王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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ムーン・アポカリプス編

フォー・カントリー・クロスレースの開幕とそれにまつわる黒い噂

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レースが始まり、私はいつもの港町、ボストラムへと向かう。
その街では二年前にはなかった選手への厳重な手荷物検査が行われていた。何でも二年前にテロリストを紛れ込ませた反省から行われるのだそうだ。
今年は父による推薦があり、選手の中にリストアップされているので二年前のような偽名を使う必要もない。私は堂々と同性の検査官に自分の荷物の入ったトランクを差し出す。
トランクを調べている間に、私は背後で並んでいる選手たちの会話を耳に挟む。
「何でも、この会場にはあのクラウンって人が来ているんだって?」
「え?本当?それだったらその人は裏切った身で堂々と祖国の土地を踏んでいる事なるよね?普通だったら、考えられないよ」
二人の女子選手の何気ない会話だが、私の関心を惹くのには十分過ぎた。
だが、元生徒会長がそんな馬鹿な真似をしたりするだろうか。あの写真がイレギュラーなだけであり、彼女は通常ならば、あまり表には出ないように務めるだろう。今回の四大国家の開会式の代表として出るのは彼女ではなく別の閣僚だろう。
私はそう考えて当初の約束通りに、このレースの日までに待ち合わせ場所として決めていた酒場で賞金稼ぎ部の仲間たちと顔を合わせていく。
私たちは全員でこのレースにおける計画を話し合っていく。
レースの計画としては集まった部員や元部員といった騎士団のメンバーだけではなく、ジャックやソルドにカレンにマーティの父であるローズナイト子爵と言ったその土地での協力者も巻き込む予定だった。
騎士団のメンバーや各地の協力者を利用して各国の選手に共和国と元生徒会長の危機を伝えるというのが私たちの計画であった。
集まった騎士団のメンバーは既に学院の一~三年生までの学生に引退した部員を含めて五十名を超えており、そこにピーターとそして、例の射撃教師。
いや、ロジャー・キャロウェイがレースの直前に加わり、より一層の騎士団の強化が行われていくのだった。
彼らとの密約を交わし、私は一人、レース会場へと向かう。
レース会場では例年通りの各国の代表者による演説が交わされていく予定である。私が共和国代表の演説を聞きに台に向かった時だ。最初に長いオレンジ色の髪の女性、かつての元生徒会長が現れた際に私は思わず目を見開いてしまう。
それに、周囲に集まった王国民や共和国の人間たちも驚きを隠せないのかざわざわと騒ぐ声が聞こえた。
動揺が走る会場。だが、彼女はそれを見ても笑顔を浮かべるだけであり、一向に話を始めようとはしない。
驚きと混乱のために会場内の声は益々高くなっていくが、それでもある程度の時間が経つと一斉に収まってきた。
彼女は更に声が小さくなっていくのを見計らってから、口元に人差し指を当ててから、それを離し、集まった大衆たちに向かって笑顔で演説を繰り出す。
「皆様!こんにちは!本日は栄えあるフォー・カントリー・クロスレースに参加していただき誠にありがとうございます!私の名前はレイジーナ・クラウン。共和国大統領首席補佐官です。ですが、皆様、私の事はレナと気軽に呼んで頂いて構いませんわ!」
その言葉に周りの男性騎手の顔が綻んでいる事に気が付く。どうやら、初めこそは得体の知れない彼女に対して戦慄していたのに対し、先程のあの笑顔と柔らかい声によりそれらが緩和されたのだろう。
彼女はすっかりと丸くなった空気を感じながら、ニコニコとした顔で演説を続けていく。
「皆様、今回のレースは皆様の活躍により、例年よりも、いいえ、例年以上に大きく盛り上がると思われます!きっと、あの月も皆様方の繰り出すレースを心待ちにしてくれているでしょう!」
その言葉に男子のみならず女子の騎手たちも顔に期待を宿しながら瞳を輝かせて台の上で演説を行う史上最年少の閣僚を見守っていた。
「皆様、今回のレースにおいてはきっとあの月も祝福してくれるに違いありません!そう、皆様による新しい世界への祝福を!」
この演説の裏には私への挑発があるのだろう。実際に彼女が『あの月』という単語を口に出した時に彼女が演説台から私の事をチラ見していたのを私ははっきりと目にした。しかも、その時の彼女がニヤニヤとした表情を浮かべている事に。
私は何もできない代わりに、彼女を睨み付けていく。
彼女は私の顔を見て笑いながらも、演説を無事に終わらせて妹に番を譲った。
この時に妹がしっかりとすれ違い様に彼女を睨んでいたのを垣間見た。
私は妹の気持ちが痛い程によく分かった。どの面下げてという思いがあるだろう。
私は妹が怒りを抑えながらも、何とか演説を行うのを聞いていた。
その後にニューヨーシャー、帝国と例年通りに演説が行われ、その後に全選手が並んでのスタートが行われた。
最初のスタートで何人かの選手が極秘に魔法を使用して脱落するのも例年と同じ流れである。
私は右手で馬を駆って左手で魔法を使用して彼ら彼女らの攻撃を防ぎ、またカウンター攻撃を喰らわせていく。
これも例年通りだ。私は一週間の時間をかけて最初のチェックポイントの街に到着し、そこで久し振りに仲間たちと密談を行う。
今回のレースにおいては二年前のようなテロリストやらが潜り込んだ可能性も凶悪極まりない賞金首がレースの最中に逃亡したというニュースも聞かない。
どうやら、本当に警戒の度合いが上がったらしい。
私と騎士団の仲間たちがそう話していると、私たちの座る席の直ぐ隣に首に蛇を巻いた死人のように真っ白な顔に右目の下に大きな傷を付けた男が座った。
彼は席の上で黙ってタバコを吸ってウェイターの質問にも横柄な態度で答えてステーキやら何やらを味わっていた。
彼はナイフとフォークを置くと私たちのテーブルの元に現れ、私たちの頼んでいるメニューを覗きながら言った。
「……あんたら賞金稼ぎ部の部員どもだろ?我が国の邪魔をしようとするあの忌々しい公爵令嬢の騎士様たちだ……レースには参加せずにどうして、こんな所にいるんだぁ~?」
その言葉に微かにケネスの片眉が上がる。全員がホルスターに拳銃をかけようとした時だ。
彼の操る影が動くのが見えた。反射的に左手の掌を広げて彼の魔法を吸収する。
彼はそれを見てニヤニヤとした顔で笑う。
「……大統領閣下から聞いた通りだ。敵の魔法を奪って一度だけ自分のものにするっていう魔法……やはり、あんただな?ウェンディ・スペンサーは?」
私は首を縦に動かし、ホルスターに手をやって男に向かってその銃口を向ける。
男もそれに合わせて私に銃口を向ける。すると、酒場に集まっていた騎手たちに動揺が走っていく。
当然だろう。銃と銃とを突き付け合って『決闘』を行おうとしていたのだから。
男はそれを見ると口元を緩めて、小馬鹿にした表情を浮かべて顎で外を指差す。
私は男の指示に従って外へと出ていく。
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