美少女おにぎり

星島新吾

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1章後半 デビルサイド編

46.占領戦開始

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 宿屋に戻ると、軍服姿のマーコがいつでも動けるように待機していた。
「始まった? 」
「えぇ。取って食われないようココにいて下さい」
 作戦が終わるまでマーコには宿屋の部屋で待機していて貰う予定だが、誤って殺されても困るので一筆したため、彼女に手渡した。
「一応、コレを見せれば攻撃はされないはずです」
「コレってなに? 」
「僕の関係者という証明書のようなものです。同じ軍服を見につけている時点で、狙われるようなことはないと思いますが。一応」
 ここまでして剣で斬られて死んでいたらお笑いものだけど、今のところ彼女の代わりがいないのもまた事実で、死んでもらっては困る人間だ。傍にいられない分、ココはどうにか自衛して貰うしかない。
「こんなので大丈夫なの? 」
「……問題ありません」
「なんで自身なさげなの!? 」
「いえ、本当に大丈夫です。安心して待っていてください」
 そう言って、とても不安そうなマーコを置いて宿の外に出た。
 すると街中はすでに魔族によって蹂躙され、逃げ惑う人々の声や、兵士の亡骸が転がる事態となっていた。魔王軍の先制攻撃が始まった占領作戦は、電撃の如く町の主要施設を制圧しており、大きな施設からは悲鳴が響き渡る。
 逃げる人々は武器を携え兵舎へと向かっていたが、マーコの情報提供により、道を封鎖することに成功していた。それでもなお、戦う意志を捨てない町の人々は自然と町の端へ向かい、町の外へ逃げるための退路を確認するかのように門へと走った。しかし、門は閉ざされており、外へは逃げられなかった。
 町の城壁前では、阿鼻叫喚の地獄が広がっている。その中で魔王軍と渡り合ったのは、この町に愛着のある冒険者たち、民間人、そしてボロボロになった武器を持つ町の衛兵たちだった。
 対して魔王軍は、牛鬼族(カウデーモン)蜥蜴族リザードなど戦闘向きの魔族が集まる混成部隊。
森に比べて町の占領にはそれほど戦力が必要ないと考えられていたのか、作戦本部が用意したのは、あまり前線に出ていない気の抜けた兵士や新兵ばかりだった。その中には、当然ながら同期も混じっていた。
 クラスメイトが、人間に大声で恫喝どうかつしている姿を見ると、「あぁ、普段はあんなにヘラヘラしていたのに」と微笑ましく思えてくる。華々しい初陣ういじんかざれたことに、ほんの少し感謝して欲しいと思いながら、僕は現場指揮げんばしきる指揮官のもとに急いだ。
 そうして指揮官に向かっている最中に、妙な魔族を見つけることになった。
 民家の中で、しゃがんで何かに手をつけている牛鬼族の兵士だ。長い牛顔に皺の入った渋い顔は見間違えるはずがない。彼は一体何をしているんだ? 民家の扉の前で中の様子を伺う。
 ぴちゃぴちゃ。
 じゅ、じゅるるるる。
 もにゅもにゅもにゅ。ごっくん。
 不快な音を立てて、血だまりの上で何かを口に運ぶ牛鬼の兵士。横たわる人間の腸を食っているようだった。
「何をなさっているんです? 」
「くちゃくちゃ…みりゃあわかんだろ。補給だよ、補給。丁度夕飯前に呼ばれたんでな。丁度良かったぜ…ッゴクン」
「衛兵以外の民間人の殺害は、反抗してきた場合にのみ限ると作戦にはあったはずでは? 」
「なんだァ お前、新人か? そんな偉いさんが考えたようにはなっとらんのよ。戦場はさ。全てが間違いで、ゆえに全てが正しいのよ。ホレ、お前も食うかい。この女の臓物ぞうもつは最高だ―――」
「作戦以外の行動は軍規違反に該当がいとうしますが」
「あぁん? ッチ、うるせえな! 一人ぐらいいいじゃねえか! けちけちすんな! 」
「えぇー……」
 仕方なく、僕は民家の扉から出ていた。この民家で起きていることは、この作戦であってはならないことだ。現場で指揮しきる者にこの現状を伝えなければならない。
 妙な胸騒ぎの答えを探すように、足早に指揮官の下に向かった。
 そして将官クラスのみが身に着けることを許される軍服に、そでを通している魔族を発見する。
「あの御方は……アラーニ様? 」
 複眼に八本の長い脚を持つ大蜘蛛、通称大蜘蛛のアラーニ。魔族の中でも特別に四天王の称号を持つ怪物がなぜ。
「失礼します」
「何者だ。名を名乗れ」
「ハッ! 今回の作戦を立案したおにぎり小僧准尉と申します。質問をよろしいでしょうか! 」
「なんだ、言ってみろ」
「いえ、それが…かくかくしかじかで……」
「俺も全てが見えているワケではないからな…こればかりはどうしようもないことだ。俺の軍隊ならこう言うこともないんだが……困ったものだな」
「閣下から何か言って貰うことは出来ませんか」
「出発前から散々口酸っぱく言っておいてコレだからな。どうにもならん。悪いな」
 アラーニ様も苦笑いを浮かべて四本ある腕を上に上げて、お手上げと言った感じだった。
 しかしだからと言って、敵以外に予想外の行動を取られたのでは今後に関わる。大きな過ちになる前に、悪い芽は事前に摘んでおかなければならない。
「承知しました! 」
 おにぎり小僧のまま不正を正すことは恐らく難しいだろう。だからといって、イソマルトに変身すれば町の人間からは変態の脱走犯として見られているし、長期戦闘は難しい。
 他に戦闘向きのボディがあったかと、宿屋に向かいながら考えると一人だけ。この状況に最適な人間のことを思い出した。
「よし…あの子が最適ですね」
 宿屋の部屋に戻り、ビックリ顔のマーコにおにぎりボディを預けて変身したのは、氷の魔法使いパオンの元パーティーメンバー、セシリーだった。
「アーッハッハッハッハ。アタシ見・参! 」
 と言っても、装備は持っていないため何か探す必要があるが、死体も転がっていることだし何か良い感じの装備が落ちていないか探しつつ、不正を正していこう。
「成り行きで何とかしようとし過ぎじゃない? 」
 マーコがじっとりとした目で見てくる。成り行きで何とかというけれど、別にそこらへんにいる魔族はちゃんと仕事をしているはずなので、コチラに敵意がない以上彼らが攻撃してくることはないと思っての行動だ。
 マーコが人を信じているように、僕もちゃんと作戦通りに働いてくれている魔族がいると信じているのだ。
「……それとそのおにぎりボディ、食べたら絶対に許さないんだからね! 」
「食べないって。というか何? その子」
「うっさいわね。アタシはセシリー。悪いけどあんたの相手してる暇ないわ。いい? ちゃんとアタシの体、大事にしておいてよね!! 」
 そう言って宿屋の一階に降りると、すでにここにも魔族が入りこんでおり、一体の蜥蜴族がサーベルを宿屋の店主に突き付けていた。
 興奮している宿屋の店主は、壁に掛けてあった長剣を震えながら構えている。その状況を見て、やはりちゃんと仕事をしている兵士はいるんだと希望を持つことが出来た。応援したくなる気持ちもあったが、残念ながら今は弓使いのセシリーだ。
「おい、ソコの二階から降りてきた女! 手を上げて噴水前広場に迎え! 抵抗しなければ殺さないでやる! 」
 言葉選びが温厚な魔族のソレだが、とりあえず言われた通りに両手を上げる。それを見た蜥蜴族は落ち着いた表情で「外に出ろ」と言ったが、安堵しているのがよく分かった。
 たぶん、他にも同じようにしたけれど宿屋の主人のように抵抗する人ばかりで、話を聞いてくれる人もいなかったのだろう。
 我々魔族にしてみれば、聞き分けの無い武器を持った羊をさくから羊小屋に入れるような作業のわけで、牧羊犬もいないため、何とか自分達でやらなければならないということで、大変な作業なのだ。
 目の前の蜥蜴族の兵士はよく頑張っているし、これ以上仕事の邪魔もしたくなかった。
「店主さん、一緒に行くわよ! 」
「アンタ冒険者だろっ! なんで戦わないんだ! 」
 店主の叫びで、蜥蜴族の顔つきも獲物から明確に敵へと変わる。
「冗談言わないでちょうだい。私、今、丸腰なの! 見て分からない!? 分かったらとっとと外に出る! 」
 キーキーと、高音ボイスでひたすらに喚き続ける僕。中々に神経の磨り減る変身だが、これがセシリーだ。気張っていこう。
「お、おいおい、君たち分かったから喧嘩は止めなさい。人間のメス、君は早く店主を連れて噴水前広場に向かいなさい! 余計な抵抗をするんじゃないぞ! 」
 コチラの声に当てられて、大声で言い返す兵士に若干笑いを堪えながら、言われた通りに怯える店主と共に噴水前広場へと向かおうとした。
 ――がしかし…。
「ヒィ! 私はまだ死にたくない! 」
と、宿屋の主は扉を開けるや、兵舎へと逃げて行ってしまった。
 どうして誰もかれも魔族の話を聞いて噴水前広場に集まらないんだ? 恐怖か? 恐怖が足りないのか? 
 遠目に見ても、噴水前広場に集まっている町の人間はごくわずかで、そのほとんどが女子供ばかりだ。まだこの町の男連中はこの戦いに勝つ気でいるのか、集まりは悪いようだった。
「さって…魔族ぶっ殺しにいっくわよぉ~」
 包丁が転がっていたため、それを掲げながら歩く。始めの目標は民家で人間を食べていたあの魔族だ。彼から制裁を加えに行こう。

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