王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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ムーン・アポカリプス編

国王と元王女との和解

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私と父は暫くの間、無言で見つめ合う。
互いに無言。気まずい空気が絵画と金の壁紙のある贅を尽くした控え室の中に流れる。
だが、父は空咳をしてようやく目の前に現れた私を見つめて言った。
「さっきのはピーターと、後はお前の友人という奴か?」
その言葉を聞いて私は首を縦に動かす。
「そうよ。ケネス・ローエングリン。学校の部活動での私の相棒で……そして……」
どうしてこの後に続く言葉が思い浮かばないのだろう。普通に考えたのならば、この後に出てくる言葉は『最高の友人』という単語で間違い無いだろう。
だが、どうして唇が震えているのだろう。どうして、彼の名前を言おうとする度に慟哭が鳴るのだろう。
私はようやく小さな声で告げたのだが、父は興味のなさそうな表情で頷く。
その後に父は私に様々な質問を浴びせていく。
私はこの国の兵士が来るまでの時間潰しも兼ねて適当に父の質問へと答えていく。
私は一通り質問に答え終わると、父に向かって言った。
「陛下はいや、お父様はこの事態をどう思われますか?」
「……憂慮するべき事態だ。ドラッグスがもし、お前の言うような事を考えていたとするのなら、一刻も早くここを脱出して、国軍を動かしてーー」
「彼が呼び出そうとしているのは古代の我々とは比較にならない程の文明力を誇った帝国を滅ぼしました。その様な相手では無闇に兵士を死なせるだけかと……」
「ではどうすれば良い!?」
「……『月の民』を操るムーンビーストの依代となっているのはドラッグスだけです。彼を倒せば、『月の民』はこの世界に降りる事は無いでしょう。けれど、ドラッグスさえ先に倒せば、彼らがこの世界に現れる確率は少なくなるでしょう」
私の言葉を聞いて父が生唾を飲み込んで首を縦に動かす。
それから、部屋の中に倒れた皇帝と国王を見渡して一人で呟く。
「……同世代でありながらも、儂一人だけが生き残るとは……」
父の気持ちが痛い程に分かる。互いにこの後も仲良く付き合うつもりであったのに、まさか自分一人だけ生き残り、隣国が若い王や皇帝になるとは想像もしなかったに違いない。
そんな事を考えていると、部屋の前にニューロデム共和国の兵士を除く大陸四大国家の兵士が現れて、父の保護を行う。
何人かが倒れた皇帝や国王の姿を見て思わず唸り声を上げていた。
「ド外道が」という単語さえ耳にする。
当然だろう。自分達の仕える王や皇帝が今や四大国家の鼻つまみ者として忌み嫌われているニューロデム共和国の大統領手に掛かって死んだのだから。
彼らは入り口へと逃げたドラッグスを追おうとしたのだが、私は必死に彼らを説得し、父の保護に全力を注がせた。
父は兵士に守られて安全な場所へと移動しようとしたが、その前に私の方に向き直って頭を下げる。
「……すまなかったな。今の今までお前を冷遇していて……あれは娘に対する父の態度ではなかった。思えば、私は妹ばかりを可愛がっていた。そして、二年前に基礎魔法が使えないと判断されたお前を忌々しく思ったのも事実だ。だが、お前にはそれ以上のものがあった。許してくれ」
どういう心境の変化だろう。周りで倒れて最後に身内にサヨナラも言えなかった彼らの最期が目に焼き付かれた事により、死ぬ前に私に詫びようとしたのだろうか。
だが、ストロンバーグの狂った野望を止めた時でさえ冷たい態度を取っていた父が私に詫びているのは事実だ。
大人しく父の謝罪の言葉を受け入れてから、私は父に向かって安心させるように微笑む。
「……私はね、辛くなんてなかったよ。私はむしろ、追放された事で多くの友達を学院で得られたし、それは嫌な事も多かったけれど、でもそれ以上に楽しい事も多かった。それにね、私に気になる人もできたのよ」
その時になぜか、私はケネスとピーターの顔を思い浮かべてしまう。
すると、父は小さく笑う。
「……そうか、お前にもそろそろ恋人ができたのか……成長したな」
「私ももう子供じゃあないわ」
「だが、大人でもないな。一度、その気になる人とやらを私の元に連れて来なさい。娘が選んだ相手だ。喜んで祝福しようじゃあないか」
その言葉を聞いて私は嬉しくなってしまう。どうやら、父は私を王女に戻すという事はしないらしいが、それでも王宮への出入りは許可してくれたのだ。
私は父に礼を言ってその場を後にする。
後は全ての決着を付けるだけだ。自然と足が進む。
目の前には異形の怪物と化したドラッグスと二人の騎士の姿。
二人と一体は広い庭の中で銃を構えて睨み合っていた。
背後から飛び出した私は慌てて怪物に向かって銃を放つ。
怪物の体に私の銃弾が直撃する。怪物は悲鳴を上げたものの直ぐにこちらを振り向いて、異形の手をこちらに向けてきた。
私はそのハンマーか何かのように大きくて重い鈍器のような前足の攻撃を避け、そのままカウンター式に怪物に向かって銃弾を喰らわせる。
怪物は悲鳴を上げて元のドラッグスの姿へと戻っていく。
彼は弱い体に戻りながらも、なぜかニヤニヤとした笑顔を浮かべて立っていた。
しかも、先程の弾丸は彼には付いていない。
彼は全くの無傷だった。なぜか彼は全身からユニットバスから出た時のような蒸気を発しながらこちらへと向かってきた。
彼は懐からレナの持っていた拳銃と同じ拳銃を取り出して私に銃口を向けて言った。
「さてと、ミス・スペンサー。ここで名乗るのもどうかと思うが、礼儀上、一応は名乗らせてもらおう。私の名前はロイス。ロイス・ドラッグスだ。ニューロデム共和国の大統領を務めている」
「もうじき、現在進行形が過去形になるでしょうね。恐らく、私とあなたとの戦いが終わった後にあなたの国の教科書では「いる」が「だった」と記されるに違いないわよ」
だが、その言葉を聞いても彼は豪快に飛ばす。私の挑発など相手にしないとでも言わんばかりに。
そして、ドラッグスは例の小型拳銃の銃口を向けて言った。
「そっちこそ、追放された王女の分際で偉そうな事を言うんじゃあないか、キミみたいな落第生の事を〈杖無し〉と呼ぶんだったかな?キミの国では?」
以前の私ならば怒りに振るえていたかもしれない。だが、今は違う。
「生憎だけれども、〈杖無し〉というのは私にとってはもう罵倒でも何でもないわ。だって、〈杖無し〉として落第生として学院に入ったから、みんなと出会えたんだもの!」
「ハッハッ、随分と可愛らしい事を言うじゃあないか、だがな、落ちこぼれと劣等生との間には大きな差がある事は私が身を持って教えてやろうではないかッ!」
ドラッグスはそう言って目の前に小型の月を創り出していく。
そして、そこから光線を放たせた。
私は咄嗟に光線を避けた。光線は空中に飲み込まれていくが、その恐ろしさは身を持って思い知る事となった。
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