか?」
その言葉に彼は頬の筋肉をピクピクと動かしながら叫ぶ。
「いいだろうッ!〈杖無し〉の落ちこぼれがッ!その身の程知らずに相応しい厳罰を教えてやろう!」
彼はそう言ってケネスを連れて部室の外へと出て行く。
二人は校庭の中で決闘を繰り広げた基礎魔法空間操作系統の魔法を操る新入部員は中々に強かったのだが、ケネスの方が一枚上手であった。
彼は空中に向かって引き金を引いて彼の両足を震わせる事に成功し、そこで彼は予想だにしない行動に出た。
何と、『決闘』を行う相手に向かって拳を振り上げたのだ。拳を受けた彼は拳を喰らわされて地面の上に叩き込まれてしまう。
男は頬を撫でながら、立ち上がってケネスを睨んだのだが、ケネスはその彼よりも強い瞳で彼を睨んで彼を怯ませた。
他の一年生全員が倒れた彼を介抱し、このような方法を取ったケネスを怒鳴り付けた。
「ちくしょう!この〈杖無し〉野郎!魔法で勝てないからって拳を使うなんて卑怯だぞ!」
「そうだよ!あいつ、卑怯な手を使って勝利したんだッ!第一、『決闘』で拳を使うなんて卑怯だよ!ルール違反だッ!」
女子生徒の言葉に集まった一年生たちが「卑怯」という単語の大合唱を始めていく。
それを見た彼は口元の右端を吊り上げて、
「卑怯だと?エリート様というのは本当におめでたい器をしているんだな。逆に聞くが、『決闘』で拳を使ってはいけないなんてルールはあったか?」
その言葉に集まった一年生たちが黙っていく。当たり前だ。決闘の武器については細かなルールが定められていない。
だから、拳銃と魔法を用いての可もされているし、或いはそのどれか片方を用いての決闘も過去には多く見られる。
だが、そこに拳を使って決闘に臨んだ人やましてや勝った人間などはいなかった。
当たり前だろう。魔法や銃といった効果的な武器があるのに、どうしてそんなものを使うのだろう。
だから、知らず知らずのうちにみんなは決闘に拳は用いなくなっていったのだ。
ケネスはそれを久し振りに蘇らせただけに過ぎない。
集まった一年生たちは勿論、私や部員たちも口を開けてその事実を思い返していた。
その翌日には悪しきエリートたちは部室を訪れなくなり、代わりに良識を持ったエリートや賞金稼ぎ部に憧れを持つ落ちこぼれたちも現れた。
ケネスはそんな部員たちにも心良く入部を許可し、気が付けば部員の数は総数で五十名以上となっていた。
こんなに数が増えたのは初めてだと言っても良いかもしれない。
新入部員たちは暫くして『白亜の騎士』の事や公爵家の令嬢の事も知り、その中の何人かが騎士団に加わる事を決めた。
こんな調子で夏休みまでの日数は僅かとなり、私は意を決して夏の計画を酒場の中で話す。
すなわち、『フォー・カントリー・クロスレース』に一選手として潜り込み、ゴールでのニューロデムの悪行を暴くという行動だ。
「なるほど、選手か……」
ケネスは顎の下に人差し指と親指を置いて考え込むような様子を見せていた。
「ええ、みんなには観客として同じ時期に各地を回って欲しいの。ダメかしら?」
「ダメなもんかよ!オレたちの手で共和国のスパイどもを駆り出してやろうぜ!」
その言葉に集まった部員たちが同じタイミングで首を縦に動かす。
その後にクラリスが手を挙げて提案した。
「引退した先輩たちも呼ぶのはどうかしら?先輩だったら、私たちよりも夏の暇を持て余していると思うから、呼び出しやすいと思うの」
その言葉に集まった全員が首を縦に動かす。一年生は先輩たちの顔を知らないが、私たちから噂を聞いていたので大丈夫だろう。
私は覚悟を決めて手に持っていたジョッキに入っていたバーボンを飲み干す。
その姿を見て後輩たちが目を丸くしていた。
私は口を拭って先に屋敷へと戻っていく。いよいよ、来週なのだ。運命を決めるレースは。
前回のレースのように上手く事は運ばないかもしれない。それこそ、ニューロデムが国力を挙げて私を叩き潰そうとするかもしれない。
だが、構うものか。私は前へと進む覚悟を決めたのだ。
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