親父の再婚相手が俺の元カノだった件について

やったぜ！小説書き上げた！これで、もう問題は解決だ！

「で、できたー！」

結局、出来たのは週末の前の金曜日。俺が全ての添削を終えると、部活のメンバーが手を叩いて喜ぶ。

「やった……苦節ッ！三日間！とうとう、完成しましたー！」

俺が歓喜の声を上げると、早速、桃寺先輩がそれを取って、真剣な顔で見つめていく。
暫く黙って、俺の小説を読んでいたが、やがて、紙を机の上に置くと、俺に向かって優しく微笑む。

「心にグッとくるものがあったよ。素晴らしい小説はありがとう」

堪らなくなり、俺が恥ずかしそうに頭をかいていると、小町が俺の肩を叩いて、

「やったじゃん！桐生！これで家を燃やされないで済むよ！」

通常ではない一言を聞いて、部活の面々が俺の方を向いていく。その誰もが目を丸くして、固唾を飲んで、俺の方を見つめていた。
だが、小町は嬉しさのあまりに盲目になっていたのだろう。そんな周りの視線など気にする事なく、気軽に肩を叩きながら、俺に笑い掛けていく。
俺が苦笑していると、突然、扉が開かれて、山杉が姿を現す。

それから、椅子の上に座っている俺に向かって勢いよく飛び付く。
俺はその勢いのために、俺は腰掛けていたパイプ椅子ごと地面に激突してしまい、星の涙を見る事になった。
俺が右手で頭を摩っていると、山杉は泣いていた。しかも、その顔を俺の胸の中に擦り付けていくものだから、溜まったものではない。
だが、奴は俺の嫌がる顔など見ていないのか、大きな涙を流しながら、俺に向かって叫ぶ。

「良かったぁぁぁぁ～！！お前、これでヤクザに家を燃やされなくて済むなぁぁぁぁ～！！」

そう叫んで、山杉はまた俺の胸を借りて泣いていく。
ここまで泣いてくれると、悪い気がしないでもない。満更でもない表情を浮かべていると、小町がバツの悪そうな顔を浮かべて、

「ごめんね、山杉にここの事を教えちゃったの。さっき、LINEでさぁ」

と、すまなそうに両手を合わせて、小声で俺に教えた。小町が持っているスマートフォンには山杉とのやり取りが記されており、このやり取りを笑顔でしている二人の姿が俺の頭の中に思い浮かぶ。
その後に、二人で俺の事を自分の事のように喜んでくれる友人を見て、俺の心の中で温かくなっていく。
今日ばかりは山杉の行動も嬉しかった。

それはこれまで、数回しか味わった事のない心地の良い温かみであった。
俺は二人に礼を言って、原稿用紙を仕舞うと、その場を退散し、自宅へと向かっていく。
夕食、どうした事か、今日の夕食はカツ丼に、味噌汁、菜葉の漬物という、今日の俺を祝福するかのようなメニュー。
予想外のメニューに戸惑っている俺と親父に向かって彼女は太陽のように眩しい笑顔を浮かべて言った。

「今日は週末で、明日はあたしの家に行く日でしょ？だから、気合を入れようと思って、これにしたんだ～誠太郎さんが勝てますようにって……」

相変わらずの惚気ぷりを見せ付けてくれるが、今日だけはそれに感謝しよう。
俺は目の前に差し出された勝利を貪り食っていく。
その味はなんとも美味しいものであった。