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ムーン・アポカリプス編
ウロボロスの棺
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クラウン元生徒会長はいや、今やクラウン首席大統領補佐官へと就任した紫色のドレスを着た彼女は机の側に紅茶を置き、時たまそれを味わいながら、自身の執務室で熱心に大統領の演説の校正を行なっていた。
彼女が熱心に誤字やら脱字やらを訂正したり、小難しい表現を大衆にも分かる簡単な文字に変えていたりした時だ。
彼女の目の前に一人の若い男が現れた。若いと言っても彼女よりも十歳以上も年上の男だった。だが、彼は彼女の部下であった。なぜならば、彼女は史上最年少の共和国の政治家であったからだ。
恐らく、共和国の歴史の中でも、いや神話時代からの歴史を辿っても十代で国政に携わる人間は殆ど居ないだろう。
十代で国王になった人間は居たとしてもそれは周りの優秀なサポートがあるからであり、彼女の様に年下の政治家よりも仕事をする人間など少ないだろう。
この男の特徴は尖った顎と小動物を狙う肉食獣の様に鋭い視線を持つ彼は自身の上司である少女の私生活を知らない。
彼は気になっていたのだ。いつもの執務が終わった後に彼女が何処に行くのかを。
彼は思い切って彼女に尋ねてみた。
「失礼ですが、首席補佐官……あなたの私生活についてお尋ねてしても良いでしょうか?」
彼はそう発した瞬間に自分の心臓がドクドクという音を立てて唸っていくのを耳にした。恐らく、人生の中で一番緊張している時間だろう。
選挙の時でさえこれ程までに緊張した事は無かった。
だが、彼女は執校正の手をやめて満面の笑みで答えた。
「私はねぇ~家に帰ったら、御本を読んだりぃ~物を書いたりぃ~後はビスケットとミルクを飲んで過ごしているかなぁ~それよりも、どうしてそんな事を知りたいのかな?かな?もしかして、ミスター・キーンってもしかして、私の事を狙っているのぉ~やだぁ~私はお持ち帰りされちゃうぅ~」
彼女は両頬を赤く染めて年頃の少女らしく机を可愛らしく叩いていた。彼はその様子を見て感じた。
“明らかに無理に表情を作っている”と。
彼はもう少し踏み込んだ質問をしてみた。
「では、補佐官……あなたは毎晩、大統領とそれに国立魔法アカデミーの方々と何処に出掛けているのです?」
その質問を聞いた途端に彼女の目の色が変わったのを彼は見逃さなかった。
鋭い視線が緊張で握った拳の中で冷や汗を掻く彼に突き刺さる。
彼は悟った。これは彼女の警告だと。
これ以上、踏み込めば許さないと言っているのだ。
辞めるのなら今が最後のチャンスだろう。
だが、彼は躊躇いを振り払って真実へと突き進む。
「答えてください。ミス・クウラン!あなたは大統領は国立魔法アカデミーと何をーー」
「知らない」
恐れるほど冷徹な声だ。男はいや、トーマス・キーンという男は思わず身震いしてしまう。最早、先程の和やかな表情は彼女の顔からは消え失せていた。
青ざめた彼を放って首席補佐官の椅子に座る話を続けていく。
「どうして、そんな事を聞くのかな?かな?あなたには関係が無い事だよね?」
彼女の瞳が黒く濁っていく事に気が付く。彼は思わず身震いしてしまう。反射的に両肩が震えている事に気が付く。
彼女は暫くの間は怖い表情を浮かべていたのだが、直ぐにいつもの表情を取り戻して、
「なん~てね。冗談だよ。怖かった?」
いつもの笑顔では無い。作り物の人形のような笑顔。彼は小さな声でようやく「いえ」という声を振り絞って目の前の少女の元から逃げ出す。
逃げ出した自分よりも年上の男を見つめて彼女は小さな笑いを溢しながら、次の来客を待った。来客の男は白い白衣に黒色のスリーピースーツに黒色のハプタイと呼ばれる簡素なネクタイを巻いた男であり、彼は彼女の前に丁寧に頭を下げて一冊の本を彼女に差し出す。
「お借りしていた。『ウロボロスの棺』です。『月の民』とそれを支配する怪物を呼び出す方法は分かりました。後は全て手筈通りに……」
「流石だね、だね。過去にあの怪物を作り上げただけはあるよぉ~あんな格好良い怪物を作り出すなんてねぇ~お持ち帰りしたいくらい格好良かったよねぇ~あの怪物ぅ~」
彼女は執務室の引き出しから蛾人間の撮られた写真を眺めて研究者の目の前でキスをする。
普通ならば、彼女の行動に引くところであったのだが、そこは怪奇部門を研究しているアカデミーの研究者というべきだろうか、彼女の行動にも引くどころか笑って眺めていた。
それから、彼は彼女に向かって言った。
「驚きましたよ。過去にまさか海の民なんてものがいて、しかも我々よりも数段進んだ科学力を持った帝国をいとも簡単に滅ぼしたなんて……」
「うん、私も初めに読んだ時は驚いたよぉ~でもね、その古代の文明を私はこう呼んでるよ。『偉大なる文明の調整者たち』とね……」
彼女は自分が如何にしてそう名付けたのかを語っていく。
かつての古代の三大帝国は自分たちには想像もできない科学力で世界を灰にする寸前だったという。
だが、月の民こと旧海の民がその三つの国を滅ぼした事により、人類は救われた。
だが、彼ら彼女らは英雄ではない。三つの帝国を滅ぼす折に、犠牲になった人々も大勢いただろう。
だから、彼女は『救世主』ではなく『調整者』と呼んだのだと。
「なるほど、興味深い話ですな。けれども、今度ばかりは調整者の役割を我々に譲る事になるでしょうな?」
「うん、次に世界の勢力図を変えるのは私たちだからね。世界が平和になるのなら、悪役になった構わないかななんて思ったりしてぇ~」
そこまでの彼女は明るい調子であった。だが、直ぐに声のトーンを落として言った。
「けれど、疑念が一つ……これまでに散々、我が国の邪魔をしたあの忌々しい小娘の事よ。排除する事は可能かしら?」
彼女の質問にアカデミーの男は首を縦に動かす。
「勿論、可能です。恐らく最後のフォー・カントリー・クロスレースで彼女を始末できるでしょう。走っている間の事故死に見せかけてね……」
それを聞いて彼女は満足そうな表情で口元を緩める。
「そう期待しているわよ。アカデミーの誇る強力な黒魔術の魔法使いたちのね……」
彼はもう一度頭を下げて執務室を後にした。後に残されたのは静寂。
そんな静かな空気の中で彼女は黙って与えられた表向きの仕事へと戻っていく。
校正を終え、大統領に提出した時には退勤時間となっていた。彼女は執務室を片付けて、アカデミーの研究部門へと向かう。
そこで、現在、行われている計画の最終チェックを行うのだ。
これで、世界はニューロデムのものだ。彼女は悪い顔で笑った。
彼女が熱心に誤字やら脱字やらを訂正したり、小難しい表現を大衆にも分かる簡単な文字に変えていたりした時だ。
彼女の目の前に一人の若い男が現れた。若いと言っても彼女よりも十歳以上も年上の男だった。だが、彼は彼女の部下であった。なぜならば、彼女は史上最年少の共和国の政治家であったからだ。
恐らく、共和国の歴史の中でも、いや神話時代からの歴史を辿っても十代で国政に携わる人間は殆ど居ないだろう。
十代で国王になった人間は居たとしてもそれは周りの優秀なサポートがあるからであり、彼女の様に年下の政治家よりも仕事をする人間など少ないだろう。
この男の特徴は尖った顎と小動物を狙う肉食獣の様に鋭い視線を持つ彼は自身の上司である少女の私生活を知らない。
彼は気になっていたのだ。いつもの執務が終わった後に彼女が何処に行くのかを。
彼は思い切って彼女に尋ねてみた。
「失礼ですが、首席補佐官……あなたの私生活についてお尋ねてしても良いでしょうか?」
彼はそう発した瞬間に自分の心臓がドクドクという音を立てて唸っていくのを耳にした。恐らく、人生の中で一番緊張している時間だろう。
選挙の時でさえこれ程までに緊張した事は無かった。
だが、彼女は執校正の手をやめて満面の笑みで答えた。
「私はねぇ~家に帰ったら、御本を読んだりぃ~物を書いたりぃ~後はビスケットとミルクを飲んで過ごしているかなぁ~それよりも、どうしてそんな事を知りたいのかな?かな?もしかして、ミスター・キーンってもしかして、私の事を狙っているのぉ~やだぁ~私はお持ち帰りされちゃうぅ~」
彼女は両頬を赤く染めて年頃の少女らしく机を可愛らしく叩いていた。彼はその様子を見て感じた。
“明らかに無理に表情を作っている”と。
彼はもう少し踏み込んだ質問をしてみた。
「では、補佐官……あなたは毎晩、大統領とそれに国立魔法アカデミーの方々と何処に出掛けているのです?」
その質問を聞いた途端に彼女の目の色が変わったのを彼は見逃さなかった。
鋭い視線が緊張で握った拳の中で冷や汗を掻く彼に突き刺さる。
彼は悟った。これは彼女の警告だと。
これ以上、踏み込めば許さないと言っているのだ。
辞めるのなら今が最後のチャンスだろう。
だが、彼は躊躇いを振り払って真実へと突き進む。
「答えてください。ミス・クウラン!あなたは大統領は国立魔法アカデミーと何をーー」
「知らない」
恐れるほど冷徹な声だ。男はいや、トーマス・キーンという男は思わず身震いしてしまう。最早、先程の和やかな表情は彼女の顔からは消え失せていた。
青ざめた彼を放って首席補佐官の椅子に座る話を続けていく。
「どうして、そんな事を聞くのかな?かな?あなたには関係が無い事だよね?」
彼女の瞳が黒く濁っていく事に気が付く。彼は思わず身震いしてしまう。反射的に両肩が震えている事に気が付く。
彼女は暫くの間は怖い表情を浮かべていたのだが、直ぐにいつもの表情を取り戻して、
「なん~てね。冗談だよ。怖かった?」
いつもの笑顔では無い。作り物の人形のような笑顔。彼は小さな声でようやく「いえ」という声を振り絞って目の前の少女の元から逃げ出す。
逃げ出した自分よりも年上の男を見つめて彼女は小さな笑いを溢しながら、次の来客を待った。来客の男は白い白衣に黒色のスリーピースーツに黒色のハプタイと呼ばれる簡素なネクタイを巻いた男であり、彼は彼女の前に丁寧に頭を下げて一冊の本を彼女に差し出す。
「お借りしていた。『ウロボロスの棺』です。『月の民』とそれを支配する怪物を呼び出す方法は分かりました。後は全て手筈通りに……」
「流石だね、だね。過去にあの怪物を作り上げただけはあるよぉ~あんな格好良い怪物を作り出すなんてねぇ~お持ち帰りしたいくらい格好良かったよねぇ~あの怪物ぅ~」
彼女は執務室の引き出しから蛾人間の撮られた写真を眺めて研究者の目の前でキスをする。
普通ならば、彼女の行動に引くところであったのだが、そこは怪奇部門を研究しているアカデミーの研究者というべきだろうか、彼女の行動にも引くどころか笑って眺めていた。
それから、彼は彼女に向かって言った。
「驚きましたよ。過去にまさか海の民なんてものがいて、しかも我々よりも数段進んだ科学力を持った帝国をいとも簡単に滅ぼしたなんて……」
「うん、私も初めに読んだ時は驚いたよぉ~でもね、その古代の文明を私はこう呼んでるよ。『偉大なる文明の調整者たち』とね……」
彼女は自分が如何にしてそう名付けたのかを語っていく。
かつての古代の三大帝国は自分たちには想像もできない科学力で世界を灰にする寸前だったという。
だが、月の民こと旧海の民がその三つの国を滅ぼした事により、人類は救われた。
だが、彼ら彼女らは英雄ではない。三つの帝国を滅ぼす折に、犠牲になった人々も大勢いただろう。
だから、彼女は『救世主』ではなく『調整者』と呼んだのだと。
「なるほど、興味深い話ですな。けれども、今度ばかりは調整者の役割を我々に譲る事になるでしょうな?」
「うん、次に世界の勢力図を変えるのは私たちだからね。世界が平和になるのなら、悪役になった構わないかななんて思ったりしてぇ~」
そこまでの彼女は明るい調子であった。だが、直ぐに声のトーンを落として言った。
「けれど、疑念が一つ……これまでに散々、我が国の邪魔をしたあの忌々しい小娘の事よ。排除する事は可能かしら?」
彼女の質問にアカデミーの男は首を縦に動かす。
「勿論、可能です。恐らく最後のフォー・カントリー・クロスレースで彼女を始末できるでしょう。走っている間の事故死に見せかけてね……」
それを聞いて彼女は満足そうな表情で口元を緩める。
「そう期待しているわよ。アカデミーの誇る強力な黒魔術の魔法使いたちのね……」
彼はもう一度頭を下げて執務室を後にした。後に残されたのは静寂。
そんな静かな空気の中で彼女は黙って与えられた表向きの仕事へと戻っていく。
校正を終え、大統領に提出した時には退勤時間となっていた。彼女は執務室を片付けて、アカデミーの研究部門へと向かう。
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