親父の再婚相手が俺の元カノだった件について

次男健司は引きこもり……から脱却しそうでした！

暫く、俺は座布団の上で姿勢を正しながらも、身構えていたのだが、二階から奇声が上がるのと同時に、俺は思わず肩をビクンとさせてしまう。
一体、何があったのだろうか。俺が二階から再び、奇声が聞こえて、思わず座布団の上から転んでしまう。
同時に、部屋の大広間の扉が開き、そこにはふくよかな体型で、尚且つ髭も髪もぼうぼうに生やしただらしのなさそうな男が原稿を握って、鼻息を荒げながら、俺の元へと向かってくる。

まるで、何処かの宗教の修練者みたいな格好をした男は俺の元に近付くと、鼻息を荒げながら、俺に向かって原稿を突き付ける。

「こ、これをか、書いたのはき、き、きみかい？」

「え、あ、あの、そうですが、どうかしましたか？」

すると、彼は俺の手を強く握り締めて、
「感動したッ！どうしたら、こんな風に素晴らしい小説を書けるのかを教えてくれ！」

と、握手した俺の手を上下に勢いよく振りながら言う。

「え、えっと……それはですね……」

俺は拙いながらも、なんとか先輩から教わった上達方を彼に教えていく。

「成る程、成る程、そういう事か……よし、手始めに本をいっぱい買うぞ！」

彼は握り拳を作り、そう意気込むと、大広間の机の上で腕を組んでいる父親の元へと向かっていく。

「そういうわけだから！親父、金貸してくれ！五千円でも、一万円でもいいから！頼む！親父、金ッ！金貸してくれ！」

「喝ッ！」

涼子のお父様が健司さんを怒鳴り付けた。その声が空気中に伝わり、俺までも痺れてしまう。
だが、それだけでは留まらない。涼子のお父様は一喝した時よりも強い口調で健司さんに向かって説教を行う。

「この馬鹿者がッ！これまで散々家の金を使って、ゲームだの、マンガだの好きなものをやっていた癖に、ちょっと、素人の書いた小説に感動したからと言って、今度は本だとッ！いい加減にせんか！大体、ロクな体験もした事がない引きこもりのくせに何が小説だッ！舐めるなッ！」

「ひっ」

健司さんは父親の言葉に怯えたのか、その場に転んでしまう。それから、悲鳴を上げながら、部屋へと戻っていく。
今度は奇声ばかりではなく、壁を叩くような音が聞こえた。
いや、この場合は十中八九、壁を叩く音だろう。
俺が細目で天井を見上げていると、涼子のお母様もとい亜美子さんが襖を開いて、俺に一礼する。

「ごめんなさいね、健司は昔からあんな感じで……大学を卒業した後に、食品会社に勤めていたんだけれども、その時に嫌な事があったらしくてね……」

申し訳なさそうに頭を下げる亜美子さんを俺は慌てて静止させる。